インドのPratilipiは、60万人以上の作家と2300万人以上の月間アクティブ読者を持つストーリーテリングプラットフォームを提供している。読者はお気に入りの小説や詩、コミックなどを検索し、読むことができる。一方、作家は自分の作品を無料で公開することができる。ヒンディー語やベンガル語など、インドで使われる12言語に対応している点が特色だ。通常の電子書籍との違いは、Pratilipiが作品をコミックやオーディオなど様々なタイプのコンテンツに変換してくれるところだという。テクノロジーを活かして「ディズニー」の進化形を目指したいというPratilipiの共同創業者でCEOのRanjeet Pratap Singh氏に、プラットフォームの特徴について詳しく話を聞いた。

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読書好きからビジネスにつなげた「ヒンディー語の本がない」という現実

――どうしてこのようなプラットフォームを作ろうと思ったのですか。

 私が生まれたインドの小さな村では、誰も英語を話しません。実際、インドで英語を話す人は10%にしか過ぎず、ほとんどの人はヒンディー語などで話します。私は昔から読書が好きで年に50冊から100冊の本を読んでいましたが、それらはすべてヒンディー語で書かれたものでした。英語で読むようになったのは大学に進んでからです。私が学んでいた工学部では、ヒンディー語の本がなかなか手に入らなかったのです。

 私はずっと「ヒンディー語で書かれた本が手に入らないのはおかしい」と、友人たちに訴え続けてきました。大学を卒業して携帯電話会社のVodafoneに勤めていましたが、もっと刺激のある人生を送りたいと思っていたところ、友人に「ヒンディー語のコンテンツがないという問題について、君はずっと話していたじゃないか。だったら、自分で何かやってみたら」と背中を押されたのです。そこで、Pratilipiを始めることにしました。

Ranjeet Pratap Singh
Rratilipi
Co-Founder & CEO
インド・ブバネシュワルのKalinga Institute of Industrial Technologyでコンピュータサイエンスとエンジニアリングを学ぶ。2012年、University of Delhi・FMSでMBA取得。2012-2014年、Vodafoneでマーケティング、リテール、チャネルセールスを担当。2015年、Pratilipiを共同創業。Forbes India 30 under 30、Entrepreneur India 35 under 35などにも選出。

――Pratilipiはどんなプラットフォームなのでしょうか。

 Pratilipiは、誰でも自分が書いた物語や小説を公開し、他の人々が読みに来ることができるプラットフォームです。現在、コンテンツは文学だけでなく、コミック、Webトゥーン、オーディオまで広がりました。最近はインド最大のポッドキャスティングスタジオを買収して、ポッドキャストも始めています。また、物理的な本の出版社も買収しました。さらに、The write orderという、セルフパブリッシングの書籍プラットフォームもあります。

――どのような読者がいますか。

 読者の97%はインド内です。残る3%がオーストラリアやアメリカ、カナダなど、様々な国からのユーザーです。使われている言語のほとんどはインドの言葉となっており、ヒンディー語が一番多く、次にベンガル語が多くなっています。

 現在、文学の分野では、作家が約60万人、公開されているストーリーは約700万本、月間アクティブユーザー数は約2300万人います。他のタイプのコンテンツのアクティブユーザー数はもっと少なくなります。

Image:Pratilipi

IPライセンスで文学をコミックやオーディオに変換 日本の作品も視野に

――プラットフォームを利用するのに料金はかかるのでしょうか。収益の仕組みを教えてください。

 私たちはフリーミアムモデルを採用しています。無料購読者は1日に1章しか読めませんが、有料購読者になれば、無料購読者よりも早く好きなだけ読めます。

 課金モデルはコンテンツのタイプによって異なりますが、文学作品の場合は、単純なサブスクリプション型です。コミックについては、サブスクリプション型ではなく、コインを使ってチャプターをアンロックして購読できる仕組みです。あるいは、1週間待つと無料になり、無料で読むこともできます。

 私たちの収益は、作品の宣伝料と書籍の販売、ライセンシングから得る仕組みとなっています。

Image:Pratilipi

――AmazonのKindleやGoogle PlayのBooksなど、電子書籍との違いは何ですか。

 大きな違いは、例えば、文学作品のストーリーであれば、マンガの原作や、ポッドキャストのオーディオストーリー、物理的な本になったりするところです。つまり、同じコンテンツIPが、様々な異なるコンテンツタイプへ変換できるのです。

 映画やウェブ、ゲームなど自分たちだけではできないようなタイプのコンテンツについては、作品のライセンス供与もしています。Pratilipiを一言で言うと、コンテンツIPのためのエコシステムと考えればいいでしょう。

――2021年7月、シリーズDラウンドで韓国のゲーム会社Kraftonなどから、36億インドルピー(約61億円)を調達しました。主な使途と、日本進出のお考えをお聞かせください。

 資金は主にIPライセンスの獲得と開発に投資しています。掲載作品のうち、特に優れたものを入手して、コミックやオーディオなどの形式に変換していきます。

 日本進出については、1〜2年先の話、2023年から24年になるとは思いますが、日本の出版社からコミックや文学作品のライセンスをすることから始めたいと考えています。同時に、日本の主要なウェブプラットフォームやオーディオプラットフォームにも、私たちの作品をライセンスしていく予定です。

目指すは「ディズニー」の進化形

――これからの成長戦略はどう描いていますか。

 成長目標は、四半期ごとに50%の成長を目指しています。開発は主にユーザーエクスペリエンスと、検索エンジンの最適化に焦点を当てています。

 私たちはプロジェクトXという会社をインキュベートしています。彼らはディープテックの優秀な機械学習チームです。このプロジェクトXを通じて、あるいはフリーランサーやスタジオの助けを借りて、作品を様々なコンテンツタイプに自動的に変換し、収益化できるようにしたいと考えています。

 マイルストーンとして一番重要な目標は、今年中に売上高1000万ドル以上を達成することです。もう一つ、来年3月までにポッドキャストビジネスも文学作品と同じくらい成功させたいですね。

――最後に、今後の長期ビジョンについて教えてください。

 私たちの長期ビジョンは、ディズニーが行ってきたことを、もっと現代的で、テクノロジー主導の業態にすることです。あらゆるタイプのコンテンツで、Pratilipiが世界最大のストーリーテリングプラットフォームになることが私たちの課題であり、目標です。

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