テクノロジーを用いてごみを分別するソリューションを展開するAMP(本社:米国コロラド州)は、2014年にAMP Roboticsとして創業した。当初はごみの選別ラインに1台か2台のユニットを設置するだけだったが、近年では完全なごみ分別システムを備えたリサイクル施設の構築にフォーカスしている。リブランディングの一環として社名から「Robotics」を外し、グローバルに事業を展開するフェーズに移行しているのだ。TECHBLITZは2021年に創業者でCEOのMatanya Horowitz氏にインタビューを行ったが、今回は3年間での同社の進化や今後の展望についてあらためて聞いた。

※過去インタビュー記事:プラごみも空き缶もAIロボットが自動で仕分け!リサイクル業界の救世主となるAMP Robotics

目次
リサイクルと脱炭素化:AMPが描くビジネスの未来
AIごみ分別から施設レベルのソリューションへ
グローバル展開を見据えたAMPの戦略

リサイクルと脱炭素化:AMPが描くビジネスの未来

―あらためてご自身の経歴や創業の理由、そして現在提供されているプロダクトについてお教えください。

 廃棄物業界にディープラーニングやAIを導入して改善できると考え、2014年にAMPを始めました。最初はリサイクルの現場でさまざまなプラスチック、金属、紙などの素材を分別するロボットの開発に注力していました。その後は、建設・解体の分別や日本の企業とのパートナーシップを通じて、この技術を他の分野にも展開しました。最近では、次世代のリサイクル施設をAIに基づいて設計し、非常に汚れた素材でも自動的に分別できる施設を構築しています。

 私たちの技術の共通点は、AIを使って素材を識別することです。カメラや赤外線カメラを使用してさまざまな素材を見分け、識別するデータベースを構築しました。このデータベースに基づいてAIのアルゴリズムを実行し、木材やアルミ缶などの素材を識別するセンサーを作り上げました。このセンサーをロボットやエアジェットなどの装置と組み合わせることで、ほぼすべての素材を分別することができます。

Matanya Horowitz
Founder and CEO
2006年からコロラド大学ボルダー校で学び、2010年に電気工学修士を取得。あわせて研究助手としてロボティクスや生物学の研究に携わる。2010年からカリフォルニア工科大学で非線形システムやロボット工学などの研究を行い、PhDを取得。2014年にAIとロボティクスを活用したリサイクル技術を提供するAMP Robotics(現在のAMP)を創業。

AIごみ分別から施設レベルのソリューションへ

―前回のインタビューは3年前でしたが、この3年間でどのような進化がありましたか?

 施設レベルのソリューションに注力するようになりました。3年前は個々のデバイスの完成度を高めていましたが、この3年間でそれらを結びつけ、システム全体での最適化を図りました。その結果、次世代のリサイクル施設を構築し、非常に汚れた素材や食品廃棄物に対処できる施設を作り上げました。この領域に注力することで、高いスループットを持つ施設をできるだけ小さなフットプリントで構築しています。既存の廃棄物処理の流れと共存できるようになっており、導入コストの削減にも取り組んでいます。

 また、施設のパフォーマンスを最適化し、素材の流れを理解するためのデータ分析の仕組みも提供しています。特定の供給元からの素材のパターンを分析し、システムを最適に運用する方法を見つけ出します。これにより、素材の純度を監視し、多くの要素を分別します。リサイクル施設においてこれまで難しかった全体的な運用の可視化を実現し、高い稼働時間とパフォーマンスの向上に貢献します。

image: AMP

―リサイクルや脱炭素化の領域に関するトレンドや顧客の利用状況について教えてください。

 リサイクルは特に製造業の脱炭素化に大きな役割を果たすと考えています。リサイクルは大きな環境メリットをもたらします。リサイクルによってプラスチックや金属、紙の生産を経済的に行うことで、炭素排出の削減にも寄与しています。また、食品廃棄物に対する炭素隔離のソリューションも開発しており、これは直接的な脱炭素化のアプローチとなっています。

 クライアントには自治体や廃棄物処理会社が含まれます。特にアメリカの廃棄物処理会社とのパートナーシップは非常に強力で、これまでに50以上のロボットを導入し、素晴らしい成果を上げています。小規模なパートナーもおり、初期のロボットを導入した企業もあります。

グローバル展開を見据えたAMPの戦略

―会社としての成長はいかがでしょうか。この3年でどのようにビジネスが伸びていますか

 現在では世界中に350以上のロボットを展開しています。主に米国内ですが、カナダ、日本、西欧でも稼働しています。また、施設に関しては3年前には1つの施設しかなかったと思いますが、現在では5つの施設を展開しています。2022年と2023年にシリーズCラウンドの調達を行うなど、既存の投資家や新しい投資家からも資金を受けました。これにより、強力なバランスシートを維持しながら、プロダクト開発と新しい市場への参入を行っています。

 今後1〜2年での目標は施設ビジネスの拡大です。高い信頼性と少人数の人員で運営できる優れた施設を多く展開したいと考えています。また、直接ゴミを分別する施設も新しい分野であり、その展開を進めたいと考えています。私たちのAIは非常に高速で正確になり、色や赤外線で識別するなどの新しい機能を追加しています。

image: AMP

―市場での拡大を考える際、どのようなコラボレーションを考えていますか?

 私たちの技術は、世界中で都市ごみの分別やプラスチックの分離に大きな可能性を秘めています。日本市場についてはまだ詳しくありませんが、米国やヨーロッパでは主要な石油化学企業やエネルギー関連企業がリサイクル素材を求めており、ごみの中に多くの機会があると考えています。ほかにも、特に日本の大企業が関心を持つ熱分解の分野や、埋立地や焼却施設の容量が限られている企業に対しても貢献できます。ごみから素材を取り出して、埋立地や焼却施設の容量を確保しながら、その素材を石油化学企業やエネルギー企業に提供できるのです。

 なお、日本市場では建設解体の分野で日本企業と密接に協力しており、その関係に非常に満足しています。ごみの廃棄や処理施設は自治体の領域でもあります。日本に参入する場合はその地域の利害関係者とのコラボレーションが重要になります。私たちは米国では、多くの自治体と協力しており、私たちの技術によって貢献しています。日本の公共部門についてはあまり詳しくないため、まずはリサイクルや埋立資産の延命に興味のある方々と話をしたいと思っています。

image: AMP

―長期ビジョンはどのようなものですか?

 私たちの目標は、あらゆる種類のごみに触れ、そこから価値ある素材を取り出すことです。社会の環境への影響を低減し、収益性の高い商品流通を創出することを目指しているのです。ビジョンを実現するために、もはや技術は大きな課題ではありません。技術は非常に優れており、高性能でこの業界に変革をもたらす力を持っています。

 私たちの課題は、スタートアップの成長に伴う通常の問題です。ごみ処理会社や自治体が私たちの分別ソリューションに早く移行することを望んでいますが、旧来のプロセスを変えていかなければなりません。関係者全員が私たちの技術に慣れる必要があるのです。インフラの革新には通常長い時間がかかります。現在構築しているプロジェクトは10年、15年、20年単位のものもあります。

 最後にみなさんにお伝えしたいのは、AIによって、これまでコストが高すぎたり不可能だったりしたことが実現できるということです。特にごみの分別や焼却の分野での活用が有望です。技術リスクが低く、非常に効果的ですので、この事業に興味のある方とお話ししたいです。



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