企業がDXを推進する上で、あらゆるデバイスからのデータ収集・活用は必須の要件だ。この課題に対し、米シリコンバレーに本拠地を置き、東京にもオフィスを構えるMODE(モード)は、独自のセンサーゲートウェイを介して収集した実世界のデータを蓄積し、ニーズに応じた分析・活用を可能にするクラウド・プラットフォームを開発。「データ活用で世界から『Unknown』をなくす」をモットーに、生産現場や建築現場など多様な業種・企業にIoTソリューションを米国や日本企業などに提供し、躍進を遂げてきた。サンフランシスコオフィスにいる共同創業者でCEOの上田学氏に、同社のビジネスモデルの革新性や今後の展望を聞いた。

データ収集だけでなく、課題解決までサポートして初めてビジネスになる

――シリコンバレーで起業された経緯についてお聞かせください。

 日本で生まれ育ち、大学も最初の就職も日本でしたが、昔からコンピューターが大好きで、インターネットの商用サービスが始まる前からネットに触って面白いと感じていました。卒業後は外資系コンサルティング会社に勤めたのですが、インターネットブームが起こり、シリコンバレーの企業が日本に進出するというので、第1号日本人エンジニアとして転職しました。

 その会社が、Yahoo!に買収されることになり、日本オフィスのスタッフはYahoo! JAPANに吸収されたのですが、私はアメリカのオフィスに移籍することを勧められ、憧れていたシリコンバレーに移住することになったんです。

 そこで働き始めて2年ほど経った時、たまたまGoogleの求人広告を目にしました。当時、Googleは非常に勢いがあり、様々なプロダクトを生み出していてとても魅力的でしたので、応募してみたら採用が決まり、Google Mapsの開発チームに加わることになりました。

上田 学
MODE
Co-Founder & CEO
早稲田大学大学院卒業。渡米し、2003年からGoogle 2人目の日本人エンジニアとして、Google Mapsの開発に携わる。その後、Twitterに移り、公式アカウント認証機能や非常時の支援機能などのチームを立ち上げる。2014年、Yahoo!出身の共同創業者のイーサン・カンとともに、シリコンバレーを拠点に、IoTのためのクラウド・プラットフォームを開発するMODEを設立。2017年に東京オフィス開設。

 その後、チームの規模が拡大したのを機にマネージャーになり、計8年ほどGoogleに在籍しましたが、その間に身につけたスキルが他でも通用するのかどうか、腕試しがしたくなったのです。そこで、当時まだスタートアップだったTwitterに転職したのですが、仕事の内容はGoogle時代とあまり変わり映えせず、物足りなさを感じるようになりました。

 そもそもシリコンバレーのITエンジニアは、個人事業主の集まりのようなもので、独立心が強く、常にステップアップを考えて転職をしていましたし、私がTwitterにいた当時も会社を辞めて起業する人も周りにたくさんいました。それに刺激を受けて、私も起業したいと思うようになったんです。

――最初はどんなビジネスを手掛けたのですか?

 自分自身が旅行好きだったので、旅行の予約サイトを立ち上げたのですが、全然ユーザーがついてくれませんでしたね。そんな時、当時、話題になっていた「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」を入手できたので、息抜きにセンサーを使った庭のスプリンクラーのスマート制御システムを作ってみたら、これがすごく楽しかったんです。自分が書いたプログラムがリアルな世界で動くことに感動を覚えましたよ。しかし同時に、制御システムを作り上げるまでに大変な労力がいることもわかり、そのシステム構築のサービスを自分たちで提供できないかと考えるようになりました。

 最初に目を付けたのが、スマート家電です。スマート家電をクラウドで制御するシステムを売り込んだのですが、スマート家電メーカーは製品を売るのが商売で、クラウドサービスで稼ぐことは考えていない。家電購入者にクラウド使用料を毎月いくら払ってもらえますかとメーカーに尋ねたら、「1台当たりせいぜい年間数十円ぐらい」と(笑)。それではまったく商売にならないので、コンシューマー向けではなく、企業向けのビジネスにシフトすることにしました。

 例えば、設備管理などは、人間の目で点検して、計器の数値を書き写して記録するといった作業が多く、かなりのコストがかかっていますが、そのデータ収集を自動化すれば、年間数百万円のコスト削減ができるため、企業もお金を出す気になるはずです。ある展示会に出展した際に、センサーメーカーさんから、一緒に組んでそういうビジネスをやらないかと打診され、新たなスタートを切ることになりました。

――それによって、利益が一気に拡大したわけですね?

 いえ、これまた全然ダメでした(笑)。というのも、当時センサーデータを自動収集して見える化するという競合会社がすでにたくさんあったんです。ところが、それらの競合はデータを集めるだけで、具体的なメリットを提示できなかったので、クライアントも興味を示さなかった。

 そこで我々は、集めたデータを活用して効率化やコストダウンを実現するというところまでのツールをすべて提供することにしました。そういう形になってから、ようやくビジネスが軌道に乗り始めたんですよ。

IoTソリューションをパッケージ化し、ニーズに応じて手軽にカスタマイズ

――御社の技術やビジネスモデルの強みはどこにあるのでしょう?

 企業がDXを進める際には、SIのエンジニアを雇ってAWSなどのIoTソリューションとデータベースを組み合わせてシステムを構築するというのが、今も主流になっています。しかし、そういったプロジェクトには膨大な開発時間やコストがかかりますし、SIのエンジニアさんの中にはIoTがあまり得意ではない方もいるので、結果的に上手くいかないことも多い。

 その点、我々のパッケージ化されたIoTソリューション「MODE BizStack」は導入も簡単ですし、業態やニーズに合わせてカスタマイズするだけなので、期間やコストも大幅に削減できます。

――「MODE BizStack」の特徴を教えてください。

 MODE BizStackは、IoTプラットフォームの上に業務アプリケーションを乗せたクラウド型のサービスで、企業がデータ活用する上で必要な機能がパッケージ化されています。現場の環境や機器、車両、作業員などの異なるデータを設置されたセンサーからクラウドに吸い上げて、時系列データとして蓄積します。その複数データを地域や工場単位などで階層化し、集計して表示することができます。加えて、データに対して変換式を入れられる機能がついているので、用途に応じたデータ加工ができます。

 例えば、各現場のCO2排出量を知りたい場合、センサーではCO2そのものを計測することはできませんが、この変換機能を使えば、エネルギー消費量などの生データからCO2排出量を算出することができます。そのため、各現場のCO2排出量をすぐに比較することができ、どの現場を改善しなければならないかが一目でわかります。

 また、MODE BizStackは、しきい値(閾値)を設定しておけば、それを超える、あるいは下回る異常値が計測された時に、メールなどでアラートが届く機能も備えています。

 センサーとクラウドを中継するゲートウェイに関しても、当社は独自のノウハウによる「MODEゲートウェイ」を開発しました。これは、100台以上の異なるセンサーやカメラを同時に接続できるもので、長期安定性にも優れています。ゲートウェイのソフトやハードウエアを自社で持っている競合さんは少ないので、そこも当社の強みと言っていいでしょう。

 センサーメーカーさんと組んでビジネスを始めた経緯もあるので、我々は各種センサーの情報も熟知しています。自分たちのことを冗談で「センサーソムリエ」なんて言っていますが(笑)、ご要望に合わせて最適なセンサーをご案内できます。

Image:MODE

――御社のサービスのユースケースをいくつかご紹介いただけますか?

 今フォーカスしている分野としては、工場などの生産ラインに設置されている機器やロボットの遠隔管理がありますし、全国30カ所にある食品メーカーの倉庫の各管理者が、これまで消費電力のデータなどをExcelで送って人力で集計していたものを、自動収集・集計するシステムに変更した例もあります。また、建設業界はかなりDXが進んできていて、ダムやトンネル、鉄道の工事現場などで当社のサービスをご利用いただいています。

 これらの現場はエリアが広いので、各所を歩いて巡視していると大変な時間がかかってしまいます。そこで、カメラやセンサーで遠隔モニタリングするケースも多いです。作業者が現場事務所や重機置き場と行き来する移動距離や時間を計測して、レイアウトに問題がないかなど、非効率な作業環境の洗い出しをする場合もあります。

 他にも、自動車メーカーの新車のテスト走行時のデータ収集などにもご利用いただいていますが、特に生産現場や工事現場での実績が増えて、ノウハウが蓄積されてきていますので、それを活かしてパッケージのテンプレート化を図ることで、導入時のカスタム開発の手間やコストを抑えられるようになっています。

自ら足を運んで現場を確認。感覚ではなく正確なデータに基づいて判断

――サービスの提供に当たって、お客様とはどのようなやり取りをされていますか?

 データを収集することで、何を実現したいのかという点について、入念にすり合わせをして目標を定めるようにしています。よくあるのが、とりあえずいろいろなデータを取り込んで見える化しようと頑張ってシステムを作り、そこで力尽きてしまうというパターンです。データを社業に活かさなければ意味がありません。

 そこで、我々はまずお客様とよく話し合い、KPIをきちんと設定した上で、作業に入ります。そうすれば、どのようなデータを取ればいいのか、絞り込みを行うことができるため、余分な手間やコストもかからず、最短距離でゴールに向かえるわけです。

 我々はできる限りお客様の現場に足を運ぶようにもしています。リアルな世界からデータを取るのは難しく、資料やヒアリングだけでは現場の実態が見えてこないケースもあるからです。例えば、ある現場は冬場に雪が多く、センサーに雪が積もって正しいデータが取れなくなるので、保温材を装着しなければならないとか。

 お客様には「スタートアップの人はオフィスでスマートに仕事をされている方が多いけど、MODEさんはこんな泥臭い現場まで来てくれるので嬉しいです」と言っていただくこともあります。そろそろMODEのロゴマークが入った作業着とヘルメットを作らなきゃって、みんなで話してますよ(笑)。

Image:MODE HP

――最近の業績はいかがですか? また今後どのようなビジネス展開をお考えですか?

 コロナ禍で一時足踏み状態が続いたものの、その後は逆に感染対策目的の遠隔管理の需要が拡大し、収益が回復しています。コロナ禍になってからアメリカの事業はいったんストップさせたので、日本のお客様がメインになっていますが、昨年も今年もかなり好調で、売上は毎年2倍以上伸びています。

 日本のビジネスが軌道に乗ってきましたので、現在アメリカでの展開に力を入れ始めているところです。アメリカ市場のニーズは、日本とほとんど同じですが、アメリカには意外に地方の中小企業がたくさんあるので、当社のようなソリューションがフィットするのではないかと期待しています。ビジネス展開に当たっては、IoT関連の企業と組んで市場開拓を進めたいと考えています。センサーメーカーさんとは以前から連携していますが、最近「MODEセンサーパートナープログラム」というのを立ち上げて、共同で展示会に出展することもあります。

 また、AI技術は持っているが、リアルデータを集める部分が不得手というAIソリューション企業さんもいらっしゃるので、新たに「MODE AIパートナープログラム」もスタートさせました。IoTビジネスには、様々な技術やハードウエアが必要ですが、それぞれの得意分野を組み合わせることでシナジーが発揮されますし、マーケットエントリーもしやすくなるはずです。

Image: MODE HP

――御社のビジョンと、将来の顧客やビジネスパートナーに向けたメッセージを聞かせてください。

 データは、論理的な判断をするためのツールだと思います。社会には、資源問題や気候変動など様々な問題がありますが、感覚的な話に終始していると、現実からどんどん乖離していくことにもなりかねません。我々は、正確なデータに基づいて議論や判断ができる社会の実現に貢献する企業を目指していますし、世界から「Unknown」をなくすためのお役に立ちたいと思っています。

 データ活用に対する悩みやアイデアをお持ちの方もたくさんいらっしゃると思います。我々は、単なるデータ収集ではなく、リアルな問題を解決することにこそ意義があると思っていますし、その仕事に喜びも感じています。現場で何か困りごとがあって、データを上手く使えばそれを解決できるのではないかとお考えの方は、ぜひ当社にご相談いただければと思います。



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