東南アジアVCはこう見る。「今後2年でVCは大きく変わるだろう」

東南アジアVCはこう見る。「今後2年でVCは大きく変わるだろう」

Event Report / Singapore / VC / Openspace Ventures / Monk’s Hill Ventures
2019-12-24 09:30
[スピーカー]
Openspace Ventures Founder, General Partner
Hian Goh
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Monk’s Hill Ventures Managing Partner
Kuo-Yi Lim
いま東南アジアで、日本企業と東南アジアのスタートアップの連携が進んでいる。今回登場するOpenspace VenturesのHian Goh氏と、Monk’s Hill VenturesのKuo-Yi Lim氏は、ともに起業家出身であり、東南アジア全域で活躍する著名ベンチャーキャピタリスト。両氏に、日本企業との共同投資事例や日本企業に求めること、東南アジアのVCの歴史から今後についてなど、幅広く聞いた。
※本記事は「イシン・スタートアップ・サミット シンガポール2019」のトークセッションをもとに構成しました。

日本企業との取引や出資関係を経て、気づいたこと

―まずは、それぞれの日本企業との関わりについてお話しください。

Goh:私が初めてビジネスをした日本企業はフジテレビです。Openspace Ventures(以下Openspace)を始める前にやっていた「Asian Food Channel(以下AFC)」という食専門チャンネルで、フジテレビの「料理の鉄人」という番組のライセンスを買い、東南アジアでの放送を始めました。私は「料理の鉄人」がどうしても欲しくて、フジテレビに申し出たのですが、当時AFCはまだ規模が小さく、残念ながら断られてしまいました。

 しかし、私は毎年フジテレビにライセンス購入を申し出て、AFCが成長していることを伝え続けました。そうしている間に、他の誰かから、AFCは順調に成長している企業だと聞いたことで、フジテレビは考えを変え、ライセンス販売に踏み切ってくれました。

 一度ビジネスが始まると、とても安定した関係を築くことができました。例えば、他社が「料理の鉄人」のライセンスをAFCより高く買うとフジテレビに打診してきたことがありましたが、フジテレビは最初に私たちに連絡をくれ、当初より少し値上げした金額をAFCが出すことで契約を継続してくれました。

 日本企業とは、人間関係に基づいた長期的な関係を構築することができます。日本人は物事に「誠実」に取り組む感性があります。日本企業と新しく関係を作ることは簡単ではありませんが、それには正当な理由があります。

 日本企業は、戦略的な立場を取る傾向があるため、革新するためには課題があることは理解できます。ただし、一度決断を下し目標が決まると、その達成においてとても強い力を発揮し、動きも早いのです。

Hian Goh
Trinity College Oxford法学部卒、INSEADでMBA取得。投資銀行シティグループのテクノロジー部門を経て、1999年から東南アジア地域で起業家そして投資家として20年間活動している。2004年に「Asian Food Channel」を立上げ12カ国で放送するチャネルに育て、2013年にDiscovery Channelに売却。2014年にOpenspace Venturesをシンガポールに設立。合わせて2億2500万ドルの2つのファンドを組成し、FinAccel、Chope、Love Bonito、Grain、Axinan、など東南アジアのアーリーステージスタートアップ25社に投資し実績をあげている。

Kuo-Yi Lim
1998年にマサチューセッツ工科大学にて博士号(電気工学)取得。ボストンコンサルティング・グループでキャリアをスタートした後、セキュリティソフトウェア企業Encentuate(2008年IBMが買収)にてシニアセールスエクゼクティブを務める。スポーツに特化したSaaSプラットフォームSportsHookを2008年に共同で設立。クラウド通信のTwillioやオンライン翻訳サービスのGengoなど、世界的な技術系スタートアップへの出資で知られる、シンガポール政府の投資会社Infocomm InvestmentsのCEOを2010年より務め、2014年にPeng T. Ong氏と共にMonk’s Hill Venturesを設立しManaging Partnerに就任。

 Openspaceのファンドに参加している日本企業は保険会社一社のみで、この保険会社の目的は私たちから東南アジアのFinTechについて情報を得ることでした。当社は情報交換することにも、彼らのネームバリューにも魅力を感じファンドへの参加を受け入れました。

 当社の投資先企業に投資している日本企業は複数社います。その中でも、女性向けファッションブランド「love, Bonito」に出資しているカカクコムとは特に密接な連携関係にあります。

 以前、真夏にカカクコムの日本オフィスにお邪魔したことがあります。日本企業への訪問ですから、真夏でもスーツを着て行きました。ところが、カカクコムの皆さんはTシャツを着ていました。日本の新興企業は、従来の企業とは違う企業文化があることを知りました。彼らは革新的で、判断も動きも早い。しかし、従来の日本企業と同様、ビジネスにおいて誠実であれば、長期的に優良な関係を築くことができます。

Lim:私が日本企業と最初にビジネスを行ったのは、2000年代初頭です。当時私は、セキュリティソフトウェア系スタートアップのセールスのVPとして、製品を日本企業に販売するために日本を訪れました。2010年には、シンガポール政府の投資会社のCEOとして日本を訪れ、多くのVCや銀行、そして政府官僚に紹介される機会がありました。

 その時々の立場の違いから、それぞれの経験は全く違います。しかし、大企業、政府機関、またはスタートアップでも、どの立場にいる人間でも、日本人の気風には共通点がありました。それは、正直で誠実だということです。

 Monk’s Hill VenturesのLPには、伊藤忠商事やYahoo! JapanのCVCであるYJキャピタルなど、複数の日本企業や個人投資家がおり、彼らとは、お互いをプロフェッショナルとして尊重し、時間をかけて透明性を保った共同関係を構築しました。パートナーシップはとても順調です。

「情報」を得ることを最重視する日本企業

―Monk’s Hill Venturesでは、ファンド1号から伊藤忠商事やYahoo! Japanなどの大手日本企業が参加していますね。

Lim:Monk’s Hill Venturesを2014年に設立する前の2013年頃から、複数の投資家から支援を得ていました。Hian(Goh氏)も関わっていたTamasek(シンガポール政府が所有する投資会社)や、Cisco Systemsから投資を受けました。この時点で、「東南アジアでシリーズA投資を行う会社」として注目を集めていたため、東南アジアについてもっと知りたいと考えていた日本企業も、当社に関心を持たれたのだと思います。

 当時、中国における事業運営が急速に複雑化していたことも、東南アジアに関心が集まった理由の一つだと思いますし、東南アジアはもともと日本企業にとってビジネスをしやすい地域なのでしょう。これは、韓国企業にとっても同じことが言えます。さらに、東南アジア発テクノロジーカンパニーが台頭し始めていたことから、日本企業も東南アジアに目を向けていた時期でもありました。

 多くの日本企業において、投資の主目的は、東南アジアの最新情報を得ることで、財務的リターンは二の次です。当社が何に注目しているか、どのようなビジネスモデルが上手く機能しているか、そして、当社の投資先企業の中で実際に支援できる企業があるかなど、双方向で話し合い、情報を得ることを、投資から得る財務的リターンより優先しています。日本企業は直接投資できる潜在的な投資先を探しており、投資先企業と非常に密接な協力関係を築くことを望んでいるのだと、理解しています。

 当社ではファンドに参加するLPを戦略的に選定しています。誰が参加するのか、エコシステムにおけるキャピタルも検討します。そして、なるべく早い段階から、なぜそのスタートアップに投資するのか、リスクとポテンシャルなどについて、LPと情報共有しますので、実際にスタートアップが投資を募った際には、投資枠の一部をLPに譲り、彼らが直接投資できるようにしています。

 例えば、Yahoo! JAPANはeコマースのエコシステムに注目していたので、キープレーヤーであるNinja Van(東南アジア地域の物流スタートアップ)を紹介したところ興味を示し、当社との共同投資が実現しました。

 日本企業は、市場の変化に合わせて戦略を進化させることが得意ですが、日本の大企業では、人事異動が頻繁に行われます。事業本部長までも頻繁に変わるので、私たちにとってチャレンジングな部分です。それでも、当社が複数の日本企業と良い関係を築けているのは、私たちが彼らの戦略を本当の意味で理解できているからだと思います。

インドネシアではなく、実はフィリピンやベトナムが面白い

Goh:Openspaceでは、意図的に企業からの投資は受けず、金融投資(financial investment)を選んできました。最近は、法人からの投資を強化していますが、現時点では、金融投資(financial investment)が、当社のファンドの約7割を占めています。

 機関投資家のなかには、東南アジアのVCへの投資はしないと決めている方もいますが、例えば、当社が2014年にシリーズAで投資したGoJekは、ユニコーンとなり95倍の利益をもたらしてくれました。当社はラッキーなことに、情報をいち早く入手することができ、そのチャンスを見逃しませんでした。

 それ以来、GoJekの事業に深く関わっているので、インドネシアのエコシステムの問題点など、最新情報が入ってきます。インドネシアは多くの投資家が注目していますが、実はフィリピンやベトナムの方が面白い動きがあります。こうした情報を、意思決定者が複数いる法人投資部門に共有しても、内部的に情報が共有されない場合があることや、企業によっては内部調整を最も重視していることなど、日本企業に関して学んでいるところです。

 当社は、財務的リターンに重点をおいていますし、市場の情報も重要視しています。法人投資家とは、情報の非相対性が生まれる可能性があり、それが懸念材料です。こうしたことから、当社では、投資先企業の育成に努め、当社の投資先企業と日本企業のマッチングを推進することにより力を入れています。

Lim:Monk’s Hill Venturesが2014年に行ったファンド1号では、多くの企業を受け入れています。

 戦略や組織を理解し、プライオリティを考えたり、担当者間の人間関係の構築など、やるべきことが沢山あります。企業の数が増えると手が回らなくなり、浅い関係しか築けません。

「共同」で成功するために日本企業が重視すべきこと

―東南アジアに興味を持っている日本企業に、成功するためのアドバイスをお願いいたします。

Lim:まず、「Patience(忍耐)」ですね。時間をかけて、投資対象として検討している、または投資することにした企業の創設者の考えを理解し、彼らから市場について学んでください。そして、彼らが支援を求めるタイミングで支援してください。必要以上に投資することや、投資先企業をコントロールしようとするとよい結果を生みません。

 当社はVCとして、創設者が支援を必要とするタイミングを待ち、戦略的に関わるようにしています。例えば、KKdayという台湾の旅行会社のケースでは、KKdayに投資する以前から繋がりがあり、創設者の考えを十分に知っていました。その上でKKdayが資金調達を求め、日本市場に参入する準備が整った時に、日本の旅行業者HISからの投資を実現させました。

Goh:LPにならなければ、VCと「友だち」になれないわけではありません。先にも言いましたが、当社では事業開発に力を入れ、投資先企業を日本企業や投資家に積極的に紹介しています。現在、日本の大手コングロマリット(複合企業)が、当社の投資先企業6社とのコラボレーションを検討しています。VCと関係を築ければ、投資を行わなくても東南アジアの企業にアクセスすることは可能です。

 東南アジアでは、まだ、1000万ドルから2000万ドルを調達することは難しく、2000万ドルの小切手を書ける企業は多くありません。だからこそ、大口投資が可能なYahoo! Japanが成功しています。そして、VCは、若い企業のために重労働を担い、Yahoo! Japanのような成熟した企業との交渉役を担っています。

 今あるエコシステムは、2014年に私たちが復活させたものです。なぜ「復活」と呼ぶかと言うと、シンガポールのVCは2000年初頭にはとてもアクティブに活動しエコシステムもありました。しかし、世界的な金融危機が起きた2008年から2012年頃まで活動が止まってしまったからです。

 2014年の「復活」から現在までの5年間で築かれたエコシステムでVCが担っている役割は、今後2年で大きく変わるでしょう。2000万ドル規模の投資は制度化されていくと思います。中国では既に、GGVキャピタル(VC)による20億ドル規模の投資が行われていますし、その他の東南アジアの地域でも、2000万ドルから3000万ドルの投資を狙ったGrowth Fundと私たちが呼んでいるファンドが過去12ヶ月で何件かありました。こうした規模のファンドが継続していくと、シリコンバレーで見るような5億ドル規模の投資をコントロールするVCが東南アジアでも育ちます。

 日本の皆さんも、今のうちに東南アジアを探訪して、VCやスタートアップと将来につながる関係構築を始めてください。アーリーステージから関われば、東南アジアのスタートアップが、例えばユニコーンに成長しても、きっと皆さんのことを覚えていると思います。

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