image: YimJi WK / Shutterstock
広告市場に「リテールメディア」の波が到来している。消費者の購買行動などリアルなデータを握る小売企業による広告サービスという点が特徴で、日本でもコンビニや小売りの大手企業が専門部署を立ち上げる動きが相次いでいる。先行する米国ではすでに、検索広告、SNS広告に次ぐ領域へと成長。リテールメディアの発展の陰では、エッジAIや行動分析などを得意とするスタートアップも数多く活躍しており、リテールとテクノロジーが掛け合わさった「リテールテック」の代表的な一例だ。

※TECHBLITZでは、リテールメディア分野の国内外のスタートアップを独自に調査。記事後半では、中でも注目の5社を紹介します。

レジ画面で買い物客に表示される商品広告、レジ横には関連商品が陳列されている(Walmart提供)

リテールメディアとは:
小売業者が展開するデジタル広告プラットフォーム。店舗のデジタルサイネージから、ECサイトの広告まで幅広いが、特徴は小売業者が保有する購買行動などの顧客データを活用した広告であること。消費者の生活により密着した広告展開が可能で、より的確なターゲティングが期待できる。リテールメディアへの関心が高まる背景には、プライバシー保護の観点から世界的にサードパーティクッキーの利用を取りやめる流れもある。

<目次>
リテールメディアを牽引するAmazonとWalmart
テクノロジーの進化がリテールメディアを後押し
TECHBLITZが選ぶ、リテールメディア関連スタートアップ5選
 1. Qsic(オーストラリア)
 2. Cosmose(シンガポール)
 3. Placer.ai(米国)
 4. RetailNext(米国)
 5. Butlr(米国)

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リテールメディアを牽引するAmazonとWalmart

 Amazonのサイトで商品を検索すると、「スポンサー」表示の付いた検索結果が一覧に表示される。これがまさにAmazonが展開している広告サービスの一例。商品を買う意思がより高い人に向けて広告を打つことができ、自社が保有するデータ(ファーストパーティデータ)を活用している点もリテールメディアとしての強みだ。

 Amazonが発表した2023年第3四半期の決算によると、同社の広告サービス事業の売上高は87億1,600万ドルで前年同期比26%の高い伸びを示した。主力のオンラインストア事業(508億5,500万ドル)と比べると規模はまだ小さいものの、デジタル広告プラットフォームとしては、すでにGoogleとFacebookに次ぐ規模に成長している。

 また、米小売り最大手Walmartも米国のリテールメディアのトレンドを牽引する存在だ。Walmartは全米で4,000店舗以上ある店舗網を活かし、実店舗での広告展開にも力を入れており、店舗内に設置したテレビ画面やセルフレジ画面への広告サービスに活用。さらに、商品の実演販売やデリバリー利用客へのサンプル配布など、対面の強みを活かした多岐にわたるサービス展開が業界の注目を集めている。

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テクノロジーの進化がリテールメディアを後押し

 日本のコンビニ業界でリテールメディアにいち早く取り組むファミリーマートは、店頭メディアとして広告などを配信するデジタルサイネージの設置を推進。2023年11月末時点で全国8,540店舗に達しており、広告を配信した商品の売上が平均して2割以上増えるといった効果も出ているという。

 このデジタルサイネージには、日本のAI開発スタートアップであるIdeinのエッジAIプラットフォーム「Actcast」を一部採用。AIカメラを活用して、デジタルサイネージを見ている人の性別や年代を分析するなど、顧客行動分析などに役立てられている。

「エッジAI」はAIをデバイスに直接搭載し、そのデバイス上で情報を処理するもの。AI/IoT技術の進歩に伴い、近年ビジネスでの活用も広がっている。このように、リテールメディアが急成長する中で、ビッグデータ収集や行動分析などテクノロジーの進化も重要な要素となっている。

ファミリーマートが店舗で展開するデジタルサイネージ(同社提供)

TECHBLITZが選ぶ、リテールメディア関連スタートアップ5選

 リテールメディアの発展はデータ分析が要で、現場のデータ収集に強みを持つエッジAIや、集めたデータを基にした行動分析などを得意とするスタートアップも数多く活躍している。TECHBLITZ編集部が選ぶ、リテールメディア関連のスタートアップ5社はこちら。


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1. Qsic

Qsic
店舗の状況に応じた音楽を再生
設立年 2012年
所在地 オーストラリア連邦 メルボルン
 Qsicは、音楽やAI技術を活用して、リアルタイムで店舗内の顧客行動を変化させるプラットフォーム。時間帯 / 場所 / 天気 / 顧客の属性に基づいて、豊富なライブラリから絞り込んだ音源を再生。店舗の状況の変化を学習 / 予測して適応し、適切な音環境を提供する。
image: Qsic

2. Cosmose

Cosmose
スマホとAI駆使した消費者行動分析
設立年 2014年
所在地 シンガポール
 Cosmoseは、スマホとAIを用いた消費者の行動分析 / 予測プラットフォーム「Cosmose AI」を提供。提携パートナーのスマホアプリから店舗内の消費者行動データを取得し、AIで解析を行いながら最適なオンラインマーケティングを行う。
image: Cosmose

3. Placer.ai

Placer.ai
消費者の移動データをインサイトに
設立年 2016年
所在地 米国カリフォルニア州サンタクルズ
 Placer.aiは、消費者のリアルタイムな移動データを使ったインサイトを提供する分析プラットフォーム。提携モバイルアプリなどを通じて数千万台のモバイルのオプトインGPSデータからAIが分析した様々な指標をビジュアルデータとして閲覧できる。
image: Placer.ai

4. RetailNext

RetailNext
店舗内ビッグデータの収集・分析ツール
設立年 2007年
所在地 米国カリフォルニア州サンノゼ
 RetailNextは、小売業の店舗内ビッグデータの収集 / 分析ツール。小売店やショッピングセンターなどの店舗内の顧客行動データをリアルタイムで収集、分析、視覚化するプロダクトを提供。
image: RetailNext

5. Butlr

Butlr
プライバシーを侵害せずに人々の動きを検知
設立年 2019年
所在地 米国カリフォルニア州バーリンゲーム
 Butlrは、機械学習と低コストなIoTデバイスによって、消費者の屋内での行動分析を行うIoTプラットフォーム。赤外線センサーを利用して、人々の体温のみを検出。顔などの情報は取得せず、顧客のプライバシーを保護しながら行動データのモニタリングが可能。
image: Butlr

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