1980年に設立され、シリコンバレーの老舗VCとして、Twitter、Netflix、Slack、Snap、Uber、Github、Dropboxなど数々の著名スタートアップに投資してきたIVP。これまでに400社に投資し、116社が上場を果たしており、IRR(内部収益率)は43%と高い水準を誇っている。今回はIVPのGeneral Partnerであり、1980年代からシリコンバレーの内側からハイテク産業を見つめてきたソメッシュ・ダッシュ氏に、IVPの歴史と現在の取り組みなどについて聞いた。

※2021/10/13 編集部からお知らせ

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<目次>
老舗VCの投資基準と投資領域
投資を見送った痛恨の案件は?
コロナ禍での注目領域は「エドテック」と「コンテンツ」
日本のスタートアップへの投資もありえる
VCは、起業家の“旅”や“成功”の一部になれる

老舗VCの投資基準と投資領域

―IVPはシリコンバレーで長く投資を続けてきたVCの一つです。まず、これまでのIVPの歴史を紹介してもらえますか。

 IVPは、昨年40周年を迎えました。1980年に2200万ドルを集めて最初のファンドIVPを設立したのが始まりです。当時のVCとしては最大の資金額でした。

IVP
General Partner
Somesh Dash
2001年にUC Berkleyにて経営学の学士号を取得後、Sony Entertainment Television入社。2002年より、Luxmi CapitalにてAssociateを務め、2003年からはCSFB Technology GroupにてAnalystを務めた。2005年にIVP入社。同社に勤務しながら、2010年にスタンフォード大学にてMBAを取得。
 創業者のリード・デニスは、ベンチャービジネスの先駆者です。当時のVCたちは、毎週金曜日にサンフランシスコでランチを共にし、その場に起業家を呼んでピッチを行い、1万ドルや1万5千ドルを一斉に出資したという話が記録されています。これが、ベンチャービジネスの始まりで、リード・デニスはその一翼を担っていたのです。

 リード・デニスは、1974年にアメリカン・エキスプレスなどが出資した最初のファンドIVAを立ち上げています。同時期にKleiner Perkinsや、他にも複数のファンドが立ち上がりました。彼ら先駆者の貢献が、NVCA(全米ベンチャーキャピタル協会)の設立や、機関投資家によるLP出資へとつながっていったのです。

IVP創業者のリード・デニス氏(Photo: IVPホームページ)Image: IVP HP

 IVPは過去40年の間、レイターステージに限らず、マルチステージに投資することを重視しています。さまざまなステージで価値を生み出せる最高の企業を探しています。

 ステージによって重視する点は異なりますが、どのステージにも当てはまるのは、市場とチームを評価することです。

 Y Combinator出身のシードのスタートアップであれば、プロダクトもなければ確立したビジネスモデルもないでしょうから、チームと市場のみを評価します。シリーズBを検討している企業であれば、プロダクトマーケットフィットを判断基準として取り入れます。IPOの前段階にある企業は、実行力を重視します。すでに製品があり、市場での反応を示すデータが多くあるからです。

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―IVPが注力している投資領域はありますか。

 大きく分けて2つの分野で投資を行っています。1つは、エンタープライズソフトウェアで、これは非常に幅広い分野です。アプリケーション、インフラ、AIや機械学習などのコア技術など、あらゆるものが含まれます。

 もう1つはコンシューマーソフトウェア分野で、SNSからマーケットプレイス、デジタルメディアまで、かなり幅広く投資を行っています。ここ5年では、ヘルスケアにも力を入れています。D2CブランドのHimsや、メンタルヘルスケアのLyra Health、マインドフルネスのWhisper.aiなどにも出資しています。

IVPの投資実績 Image: IVP HP

これまでの投資実績とIRR Image: IVP HP

 私たちは日和見主義なので、常に新しい技術とその応用先を探しています。しかし、例えば一時期ブームとなったクリーンテック分野への投資は行いませんでした。今となっては良い決断だったと思います。多くのVCがクリーンテック企業に投資しすぎており、想定していたリターンは得られませんでした。

 AR/VR分野の企業も、かなり積極的に評価を行いましたが、まだ投資に至った企業はありません。この分野はまだ資本効率が良いとは言えないからです。ある程度の規模に育ったら、出資したいと思っている企業は何社かあります。

投資を見送った痛恨の案件は?

―IVPはこれまでにTwitter、Netflix、Slack、Snap、Uber、Github、Dropboxなど数々の著名スタートアップに投資してきました。一方で、投資を見送って後悔した事例があれば教えてもらえますか。

 この15年で、私がよく後悔しているのは2社で、ひとつはFacebookです。FacebookのシリーズCのラウンドで投資の機会がありました。当時は、評価額の高さ、ユーザーの広がり方、過去のSNSの失敗などが気になり、愚かにも投資を見送ってしまいました。その後も、投資できる機会が何度かありましたが、その度にチャンスを見送りました。もちろん投資を見送ったのは大きな間違いでした。ここから学んだ教訓としては、マーケットフィットしたプロダクトを持った企業の成長を過小評価してはいけないということです。

 もう1つはZoomです。ZoomのCEOであるエリック・ユアンと話し、彼が構築した技術に感銘を受けましたし、彼がCiscoや既存企業に勝てると信じていました。しかし、私たちはZoomの評価額が高いと考え、製品のインパクトを過小評価していました。パンデミック前からZoomに投資しなかったのは失敗だと思っていましたが、パンデミック後の今は時価総額が12億ドルを超えています。Zoomを見送ったことは、今後何十年も私を悩ませると思います

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―最近の投資事例を教えてもらえますか。

 2社紹介しましょう。一つは、パンデミックの直前に投資した、Lyra Healthというメンタルヘルスケアのスタートアップです。創業者のデイビット・エバースマンは、FacebookでCFOを務めていた人物で、Facebookの前は、バイオベンチャーのGenentechでCFOを務めていました。彼はネット企業と製薬企業で経営幹部を務めた経験がある上に、メンタルヘルスケアの問題を解決したいという強い情熱を持っていました。私は正しい動機、強い使命感を持って事業に取り組む起業家に共感して、投資を決めたのです。

 2020年2月にLyra Healthに投資し、信じられないことに、その直後の3月にパンデミックとなりました。その結果、遠隔医療へのシフト、人々のメンタルヘルスの意識が高まりが起き、Lyra Healthにとっては追い風となりました。パンデミックの厳しい時期への対応だけでなく、すべてにおいてLyra Healthは想像を遥かに超えた企業でした。

Image: Lyra Health HP

 もう一つ、数年前から投資しているDiscordも、今回のパンデミックにおいて素晴らしい動きを見せました。もともとゲーマーのためのコミュニケーションアプリでしたが、パンデミックの最中に、一般ユーザーも使えるコミュニケーションツールへと進化させました。オンラインコミュニケーションが増える中、ライブチャット機能などを備え、新しいコミュニケーションツールとして多くのユーザーに利用されています。

 ほとんどの優れた企業は、ビジネスモデルとプロダクトの両方を、最初の数年間にピボットしています。私たちが投資したSlackやDiscordも、ピボットして成功した例の一つです。逆に、運良く早期にマーケットフィットした製品を手に入れた場合、進化し続けるのを止めてしまうこともあります。ですから、すべてのスタートアップへのアドバイスは、市場規模や成長、プロダクトマーケットフィット、ビジネスモデルについて、常に疑問視することです。それが重要なことだと思います。

コロナ禍での注目領域は「エドテック」と「コンテンツ」

―パンデミックにおいて、実際に会うことなく、オンラインコミュニケーションだけで投資を決めた案件はありますか?

 はい。英国のHopinなどへ直接会うことなく投資しています。多くのスタートアップは、実際に会うことなく投資することに抵抗を感じていないと思います。

 ただ、パートナーシップは今後何十年も続く可能性があり、信頼関係の上に成り立つべきものです。双方にとって、時間をかけて関係を築くことも重要です。起業家は、自分の会社の役員になる可能性がある投資家をよく知るために時間をかけるべきですし、投資家は起業家たちのモチベーションを理解するために時間をかけるべきでしょう。

 私たちVCは、事業を一緒に育てるパートナーです。公開株を買う個人投資家とは違います。だからこそ、投資を決めるためには、その企業の経営陣全員をよく知る必要があり、ここに時間をかけています。パンデミックにより、これまで移動に費やしていた時間がなくなったので、起業家と話す時間が増えましたし、以前よりも多くの起業家と話しています。

―コロナ禍で社会、生活環境が大きく変化しています。ダッシュさんがエンタープライス、ヘルスケアなど以外に、注目している領域はありませんか。

 特に注目しているのはエドテック分野です。私には子どもが2人いますので、パンデミックがどのようにオンライン教育に変化をもたらしたかを見てきました。私の5歳の息子は昨年から幼稚園に通っていますが、完全にバーチャルで行われています。息子は私たちの時代とは全く違う方法で教育を受けています。私個人としても、VCとしても、今後数年間のうちにエドテックに積極的に取り組んでいくでしょう。

Photo: Travelpixs / Shutterstock

 他には、コンテンツのサブスクリプションも注目しています。パンデミック後は、コミュニティビジネスを使った新しい方法で、文化や宗教などが伝承されるようになるかもしれません。デジタル、モバイルな時代では、宗教や文化を中心としたコンテンツなどが、今以上にチャンスがあると思います。まだ誰もビジネスモデルを確立していないこの領域にチャンスがあると思っています。

日本のスタートアップへの投資もありえる

―日本企業への投資を行っていますか?あるいは御社のLPになっている日本企業はいますか?

 過去にも、そして現在も日本企業はIVPのLPになっています。当社のスタートアップの多くが日本市場を進出先の候補として見ています。私たちはBenchmark Capitalと共同でTwitterのシリーズBラウンドを行いました。Twitterは日本でかなり大規模に事業を展開し、LPだった日本企業とのつながりが重要な役割を果たしました。また、Snapも当社が長年関わっている企業ですが、日本市場をターゲットにしています。

Photo: Sattalat Phukkum / Shutterstock

 私たちは主に米国とヨーロッパにフォーカスしていますが、世界中どこでも投資したいと考えています。日本のスタートアップも何社か見てきましたが、特に米国市場への参入を考えているスタートアップに興味があります。日本のスタートアップは、最初は日本市場を開拓し、売上が50億円から100億円になった頃に「米国市場を目指したい」というケースが多いようですね。ここ5年間で、IVPも日本のスタートアップに大型投資を行う可能性もあると思いますよ。

―日本のスタートアップもグローバルに展開し始めていますが、米国市場への参入は簡単ではありません。

 どの国の企業でも米国進出は非常に難しいですね。まずはシリコンバレーのエコシステムにいる人たちを採用し、現地でジョイントベンチャーやパートナーシップの構築をするのが重要だと思います。シリコンバレーでは、起業家や投資家が文化ややり方を伝えていく“口頭伝承”の伝統が残っています。投資家やアドバイザーの非公式なネットワークもありますので、日本のスタートアップもそうしたネットワークを活用できるようになるといいと思います。

VCは、起業家の“旅”や“成功”の一部になれる

―ダッシュさんがベンチャーキャピタリストになった経緯、この仕事の醍醐味は何でしょうか。

 私はシリコンバレーで育ちました。両親はインドからの移民で、シリコンバレーのハイテク産業で働いていました。当時、シリコンバレーはまだ“シリコンの生産地”で、Intel、AMD、National Semiconductorが最大の雇用主でした。そして、IBMやその他のソフトウェア企業が成長を始めていた時代でもあります。今振り返ってみると、こうした時代にシリコンバレーで暮らしていたことは非常に幸運でしたね。

 私が子供の頃に、大人たちがこんな会話をしていたのを覚えています。「クパチーノ市にあるAppleという小さな会社で働いているんだけど、創業者がとても面白い人物なんだ。マッキントッシュという製品がもうすぐ発売されるんだよ」と。

 家族ぐるみで交流がある友人の多くは、私の両親と同じように母国に全てを残し渡米してきた、インド人の移民でした。彼らは電気工学やコンピューターサイエンスの博士号を持ち、1980年代はIntelで設計者として働いていました。そして彼らの多くが1980年代から1990年代にかけてスタートアップの世界に進んでいったんです。そんな彼らの生き方に、私は刺激を受け、起業とテクノロジーに興味を持っていました。

 1980年代、90年代がどういった時代だったかというと、スティーブ・ジョブズが多くの若者に影響を与え、私が高校生だった1995年にNetscapeが上場し、創業者でまだ20代だったマーク・アンドリーセンが「TIME」の表紙を飾るような時代でした。Netscapeの上場は、ニュースの一面を飾りました。目立たなかったテクノロジー系の企業が注目を集めた最初の出来事だったと思います。

(左)スティーブ・ジョブズ(Photo: Photo Oz / Shutterstock)
(右)1996年2月19日号で「TIME」の表紙を飾ったマーク・アンドリーセン(Photo: TIME HP)

 私は1997年から2001年までUC Berkeleyで学び、最初は科学を専攻していました。ビジネスやテクノロジー分野の進路は考えておらず、VCについてもほとんど知識がありませんでした。投資は、個人投資家に株を買うように勧める仕事だと思っていたくらいでした。

 しかし、学内の講演会でVCであるジョン・ドーア氏の講演を聞いたことが転機となりました。彼のGoogleに投資を決めるまでにたどったプロセスや、VCとしてのキャリア、VCの日々の仕事について聞いた時、「今まで聞いた中で、一番クールな仕事かもしれない」と思ったんです。

 VCはテクノロジー、トレンドについて知る機会があり、スタートアップの立ち上げ段階から起業家と知り合う機会がある。そして、世界中の人々より先に、新しいテクノロジーがどのように進化していくか見ることができる。まさに先端を行く仕事だと刺激を受けたんです。

 しかし、VCに入るためには、実務経験を積む必要があると考え、講演を聞いた後に、大学の横にオフィスがあった、データベース関連のソフトウェア企業Sybaseでインターンを始めました。当時Sybaseは事業再生をしていました。事業再生は時間がかかり、また非常に難しく厳しいものです。私は、同社のCEOとして素晴らしい経営手腕で事業再生を進めていたジョン・チェン(現BlackBerryのCEO)から、多くのことを学びました。これらの経験を通じ、自分は成長を楽しむ性格だということがわかりました。そして、イノベーションを起すスタートアップや、成長企業は合うと思うようになりました。

 大学卒業後はソニー入り、アジア・パシフィック、シンガポール、インドで、ケーブルネットワーク事業に携わりました。その後、米国に戻り、VCや投資銀行でキャリアを積み、2005年に入社したのがIVPでした。IVPではグロースファンドに取り組みました。今では、グロースファンドは珍しくありませんが、2005年当時は新しい試みだったんです。

 私がIVPで働き始めてから15年以上が経ち、3億ドルを投資していた小さなグループが、今では50億ドル以上を投資し管理する大規模なグループへと成長しました。これまで、素晴らしい起業家に出会えたこと、パートナーになれたことは本当に幸運だったと思っています。VCの喜びは、起業家たちの“旅”や“成功”の一部になれることです。そして、彼らの進化を目の当たりにでき、自分なりに彼らの成功に貢献できることが、VCの仕事の醍醐味です。

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