「誰もが何でも好きなものを印刷できる世界をつくる」をミッションに掲げるGlowforge。アメリカ・ワシントン州シアトルに本社を構える同社は、家庭でも使える3Dレーザープリンターを開発している。その特徴は、金属や革からチョコレートまで、多種多様な素材に対して、好きなデザインを「たった数分で」印刷できる点にある。Glowforgeの共同創業者であり、CEOのDan Shapiro氏に話を聞いた。

Dan Shapiro
Co-Founder & CEO
Harvey Mudd College出身の連続起業家(シリアルアントレプレナー)。MicrosoftでLead Program Managerを務めた後、商品比較サイトのSparkbuyを創業。同社をGoogleに売却し、2014年にGlowforgeを創業、CEOに就任(現職)。なお、未就学児にプログラミングを教えるベストセラーボードゲーム「Robot Turtles」の発明者であり、『Hot Seat: The Startup CEO Guidebook』の著者でもある。

革からチョコレートまで、さまざまな素材に好きなデザインを「数分」で印刷

―御社はどのような事業を展開しているのでしょうか。

 Glowforgeは、家庭でも使える3Dレーザープリンター(レーザーカッター)を開発しています。コンセプトは、「ボタンを押すだけで、望み通りの作品をつくることができる3Dプリンター」です。

 私はエンジニアからキャリアをスタートしていて、これまで多くのものをつくってきました。その経験から、ものづくりは本質的に人間の欲求に深く根ざしていて、人々の生活を豊かにするものだと学びました。

 ものをつくる人もそうでない人も、「アイデア」は持っています。しかし、現在は技術の発展やライフスタイルの変化、サプライチェーンの発達から、自宅でものをつくるハードルが上がってしまったように思います。

 人間は、何百年も前から、自分たちのコミュニティでものをつくってきた生き物です。Glowforgeは3Dレーザープリンターの普及を通して、もう一度「ものづくり」の喜びを取り戻したい、と考えています。

 弊社の3Dレーザープリンターは、植物タンニンなめしレザーの財布から、アルミニウムでできたMacBookのカバー加工、チョコレートまで、多種多様な素材を使い望み通りのデザインを印刷することができます。価格帯は約5,000〜7,000USドルで、机ほどの大きさです。また、プリンターにはオートフォーカスを搭載したデュアルカメラが取り付けられていて、素材を即座に認識するほか、わずか数分で印刷を完了できるスピードも強みです。

 PhotoshopやIllustratorなどのツールで作ったイラストをはじめ、PDFやWordファイル上にアップロードした絵も、アップロードするだけで印刷できます。もちろん、通常の3Dプリンターで用いるCADソフトも使用可能です。また、デザイン初心者に対しては、ウェブにてデザインカタログも用意しています。

―どのような顧客が、御社の製品を使っているのでしょうか。

 一般家庭はもちろんのこと、幼稚園・学校や大学などの教育機関、ビジネスオーナーなどに使用されています。当社は非上場企業ですから、正確な数字は公表していませんが、現在、当社のプリンターは何十万人ものユーザーに使われていることはお伝えしておきましょう。

 顧客の内訳は、家庭向けと学校や大学、企業向けがそれぞれ3分の1ずつ分布している、といった形です。

 Glowforgeの3Dレーザープリンターのユースケースは様々ですが、1例をお伝えしましょう。私の友人の著名なミュージシャンはコロナ禍でツアーが中止に追い込まれ、働けなくなってしまいました。

 そこで、3Dレーザープリンターを使い、特徴的なデザインを印刷した万華鏡を販売するビジネスを始めたのです。彼はロックダウンの期間中、万華鏡のビジネスオーナーとして活動し、家族を支えました。今では、ミュージシャン兼万華鏡の製作者として活躍しています。

 他にも、家族の誕生日パーティーのためにオリジナルのデザインを施した装飾物をつくったり、友人へのプレゼントに印刷物をつくったりと、色々な用途で使用されています。

image: Glowforge

40以上の特許を取得した技術を搭載

―Glowforgeの技術的特異性はどこにあるのでしょうか。

 当社は早期から3Dプリンターを「家庭で」使用できるようにした企業です。

 従来の3Dプリントでは「積層造形」という、印刷したい材料を1層ずつ重ねていく技術を採用していました。積層造形は、主に企業向けであり、商品プロトタイプの設計には非常に有用な技術ではあります。

 しかし、その最大の問題点は家庭向けとして適用できるほど容易な技術ではないこと。通常、積層造形では、素材が金属なら金属、プラスチックならプラスチックと1つに限定されています。印刷まで何時間もかかり、費用も嵩むという課題もあるのです。

 弊社では3Dレーザープリンターを家庭で使用できるという点にこだわり、新たな手法を確立しました。それが「除去加工」(Subtractive Manufacturing)という技術です。従来の3Dプリンターが、素材を付加しながら印刷するのに対して、Glowforgeでは、髪の毛ほどの細さのレーザーが3次元の素材を「削り」印刷していく、というプロセスです。

 この技術を確立したおかげで印刷工程を大きく削減できた上に、革や木、アクリル、金属、ガラスなど様々な素材に対応できるようになったのです。

 当社の3Dレーザープリンターは、大企業には真似できない技術の集結でもあります。同製品には、液体冷却システムをはじめ、ガラス細工や機械学習など、国内外で40以上の特許を取得した技術が搭載されています。

 これだけの技術的優位性を、単に大企業が資本を投下して上回ることはできません。また、我々は販売当初から知的財産を保有しているので、参入障壁も高くなっていることも注目に値するでしょう。先行者利益があるとともに、家庭向け3Dレーザープリンターの市場を創造したのは我々だという自負もあります。

―あらためてですが、Glowforgeを創業した経緯を教えてください。

 創業は2014年で、共同創業者で現CTOのMark Gosselinとともに家庭でも使える3Dプリンターをつくれないかというアイデアを出し合っていました。

 現在の3Dレーザープリンターが形になったのは、2015年のこと。商品の市場投入前に、「Kickstarter」というクラウドファンディングサイト上で投資を募ったところ、同サイトの当時の最高記録となる2790万ドルが集まりました。

 その経験を経て、家庭でも使える3Dプリンターのニーズの高さを知り、商品開発と営業に注力していった、という経緯です。

image: Glowforge

リアル店舗での売上好調、日本進出も視野に

―御社は累計1億3320万ドルの資金調達に成功しています。資金の使い道を教えてください。

 当社は製造業なので、研究開発に資金を投じていきます。注力しているのは、材料科学分野の基礎研究です。3Dレーザープリンターの新商品開発や改良を目指しています。

 また、大型の資金調達は、当社製品の小売店展開にもつながりました。具体的には、アメリカにて手芸店チェーンのJOANN(ジョアン)とアート&クラフトのMichaels(マイケルズ)と提携し、店頭での販売を開始させています。イギリスではクラフトショップのHobbycraft(ホビークラフト)とも提携しています。

 リアル店舗での売上は、アメリカでもイギリスでも予想以上に好調です。Glowforgeのプリンターは、実際に目で見て、使ってみて初めてその機能に対して説得力を持つのでしょう。今後も、小売チェーンとの提携を深めていきたいと考えています。

―日本市場について、どのように見ていますか?

 当社の製品が日本市場で受け入れられるポテンシャルは大きいと考えています。特に、日本は歴史的に職人文化が家庭の中でも根付いていて、「ものづくり」との親和性が高い国と言えるでしょう。素材を自分なりにアレンジし、自分だけのオリジナルのものを作る日本人の姿勢は、当社のミッションとも重なります。

 ですから、日本市場に本格的に進出しようと考えています。具体的には、現地の小売店と提携を結びたいですね。先ほどお話ししたように、Glowforgeの3Dレーザープリンターは、現物を使ってみてその良さを理解できる類いのプロダクトだと思います。日本の手芸市場を知り尽くしたパートナーとぜひお話をしてみたいです。

拡販・代理店契約に興味。大企業との共同開発も視野に

―日本の大企業との提携を考える場合、どのような形態のパートナーシップが理想でしょうか。

 お互いのシナジーが最も効果的に発揮できるのは、拡販・代理店契約でしょうか。また、将来的には投資や共同開発などの契約を結び、市場を深耕することもできるかもしれません。

 事実、私はGlowforgeを創業するにあたって、任天堂やブラザー工業など、コンシューマー向け商品でドミナントを築いている企業を参考にしてきました。日本の大企業と共同で3Dレーザープリンターを研究することで、イノベーションを起こせる可能性は高いと考えています。

―最後に、御社の長期的な目標を教えてください。

 私たちの目標は、「誰もが何でも好きなものを印刷できる世界をつくる」です。そのためには、製品ラインを改善し、3Dプリンターを手頃な価格で買える値段にまで下げなければなりません。最終的には、人類の根源的な欲求である「ものをつくること」を開放し、誰もが創造力を発揮できる世の中をつくりたいですね。



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