Intel Capitalは、シリコンバレーで長きに渡り、アクティブに活動するCVCの一つだ。1991年に設立されて以来、57カ国1500社を超えるスタートアップに総額122億ドルを投資してきた。さらに、その投資先のうち650社超が上場または買収されており、優れた投資実績を誇っている。不景気になると撤退してしまうCVCも多くある中、長期的に活動するCVCになるための秘訣は何なのか。今回はIntel CapitalのInvestment Directorを務める、Christine Herron氏に聞いた。

Christine Herron
Intel Capital
Investment Director
コロンビア大学卒業後、スタンフォード大学で経営学修士課程(MBA)を取得。First Round Capitalにてシードラウンドの投資に従事し、Better Financeなどに投資。2010年よりIntel CapitalでInvestment Directorとしてアーリーステージの投資を中心に行っている。Intel Capital Diversity Fundの共同リーダーも務めている。

ストラテジックリターンとファイナンシャルリターンを追求

―まずあなたのIntel Capitalでのミッションを教えてください。

 私には主に2つのミッションがあります。これは多くのコーポレートベンチャーキャピタリストにも言えることですが、私たちのミッションの一つはIntelの事業戦略をサポートすることです。具体的には、Intelが持つプロダクトに関わる分野への投資で、それはデータが多く関わる分野が中心です。

 もう一つはシンプルにお金を稼ぐということです。私は以前までスタートアップのミッションに注目して投資を行ってきました。私はお金儲けと社会貢献は交わることはないと考えていましたが、Intel Capitalに来てその考えは変わりました。営利団体として、コーポレートインベスターとしてでも社会に貢献できる投資ができることに気づいたのです。

 ただし、Intelが今後携わっていく分野への投資だった場合、必ずしもお金を儲けることを目的にする必要はありません。私たちの仕事の一つにはIntelにとっての新たな分野を見つけることも含まれているからです。Intelにとって新たにビジネスになり得る分野を開拓し、Intel Labsなどに持ち込むことも私たちの仕事です。

―Intelが注力する投資領域は何でしょうか。

 私たちの投資領域は全てテクノロジー分野となります。Intelの戦略は「スマート」と「コネクト」がキーワードです。つまり、私たちの投資領域はデータセンターやクラウド、IoT、Autotechなどの多くのデータが関わるものです。またデータが関わるという意味では、e-Sportsやデジタルヘルス、AIやマシンラーニングも私たちの投資領域になります。中でも、IoTにはより多くの時間を割いています。私たちはスマートホームに投資しましたし、リテールや自動車にも投資しています。

 また私はAI周りに素晴らしいデータセットを開発しているスタートアップにも時間を割いています。Facebookの情報漏えい問題がありましたが、あのような問題を解決できるようなプロダクト企業に投資したいと考えています。

―あなたの投資家としてのバックグラウンドを教えてもらえますか。

 私はこのIntel Capitalにおいて、唯一、投資分野を持たない投資家です。私の投資家としてのバックグラウウンドはシード投資が中心です。私が以前いたベンチャーキャピタルの投資は消費者向けサービスの投資が3分の1、ビジネスソフトウェアが3分の1、広告とマーケティングプラットフォームが3分の1でした。私はIntelでは当初、消費者向けサービスの投資をするはずでした。それが私とIntel Capitalの興味のある分野が合わさり、デジタルメディアの分野やコンピュートコントニウムに変化しました。コンピュートコントニウムとは、人々にはデジタルな生活と経験、そして人々自身の情報がどこにいようと繋がっているという考え方です。IoTは全てのものが一緒に動くというコンセプトですから、最終的にはコンピュートコントニウムに繋がっていきます。

多様性のあるチームに投資する

―投資をする際の基準を教えてください。

 私たちにとってストラテジックリターンとファイナンシャルリターンはどちらも大切です。ですから、もしも私がとても素晴らしいヘアケアの商品を見つけ、投資したいと思ったとしましょう。利益も見込めそうです。しかしこれはIntelにとっては全く戦略的にプラスにはなりませんから、私は彼らに私にピッチするための無駄な時間を取らせませんし、私はより深く知ろうとする無駄な時間を取りません。このヘアケアブランドが今、Intelに合わないのであれば、たぶん3年後や5年後でもIntelにとって有益ではないでしょう。

 しかし、それがIntelにとって新たな分野の創出になるものであれば、話は違います。プロダクトが良い人材によって作られており、5年後にIntelに必要になりそうだと思った場合、投資を考える場合もあります。新たなマーケットを早期に見つけることで、最初からマーケットに携わることができるのです。

 個人的にとてもおもしろいスタートアップを見つけたとしても、Intelのためにならなければ投資することはできません。ですから、いつもフィルターを通して見ることが大事です。

―他にIntel Capitalの投資家が投資をする際に基準としているものはありますか。

 Intel Capitalの投資家は今、多様性のあるチームを探そうとしています。Intelでは$300 millionを雇用や従業員の教育に、$125 millionをIntel Capitalを通して、多様性を持つチームへと投資しました。私たちにとって多様性とは女性や有色人種、マイノリティ、LGBTQが設立した企業を指します。私たちは「実際の世界」を反映したチームによって作られたプロダクトが欲しいのです。例えば、私の手は小さく、あるプロダクトを何回も落としてしまったとしましょう。そのプロダクトチームはチームに小さい女性がいないため、このような女性のことを考えることができないのです。もしその欠点に気づいたのならば、より良いプロダクトをマーケットへ送り出すことができます。またそれは投資家にとっても良いことです。なぜならそういうスタートアップはより幅広いオーディエンスにアピールするからです。

 マーケットを見てみると、多様性のあるチームに率いられているスタートアップはより良いパフォーマンスを出していることがわかります。その理由の一つはその業界で差別的な事象があった場合、多様性を持つ企業は持たない企業に比べて、より機敏に動かなければいけないからです。上に行くためには、普通よりも良い動きをしなくてはいけません。

 また、多様性のないチームは企業文化などで苦労することもあります。#metoo movementやCEO For Change movementなどが問題に挙げられます。私たちはスタートアップにはこのようなことが起こった時に、しっかりと対処することのできる準備をしてほしいのです。雇用の問題は良く聞きますが、シリコンバレーでは特に競争が激しいですから、より大切です。働く人が価値を感じる労働環境を作ることも重要な仕事です。

CVCから得られるベネフィットはお金ではない

―投資するにあり、Intel本社の判断が影響することはありますか。

 ディールの大きさによってプロセスが違います。ディールが大きければ、もちろん本社の経営陣との協議もあります。またどれだけIntelのチームとスタートアップをエンゲージさせるかにもよります。

 私たちの価値は投資するだけでなく、そのスタートアップと私たちの事業部門をつなぐことだと思います。多くの場合、一緒に話をする機会を設けるため、スタートアップとIntelのチームをミーティングに招きます。私たちは大きな組織で、多くの人、情報にアクセスすることができますから、スタートアップに情報をシェアしより良いコラボレーションを創出しようとしています。会話をしていく中で投資に至らないこともありますが、ポテンシャルカスタマーの紹介など、スタートアップはベネフィットを得ることができます。

長期継続型CVCになるためには

―あなたがIntelで働く中で、組織に何か変化はありましたか。

 私は7年間Intel Capitalで働いてきました。一般的な投資家として私が見た大きな変化はCEOが変わった時です。前CEOのPaul Otellniが退任し、Brian Krzanichが新たなCEOに就任しました。その時、Intelの文化は大きく変化したように感じます。前CEOはよりパートナーよりのバックグラウンドの持ち主でした。私たちの今のCEOはよりプロダクトサイドのバックグラウンドを持っています。彼のバックグラウンドはIntelの企業文化を変えただけでなく、Intel Capitalがどう最善を尽くしてIntelをサポートするのかということを考えさせました。ですから、Intel Capitalではより戦略的な投資、より投資額の大きい投資が増えたように思います。

 私たちは最近、エアタクシー企業に$100 million投資しました。これはとても大きく、リスクの高い投資です。Intelでは自律走行車が戦略に含まれ、それには車だけではなく、エアタクシーも含まれると考えたわけです。ですから、多くを見るのか、狭い範囲を戦略的に見るのかで大きく違ってくるわけです。このような投資は10年前では考えられなかったように思います。

 経営陣が変わると、もちろん新しい戦略が生まれ、組織も再編されます。やめなければいけない事業も出てきますし、新しいプロダクトをローンチすることもあります。

 私たちは大きな製造ビジネスを持っていました。Intelにとって新しい挑戦でもありましたが、マーケットに比べて、シェアが小さすぎると判断し、去年に撤退しました。今、そのグループはIntel Capitalの一部になり、新しいアイデアをより加速させるためのインキュベーション組織になりました。私たちはこのように新しいことに挑戦し、楽しめる機会がありますが、それはより失敗を経験することでもありますし、地に足をつけてよりマーケットを理解しなければいけないということでもあります。

―CVCを持っている、今後CVCをしようとしている日本企業へアドバイスをお願いします。

 First Round CapitalにJoshという人がいて、彼が素晴らしいことを言っていました。「I’m often wrong but never in doubt.(私はよく間違えるけど、疑ったことはない)」と。もしあなたがネイティブスピーカーなら、これはとても面白いフレーズなのですが、このアドバイスに従うとすれば、一つはCVCの目的を定めることだと思います。自身のプロダクトのエコシステムの構築なのか、テクノロジーのギャップを埋めることなのか。はたまた、新しいことを学ぶということなのか。ですから、まずはコアの目的をしっかりと理解することが大切だと思います。そしてその目的に沿ってCVCのエコシステムを構築するのです。

 二つ目は一つ目のアドバイスと繋がっていますが、CVCの道筋を決めることです。スタートアップへの投資を決める期間はどのくらいかかるのか。プログラムの期間はどれくらい必要なのか。成功させるためにはどのくらいの期間が必要なのか。

 ハードウェア企業はソフトウェア企業よりも投資額が大きくなります。もし何かミスをしたら、直さなければいけないですし、ピボットしなければいけないかもしれません。そして少なくとも最初の日から3年たって、やっと1つの結果を得ることができるのです。その3年の間に2つ目の企業を選びます。2つの結果が揃って何が間違えで、何が良かったのかが分かるのです。ハードウェアや自動車系の企業だった場合、最低5年のコミットメントが必要になると思います。

 CEOが変わることや、優秀な人物がビジネスユニットを抜けるようなことがあった場合、プロダクトの支援を続けるのか、それとも終わりにするのかは事前に決めておかなければいけません。なぜなら、一番嫌なことは投資したスタートアップのサポートを途中でやめたと、周りから悪い評判が立つことだからです。ですから、何をして、何をしないかを全て明らかにしておかなければいけません。そしてどのくらいコミットできるのかも重要です。コミットするのは5年間なのか、3年間なのか。投資は一回なのか、それ以降もするのか。ですから、スタートアップとのコミュニケーションはとても重要です。投資にサプライズは必要ありません。矛盾やコミュニケーション不足はCVCにとって問題です。これらさえ守ればスタートアップは喜んであなたのCVCに来るでしょう。

 そして投資家の一番大切な仕事は、成功する企業のプラットフォームとなることです。これには二つの側面があります。お金を投資すること、そしてどうやってスタートアップを成功させるのかということです。なぜなら、私たちの成功はスタートアップの成功がなければ成り立たないからです。



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