「世界観」にあわせた広告をゲーム内に投入する、広告テクノロジー企業のAnzu Virtual Reality(本社:イスラエル・テルアビブ、以下Anzu)。スマホやPC、VR機器とあらゆるハードウエアのゲームに対応しながら、広告のリアルタイム分析まで手がけるソリューションを提供している。ゲーム業界では無料で楽しめるゲームのユーザーが劇的に増え、新たなビジネスモデルの誕生が期待されているが、同社の共同創業者でCEOのItamar Benedy氏によると「Anzuの導入で無料ユーザー主流のゲームでも(広告主・ゲーム会社共に)収益性がアップする」という。SONYやバンダイナムコが投資し、P&GやAmerican Eagleなども顧客に抱えるAnzuの全貌を探ろう。

目次
ゲームの世界観に溶け込む広告とは
ゲーム業界は「最後のメディアフロンティア」
日本市場に進出しない手はない

ゲームの世界観に溶け込む広告とは

―Anzuはゲーム内広告の「内製化」を手掛けていますね。なぜ、こうしたサービスが必要とされているのでしょうか。

 ゲームをプレイするユーザーと広告主にとってメリットがあるサービスだからです。

 ゲーマーにとって、ゲームをプレイしている最中に突然飛び込んでくる広告ほど目障りなものはないでしょう。有料の広告ブロッカーの利用がこれほど広がっている事実そのものが、その証左だと思います。

 Anzuは、ゲームの世界観に合った広告をさりげなくゲーム中に表示させます。例えるなら、タイムズスクエアにはたくさんの企業広告がありますが、それを目障りだと思う人はいないでしょう。広告を含めた景色がタイムズスクエアなのです。Anzuが目指しているのも、広告がゲーム体験を阻害しない未来です。

 広告主にとっても、広告をゲームの中に内製化するメリットは大きいです。Anzuが構築したアルゴリズムを使って、ゲーマーの情報に合わせ、適切な広告を打つことができます。また、Anzuは広告のリアルタイム分析を行なっています。広告効果を常に測ることができるので、無駄な販促費を使う必要がないのです。

Itamar Benedy
Co-Founder & CEO
Reichman UniversityでComputer Scienceの学士号を取得後、フィットネスアプリのSport.comとYogga.comにてVice President of Marketingを務める。その後、ドイツ・ベルリンのアプリ広告企業のGlispaのCEOに就任。2019年にAnzu Virtual Realityを共同創業、CEOに就任。現職。

 AnzuはモバイルやPCゲームにももちろん対応していますが、注目すべきはコンソールを使ったゲーム(Nintendo SwitchやPlayStation 5など)にも応用しているところだと思います。

 コンソールでのゲームにおいては、ハードの広告に関する分析やセキュリティに対応するメモリがPCと比較すると小さいのですが、Anzuは暗号化技術を駆使し、ハードのメモリ不足という問題も解決しました。

 Anzuの他に、コンソール・ゲームで広告を内製化し、さらにそのリアルタイム分析まで行える会社は他にありません。これが、バンダイナムコエンターテインメントやNBCUniversal、Sony Innovation Fundといった世界でも有数のゲーム会社がわれわれに投資している理由でしょう。

 われわれは100社以上のゲーム会社や、数百以上の消費者向けブランドと仕事をし、売上は年々増えている状況です。

image: Anzu Virtual Reality

ゲーム業界は「最後のメディアフロンティア」

―Anzuの創業に至ったきっかけは。

 私は筋金入りのゲーマーというわけではありません。私は広告業界に長く身を置き、広告の最新のテクノロジーを開発・運用することに情熱を感じています。

 誤解がないようにお伝えすると、私以外の共同創業者2人はかなりのゲーマーですよ(笑)。創業に至ったのは6年前、あるデータを見て驚いたことがきっかけです。そのデータとは、ゲームのプレイ時間と消費される広告費に大きなギャップがあることを示すデータです。

 テレビやSNS、Webサイトには多額の広告費が費やされているのにも関わらず、ゲームにはほとんどない。私たちはゲーム業界を「最後のメディアフロンティア」と名付け、この分野に進出しようと決めたのです。

 実際、Anzuが展開するビジネスの市場規模は年間250億米ドル以上と推計されています。というのは、ゲーム会社にとっても、昨今のビジネスモデルを考えた時、広告に注力せざるを得ない状況になっているからです。

 現在のゲーム業界ではゲームソフトを購入してプレイするユーザーは減少傾向にあります。代わりに、無料でゲームをプレイするユーザーが劇的に増えました。こうしたトレンドは、ゲーム会社に収益構造の変革を迫ります。

 つまり、無料でゲームを楽しむ人から収益を上げるためには、ユーザーというよりも、そのゲームに広告を出稿する広告主にお金を出してもらう必要があるのです。ゲームのビジネスモデルは、歴史的にユーザー以外からお金を出してもらうことを良しとしてきませんでしたが、昨今は「重課金」に対する批判もあり、新たなビジネスモデルを生み出す必要性が出てきています。

 我々の投資家には世界有数の広告会社であるWPPが投資していますし、広告主企業としてはP&GやAmerican Eagleなど、世界的なブランドと多数仕事をしています。ゲームと広告、という分野に大きな注目が集まっていることが分かるのではないでしょうか。

―具体的に、Anzuのテクノロジーのどこが革新的で多くの企業からの注目が集まっているのでしょうか。

 リアルタイム広告を「ゲームの世界観に合わせて」打つ、という仕事は非常に複雑で、難しいものなのです。リアルタイムでゲームのテクスチャをブランドコンテンツに置き換えるわけです。

 こうした難しい作業を可能にするために、われわれはリアルタイムで3Dの画像認識とテクスチャ操作を行なっています。その上で、広告測定のためのさまざまなプロトコルもAnzuの中に内包しています。

 実際、Anzuのテクノロジーが導入されたゲームは、プレイするユーザー数こそスマホゲームが多いのですが、PCやコンソールゲームにおいてはゲームの平均プレイ時間が長いのです。

 プレイ時間が長いとその分、広告の表示時間も多く取れますし、最終的には収益性も向上していくでしょう。また、AnzuはVR機器にも対応しています。

 スマホ・PC・コンソール・VRとマルチなチャネルにおいて広告を打てるところも、Anzuの強みです。

image: Anzu Virtual Reality

日本市場に進出しない手はない

―日本市場に参入する考えはありますか?

 私たちが今、最も注視している市場が日本です。そもそも、われわれの社名はアプリコットの和訳です。日本は世界的に見てもゲーム大国ですし、日本に対するリスペクトが高じて、この社名をつけたのです。

 任天堂シリーズやプレイステーションなどのハード機だけでなく、SEGAやバンダイナムコなど、数多くの優良ゲーム会社を輩出しています。ゲーマーの人口も多く、参入しないという可能性はあり得ません。

 われわれは、アメリカやヨーロッパですでに成功を収めたと自負しています。テクノロジーに関して、ゲーム会社と広告主両方を満足させる自信があります。今後、日本進出にあたっては、できるだけ多くの大企業との提携を希望しています。具体的な進出時期としては年内は確実、だと考えています。

 パートナーとして、投資家として、テクノロジー企業として、どんな形でも良いですが、とにかく市場のパイを大きくしていくことが重要だと考えています。

―日本の大企業とのパートナーシップを考えた時、理想としている形態はありますか。

 代理店でも共同開発でも、投資という関係でも、どんな形であってもこだわりはありません。われわれのエンジニアリングチームは全員イスラエルにいます。ただ、アメリカやヨーロッパにおいても、こうした形でパートナーシップはうまく機能してきました。

 日本市場におけるAnzuの野望は大きく、われわれの技術の全てを日本のブランドやゲーム会社に提供したいと考えています。



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