image: YimJi WK / Shutterstock
世界的なリテールメディア市場は急速な成長を続けている。米国の8兆円規模の市場に対し、日本はまだ0.5兆円規模と発展途上だが、プライバシー保護の観点からサードパーティクッキーの利用縮小という背景もあり、小売業者が保有する購買データを活用したリテールメディアへの注目が高まっている。本記事では、米国と日本を中心としたリテールメディア市場の動向、主要企業の取り組み、そして注目のスタートアップ企業について見ていこう。

※TECHBLITZでは、リテールメディア分野の国内外のスタートアップを独自に調査。記事後半では、中でも注目の5社を紹介します。

レジ画面で買い物客に表示される商品広告、レジ横には関連商品が陳列されている(Walmart提供)

リテールメディアとは:
小売業者が展開するデジタル広告プラットフォーム。店舗のデジタルサイネージから、ECサイトの広告まで幅広いが、特徴は小売業者が保有する購買行動などの顧客データを活用した広告であること。消費者の生活により密着した広告展開が可能で、より的確なターゲティングが期待できる。リテールメディアへの関心が高まる背景には、プライバシー保護の観点から世界的にサードパーティクッキーの利用を取りやめる流れもある。

<目次>
リテールメディア市場の主要トレンド
主要企業のリテールメディア戦略
リテールメディアを支える最新テクノロジー
TECHBLITZが選ぶ、リテールメディア関連スタートアップ5選

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リテールメディア市場の主要トレンド

グローバル市場の急成長
 リテールメディアは小売業者が展開するデジタル広告プラットフォームとして、店舗のデジタルサイネージからECサイトの広告まで幅広い形態で展開されている。その特徴は、小売業者が保有する購買行動などの顧客データを活用した広告であり、消費者の生活により密着した広告展開と的確なターゲティングが可能な点にある。

 世界的に見ると、プライバシー保護の観点からサードパーティクッキーの利用を取りやめる流れが広がる中、ファーストパーティデータを活用するリテールメディアへの関心が急速に高まっている。この背景には、顧客が広告を見てから購入に至るまでの動きを正確に測定できる「クローズド・ループ・メジャーメント」が可能になったことが大きく影響している。

米国市場の動向
 米国では、リテールメディアはすでに検索連動型広告とソーシャルメディア広告に次ぐ第三の存在となっており、2024年には全ネット広告費の16.8%を占め、2028年には21.3%にまで拡大すると見込まれている。これは、ネット広告費の5分の1以上をリテールメディアが占めることになる計算だ。

 米国の広告標準化団体IABによると、リテールメディアは2022年に急成長した広告チャネルであり(市場規模前年比+22%、380億ドル)、今後の5年間で2倍以上の1070億ドル規模に成長すると予測されている。特筆すべきは、その成長が極めて速いことで、調査会社Insider intelligenceの分析によると、リテールメディアの広告市場が10億ドルから300億ドルに到達するまで要した期間はわずか5年であり、検索広告の14年、ソーシャル広告の11年と比較しても驚異的なペースで成長している。

日本市場の特徴と成長  日本のリテールメディア市場は2024年時点で0.5兆円規模と、米国の約16分の1にとどまっている。しかし、日本においても市場は着実に成長しており、2023年には前年比21.5%増の3625億円に達し、2027年には2023年の約2.6倍となる9332億円にまで拡大すると予測されている。

 日本では2023年が「リテールメディア元年」と言われるほど、市場の発展はまだ初期段階にある。EC事業者に関しては日米で同様の成長率を辿るが、日本の店舗事業者によるリテールメディアは2025年までの成長率が目を引く状況にある。これは、EC事業者はAmazonや楽天といった主要プレイヤーが既にリテールメディアに先行して取り組んでいるため成長の伸びしろが大きくない一方で、日本の店舗事業者によるリテールメディアは米国とは大きく時間差があり、まだまだ伸びしろが大きいことを示している

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主要企業のリテールメディア戦略

Amazonのリテールメディア事業
 Amazonは米国リテールメディア市場の頂点に立ち、市場シェアの77%超を占めている。2024年10~12月期における同社の広告事業の売上高は172億8800万ドルで過去最大となり、前年同期比18%増を記録した。これで7四半期連続で広告収入が100億ドルを超える結果となっている。

 Amazonはリテールメディア分野での先進的な取り組みを展開しており、顧客の購買行動を分析し、それに基づき食品スーパー「アマゾンフレッシュ」店内のデジタル広告とショッピングカートのスクリーンを通じたオフライン広告や、オンラインのターゲティング広告などを投入して新規/既存顧客との関係構築を図っている。また、独自の「サジェスト」機能を開発し、顧客の履歴から行動データを収集・分析することで、ユーザーの購買傾向を把握。その購買傾向を基に最適な商品やオファーを提示することで、顧客の関心を引き付け、顧客販売を向上させることに成功している。

 さらに注目すべきは、Amazonの2024年10~12月期の売上高が前年同期比10%増の1877億9200万ドルとなり、四半期ベースでは初めてWalmartを上回っったことである。広告事業はその成長の重要な柱となっている。

Walmartのリテールメディア展開
 Walmartは米小売り最大手としての地位を生かし、リテールメディアのトレンドを牽引する存在として注目されている。全米4,000店舗以上ある店舗網を活かし、実店舗での広告展開に特に力を入れており、店舗内に設置したテレビ画面やセルフレジ画面への広告サービスを展開している。

 さらに、商品の実演販売やデリバリー利用客へのサンプル配布など、対面の強みを活かした多岐にわたるサービス展開が業界の注目を集めている。Walmartのリテールメディア戦略の特徴は、実店舗とデジタルの融合にあり、オムニチャネル型のマーケティングを推進している点が挙げられる。また、Walmartはコマーステクノロジーの提供も行っており、英小売業者Co-opが同社の「Store Assist」ソリューションを導入し、クイックコマース事業を強化している事例も報告されている。このソリューションにより、従業員は全ての注文と配送情報を一元管理できるようになり、効率的な配送経路やスケジュール設計が可能になる。

日本におけるファミリーマートの取り組み
 日本のコンビニ業界でリテールメディアにいち早く取り組むファミリーマートは、2024年にリテールメディア事業目標の「5合目」に到達したと発表した。同社は2023年7月にリテールメディア事業を中核に置いたカスタマーリンクプラットフォーム構想を発表しており、3年後の2027年に事業利益50億円を目指している。ファミリーマートのリテールメディア戦略の中核となっているのが、全国約1万店に設置した「ファミリーマートビジョン」と呼ばれる大型デジタルサイネージだ。このサイネージは1日に約1,000万人に広告をリーチしており、広告を配信した商品の売上が平均して2割以上増えるといった効果も出ているという。

 また、2024年7月2日には、公式アプリ「ファミペイ」を提示して買い物すると月間の来店回数と購入金額に応じて特典を進呈する「ファミマメンバーズプログラム」を導入した。ファミペイは2,200万人を超えるユーザーを抱え、顧客の購買データを活用してニーズを深く理解することで、最適な商品やサービスの提供に活かしている。このアプリでは来店者に対してリアルタイムでの情報発信とファミリーマートビジョンと連携した販促を展開するほか、アプリと連携できるミニアプリをパートナー企業に開放し、独自クーポンを配信できる仕組みも新設している。さらにNTTドコモが保有する会員約5,000万IDと実購買情報データを基に、パーソナライズ化した情報発信を展開するなど、配信力の強化にも取り組んでいる。

ファミリーマートが店舗で展開するデジタルサイネージ(同社提供)

リテールメディアを支える最新テクノロジー

AI・生成AIの活用
 リテールメディア分野では、AIとりわけ生成AIの活用が急速に進んでいる。例えば、Azure OpenAI Serviceを活用した広告クリエイティブ生成機能のアップデートが発表され、広告テキストおよびハッシュタグ生成機能が追加された事例がある。この新機能は、ターゲットとなるペルソナに最適化された広告テキストを配信先媒体の規定文字数以内で生成することができ、SNSでの拡散効果を高めるためのハッシュタグも提案する。

 さらに、最新モデルとなるAzure OpenAI Service GPT-4oに対応したことで、従来のモデルよりも製品ホームページからの情報読み取りにおいて、処理速度と精度が向上している。このような生成AIの活用により、製品ホームページのURLを入力するだけで、当該製品にマッチした広告テキスト、ハッシュタグを効率的かつ迅速に作成でき、配信までに必要な期間とコストを大幅に短縮することが可能になっている。

エッジコンピューティングの役割
 エッジコンピューティングは、リテールメディアの効果を最大化するための重要な技術となっている。エッジコンピューティングを活用することにより、消費者の棚前行動をリアルタイムにとらえ、適切なプロモーションを表示するリアルタイム販促が可能になる。また、ネットワーク機能を持たないレガシー機器を含むさまざまな業務設備・機器の稼働情報を収容しクラウドへ転送し、その情報を基に機器を制御することで、省電力や予防保守などを行い、売上拡大などの顧客価値提供が可能になっている。

 具体的な事例として、日本のAI開発スタートアップIdeinのエッジAIプラットフォーム「Actcast」がファミリーマートのデジタルサイネージに一部採用されている例が挙げられる。このシステムでは、AIカメラを活用してデジタルサイネージを見ている人の性別や年代を分析するなど、顧客行動分析に役立てられている。

消費者行動分析テクノロジー
 リテールメディアの効果を高めるためには、消費者行動を詳細に分析するテクノロジーが欠かせない。特に、リアル店舗とデジタルの両方でのユーザー行動を追跡し、統合的に分析する技術が注目されている。例えば、Placer.aiのようなスタートアップ企業は、位置情報データを活用して店舗や商業施設への訪問データを分析し、消費者の行動パターンを把握することで、より効果的なマーケティング戦略の構築を支援している。また、Butlrは熱センサーを使用して人の動きを検知し、プライバシーを保護しながら空間利用の分析を可能にしている。これらのテクノロジーを活用することで、リテール企業はより詳細な顧客理解に基づいた広告配信やプロモーション戦略を展開し、リテールメディアの効果を最大化することができる。

TECHBLITZが選ぶ、リテールメディア関連スタートアップ5選

 リテールメディアの発展はデータ分析が要で、現場のデータ収集に強みを持つエッジAIや、集めたデータを基にした行動分析などを得意とするスタートアップも数多く活躍している。TECHBLITZ編集部が選ぶ、リテールメディア関連のスタートアップ5社はこちら。


1. Qsic

Qsic
店舗の状況に応じた音楽を再生
設立年 2012年
所在地 オーストラリア連邦 メルボルン
 Qsicは、音楽やAI技術を活用して、リアルタイムで店舗内の顧客行動を変化させるプラットフォーム。時間帯 / 場所 / 天気 / 顧客の属性に基づいて、豊富なライブラリから絞り込んだ音源を再生。店舗の状況の変化を学習 / 予測して適応し、適切な音環境を提供する。
image: Qsic

2. Cosmose

Cosmose
スマホとAI駆使した消費者行動分析
設立年 2014年
所在地 シンガポール
 Cosmoseは、スマホとAIを用いた消費者の行動分析 / 予測プラットフォーム「Cosmose AI」を提供。提携パートナーのスマホアプリから店舗内の消費者行動データを取得し、AIで解析を行いながら最適なオンラインマーケティングを行う。
image: Cosmose

3. Placer.ai

Placer.ai
消費者の移動データをインサイトに
設立年 2016年
所在地 米国カリフォルニア州サンタクルズ
 Placer.aiは、消費者のリアルタイムな移動データを使ったインサイトを提供する分析プラットフォーム。提携モバイルアプリなどを通じて数千万台のモバイルのオプトインGPSデータからAIが分析した様々な指標をビジュアルデータとして閲覧できる。
image: Placer.ai

4. RetailNext

RetailNext
店舗内ビッグデータの収集・分析ツール
設立年 2007年
所在地 米国カリフォルニア州サンノゼ
 RetailNextは、小売業の店舗内ビッグデータの収集 / 分析ツール。小売店やショッピングセンターなどの店舗内の顧客行動データをリアルタイムで収集、分析、視覚化するプロダクトを提供。
image: RetailNext

5. Butlr

Butlr
プライバシーを侵害せずに人々の動きを検知
設立年 2019年
所在地 米国カリフォルニア州バーリンゲーム
 Butlrは、機械学習と低コストなIoTデバイスによって、消費者の屋内での行動分析を行うIoTプラットフォーム。赤外線センサーを利用して、人々の体温のみを検出。顔などの情報は取得せず、顧客のプライバシーを保護しながら行動データのモニタリングが可能。
image: Butlr

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