2005年に設立されたサンフランシスコ拠点の著名VC。Facebookに最初期から投資していたことで一躍その名を広めた。AirbnbやSpaceXなど業界のゲームチェンジャーとなったスタートアップに初期段階から投資していた実績でも知られる。Founders Fund共同創業者のピーター・ティール、Ken Howery(ケン・ハウリー)、Luke Nosek(ルーク・ノセック)は、いずれもPayPal(2002年にeBayが買収)の共同創業者。
目次
・Founders Fundの投資哲学とは
・Founders Fundを特徴付ける3つの要素
・投資家と経営者、「二足の草鞋」で得たもの
・2024年の展望「AIバブルが弾け始める」
・ピーター・ティールについて
Founders Fundの投資哲学とは
―Founders FundはFacebook、Airbnb、SpaceXなど、さまざまな業界でゲームチェンジャーとなったスタートアップに投資してきました。どのような投資哲学が根底にあるのでしょうか。
もし、Founders Fundに唯一無二のルールがあるとすれば、それは創業者が経営している会社に投資するということです。「世代を超えたテクノロジー企業」をつくり、とてつもなく大きなチャンスを物にしようと志す、野心的な創業者に投資することを原則としています。
設立から約20年間の成功事例を振り返ると、Founders Fundが初期投資家に名を連ねたスタートアップには、次世代ロケットのSpaceX、宿泊施設のマーケットプレイスを運営するAirbnb、金融テクノロジーのStripeなどがあり、投資領域はあらゆる分野に及んでいます。ただ、投資先企業には共通点があり、それは「野心的で先見の明がある創業者が設立した」ということです。
このように、私たちは投資対象を特定の業界やテクノロジー領域に絞るのではなく、創業者をよく見て投資するのが特徴です。投資後にCEOをプロ経営者に入れ替えることはしませんし、ムーンショット(挑戦的な研究開発)と呼ばれるような、一見荒唐無稽な技術への投資に尻込みすることもありません。
―なぜ、それほどまでに創業者にこだわるのでしょう。
ある意味、哲学的な側面もあると思います。創業者にはある種の「道徳的権威」(Moral authority)が備わっていて、それ故に、会社が大きく成長を続ける中でも、臆せずリスクを取り続けることができる性質があるように思います。
最近だと、マーク・ザッカーバーグが分かりやすい例として挙げられるでしょう。ご存知の通り、Meta(旧Facebook)のトップである彼は、少し前までメタバースやVR(仮想現実)に大きくベットしていました。しかし、風向きが悪いと見るや、今はオープンソースの大規模言語モデル(LLM)「Llama」やAIにピボットする方向へと転じています。いわゆるプロ経営者では、これほど振れ幅の大きい意思決定はなかなかできません。ザックがこれをできた理由は、彼が会社を掌握しており、まさに彼に創業者としての道徳的権威が備わっているから。そしてこれこそが、並外れたリターンや並外れた価値を生み出す唯一の方法なのです。
今ではこうした「創業者重視」のVCが当たり前になっていますが、2005年にピーター・ティールたちがFounders Fundを立ち上げた当時は、「逆張り」とも言える投資戦略でした。一般的に、創業者が上場後もタクトを握り続けると安定した成長が見込めなくなる、と思われていましたから。
なぜ、当時の常識を覆すような投資戦略を張れたかというと、創業者たちの経験に由来するところが大きいでしょうね。Founders Fundの創業者たちは、基本的にPayPalを創業したメンバーで構成されていますが、彼らはPayPal時代、シリコンバレーの多くのVCがスタートアップのCEOをプロ経営者に入れ替え、その後の経営がうまくいかなくなるケースを目の当たりにしてきました。「プロ経営者を入れると必要なリスクが取れなくなり、会社が尻すぼみしていく」と、当時の経験から学んでいたのです。
TECHBLITZ編集部作成
Founders Fundを特徴付ける3つの要素
―スタートアップの「創業者」が設立したVCだからこそ、創業者の重要性を心得ていたのですね。こうした投資哲学以外にも、Founders Fundを特徴付ける他のVCとの違いはありますか。
いくつかの要素があると思います。まず1つ目は、オペレーションチームを最小限にとどめている点です。最近は、多くのVCが投資先企業に採用、マーケティング、セールスといった「経営のお手伝い」を提供しています。しかし、そういった専門性は本来、スタートアップが自分たちで身に付けていくべきもので、VCからの手助けは言うなれば"松葉杖"のような物に過ぎません。投資家を自負する者として、私たちの仕事はあくまで投資。創業者に会社経営のノウハウを手取り足取り教えることではない、と考えています。
―いわゆるハンズオン支援を強みとしているVCとはスタンスが異なるわけですね。2つ目はどのような点ですか。
2つ目は、扱う運用資金額に対して非常に小規模なチームである点です。Founders Fundは全体の人員数が45〜50人、投資を担うパートナーに限るとわずか十数人です。シリコンバレーの他のVCを見ると、業界ごとに50人規模の投資担当者を擁するような大所帯もあります。
小規模なチームの特徴として、迅速な行動を取れることが挙げられます。さらに、チーム内でそれぞれが全く違う意見を持ち、強烈な意見の相違が起きるという側面もあるんです。ただ、小規模なチームだからこそ、そうした意見の相違を心地良いと思えるほど関係性も深まりやすいので、こうした環境はある意味、生産的でノンポリ的と言えます。しかし、これが100人規模の組織になると話は別です。意見の相違が起きると、それは社内政治の色を帯び始め、正当な議論とはかけ離れてしまいますから。
―組織の規模が大きくなると社内政治に悩まされるのはVCも同じなんですね。他にも特徴的な要素はありますか?
最後にもう1つ。私たちは投資に踏み切る前にある自問自答をします。それは、「なぜ、それが独占的なビジネスになると信じるのか」「なぜ、私たちはこのビジネスが好きで、それ以外の誰もこのビジネスを好きではないのか」というものです。
ほとんどの投資家にとって、これらの問いの優先度は高くないと思います。彼らが自問自答するとしたら、恐らくスタートアップが持つ技術的な強みや市場のサイズについてでしょう。しかし、私たちは投資先のスタートアップが戦う市場が小さくても、その市場において独占的な地位を得られているなら全く構いません。そこから時間をかけて、最終的にはその企業が市場そのものを大きくしていく、というケースを多く生み出しています。
VCの成功は「市場を寡占するスタートアップに初期段階から投資し、多額のリターンを得ること」にあります。しかし、市場そのものが小さいと、他のVCは「うまみ」の小ささ故に投資を見送ってしまいがちです。ただ、実態として、本当に成功するスタートアップは市場そのものを創造するものです。VCとして必要なリスクを取ることができるのも、Founders Fundの強みだと自負しています。
長くなりましたが、元の質問に対する答えを簡潔にまとめると、組織文化、チームのサイズ、意思決定の手法において、Founders Fundはシリコンバレーでも非常にユニークだと思っています。
投資家と経営者、「二足の草鞋」で得たもの
―アスパロウホブさんは、宇宙空間での医薬品製造の実現を目指すスタートアップ、Varda Space Industries(以下Varda)の共同創業者で、現在も社長(President)と会長(Chairman)を兼務しています。スタートアップの経営者とVCのパートナーという「二足の草鞋」ですね。
もともと、私の人生のパッションは宇宙分野にありました。Vardaのように宇宙で医薬品を製造できる企業への投資を考えていたのですが、適切な企業が見当たらなかったのです。幸いにもFounders Fundは、多様なインキュベーションのあり方に寛容なVCで、Vardaの共同創業にも難色を示されませんでした。
実は過去にも、パートナーのTrae Stephens(トラエ・スティーブンス)が防衛テクノロジーのスタートアップ、Anduril Industries(アンドゥリル・インダストリーズ)の共同創業者として同社をインキュベートしていますし、もっとさかのぼると、ピーター・ティールもデータ解析企業Palantir(パランティア)をインキュベートしていた例などがあるんです。
特に重要だと信じているのが、「希薄化(ダイリューション)リスクを恐れないこと」。スタートアップが身を置く業界や業態にもよりますが、一般的に創業者は過剰な資金調達をリスクとして捉えがちです。もちろん、返せなくなるほど多額の資金を抱えるのは良くありませんが、希薄化、つまり創業者の株式比率が低下することで潰れる会社はありません。むしろ、資金調達不足で潰れる企業は非常に多いですが。「昨年もっと投資を受けておけばよかった」と思っても万事休す、という可能性は大いにあります。
市場は生き物ですから、前年の評価額が、その年と大きくぶれることも珍しくありません。パートナーとしては投資の受け入れを渋る創業者に、いかに資金を受け取ってもらえるか、いかに彼らの信頼を得るかが重要だと言えるでしょう。
―宇宙分野への情熱や専門性をお持ちですが、インタビュー序盤でFounders Fundは「業界を絞らず投資する」とありました。その理由を教えていただけますか。
投資対象を特定の業界に絞ると、適切なタイミングで投資ができなくなるリスクがあるからです。例えば、私自身、航空宇宙業界の専門性が高い人間ですが、私が航空宇宙業界の投資だけを担ってしまうと、業界が下火の時も焦って投資をしてしまい、損失を計上することにつながりかねません。マーケットを俯瞰してみる「ゼネラリスト」であることはパートナーの重要な資質です。
image: Varda Space Industries
2024年の展望「AIバブルが弾け始める」
―2023年の市場動向を振り返るといかがだったでしょう。また、2024年の展望は?
2023年は市場に流動性が戻ってきた年でした。2021年は非常に資金調達が容易だった半面、2022年はかなり厳しい状況となっていました。2023年はその中間程度、つまり平常に戻ってきたと言うべきでしょう。
2024年はAIや航空宇宙、防衛産業にとって難しい年になると予想します。これらの業界は昨年のビッグトレンドでしたが、多くの投資家がトレンドに乗り遅れたと感じており、そうした投資家たちは成長に比較的時間がかかるスタートアップに投資する動きを見せています。これはある意味において、AIバブルが弾け始める初期段階を見ていると言えるでしょう。1年前はシリコンバレーの「時代の寵児」のような存在であった生成AIスタートアップのStability AIやCohereが今年に入ってレイオフを実施し、苦戦している状況も伝えられています。
ただ、この狂想曲を乗り越えた本物のスタートアップは長期的に成功するでしょうね。その他の産業については、2023年に続いて平常運転と見込んでいます。
―専門分野である航空宇宙業界の今後の見通しはいかがですか?
すごくホットな状況ですよ。多くの投資家、多くの需要、多くの資本流入があります。このホットな時期を生き残った企業は長期的に成功するでしょう。多額の資金調達と、その資金を使っていかに健全な収益を生み出すビジネスを構築するかが鍵となりそうです。
ピーター・ティールについて
―最後の質問です。ピーター・ティール氏と共に仕事をして、どのような印象や刺激を受けていますか。
ピーターは今の時代を生きる偉大な思想家の1人であり、驚異的な成功を果たした起業家、投資家だと思います。Founders Fundを導く光のような、手本のような存在であり、一緒に仕事ができることに感謝しています。
実は私は、MIT在籍中にティール・フェローシップ(ピーター・ティールが2011年に開始した若手起業家育成プログラム)を受賞し、そこで得たリソースを元手に大学を中退して、ヘルスケア系のスタートアップを起業しました。そうした経緯もあり、彼の長年にわたる指導にも非常に感謝しています。
彼は、疑いの余地なくFounders Fundの「CEO」です(正式な肩書はパートナー)。彼とここで定期的に仕事ができることをとても楽しんでいますよ。
image: Founders Fund HP