Eコマースを展開する小規模事業者にとって、1番の問題はキャッシュフローだ。米テキサス州とイスラエルにオフィスを構える8figは、ECの販売事業者向けに資金調達とサプライチェーン管理ツールを提供するスタートアップだ。事業者の成長軌道をAIで分析。商品出荷の遅延や需要の変動などサプライチェーンを管理し、キャッシュフローの最適化や柔軟な資金調達を可能にする。8figの共同創業者でCEOのYaron Shapira氏に、起業のきっかけや今後の事業戦略などについて聞いた。

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サプライチェーンのニーズは週単位で変化、それに伴いキャッシュフローも変わる

 Shapira氏は大学でコンピューターサイエンスを学び、コードやアプリケーション開発に携わってきた。8fig創業前に立ち上げた会社では、サプライチェーンのリスク関連のテクノロジーを手掛けていたが、ある課題についても学んだ。それがキャッシュフローだ。

「サプライチェーンのニーズは週ごとに変化し、キャッシュフローも同様に変化してきます。これが大きな課題なのです」

 個人や家族などでスモールビジネスを行うEC事業者は、大企業と違い、「最高財務責任者(CFO)や最高マーケティング責任者(CMO)などはいません。そのために3つの層の課題に直面していることが分かりました。1つはどのように資金を調達するか、2つ目はロジステイックをどうすればいいか、3つ目は国際的な決済です。この3つの層がそれぞれに影響を与えているのです」とShapira氏は説明する。

Yaron Shapira
8fig
Co-Founder & CEO
Bar-Ilan Universityでコンピューターサイエンスと経済学の学士号、MBAを取得。ソフトウェア開発会社でのデベロッパーや金融サービス会社でのモバイル決済アプリの開発などに携わる。その後、現地の文化を体験する旅行アプリ開発のThe Culture Trip、国際取引決済セキュリティプラットフォームのQlarium(旧Tiidan)などを創業。2020年に8figを共同創業。

 サプライチェーンを管理・計画するのに役立つテクノロジーを提供し、それによって資金の必要性も自動的に計算するのが8figのサービスだ。「サプライチェーンの管理や必要な資金調達によって、事業者は自分が最も得意とするビジネスに集中することができるのです」とShapira氏は語る。

 Shapira氏らは2020年に8figを設立。現在米テキサス州オースティンと、イスラエルのテルアビブにオフィスがあり、EC事業者がビジネスを管理し、成長させるために必要なサービスを提供するオールインワンプラットフォームを目指している。現在、米国の顧客を中心に、ヨーロッパやアジアにも利用者がいるという。

「私たちのAIが、大量のデータを基に事業者の成長軌道を分析し、資金の提供についても判断します。非常に良いビジネスプランを持っていれば、私たちは資金を提供し、その資金から利益を得ることができるというウィンウィンの仕組みです。ECの需要は右肩上がりに伸びていますし、当社の売り上げも昨年は10倍に成長しています。私たちのテクノロジーを使用しているクライアントは、使用していないクライアントの2倍で成長していることも分かっています」

Image:8fig

需給の変化にも対応、柔軟な資金提供も

 ECの販売者はサプライチェーンが常に変化しているという事実に悪戦苦闘している。

「ある日、メーカーから電話がかかってきて、製造に遅れが出る、貨物の輸送に遅れが出るなど日々問題が発生します。また、販売ペースが伸びている場合にも需給に関する新たな問題が生じます。 これらを解決するためには、現金が必要です。そんな時、当社のソリューションを使うと、彼らが今週必要とする資金を提供することができ、サプライチェーンの管理分析をしながら、新たな変化にも対処できるようになります。8figは、EC事業者の課題解決をサポートしているのです」

 8figのプラットフォームに基づき、キャッシュフロー改善のために資金を提供しても、クライアントのEC事業者が倒産してしまった場合などはどうするのか。その問いに、Shapira氏は「私たちのAIがクライアントを手助けできることの1つは、経営陣の間違った決定を避けることなのです。中小企業が失敗する最大の理由は、製品やサービスが悪いからではなく、経営陣の決定が不適切な場合です。従って、私たちのAIは経営陣が不適切な決定を下さないようにすることです」と自信を見せる。

 競合について聞くと、「資金を提供している競合他社には、Amazon Lendingや Shopify Capitalがありますし、技術面では非常に興味深い洞察や技術エンジンを提供してアドバイスを提供している企業もあります。ただ、当社のように資金提供と技術面を組み合わせようとする企業はほとんどいません。私たちはサプライチェーンの洞察とキャッシュフローのニーズを組み合わせているのです」と、その事業の優位性について語った。

Image:8fig

AIの精度をより向上させ、より多くのビジネス改善へ

 現在、8figの資金調達総額は2021年11月のシリーズAラウンドまでを終えて5650万ドル。資金の使途は、主にプロダクトの拡張や新たな開発でより良いサービスにつなげている。Shapira氏は中長期的な目標について「より多くのEC販売者にサービスを提供し、彼らが私たちのAIにアクセスできるようにしたいです。彼らのビジネスを改善し、私たちもEC販売者の数を拡大できるように目指します」と語る。

 同社のプラットフォームを利用する事業者が多ければ多いほど、より多くのデータが得られ、AIの精度やサービスもより向上し、より多くのクライアントを獲得できるという流れだ。

 8figを利用しているEC販売者のサクセスストーリーは数多くウェブサイトに紹介されている。シカゴに住むオペラ歌手と俳優のカップルは結婚し、子供ができた後、より安定した仕事のために自分たちでECビジネスを立ち上げた。Amazonでの販売者として、競争の激しいキッチン用品業界で、ユニークなブランドを構築することができたが、その後キャッシュフローに悩まされた。しかし、8figのプラットフォームを導入後は、収益は2倍以上になり、7桁の取引を手にすることに成功した。最終的にはアグリゲーターのオファーを受け、ブランドを売却するまでになったという。

Image:8fig

日本市場への参入にも関心 将来的にはサプライチェーンAIのリーダーに

 世界中のEC販売者をサポートし、サプライチェーンを管理し、より良いビジネスにつなげていく。そのためにもAIによる成長軌道の分析がより重要になり、コンサルティングの側面も強くなりそうだが、Shapira氏はこう断言する。

「8figのプラットフォームは、実際のEC販売者を置き換えることはできませんし、そのつもりもありません。起業家、ECにおける事業者自身が『ヒーロー』であり、我々の取り組みは彼らをサポートすることです。ビジネスオーナーが最善を尽くすために役立つAIのCFOとAIのCMOを提供するといった、AI主導のソリューション提供が私たちの役目です」

 8figの将来的な目標は、サプライチェーンのデータとAIにおけるリーダーになることだ。日本市場への進出にも関心を持っている。

「例えば銀行などの金融機関や、あるいは日本のECプラットフォームなどを通じて、私たちのソリューションに興味を持ち、このソリューションが顧客のために本当に貢献できると考え、市場に浸透させていけるようなパートナーシップを組むことができるといいですね」とShapira氏は語る。

 ECの市場は今後も右肩上がりに成長していくと、Shapira氏はみている。「ECは米国が主流と思われているかもしれませんが、米国でのECの普及率は20%であり、小売業の80%の取り引きが今も実店舗にあることを意味しています。イギリスも40%の普及率で、米国の2倍程度です。ECの革命は始まったばかりであり、まだ多くの伸びしろがあると思います」

 その上で、8figにとっての「ヒーロー」はスモールビジネスのオーナーたちだという。「ECは大企業だけに、良い成果が訪れるわけではありません。経済的自由、自立を求める中小企業にも当てはまります。それは夫婦であったり、個人であったり、家族であったり、小規模な店舗にもビジネスチャンスがあるのです」とShapira氏は述べ、ECにおける起業家には、非常に明るい未来があると伝えた。

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