後払いを意味するBNPL(Buy Now, Pay Later)決済サービスにおける日本のパイオニア企業、ネットプロテクションズホールディングス(本社:東京)。2002年3月に、未回収リスク保証型の決済サービス「NP後払い」の提供をスタート。2011年からはBtoB向け決済「NP掛け払い」を開始。2018年には台湾に進出し、BtoC台湾向け決済「AFTEE(アフティー)」のサービスを始めた。総合商社の日商岩井(現・双日)やIT系投資会社を経て、同社の代表取締役社長となった柴田紳氏に、成長の軌跡や今後の展望などを聞いた。

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買収・出向をへて、ゼロから事業を構築

――柴田様がBNPL決済サービスを手がけるようになるまでの経緯をお聞かせください。

 私は大学卒業後の1998年から、3年ほど日商岩井で働いていました。ですが、そこでの仕事を物足りなく感じるようになり、自分で事業を興したい、大きなことを成し遂げたいと考えるようになりました。そこで2001年に、IT系投資会社のITX株式会社に転職しました。

 転職してすぐ、ネットプロテクションズの買収案件が挙がりました。ITXはEC市場が今後拡大すると読んでいましたし、EC向けの後払い決済サービスを行おうとしていたネットプロテクションズは今後伸びるだろうと予測したわけです。2001年11月に買収を決め、その買収案件に関わっていた私は、出向というかたちで当社に入社することになりました。

 しかし入ってみると、後払い決済サービスのビジネスとしての枠組みはまだ全然できていないことがわかりました。アイデアがあるだけで、どういうデータを用いてどう与信していくのかなど、実際的なところは一切決まっていない状態でした。そこですぐに私が社長となり、ゼロから事業化までの諸々を作り上げていったのです。

柴田紳
ネットプロテクションズホールディングス
代表取締役社長
1998年に一橋大学卒業後、日商岩井株式会社(現・双日株式会社)に入社。2001年にIT系投資会社であるITX株式会社に転職し、株式会社ネットプロテクションズの買収に従事し、その直後に出向。日本初のリスク保証型後払い決済「NP後払い」を始める。2017年、アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー特別賞を受賞。日本後払い決済サービス協会会長。

――柴田様が事実上の創業者ということですね。どのように事業を展開されてきたのでしょうか。また、その時のご苦労も教えてください。

 買収から4カ月後の2002年3月に、BtoC通販向け決済「NP後払い」のサービスを開始しました。しかし当時は、参考にできるような先行のBNPLビジネスは海外にもありませんでしたし、当社も数年間は赤字続きで苦労しました。

 特に苦しかったのは、まとまった資金の調達ができなかったことです。2008年ころからようやく黒字化し、そこから次の年に小さな投資をしてまた少し利益を増やして、という繰り返しでした。グロースのスピードを上げづらかったのは辛かったです。

 また、当社は親会社が3回変わっているのですが、変わるたびに親会社の方針や好みが影響してしまうので、これに対応するのも難しかったなと思います。マイクロマネジメントを受けたりと、思うように事業を進められない時期もありました。

 創業当初は後払い決済サービスはほとんど未知の事業でしたし、私自身もまだ27、28歳で、こうした厳しい環境の中、事業を進めていくのは精神的にもかなり辛かったですね。

――それでも続けることができたのは、後払いサービス事業は必ず伸びるという確信があったからですか。

 3つのフェーズがあったと思っています。最初の2〜3年は「自分がやりたい」と思うことに向かって仕事をどんどん進め、自分が成長していると強く実感することができたので続けてこられたと思います。その後は、親会社や自分が採用した社員などへの責任感から、しんどいながらもなんとか踏ん張ってきました。

 そして2008年に黒字化したころには、マーケットが凄まじい広がりを見せていましたし、「会社や事業が絶対に伸びる」と確信することができ始めていました。ここからはまさにビジョンを拠り所にして、前に進んできたと思います。実際、売上は2008年以降、ほぼ毎年20〜30%の割合で伸び続けています。

Image:ネットプロテクションズホールディングス

1,600万ユーザーのうち4分の3はカタログ通販の後払いに馴染んでいた層

――後払いを利用される、BtoCのお客様はどのような方々なのでしょうか。

 当社のサービスからすると、ECの売り手も買い手も「お客様」ということになります。まず買い手のお話からすると、1年間のユニークユーザーが1,600万人おり、そのうち4分の3が女性です。1番多い年代層は40代です。これには理由があります。

 2000年以前はカタログ通販が全盛期でした。カタログ通販では約6割が自社の後払いサービスを使っていました。届いた商品の箱の中に請求書が入っていて、お客様がそれを持って料金を支払うという方法です。いま40代ぐらいの女性のお客様は、元々その時代の後払いに馴染んでいたので、ECでもやはり後払いを好んで使って下さっているのだと思います。

 加えて、EC物販は2000年から2005年ぐらいまでは前払いがメインでしたが、銀行振り込みをしたのに商品が届かないという詐欺が多く発生して社会問題化したこともありました。そのことが、より多くの方に後払いサービスを利用していただくきっかけになったと思います。

 また、女性はクレジットカードでの支払いを好まない方も一定数います。ですから、後払いがないお店では商品を購入しない、というケースも少なくありません。売り手側としては機会損失になりますから、できるだけ後払いの仕組みを取り入れたい。けれども、自社でやるとなると、今度は料金を回収できないというリスクを負わなければなりません。そこで当社の「データさえいただければ請求からリスクを補償するところまで全部やります」というサービスの価値が、売り手側のお客様にも認められたというわけです。

BtoBの領域でもニーズは急増している

――BtoC通販向けのほかに、どのようなサービスを提供されているのでしょうか。

 2011年からはBtoB事業にも乗り出し、BtoB向け決済「NP掛け払い」サービスを提供しています。取引量でいうと、BtoCが8割でBtoBが2割といったところです。

 BtoBでの主な使われ方は3パターン程度あります。例えば、ネットを介した名刺やチラシなどの印刷での掛け払いです。印刷物の買い手は届いた商品の出来栄えを確認してから支払いたい。売り手としては、取引先には大企業から中小、個人事業主までいて、「掛け払い」にしたいけれど不安がある。そこで当社がその間に入り、買い手への与信から請求書発行、代金回収までの決済・請求業務全てを請け負い、未回収リスクを保証します。

 2つ目が、いま増えているSaaSの提供会社です。例えば、勢いのあるベンチャー企業は売り上げが伸びてくると、数千円、数万円の少額請求を何百社、何千社に対してしなくてはなりません。また、請求した後の入金確認、入金がなければ督促をするなど相当な手間がかかりますし、未払いに終わる可能性もあります。こうしたことから、当社に発注いただくパターンも増えていますね。

 3つ目は、卸売業の会社です。例えば飲食店に食材やお酒を卸販売している場合、これまでは物を届けた時に集金をするのが一般的でした。ですが、集金業務はかなり面倒です。「お金がないからまた今度」と言われたり、全然払ってもらえなかったり。これを当社が代行するパターンも非常に伸びてきていますね。

 また最近はよく、自社でQR決済サービスを提供しようとされるお客様から相談をいただきます。QR決済の仕組みを作っても、お客様にどうやってお金をチャージしていただくかが課題になることが多いのですが、当社の決済システムを裏にエンベデッドすれば、チャージが容易にできるようになります。お客様は少ない投資でQR決済を導入することができるわけです。

Image:ネットプロテクションズホールディングス

マーケティングに10億円を投下 さらなる発展をめざす

――海外展開についてもお聞かせください。

 2018年から台湾でもBtoC後払い決済サービス「AFTEE(アフティー)」を展開しています。導入いただける店舗も順調に増えましたし、ネットワークを持っている企業とのアライアンスもいくつか実現させることができました。

 台湾進出は「海外市場に展開したい」という強い志を持った3人の社員が中心となって、彼らが実現させたんです。私は「やってみれば」と背中を押して、彼らを台湾に送り出しました。

 やる気があって、自分で考え、行動できる人間には、上からの押さえつけでは十分に能力を発揮することができません。そのため当社ではマネージャー制度も廃止し、完全にフラットな組織運営をしています。大事なのはティーチングではなく、コーチングです。そのおかげで、こうしたやる気と実力のある人材が育ってきてくれているなと実感しています。

 いま当社は、台湾での成功事例を参考にしながらベトナムでの事業展開を着々と進めています。ベトナムはまだまだクレジットカードの普及率や銀行口座の開設率が低いので、BNPLサービスが勃興しているんですね。

 2022年4月には、ベトナムに子会社「Công ty TNHH Net Protections Vietnam(Net Protections Vietnam Co., Ltd.)」を設立し、事業運営に必要なライセンスの申請などを行っているところです。当社の日本法人には2015年からベトナム人の社員が多数在籍しており、現地法人設立の際に大きな力となってくれました。今後の事業創造においても、非常に有益な役割を担ってくれると期待しています。

――今後はどのようなパートナーシップを求めていきますか。また、将来展望も聞かせてください。

 日本はもちろん、海外でも広いネットワークを持っている企業とアライアンスを組んで、当社のサービスをより多くのお客様に紹介していただけるとありがたいと思っています。こちらも手数料を還元しますのでwin-winになりやすいと思います。

 当社は、2017年からBtoC向け会員制決済「atone(アトネ)」サービスも提供しており、こちらの会員は500万人に上ります。これらのデータと、アライアンスによって、さらにたくさんの取引情報を集められれば、新たな金融サービスにも参入しやすくなると考えています。

Image:ネットプロテクションズホールディングス

 2021年12月に、東京証券取引所第1部への新規上場を果たしたことで信用力も知名度も増しました。大手企業とのアライアンスも複数成立しており、今期はマーケティングに10億円投下する予定です。現在、正社員は約250名の規模ですが、新卒は毎年25〜30人採用していて中途採用も年間20〜30人はいます。営業人員も強化しているところです。

 最近ではECだけでなくオフラインでの請求も始めていますし、オンライン講座やライブイベントなどのサービスを受けた後に客が価格を決めて振り込むポストプライシングサービス「あと値決め」など、新しいサービスや市場をどんどん開拓しています。

 これまでも、当社は一つの型にはまったものを一生懸命拡大してきたというよりは、柔軟に形を変えながら成長してきました。ですので、後払い決済システムにこだわりすぎず、もっと広く「売り手と買い手のよりスムーズな取引を実現する」ことを軸に、サービスの形を変えながらカバーできる領域を広げていきたいと思っています。

 ネットワークが広がれば広がるほど次の事業も大きく作っていけます。また、社内に次のリーダーがどんどん育ってきているので、こうした「人財」がプラットフォームを生かして、また次の事業を内部から生み出していける、そんな会社にしていきたいと思っています。

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