Lightspeedはアーリーステージに注力する有名ベンチャーキャピタル(VC)として、Snapchat、Oyo Rooms、Epsagonなど、ユニコーンを多く育ててきた。現在の米国における投資件数は約250社、運用金額は40億ドルを超え、現在は中国やインドでも存在感を増している。今回はFounder and PartnerのBarry Eggers氏に話を聞いた。

(Epsagonは、2021年にCisco Systemsが買収。2023年6月追記)

「ベイエリア」は、かつては果樹園が広がる土地だった

―まず日本の読者のために、Lightspeedについて教えてください。

 Lightspeedは全てのラウンドで投資を行っていますが、初期段階からの投資に特に注力しているVCです。初期段階というのは、より早い段階であることが好ましく、スタートアップに最初に投資をしたVCになることが重要だと考えています。初期段階での投資はリターンも大きくリスクも高くなります。

 また、市場やスタートアップのステージを限定しているVCが最近増えていますが、どの段階で価値が生まれるかを見極めるのは非常に難しいので、初期だけでなく全てのラウンドを通じて投資を“フルスタック”に続けるサステイナブルな投資が、市場の変化にも対応でき、長期的な成功につながる最善な方法だと考えています。

 最近は多くのスタートアップが未上場のままで留まる傾向があるので、レイトステージにおいて資本を投入する機会が増えました。そのため、シードなどアーリーステージを対象としたファンドだけでなく、成長ファンド(安定成長企業の普通株に投資するファンド)も提供しています。

―スタートアップエコシステムにおいて、VCが担う役割は何でしょうか。

 まず、VCとして投資家、リミテッドパートナー(LP)から投資資金を預かります。そして、優れたアイデアを持つ冴えた起業家を発掘し、初期段階から投資と創業サポートを提供し、会社設立に関わります。レバレッジをかけるだけでなく、会社を作り雇用を生み出すことが重要な役割です。そして、当社に投資している投資家の皆さんや投資先の皆さんのために利益を生み出すことも役割の一つです。

 私はここ「ベイエリア」で生まれ育った生粋のカリフォルニア人です。この地域は、私が子どもだった頃は果樹園が広がる農業地区でした。徐々にハイテク企業のオフィスビルに変わっていき、景色は変わりましたが、私にとってはシリコンバレーより「ベイエリア」のイメージが強く、いまだにそう呼んでいます。自分の生まれ育ったこの「ベイエリア」に、アントレプレナーシップを通じて雇用を生み出し、その繁栄に一躍を担っていることを誇りに思っています。

Barry Eggers
Lightspeed Venture Partners
Founder & Partner
1985年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)経営経済学学士取得。1991年スタンフォード大学経営大学院卒業。1991年にCisco Systems入社しDirector Business Developmentを務める。1997年にLightspeed Venture Partnersを創業。カリフォルニア ベイエリア出身。

レバレッジに集中すること。オーバーヘッドは不要

―御社の役割の一つであるレバレッジについてもう少し詳しくお話いただけますか。

 創業をサポートするVCは多くあります。ただ、その“サポート”がレバレッジ(利益)となるか、オーバーヘッド(負担)となるか、その境界線は微妙です。

 サポートを提供する際に、「これは彼らがすでに取り組んでいることを助けるか、または彼らにとっては優先順位の低い仕事を新たにつくることになるのか」を考えることが重要です。具体的に言えば、彼らがチームメンバーを雇用する際にどのようにサポートするのか。より早く顧客基盤やパートナー基盤を構築し、それを育てるにはどうすればいいか、という類のサポートはレバレッジです。どこにも終着しない打ち合わせを設定するような“サポート“はオーバーヘッドです。

 当社は、顧客基盤やパートナー基盤の創出につながるマッチングプログラム、CIOイノベーションフォーラムを12年前から開催しています。このプログラムには、500人以上のCIO、CTOや、主要産業において技術を先導するITエクゼクティブが参加しており、当社が投資しているスタートアップは、フォーラムの参加者に対して20分程度のピッチを行う機会を得ます。これはスタートアップにとってレバレッジが高いイベントです。

 最近はスタートアップに多くの“サポート”が集まります。その中にはレバレッジとなるものもあれば、オーバーヘッドでしかないものもあります。私は、スタートアップが既に取り組んでいることに焦点をあて、スタートアップが気をそらされることなくレバレッジに集中できるようにする必要があると考えています。

IQよりEQ。「頭のよさ」より「感情知能」「感じる知性」を重視

―投資先を選ぶ際、起業家の「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」を重要視していると聞きました。EQが高いとどういった面で有効なのでしょうか。

 シリコンバレーにはIQが優れた人間は十分います。それに対し、EQ、つまり他者とのつながりや様々な状況に身を置く過程で培う本能的な知性に優れた人材は不足しています。優れた投資家や起業家の多くはIQとEQの両方の面で優れているものです。

 当社は、投資先のCEOや経営陣と協力して、幹部メンバーになりえる人材の発掘から採用まで関わります。その際重視しているのは、その人の性格や仕事に取り組む姿勢、つまりEQです。メンバー同士がどう化学反応を起こすか、そして機能するか。お互いを向上させるようなチームになるか、性格の不一致による問題を起こすか。そういうことにEQが関係しています。

 企業経営には人材が欠かせません。これは今も昔もずっとそうです。素晴らしい学歴や経歴を持った人材を雇用したいのではなく、素晴らしいチームメンバーになる人材を雇用したいのです。スポーツと同じように、最も優れたチームが勝ちます。個々に素晴らしい才能を持ったプレイヤーを集めても勝てるチームになるわけではありません。

 これは、海外で事業展開する際も同じです。ヨーロッパでもアジアでも、それぞれの国の市場には独自の文化があり、それぞれのやり方があるので、現地のやり方に精通した「人」を通じた事業展開が求められます。チームとよい関係を築くことができる「人」と組むこと。これがキーポイントになります。

挑戦していると時には失敗もする。失敗したらそこから学べばいい

―日本とは違い、シリコンバレーでは失敗していない人は、何も挑戦していない人と見なされますし、失敗しても恥をかくという感覚ではありません。ご自身の失敗経験があればお話ししてもらえますか。

 シリコンバレーでは失敗を広い心で受け入れられます。失敗は学びの過程です。成功した時は学びがない場合がありますが、失敗したと感じる時は、何に失敗したかを発見できますし、そこからより多くを学べます。

 私も失敗はあります。それはビジネス的な判断を間違うという意味での失敗です。例えば、幹部チームのメンバー構成を間違えることもあります。他には、投資していた会社が順調に売上を伸ばしていたのに、クラウドに移行するタイミングを見誤り、他社に出し抜かれたこともあります。関わっている会社の内、一つの会社で判断を間違ったら、他の会社では同じ失敗を繰り返さないようにします。

 失敗を次に活かし改善につなげる。そして一度失敗したら、同じことを繰り返さなければいいのです。

―最後に、若いころの自分にアドバイスするとしたら、何を伝えますか。

 たとえばキャリアをスタートさせたばかりの頃の自分へのアドバイスは、「live life, live everyday, and build out balance in your life」です。若い頃は自分のキャリアにばかり目が行き、成功を収めることに集中してしまいがちですが、バランスを保ち、家族との時間を大切にすること。そして、友人との関係も大切にすることです。“エコシスエム”を大切に育てることは、その後の人生においても重要な意味を持ちます。



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