image: NTTデータ
2023年10月27日、横浜駅西口にレジを通さずに商品の購入が可能な店舗「CATCH&GO」がオープンした。ダイエーとNTTデータの共同事業で、オフィス内店舗などクローズドな空間ではなく、誰もが利用できる一般路面のウォークスルー店舗としては日本初*。この店舗で用いられているシステムは、店舗DXソリューションを手掛ける海外スタートアップ、Cloudpick(クラウドピック)とNTTデータが協働で開発した。30代中心の少数精鋭チームを率いたNTTデータの新規事業開発担当の新原友美さんに、2019年5月の協業開始から店舗開設までに費やした約1,600日の道のりを振り返ってもらった。
*NTTデータ調べ

―NTTデータとCloudpickの協業のきっかけを教えてください。

 Cloudpickとの出合いは2019年春です。当時、私たちのチームは小売事業向けの新しいサービスを検討していました。理想は「Amazon Go」のようなウォークスルー店舗をやりたかったのですが、技術面などで条件を満たす協業相手が見つけられず、実現はまだちょっと難しいかなという状況でした。その代わりじゃないんですけれども、AIカメラを使って小売店舗の業務を効率化できるような新規事業を考えていたんです。

 そのようなタイミングで、当社のオープンイノベーション推進の担当事務局からCloudpickの紹介を受けました。Cloudpickは、当社が主催するオープンイノベーションコンテストの中国大会での優勝企業だったんです。これが2019年3月のことで、この出合いをきっかけにウォークスルー店舗のビジネス化に向けたプロジェクトが大きく動き出しました。

2017年設立、本拠は中国・上海。独自開発したコンピュータービジョンに基づく行動認識・商品学習アルゴリズムエンジンを活用して、ウォークスルー型無人デジタル店舗などの店舗DXソリューションを提供する。2023年1月時点で、日本、米国、ドイツ、シンガポール、韓国、中国など世界13カ国で無人デジタル店舗を400軒以上展開。

―協業の決め手になったのはどのような点ですか。

 米国などさまざまなスタートアップを調査し、相手企業とのコミュニケーションも取りながら、どの企業と組むのが最適か横並びでの比較検討を行いました。協業の決め手になったのはCloudpickの実績、コスト面での優位性、そしてスピード感です。

 まず実績についてですが、Cloudpickは当時すでに中国や一部国外も含めて100近い店舗を展開しており、これ程の導入実績がある企業は他に見当たりませんでした。後日、中国に現地視察に行きましたが、上海の空港内やオフィスビルの1階部分など日常生活の中にレジなし店舗が溶け込み、利用者も当たり前のように買い物をしているのが非常に印象的でした。その光景を見て感銘を受け、日本でもこれを実現したいという気持ちが一層強くなったのを覚えています。

 コスト面については、他のスタートアップだとかなりコストが高い印象があった中、Cloudpickは優位性がかなり強かったです。そして、スピード感ですね。検討開始から約4カ月で実験店舗がオープンできると説明を受けたと記憶していますが、実際に2019年5月から協業を始め、同年9月に実験店舗のオープンにこぎ着けています。

―協業開始からプロジェクトはどのように進んでいったのでしょう。

 今回の横浜駅西口の「CATCH&GO」開設までには3段階のプロセスを経ています。

 まず2019年から実験店舗の運用を行い、2021年からはダイエーさんと共同で自社ビル内に開設した店舗の運営、そして2023年の「CATCH&GO」開設という流れです。

「CATCH&GO」の利用方法(NTTデータ提供)

―最初の実験店舗はクローズドな空間での課題の洗い出しが目的だったそうですね。この段階ではどのような課題が見えてきましたか。

 この時点で課題として浮かんできたのは、中国から日本に製品を持ち込む中でのローカライゼーションの必要性です。

 最初は重量センサー付きの棚板などがセットになった冷蔵庫を中国で買ってきて、日本に持って来て使ってみました。当然ですが、中国と日本では電圧が異なり、単純にコンセントを差したところで日本では動きません。また、業務のしやすさですとか、商品を適切な温度で管理できるかという品質水準を中国の冷蔵庫は満たせていませんでした。ですので、Cloudpickに冷蔵庫の中の棚板だけを提供してもらい、日本の冷蔵庫にそれを付けるためにはどうしたらいいかという細かい調整を行っていきました。

 それから、当社には輸入に関するノウハウがほとんどない状態だったので、重量センサーやカメラのような物理的なハードウェアを日本に持ち込む際、そもそも手続きなどをどうするのかという問題にも直面しました。この点に関しては、社内外を問わずノウハウがありそうなところに聞くという、ある意味で泥臭く一歩一歩前に進めていきました。

2019年に開設したレジなしデジタル実験店舗(NTTデータ提供)

―次に、自社ビル内にオープンした店舗は、ダイエーと一緒に運営し、社員とはいえ実際に買い物をする人もいる環境だったそうですね。新たに見えた課題はありましたか。

 日本の小売業者はオペレーションが非常に高いレベルで確立されていて、品質の高いサービスを提供しているので、やはり小売業者さんならではの視点、求めるものが分かってきたことが非常に大きかったです。

 例えば、冷蔵庫の中に重量センサーがある関係で仕切りがあるんですが、デッドスペースが生じるため「商品がたくさん詰められない」というご指摘がありました。改善前の仕様だと補充効率が悪い、というのは小売業者の視点があったから気付けたことですね。これに関しては、当社とCloudpick、日本の什器メーカーの3者でタッグを組んで、オペレーションがしやすい新たな什器を開発することで解決しました。

 また、お客さんの動きをAIが解析している横で従業員が補充作業を行い、AIがお客さんと従業員の動きを誤認識するケースが起きることも発覚しました。通常の店舗と同じスタイルで業務を行うと、システム機器や解析作業に影響を与えうるというのは、ダイエーとの取り組みで見えてきた大きなところだと思っています。

2021年8月にNTTデータ社内にオープンしたウォークスルー店舗(NTTデータ提供)

―横浜駅西口にオープンした「CATCH&GO」は一般路面店のウォークスルー店舗として日本初となりました。お客さんに使っていただいた感触はいかがでしたか。

 店舗を使っていただいた方は、「すごい」とか「おお」といった言葉が漏れるくらい、驚いていらっしゃたり、感嘆してくださったりしていました。

 これだけ便利なサービスが溢れている時代に、すごいと感じていただける体験を提供できたことは非常に良かったと感じています。ダイエーさんも同じように思っていらっしゃって、「この言葉が聞きたかったんだよね」と喜んでいました。

―「日本初」を実現できた要因はどこにあると思いますか。

 ゴールを「路面店」に据えていたことが大きいと思っています。ダイエーさんとは、2年前に社内の実験店舗をオープンする時から、「目指すところは路面店」というゴール感でお互いに目線合わせができていました。

「路面店を出すためにはどうしたらいいか」を常に念頭に置き、従業員のオペレーションのマニュアル化、従業員アプリのUI改善、決済手段の多様化、商材の多様化、専用アプリ内でのお客様からの問い合わせチャット設置などに取り組んできました。一つ一つは小さなことですが、関係者が一緒になって課題解決を積み重ねてきた結果が「日本初」につながったと思っています。

 一方で、お店に入るにはアプリが必須ですし、アプリの使い方が分からないというお客さんも一定数いらっしゃいます。こうした入店のハードルというのは引き続き解決していかないといけない課題だと考えています。

image: NTTデータ

―新規事業開発の意義どこにあると感じていますか。

 大企業に所属しているからこそ、ある程度は企業の体力もあって大きな挑戦ができると思っています。それを最大限活用して、大きな社会課題だったり、難しいテーマに積極的にチャレンジできるところは非常に面白いポイントだなと思っています。

―そうした中で、協業相手になり得るスタートアップとはどういう存在でしょうか。

 自社だけでは新しい事業のアイデアを創発する時に力不足となることは否めません。スタートアップとの協業というのは、海外での成功事例を取り入れるという点も含めて、非常に意味のあることだと感じています。

 しかし、どんなに優れたアイデアや技術を持ったスタートアップだとしても、海外での成功事例をそのまま持って来て、日本で展開すればうまくいくかというと、絶対にそういうものではないと思っています。

 そうした可能性あふれるスタートアップを日本で活かすためには何が必要かという点において、NTTデータとしての存在意義だったり価値だったりを出して取り組んでいくことが重要だと考えています。



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