ネットサービスの連続起業家が選んだフィールドはクリーンエネルギー
大学でプログラミングとコンピュータサイエンスを学んだMarco氏は、そのキャリアのほとんどでBtoCのインターネットサービスに関わってきた。日本でもよく知られている、2014年に楽天が買収した無料通話・メッセージアプリのViberもMarco氏が共同創業、CEOを務めていた。その後はライドシェアサービスのJunoを創業・売却。2019年にTechnion(イスラエル工科大学)の研究チームとともにH2Proを創業する。
BtoCのインターネットサービスからエネルギー分野への転身についてMarco氏は次のように語った。
「世界をより良くするために何かしたいと思っていました。私たちにとって世界を良くするということは、気候変動の危機に対処するために自分の役割を果たすということです。H2Proは、脱炭素の最前線にいる企業の一つです」
Technionの研究者たちが開発をしてきたのが、より効率的な水素製造技術「E-TAC(Electrochemical, Thermally Activated Chemicalの略)」である。水を電気分解し、水素と酸素を生成する技術は以前からあるが、従来のやり方ではエネルギーの30%以上が失われてしまい、効率が悪いという課題があった。さらに、電気分解のためには水素と酸素を分け、混ざらないようにするための「膜」を設置する必要があり、この製造にコストがかかっていた。
一方、E-TACは、独自の技術によって、水素と酸素を別々に発生させる2段階のプロセスに基づいている。Marco氏は「E-TACでは、エネルギーの5%しか失われず、効率性は95%に達します。水素を作るために必要なエネルギーが少なくなります。水素と酸素が混ざらないので膜も不要で、装置を安くすることができます。つまり水素を安価で提供できるようになるのです。そして、世界をグリーンエコノミーに移行させられます」と説明した。
クリーンエネルギーとして期待される水素だが、現在の主となる生成方法は化石燃料、特に天然ガスが使われており、実は大量のCO2を排出している。「E-TAC」によって水素を生成する際に必要な電気も、再生可能な資源から供給できれば、完全にクリーンなエネルギー生成のエコシステムができあがる。同社の技術を用いれば、1kg当たり1ドルでグリーン水素を大規模に生産可能であり、世界で最も低コストなグリーン水素となるという。
2024年から本格的な商用サービス展開を目指す
E-TACは2012年から研究が始まり、2019年には商業ベースの技術が完成した。ビジネスモデルは、E-TACによる水素生成システムの販売になるが、Marco氏によると、現在は研究・開発段階で、システムの規模を拡大するフェーズに入っているという。2022年には、2019年時点の20倍の規模のシステムに拡大し、2023年にパイロット版を提供する見込み。2024年には一般販売を行い、2026年にはさらに大きなシステムを提供していく計画だ。
2022年1月には、Bill Gates氏らが設立したBreakthrough Energy Ventures、Temasek Holdingsなどから、シリーズBで7500万ドル(約96億円)を調達。創業から約3年で資金調達額は1億ドル(約129億円)以上に上り、工場の整備や研究開発に投資をしている。
日本からは住友商事が出資している。住友商事との関係についてMarco氏は「単なる投資家ではありません。Sumitomoは世界中でプロジェクトを展開しており、彼らの水素関連のプロジェクトを開発するために私たちが協力するというアイデアもあります」とコメントした。日本市場への参入は2025年ごろを想定しており、現時点での第一の目的は、H2Proの技術を展開するパートナーシップを見つけることだ。
Image: H2Pro
大規模な水素生成システムの提供で、グリーンエコノミーへの移行を加速
H2Proの長期ビジョンは、ギガワットクラスの水素システムの世界的な普及である。Marco氏は「気候変動に対処するために、私たち自身の役割を果たしたいです。何ギガワットもの水素生成システムを世界中に配備できれば、鉄鋼、製造、航空、モビリティ、産業ガスなど、脱炭素化が難しい産業を助けることができます。より安価で、より費用対効果の高いシステムを提供することで、グリーンエコノミーへの移行を加速できるのです」と説明した。
ビジョンの達成に向け、将来提供すべきシステムを作る上での規模の拡大や運用方法などについての課題があるが、Marco氏はこれらを解消すれば販売自体は難しくないと考えている。
Marco氏は日本とのパートナーシップをどう見ているか。「日本は水素経済の最前線にいる国の1つです。私たちも、日本の企業と一緒に仕事をする方法を見つけたいと考えています。多くの日本企業には先見の明があり、長期的な視点で物事を見ることができる良い面があると思います。未来のためにともに取り組んでいきましょう」とメッセージを寄せた。