※本記事は「イシン・スタートアップ・サミット シンガポール2019」のトークセッションをもとに構成しました。
人口ボーナスで海外VCプレイヤーが参入
―なぜ東南アジアで投資するのでしょうか。まず東南アジアスタートアップの魅力について聞かせてください。
堀口:2013年にファンドをスタートしました。上場企業でCFOをしていて大きな仕事をやり遂げた後に、次のチャレンジとして東南アジアで投資をすることにしたのです。当時は10人中10人に「なんで東南アジア?」「まだ小さいよね」「リスキーすぎる」など反対されたのですが、反対されるとかえって燃えるタイプでして(笑)。逆に競合も少ないということだし、いつか日本企業にブリッジしたいと思って進出しました。
今も東南アジアにいる理由は、すごく変化が激しく、飽きないからですね。これまではスタートアップのエグジットがバイアウトしかなかったものがIPOもはじまるなどダイナミックに変化しています。
鈴木:東南アジアは人口が伸び続けています。インドネシアは毎年600〜700万人の子どもが生まれていて、人口ボーナスが続く間は国の経済成長が続きます。
個人的には、昔からカンボジアの支援などをやっていてサスティナビリティの高いビジネスをしたい、社会課題や環境課題解決を支援したいという思いがありました。一方、私自身、ずっと同じことに取り組むよりも同時多発的に事業をやりたいという志向があるので、VCの立場で取り組んでいます。
もう1つの理由としては、日本だとデジタル・トランスフォーメーションと声高に言われるようになっている一方で何事にも時間がかかります。まず既存オペレーションが磨き込まれすぎていることでデジタル化による介在価値が弱い、労働者が高齢の方も多く、テクノロジーによる新しいオペレーションがフィットしないなどの理由で、デジタル・トランスフォーメーションがなかなか進んでいないように感じます。東南アジアの場合は平均年齢が若く、まだ既存オペレーションが磨き込まれていない。ですので、テクノロジーが介在して、産業を革新させる余地があると思います。
斉藤:マクロ的なところでは他のお二人の言う通り、放っておいても経済が伸びるという点は大きいですね。あと付け足すとすれば、世界中のプレイヤーが東南アジアのスタートアップに対して投資や買収をしています。日本だとIPOマーケットは魅力的ですが、アリババやテンセント、米ファンドのPEファンドやアラブの投資家…といった多様なプレイヤーが投資することはあまりない。こういったプレイヤーから巨大資本が流れ込む東南アジアはアーリーステージの投資家にとってはエキサイティングな場所です。
「オフライン融合」「イシュードリブン」がホット
―最近の東南アジアのスタートアップトレンドをどう見ていますか?
斉藤:オフラインへの投資が増えています。オフラインとオンラインの融合系と言ってもいいかもしれません。たとえば、最近KK Fundからベトナムの次世代クリニックMed247に投資しましたが、こちらの企業はオフラインでのクリニックを開業すると同時にオンラインでの遠隔診療プラットフォームもローンチしました。東南アジアでこの産業領域ですとオフラインでのマーケティングのほうが信用されやすく、ブランディングもしやすい側面があります。オフラインで顧客を呼び込んで行動データ、使用薬剤データなどを分析し、オンライン診療をより効率化にし、逆にオンラインデータを活用してオフライン診療をより最適化していくという世界観を目指しています。こうしたオンライン、オフラインの融合系ビジネスが今後増えていくのではないでしょうか。中国ではOMO(Online Merged Offline)という言い方が流行ってきていますが、ビジネスをオンライン、オフラインと切り分けるわけのではなく、一体化させて考える、そういったビジネスの方向感をしっかりもっている起業家に今後も投資をしたいと思っています。
鈴木:2011~14年くらいの東南アジアは「タイムマシン的」とでもいうか、欧米や日本、中国でヒットしたものをトレースする形で起業するケースが多かった。
一方、最近はインターネットで完結するビジネスから、オンライン・オフライン融合もだし、大きな産業の構造的な課題をイシュードリブンで解決するというような発想も増えてきているように感じます。
起業の担い手も、以前から変わってきている印象があります。あるCEOは物流の課題を解決しようとしていますが、もともとお父さんが数百台トラックを持っている物流企業。そのCEOは、海外の大学を出て、戦略コンサルティングファームで物流領域の担当をしていた経歴があります。しかも、テクノロジーを理解する必要もあるからと、O2OスタートアップのCPO(=Chief Product Officer)も経験して、その上で起業している。こういったある領域にとても詳しい専門家的人材が出ている。「業界について知らないけど市場が大きいから参入する」というケースももちろんありますが、その場合は課題の捉え方を間違えることがあるので、そういったケースだと我々はあまり投資につながらないことが多い。
堀口:すでに大きな市場であるにも関わらず、課題がたくさんあって、その課題をデジタルトランスフォーメーションで産業構造改革させることができたプレイヤーがユニコーン級になっているという視点で考えると、今は「銀行口座がない層に対する金融のプラットフォーム」に着目しています。
例えば、マイクロファイナンスのグラミン銀行は話題になりましたよね。実際にバングラデシュでは1兆数千億円のマイクロファイナンスのローン残高があるのですが、その資金回収などのアプローチは極めてアナログです。顧客に2万円を貸した場合、2週間に一度元本1000円と金利200円を担当者が回収します。担当者3人くらいが張り付いて、地方の集会所に出向き、20名くらいからお金を回収して、紙の台帳に記帳したあと、支店に戻ってシステムにデータを入力して、と労働集約的にやっています。これだけ労力をかけるのですから、むしろ金利が高くないと成り立たないのです。
この金融領域でもっと効率化させたプラットフォームを作ろうとしいているプレイヤーが出てきています。これが成功すれば、ゆくゆくは金融だけでなく、様々なビジネスを載せられ、大きな伸びしろがあると見ています。後編に続く。