ピクサー、マイクロソフト、アップルでの経験をもとに起業
――まずはParallel Domain設立までの経緯を教えてもらえますか?
私は大学在学中に、ピクサーアニメーションスタジオで働きました。その時に映画「Brave(メリダとおそろしの森)」の製作に携わり、おそろしの森に生えている苔や木を、自然に成長させるために数式が用いられていることを知りました。これがきっかけになり、プログラミングとコンピューターサイエンスの知識を使い、視覚的に説得力があるものや、人々の役に立つものを作ることに興味を持ったのです。
私たちのミッションはコンピュータビジョンの開発を加速させることです。具体的には、安全、効率的で、より拡張性のあるデータをより速く生成すること。顧客が、多くのケースで活用できる正確なコンピュータビジョンモデルを使って、機械学習のトレーニングとテストを行えるようにすることです。
自動運転技術で年に何十万もの命を救える
――様々なケースで活用できるとのことですが、特に注力している分野はありますか?
まずは自動運転車に注力していますが、さらにドローンの配送会社との提携や、他業種での導入も進めています。
コンピュータビジョンは、スマートフォン、車、自宅に設置しているインターネットカメラやドアベルなどや、小売店、製造業や農業など様々な分野で使われています。いずれの場合でも、自律システムは、センサーから得たデータを基に意思決定しています。当社の顧客は、当社が生成し提供する、合成センサーデータ、カメラのデータ、LiDARやその他センサーデータを機械学習のトレーニングに活用しています。
Parallel Domain Teaser from Kevin McNamara on Vimeo
――自律走行車に最も力を注いでいる理由は何でしょうか。
理由はいくつかあります。1つ目が、運転と輸送アプリケーションに焦点を置いた自律システムに私が携わってきたこと。もう1つの理由は、自動運転分野は資金が集まりやすく、研究が盛んだからです。
そして、最も重要な理由が、安全性の問題です。ある調査では、2016年の世界の交通事故死亡者数は130万人でした。発展途上国においても交通事故死は非常に深刻な問題ですが、交通インフラが整っており、安全性の高い車両が多い米国でも、毎年多くの方が交通事故で亡くなっています。なぜなら人為的ミスが95%の事故を引き起こしているからです。交通事故死は、予防可能な死であり、居眠り運転、ながら運転や飲酒運転をなくすことができれば、年間何十万人もの命を救うことができるのです。
トヨタも出資。日本でのビジネスに期待
――競合はいるのでしょうか。また他社にはない、御社の強みはどのような点でしょうか?
競合に関しては、2つに分類し考えています。まず、現実世界で走行し収集した莫大なデータを使う“現状(Status quo)”分野です。多くの企業が取り組んでいますが、直接的な競合ではありません。
もうひとつは、シミュレーション分野です。シミュレーションに取り組んでいる企業の多くは、シミュレーションソフトウェアやシミュレーションインフラを開発していますので、当社と部分的には重なりますが、同じではありません。ただし、中にはセンサーシミュレーションや合成データも提供している企業があるので、多少の競争はあります。しかし、合成データに特化している企業は少ないですし、その中でも当社は資金面で優位だと考えています。
Image: Parallel Domain 昼夜、雨などの条件で合成データを生成できる。
――御社はToyota AI Venturesからの出資も受けています。日本での展開も視野に入っていますか?
日本企業の顧客がいますので、日本向けのデータセットが既にあります。パンデミック前には、何度も日本に行きました。東京だけでなく、いくつもの都市で多くの企業と商談してきました。今後、日本でのビジネスが、当社の売上の大きな割合を占めることは間違いありません。パンデミック後には、日本にサポートエンジニアなどの専任スタッフを常駐させるつもりです。
そして、大企業だけでなく、日本の自動車産業のサプライチェーンに含まれる様々な企業との提携に関心があります。