日本ユニシスは1958年設立の国内大手SIerとして、大手企業の基幹系システムの保守・運用を業界問わず手がけてきた。一方で、2017年には、電子決済システムを企画・開発するキャナルペイメントサービス、スタートアップ投資を行うキャナルベンチャーズ、海外企業と戦略的パートナーシップを組んで新規事業を行っていくキャナルグローブの3社を同時に立ち上げるなど、時代の変化に合わせて迅速な対応を行っている。今回は、日本ユニシスのCTOも務め、日本ユニシス初のCVCの立ち上げ責任者でもあるキャナルベンチャーズの代表保科氏に「インドに注目する理由」を聞いてみた。

保科 剛
キャナルベンチャーズ(日本ユニシス)
代表取締役COO
1981年 日本ユニシス株式会社入社。数理計画人工知能分野の研究、アプリケーション開発を担当。その後、オブジェクト指向開発環境「TIPPLER」トランザクショナルORB「SYSTEMν」、システム開発技法「LUCINA」、ASP事業「asaban.com」を企画開発。2002年、ビジネスアグリゲーション事業部長。2003年、アドバンストテクノロジ本部長。2004年にCTO。2017年キャナルベンチャーズ株式会社 代表取締役COOに就任。経済産業省 産業構造審議会 2020未来開拓部会 委員、情報通信研究機構 ICTメンタープラットフォーム メンター、情報処理推進機構 未踏アドバンスト事業審査委員会 委員を務める。

日本ユニシスがCVCを立ち上げた理由

―キャナルベンチャーズの概要を簡単に教えてください。

 キャナルベンチャーズは日本ユニシスを母体としたファンドで、デジタルトランスフォーメーションの起こりうる領域を中心に投資しています。日本ユニシスは60年近く大企業向けにITの基幹システムをつくっています。

 顧客は常に新たなイノベーションを求めていますので、私たち自身も「オープンイノベーション」という言葉が生まれる前から他の大手企業や異業種との連携を進めてきました。海外ではシリコンバレーにはよく行っていましたし、国内でもアクセラレーションプログラムやスタートアップ支援もいち早く進めていました。

 CVCは2017年にスタートアップ投資をスピーディーにかつ長期的視点で進めていくために立ち上げました。本社のCTOだった私がCVCの代表取締役COOとなり、ファンド運用の責任者を務めています。運用開始して1年半になりますが、すでにファンド投資、スタートアップ投資を合わせて20件行っています。

―インドのスタートアップにも投資されていると聞きました。

 AlphaICsというReal AI Processor (RAP)を開発しているスタートアップに最近投資しました。RAPといっても、まだなじみが薄いかもしれませんが、画期的なビジネスを手がけています。

 AI社会と言われている中で、膨大な画像認識や機械学習は、これまでGPU、CPUと呼ばれる半導体チップで行っていました。ただ今後、AI社会では、データ処理をするだけでなく、大量のデータを機械に読み込んで、学習して意思決定するという、もう一歩踏み込んだ段階にまで来ています。

 このスタートアップは、すでにその実用化の段階にまで来ており、日本の大手製造業やアメリカのメガIT企業とも提携の協議を進めています。チームとしても、経営陣にIntel Pentiumを開発した「Pentiumの父」と称されるVinod Dham氏が加わるなど、今後の大きな成長が期待されています。

インドではゼロからつくれる、既得権益を考える必要がない

―インドスタートアップの魅力は何だと思いますか。

 シリコンバレーで働いている人の3割がインド人だと言われています。そして、そういった優秀な人材がインドに起業しに戻ってきているという流れが続いています。インド人はソフトウェアに強いので、シリコンバレーで働いて、グローバルなトレンドやビジネス理解、企業ニーズを把握して、インドに戻り、プロダクトをつくり、そして、またアメリカでプロダクトを売っていくという循環があります。

 私が最も面白いなと思っているのは、インドという国は、デジタルトランスフォーメーションが最も起こりやすい国だということです。日本の場合、医療、農業、物流など、すでに築き上げたインフラ・仕組みがあります。デジタルトランスフォーメーションが起きると分かっていても、実際に組織の合意を取り、新たなやり方にしていく作業は大変です。産業によっては、規制もあり、ダイナミックな変化を起こしづらい環境にあります。

 一方で、インドではゼロからつくれる、既得権益を考える必要がないので、今の時代に最適なものをつくれる。また国もどんどん後押しをしている。遠隔医療だったり、ドローンで農業をやったり、物流版のUberをやったりと、起業家やエンジニアがつくったサービスが、どんどん国を豊かにしている。これは、スタートアップにとって、アメリカや日本などの成熟国では経験できない面白さだと思います。

―スタートアップ投資基準についてお聞きしますが、投資先と日本ユニシスとのシナジーは必要不可欠なのですか。

 直近のシナジーは必ずしも必要ではありません。また、海外の投資先に関しても、直ちに日本進出を考えていなくても問題ありません。むしろ、インドのスタートアップと日本企業がタッグを組んで、他国に展開していくという可能性の方があると思っています。

 日本だけでビジネスをしていると、日本で開発したサービスを他国に持っていった時にオーバースペックになるとよく言われます。日本の顧客が求める水準は世界でもトップクラスですから、そういう現象が起こります。

 その点、インドで受け入れられているサービスを新興国や、東南アジアに持っていく方がマーケットインするかもしれない。日本ユニシスは、あらゆる業界、業種の大手とお付き合いありますので、そういうコラボレーションの仕方も今後十分にあると期待しています。

国の平均年齢25歳、毎年150万人のエンジニアリング専攻の学生を輩出

―最後に、インドスタートアップと日本企業の今後についてメッセージをください。

 私自身、エンジニアとしてキャリアをスタートさせて、現在は投資家という立場でスタートアップを応援しています。インドは人口の大きさや、継続的なGDP成長率ばかりがクローズアップされがちですが、私が考える一番のポテンシャルは、圧倒的なエンジニアの数と、国の平均年齢が25歳と若いことです。

 毎年150万人のエンジニアリング専攻の学生が卒業し、ミレニアル世代が社会を牽引していくという環境は想像するだけでもワクワクします。日本とは平均年齢が20年も違うのです。

 国を豊かにしていきたいと思う気持ちは、場所や立場は違えど、万国共通のものです。今後も良いスタートアップとの出会いがあれば、ぜひ応援していきたいと思います。

特集 India x Japan

#1 【日本ユニシス】インドはデジタルトランスフォーメーションが最も起こりやすい国

#2 【アカツキ】インドのエンターテインメント、ライフスタイル市場に注目

#3 日本発プログラミング学習サービスProgate、IT大国インドへ挑戦

#4 【Sansan】日本発の名刺アプリがインド進出を決めた理由

#5 インド工科大学で『知るカフェ』5店を運営する日本人経営者



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