ECビジネスを自身で立ち上げた時、物流網や決済システムをすべて自前で用意しなければならなかった。そんな経験をヒントにaCommerce(本社:タイ・バンコク)は設立され、在庫管理から決済システムまで、EC事業に必要な業務をワンストップで提供している。拡大する東南アジアのEC市場において、これまで確たるインフラがなかったという課題を解決し、現在では味の素やユニ・チャームなど175以上のブランドを顧客に抱える。共同創業者でGroup CEOのPaul Srivorakul氏に話を聞いた。

目次
急拡大する東南アジアのEC利用を支えるサービス
インフラがなかったから、自分でつくった
日本と東南アジアをつなぐ「ハブ」になりたい

急拡大する東南アジアのEC利用を支えるサービス

―aCommerceはどのような問題を解決しているのでしょうか。

 企業やブランドがECビジネスを展開する際の「バックエンド」、つまりフルフィルメントから配送、マーケティング、カスタマーサポートまでを、一気通貫にサポートする会社です。われわれは東南アジア5カ国、具体的にはタイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシアで事業を展開し、175以上のブランドに利用されています。

 東南アジアでもECが拡大していますが、ブランドにとっての最大の課題は東南アジア各国でビジネスが断片化していることです。地理的にも距離がありますし、通貨も商習慣も異なります。そうした中で、東南アジア各国を対象にECビジネスを行おうとすれば、倉庫から配送、マーケティング、マーケットプレイスなどさまざまな仕事を複数の会社と取引する必要があります。

 そうなると当然コストもかさみますし、スムーズに消費者の下に商品を届けられません。結果として、ECビジネスへの参入を諦めてしまうという可能性すらあるのです。

 aCommerceは自社の倉庫を各国で所有し、物流会社とも協力するほか、マーケティング支援まで手掛けていますし、フロントエンドではAmazonやLazada、Shopify、TikTokなどのマーケットプレイスとも提携しています。つまり、BtoCのブランドはわれわれと契約するだけでスムーズにEC事業に乗り出せるのです。

 さらに、aCommerceは在庫や売上、販促効果などのデータも一元管理しています。顧客はわれわれが所有するデータを利用し、利益率アップや売上拡大につなげられるのです。

 実際、顧客である世界的な美容ブランドとは4年間の付き合いになりますが、成長率は毎年30〜40%を記録しています。東南アジアでは特にヘルスケア領域の成長は著しいですが、家電やアパレルなどの領域も近年勢いがあります。東南アジアの小売業に占めるEC普及率は平均約15%なので、まだ伸び代が大きいのです。日本のブランドも東南アジア各国で存在感を示せる余地は十分あると考えています。

Paul Srivorakul
Co-Founder & Group CEO
University of California Berkeleyで人類学の学士号を取得後、東南アジアの企業向けデジタルマーケティングを手がけるDMS Groupを共同設立。その後もタイやシンガポールといった国々で、広告や人材派遣アプリ、ECサイトなどの事業を次々と立ち上げてきた連続起業家。2013年にaCommerceを共同設立し、CEOに就任。現職。

インフラがなかったから、自分でつくった

―創業から11年が経過していますが、これまでの成長を示す数字を教えてください。

 直近の4、5年は成長率30%前後で推移しています。競合他社の平均が10〜15%であることを考えると、非常に高い数字だと言えます。2021年と22年はコロナ禍でECの利用が急拡大し、各社とも大きな成長を見せましたが、2023年からは落ち着いてきています。そんな中、我々は安定した成長を残せているのです。2025年にはIPOを予定しています。

―aCommerce創業のきっかけを教えてください。

 私は連続起業家としてさまざまな事業を立ち上げてきましたが、以前にEC企業を創業した経験がきっかけになっています。多くの消費者がアクセスするLazadaやShopifyで商品を売りたいのですが、物流網や決済システムをすべて自前で用意しなければならなかったのです。これらのバックエンドの仕組みを構築する難しさを、身をもって体験しました。

 実際、欧米や日本といった国々が、インフラが整っていない東南アジア諸国でECビジネスを展開するのは大変なことでした。aCommerce創業当初も、自社配送車両を所有し、代金引換で取引をしていたくらいです。

 しかし、われわれが目指していたのは、配送など特定のサービスだけを届ける「プロバイダー」ではありません。EC事業者の商取引すべてを手助けする「プラットフォーマー」になりたかったのです。

 創業からさまざまな困難を乗り越え、現在ではaCommerceは30〜40以上の配送業者と連携するほか、300以上のAPIを所有し、顧客のERPシステムやCRMシステムとも統合可能です。ソフトの決済システムからハードの配送業者まで、われわれが手助けできない業務はほとんどないといっていいでしょう。それ程、クライアントにとってなくてはならないサービスになっているのです。

image: aCommerce HP

日本と東南アジアをつなぐ「ハブ」になりたい

―日本市場に進出する考えはありますか。

 もちろんです。すでに我々はユニ・チャームや味の素といった企業をはじめ、牛肉販売のブランドなども顧客に抱えていますし、東南アジアで事業を展開する日本の物流企業とも提携しています。

 今後の展開としては、日本のブランドが東南アジアでの商売を始める際の「ハブ」的存在になることを最初のステップとして考えています。これは、向こう2〜3年で拡大していきたいですね。

 また、日本企業のサプライチェーンの移行にも対応していきます。製造業の多くが地政学的リスクを考慮した中国外しを始めていますが、工場等の移転先として考えられるのが東南アジアです。東南アジア各国で製造した商品の在庫を東南アジアで置く際、aCommerceを利用して欲しいと思っています。

―日本企業との協業を考えた場合、どんな業界の会社と、どのような形態のパートナーシップを望んでいますか。

 日本の大きなブランドとすでに提携している企業を考えています。例えば、EC事業者やコンサル企業、広告代理店などです。

 理想とするパートナーシップの形態として特にこだわりはありませんが、現地化をスムーズにできる形態が良いのではないでしょうか。東南アジア各国の物流企業との提携をはじめ、現地の広告会社と日本の広告企業をつなぐこともできます。

 将来的には、自動車部品企業とのジョイント・ベンチャーを立ち上げる可能性もあるかもしれません。自動車部品のEC取引は巨大市場ですが、東南アジアではまだ手を出せていない領域です。一方で、先ほどお話しした通り、製造業のサプライチェーンにおいて東南アジアが有力になっていく流れがあります。我々にとっても、日本の自動車部品企業にとっても、非常に大きなビジネスとなるでしょう。

―最後に向こう1年間で達成したいと考えている目標を教えてください。

 第1にベトナム進出が挙げられます。将来的に東南アジアのすべての国で事業を展開していくことを考えても、ベトナムは非常に重要な市場となるでしょう。2つ目は、IPOまで現在の高い収益性を維持し続けることです。

 将来的にaCommerceはあらゆるブランドが東南アジア全域でビジネスを拡大させられるプラットフォーマーになりたいと考えています。現在の領域は、オンラインとBtoCがメインですが、我々の所有するデータを考えれば、オフライン・BtoBビジネスでも十分役に立てるはずです。

 東南アジア経済の発展に貢献できるようなプラットフォーマーであり続けたいですね。



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