ベトナムで感じた「日本のものづくり」への危機感
2013年創業当初、サイバーエージェントの子会社「サイバーエージェント・クラウドファンディング」の社名でスタートしたマクアケ。サイバーエージェントのベトナムでのベンチャーキャピタル事業を担当していた中山氏が社内ベンチャーとして始めた。きっかけは、ベトナムで感じた「日本のものづくりへの危機感」だった。
「2年半ほど駐在していた時、自分が日々使っているプロダクトがほとんど『日本の物じゃない』ことに気付きました。ベトナムだけでなく東南アジア全体で、店舗の売り場などでも日本のブランドのプレゼンスが低い。そのことに、ピュアに、日本人として『悔しいな』という思いがありました」
メディアで報じられる「Made in Japanが世界を席巻」という描き方と、自身がベトナムで見た現実とのギャップ。世界的な大ヒット商品には、日本の部品が使われているのに、日本のブランドとして作り出せないことに「大きな機会ロス、ポテンシャルを損している気がしてならなかった」と振り返る。
インターネット会社への投資を手掛けるベンチャーキャピタリストとして働く中で、日本はインターネット系の企業が「羽ばたく」土壌は進化していると感じていた。ただ、「インターネット以外の領域で、『新しい何かが羽ばたいていく』ツールもなければ、風潮も弱い。この閉塞感のようなものを取っ払うインフラの仕組みが作れないか」と考え、社内ベンチャーとして事業がスタートした。
「現場の声」で気づいた「無在庫、先行販売」ができる魅力
目を付けたのは、アメリカで成長していた「クラウドファンディング」だった。インターネット上で不特定多数の人々から資金を集める仕組みに、「これが『銀の弾丸』になるのではないか」と最初は思った。だが、サイトのスタートから約1年半後、概念のピボットをすることになった。
「当初は、何か新しいチャレンジをしようと狼煙をあげた人にお金が集まればと思ったんですが、お金が欲しい人と出し手との利害関係が一致しないことに気づきました。例えば、大きく儲かりたいというモチベーションがあるなら、出し手は大きく儲かりそうな事業に投資しますから、そこはクラウドファンディング以外の資金調達手段で十分です。逆に儲かる可能性が低そうなところに、出し手がお金を出したいかというとそうではありません」
日本の金融システムは確立されており、個人のマネーはそこまで必要とされていないという状況。実体経済や人々の消費行動、お金を巡る行動に対して、当初のコンセプトは「一気通貫した一本線」にならないかもしれないという矛盾に気が付いた。
加えて、クラウドファンディングは東日本大震災を機に、いわゆる「募金」や「救済」のような形で国内で広がった。産業界、企業からすると、「自社が新製品を作るのになぜ善意の寄付を集めるのかという違和感が強くありました。数百社を営業で回りましたが、違和感が拭えない、というのが産業界からの指摘でした」
なかなか事業が軌道に乗らない中、転機となったのは「現場の声」だった。Makuakeを利用したものづくり企業から「無在庫で先行販売ができて、お客さんに買ってもらってから作り始められる。それがマクアケさんの魅力だよ」という評価をもらった。Makuakeにテストマーケティングやファン獲得の機能があることに気が付いた。
「答えはやはり現場にありました。私たちの価値というのは、在庫リスクを負う前に先行販売ができて、お金ではなく、顧客を獲得してから事業者が作り始められるというステップだと気づいたときに、世の中の人が抱いているクラウドファンディングというイメージと、一線を画するものになると感じました」
マクアケはビジョンとして「資金を集められる仕組み作り」を掲げているのではなく、「何か新しいものが羽ばたきやすくする仕組み」を作ることだという原点に立ち返り、早い段階で概念のピボットができたと中山氏は振り返る。「買う」ことでファンになる、応援を伝える商行為を「応援購入サービス」と位置付けた。「誰かが作ったトレンドワードやラベリングを気にすることなく、自分たちの会社として提供できるサービスにフォーカスするよう考え方をシフトしてから、すごく伸びました」
Image: マクアケ HP
「新製品のデビューの場」 SONYが使い、大企業にも広がる
概念のピボットをして、しばらくしてからSONYが新商品デビューの場にMakuakeを使ったことで、大企業の利用が一気に広がった。「マーケットが『なぜ大企業が使うんだ』『何かが違うぞ』と受け止め、メディアの取材が増えました。『資金調達が軸足ではない』『在庫のない段階で販売ができ、テストマーケティングになる。だからSONYさんも使ってくれた』という話が広がり、認知されたことで、『なるほど』というふうに浸透していきました」
事業規模に関係なく、企業が在庫を抱える前に「新商品を最初にデビューできる場」として応援購入サービスを利用する。「事業者が商流で困っていたところをずどーんと、解決していく実感がありました」と中山氏は語る。
在庫リスクの「谷」があって新しいものを生み出せなかったり、認知度を上げていく方法が見つからなかったりという課題を解決できるソリューションだという認識が広がり、「新商品をデビューさせる=Makuake」というイメージが浸透していった。
2014年に創業し、クラウド型映像プラットフォームを開発・運営するセーフィーも最初の製品を2015年、Makuakeでデビューさせた。「期待しています」「3台買います。頑張ってください」などの応援メッセージが寄せられる中、プロジェクトは成功。同社は2021年にIPOした。中山氏は「Makuakeを使ってくれた会社と一緒に成長している感じがすごく嬉しい。業種や事業規模などは違えど、『マクアケさんには負けてられませんよ』とお互いに刺激し合えている関係性はすごく幸せです」と語る。
また、地方金融機関との連携が事業の拡大を後押しした。現在、マクアケと提携する日本各地の銀行や信用金庫は100社を超える。「例えば地銀さんは、売れるかどうかわからない商品企画を企業から持ち込まれても、与信枠をアップできるか判断が難しい。そこで、企業がMakuakeを活用して無在庫で先行販売することで、マーケットの反応を見ることができます」
2019年12月には東証マザーズにIPOした。その直後の2020年2月以降、国内で新型コロナウイルスが流行したが、ステイホームやリモートワークなど人々のライフスタイルの変化は事業の大きな追い風となった。
「ライフスタイルが変わるということは、必要になる、欲しいと思われる商品が変わってくるというタイミングであり、チャンスです。さまざまな商品開発ニーズが物凄く高まりました。その中で、これまで新商品や新サービスのお披露目の場だったリアルの展示会や百貨店、量販店ではソーシャルディスタンスなどの制限がある中、オンラインでデビューできるMakuakeという選択肢により多くの方々に気づいてもらえました」
コロナ以降、応援購入総額(流通総額)はコロナ前の約4倍に伸びた。ただ、2022年9月期第2四半期決算では、コロナ禍での急成長の反動減で応援購入総額は前年同期を下回ったが、ユーザー体験の向上やプロジェクトの掲載規模に対応するため、人材の育成を強化していく予定という。
大企業のR&D支援、自治体連携、韓国展開「生態系」を広げる
業界の競合について、中山氏は「ECモールも新商品デビューの場になっており予約販売機能など、当社の領域とかぶる部分があります。もう1つは、やはりクラウドファンディングの企業もかぶる部分はあります」と説明する。
その上で同社の優位性は、リーディングカンパニーとしての模倣難易度と、審査やキュレーターの人材だという。現在、社員数(2022年3月末現在)は約180人。その3割以上を占めるのが、キュレーターだ。プロジェクトの実行者(事業者)には全てキュレーターが付き、現状や課題のヒアリングからプロジェクトの全体設計・プロモーション、クリエイティブに関するアドバイス、プロジェクトページのレイアウトやコピーライティングに至るまでサポートする。大阪、名古屋、広島、福岡、韓国ソウルにも拠点を置き、物理的にも近いところから実行者を支えている。
また、応援購入サービスのサイトだけでなく、エコシステムを広げる取り組みにも力を入れている。熊本市や徳島市など自治体と連携し、地方の産業振興や中小企業の販路拡大支援も始めた。「地銀などの『民』、行政の『官』とマクアケの三位一体となった地域サポートにもっと取り組みたい」と中山氏は語る。地方の企業からの「販路展開をサポートしてもらえたらよりチャレンジがしやすい」というニーズを受け、国内のバイヤーがMakuakeで見つけた新商品の仕入れができる「応援仕入れ」サービスも生まれた。
さらに、Makuake Incubation Studio(MIS)として、大企業の研究開発(R&D)やアイデアを実用化に結び付けるコンサルティング的な事業も行っている。これまでのプロジェクトで蓄積したデータを活用した商品企画の提案で、大手メーカーなどをサポートしている。Makuakeで注目を集めた製品のデータを分析し、その結果をプロジェクトの最大化に活用できるようなプラットフォーム事業も加速させていく。
ソウルに拠点を置いている理由は「日本の消費者が触れることができる世界中の『新しいもの』はすごく限られてます。その理由には、海外のメーカーにとって日本展開はリスクが高かったり、カスタマイズしづらかったり、売れ残るリスクを懸念したり、といった課題があります。優れた新商品を作っている海外メーカーが新商品を日本に初進出させるときの『架け橋』になっていこうと拠点を設けました」という。
何が売れるのか、どうやったらうまく商品化できるのか。大企業にとって消費者の求めるものが見えづらくなってきた時代。中山氏は「私たちは
『生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る世界の実現』を目指しています」と語る。「今までは企業側が『これが売れる』『これを売りたい』『あれは売れない』というジャッジをしてきましたが、多様な時代において、これでは新しいものが生まれていくのは難しいと思います」
応援購入というサービスの展開で見えた世界観。「『買う』という行為で1票を投じる人たちのアクションによって、『生まれるべきもの、広がるべきもの、残るべきもの』は決まっていった方がいいのではないかと考えています。そうすれば国境もなく、より民主主義的にジャッジされ、多様な人々が満足する多様な物やサービスが生まれていくと思いますし、それを実現していきたいと考えています」