2010年にマンションの一室から始まったアカツキは、設立6年で東証マザーズに上場。その翌年には東証一部に市場変更を果たす。現在、アカツキが手がけるゲームタイトルは全世界に向けて配信され、世界のトップセールスランキングの上位を獲得している。また、モバイルゲームのみでなく、グローバルのeスポーツリーグを設立、複合型エンタメ施設をプロデュースするなど、エンターテインメントを軸に事業を拡大。デロイトトーマツ 日本テクノロジーFast50を4年連続受賞、働きがいのある会社のベストカンパニー賞を5年連続で受賞するなど、日本トップレベルの成長企業として注目を集めている。今回は、アカツキ本社のCFOでもあり、アカツキCVCの立ち上げ責任者でもあるAET Fundの小川氏とインド責任者の河村氏に「インド注目の理由」を聞いてみた。

小川 智也
Akatsuki Entertainment Technology Fund(AET Fund)
Managing Director
1976年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部卒業。米系コンサルティングファーム勤務を経た後、法律事務所にて弁護士として企業法務、M&A、倒産・事業再生案件等に携わる。2010年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社。その後、執行役員経営企画本部長としてコーポレート業務全般に従事。2014年より株式会社アカツキに入社。取締役として経営企画室およびコーポレート業務全般に従事。2017年10月にエンターテインメント×テクノロジー特化のファンド「AET Fund (Akatsuki Entertainment Technology Fund)」を設立。
河村 悠生 
Akatsuki Entertainment Technology Fund(AET Fund)
インド投資責任者
1984年生まれ。ニューヨーク出身。慶應義塾大学理工学部・理工学研究科修了。モニター・グループ(東京、シンガポール事務所)、ブーズ・アンド・カンパニー(東京)で勤務を経た後、2015年よりNetflixの日本事業立ち上げにコンテンツ分析担当として参画。その後、2018年よりAET Fundにてスタートアップ投資に従事。AET Fundにおけるインド投資責任者。

アカツキがCVCを立ち上げた理由

―AET Fundの概要を簡単に教えてください。

小川:アカツキ100%出資のファンドで、エンターテインメント領域を中心に、コンシューマー向けサービス及びメディアに投資しています。

 我々が注力するエンターテインメント領域は、AR/VRスタートアップやTikTokのような新しいトレンドなどに代表されるように技術・サービス革新のスピードが速く、新たな市場やビジネス機会が次々と立ち上がるので、グローバルで技術や市場のトレンドを把握することがアカツキにとっての目的となります。

 また、エンターテインメントのような人の心をワクワクさせる活動は日本国内に限らず世界共通ですので、日本に加えて海外のビジネスチャンスを捉えにいくことには大きな意味があります。

 このように、投資という活動を通じて、技術やビジネスのトレンドのキャッチアップだけでなく、グローバルに次の市場を探しにいくというのがAET Fundの狙いとなります。そのため、投資先も日本に限らず、アメリカ、インドのスタートアップへと広がっています。

 もっとも、上記はアカツキから見た目的で、AET Fundとしては独立したビークルで、一般的なVCと同じようにファイナンシャルリターンを最大化することを第一義として活動しており、チームもそのためのプロフェッショナルを採用しています。

 というのも、独立したVCとしてきちんと市場で評価されるファイナンシャルリターンを出さなければ、起業家からの信頼を獲得することはできず長期的に良いディールにアクセス、また優秀な人材の獲得が困難になるからです。その意味では、CVCで比較的多い企業の一部門としての投資部門、というものとはかなり異なる構成になっていると思います。

―なぜ、インドのスタートアップにも投資しているのですか。

河村:純粋にインドが有望な市場だと考えているからです。13億人超の人口、大半が30歳未満という人口構成、可処分所得の増加、そして過去2年間での急速なモバイルインターネットの普及によって、今インドのオンラインサービスは大きな変革期を迎えています。我々は今この瞬間がインドにおけるエンターテインメント領域のインフレクション・ポイントだと捉えており、この波に乗ろうとしています。

 インドでは、我々が得意としているゲーム領域にとどまらず、メディア領域やライフスタイル領域にも投資しています。ゲームや狭義のエンターテインメントに絞ってしまうとまだまだ市場が未熟なため、投資先企業が限られてしまうので、「エンターテインメント」を広く定義し、人々の生活をワクワクさせるサービス全般を今は対象としています。

 日本では就職、住宅、車、ウエディングといったライフスタイル領域はリクルートがメディア中心に市場をつくってきました。一方、インドでは既存のガリバー的な存在がまだおらず、現在進行形で各領域での競争が過熱しています。我々は、各領域での上位ポジションになりうるスタートアップに投資しています。

成長市場であるインドと共に成長をする

―具体的な投資先を教えてください。

河村:メディア・ライフスタイル領域では、最近、The Wedding Brigadeに投資しました。彼らは結婚式を挙げる毎年1000万組以上のカップルに対して、メディア、eコーマス、式場手配を含めたワンストップサービスを展開しています。若者の人口が多く、かつ文化的に結婚式に多額の費用を投じるインドのウエディング市場はとても魅力的な領域です。

 またゲーム領域でも、Mech Mochaという会社に投資しました。インド全体としてモバイルゲームのマネタイズは今後の課題ですが、創業者が優秀かつ、有力VCのAccel等と共にバックアップしており、既にインドでは良いポジションを築いています。インドのゲーム市場においては特に、我々がこれまで培ってきた知見が活かせると思っています。

―投資先とアカツキとのシナジーは必要不可欠なのですか。

小川:そんなことはありません。我々が目指しているファンド像としては、エンターテインメント領域にフォーカスしたグローバルファンドです。エンターテインメントは、日本が世界で通用する限られた領域の一つです。漫画をはじめとした日本が得意とするストーリーテリングが、世界中の人々に感動やワクワクを届けています。

 アカツキ自身もより一層グローバルに成長していきますが、AET Fund単体としても、エンターテインメント領域のスタートアップに投資し、投資先のバリューアップに貢献して、「ここから投資を受けたい」と思ってもらえるようなポジションをグローバルで確立していきたいと思っています。

エンターテインメント市場をスタートアップと共につくっていく

―最後に、インドスタートアップとAET Fundの今後の展望について聞かせてください。

河村:スタートアップと共にインドのエンターテインメント市場を開拓、拡大していきたいと考えています。インドでエンターテインメントというと今日ではほぼボリウッド映画一択になりますが、そのオプションをどんどん増やしていきたいですね。

 アプローチは大きく二つあって、一つ目は世界には存在していてインドにまだないもの・未熟なものを発展させる方法と、二つ目はインド発の新しいエンターテインメントを創る方法です。

 一つ目は、例えばこれだけインド人は歌を歌うのが好きなのに、インドにはカラオケボックスがなかったりするのでそのカラオケチェーンを一緒に立ち上げたいと考えています。もちろんゲーム領域もまだまだ伸びしろがあります。

 二つ目はインドからTikTokのようなサービスを創造・展開したいと考えています。正直それが何かは今は分かりませんが、今後現地のスタートアップと協業し、それが何かを見極めていきます。中国が成し遂げているように、インド発グローバルエンターテインメントも必ずあります。

 エンターテインメントは人々をワクワクさせ、人生に彩りを添える素晴らしいものだと信じています。今後インドの社会が豊かになるにつれ、この領域も大きく伸びるはずです。AET Fundは今までグローバルで培ったエンターテインメント領域の知見を存分に生かし、その一端を担っていきます。

特集 India x Japan

#1 【日本ユニシス】インドはデジタルトランスフォーメーションが最も起こりやすい国

#2 【アカツキ】インドのエンターテインメント、ライフスタイル市場に注目

#3 日本発プログラミング学習サービスProgate、IT大国インドへ挑戦

#4 【Sansan】日本発の名刺アプリがインド進出を決めた理由

#5 インド工科大学で『知るカフェ』5店を運営する日本人経営者



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