宇宙ビジネスは「宇宙ホテル」や「火星旅行」などツーリズムと結び付けられるが、実のところ、巨額な利益を生み出すのは製薬分野かもしれない。Varda Space Industries(本社:米国カリフォルニア州、以下Varda)は、医薬品のような微小重力環境での生産が適している製品を宇宙空間で生産し、地球に帰還させるというビジネスモデルを掲げるスタートアップ。「宇宙の製薬工場」という試みに注目が集まる同社の共同創業者でCEOのWilliam Bruey氏に話を聞いた。

William Bruey
Co-Founder & CEO
Cornell Universityで応用物理学学士号、システム工学修士号を取得後、Space Xに入社し、アビオニクスのハードウェア開発エンジニアおよびシステムエンジニアとして従事。その後、Bank of America Merril Lynch にて、グローバル・エクイティ・テクノロジーのディレクターを務めた後、Founders FundのDelian Asparouhov氏、Daniel Marshall氏と共に2020年11月、Varda Space Industriesを設立。CEOに就任し、現在に至る。

異なる重力環境なら「ユニークなこと」が可能

 Bruey氏は、Cornell Universityで応用物理学学士号、システム工学修士号を取得後、Space Xに入社し、アビオニクス(Avionics)*のハードウェア開発エンジニアとシステムエンジニアとして従事した。Space Xでは、有人宇宙船を国際宇宙ステーション(ISS)へと打ち上げるプロジェクトなどに携わった。※AviationとElectronicsから作られた造語。日本語では「航空電子機器」。

 起業を見据えてSpace Xを退社し、投資銀行でM&Aなどについて学んだ後、ベンチャー・キャピタル(VC)のFounders FundのDelian Asparouhov氏、Daniel Marshall氏とパートナーを組み、2020年11月にVardaを立ち上げた。同社のビジネスモデルは、地上では生産できない、あるいは微小重力環境が適している製品を宇宙で生産すること。つまり、「宇宙工場」を構築することだ。

「宇宙で何かしらのプロダクトを製造するというアイデアは以前からあるものです。地上とは異なる重力環境で製品を生産できれば、地上では出来ないようなユニークなことが可能です。しかし、打ち上げコストやロケットのコストが下がったのは最近のこと。そして、ロケットが頻繁に打ち上げられるようになったことで、私たちは微小重力環境を利用したビジネスを『衛星打ち上げビジネス』の上に構築することが出来るようになったのです」とBruey氏は語る。

image: Varda Space Industries

 同社のプラットフォームは「宇宙船(衛星バス)」、「製造モジュール」、製品を地球に届けるための「再突入カプセル」(大気圏に再突入して着陸するためヒートシールドで保護されたカプセル)で構成されており、そのうち宇宙船は米ロケット開発企業Rocket Labから購入。衛星バスに搭載する製造モジュールと、再突入カプセルをコア技術として自社で開発している。

 従来の再突入機は、人間を念頭に置いて作られているため、宇宙飛行士のための生命維持システムといった設備が必要となり、多大なコストがかかっていた。それに対し、同社が開発した再突入カプセルは、人間が搭乗しないため、コストを大幅に下げることが出来るという。

 Vardaは、Rocket Labが設計・製造した宇宙船「Photon」を既に4機購入している。2023年6月12日にはSpace Xのロケット「Falcon 9」の打ち上げが成功し、積荷の1つであったVardaのカプセルも初めて地球の軌道上にたどり着いた。電力や通信機器、高度制御などは、実際に軌道上を飛んでいる宇宙船から提供される。最初のテスト・ミッションが成功すれば、製薬会社に代わって衛星バスを軌道に定期的に送り込むことになる。Bruey氏によると、「Made in Space」の医薬品が一般消費者の手元に届く日は10年以内に到来するという。

image: Varda Space Industries

「宇宙工場」で医薬品に特化する理由

 宇宙で生成されたタンパク質の結晶は、地球で生成されたものに比べて高品質であることは、すでに広く知られている。微小重力環境では、光通信ケーブル、半導体、医薬品といった製品がより高品質に生産されることが期待されているが、同社はその中でも医薬品に焦点を当てている。

「私たちのビジネスモデルは地球と宇宙を往復する必要があり、一般的な工場と比べると費用は高価です。私たちが医薬品に特化する理由は、キロ当たりの単価が最も高く、製薬業界は巨大な市場を持っているからです」とBruey氏は説明する。

「宇宙で医薬品を製造する上で、顧客にとって最も素晴らしいことは、他では手に入らないユニークな製剤を手に入れられる可能性があるということです」

image: Varda Space Industries

NASA、米空軍との契約も獲得

 同社は過去4ラウンドで5,000万ドル超の資金調達に成功。調達資金は主に、微小重力下環境で低分子の結晶化を行う製薬モジュールの製造、人材の雇用、地上での試験用の遠心分離機への投資などに充てている。

 また、Vardaは昨年8月に、NASAと将来の熱シールドの開発に協力するための提携を発表した。米空軍とは2024年に再突入カプセルを利用した超音速かつ高温下での部品や素材の性能テストを予定している。

宇宙製造の商業的なユースケースに国境はない

 製薬会社は抱える課題や医薬品への需要は、たとえ国が違っても普遍性があり、医薬品を宇宙で製造するという商業的なユースケースに国境はない。Bruey氏はそういった観点から、将来的なグローバル展開に前向きで、日本市場への参入にも意欲的だ。

「具体的な提携相手としては、製薬会社やライフサイエンス企業などに関心があります。製薬会社は通常、ポートフォリオに数多くの分子を有していますが、これらの構造式を改善したり、構造式の問題点を解決して、他社がまねできない唯一無二の分子を提供したいというビジネスパートナーが理想です」

 将来的な展望については、「私たちの成功の鍵は『頻度』にあると考えています。つまり、宇宙での医薬品製造が特別な機会ではなく、頻繁に行えるようにしたい。なぜなら、顧客にとって宇宙に行くかどうかはさほど重要なことではなく、独自のプロダクトを生み出せるかどうかが重要だからです。私たちが競争に打ち勝っていくためには、顧客に対して、それまで地球上に存在しなかった構造式を持つ分子を可能な限り早く届けること。私達の長期的なビジョンは、『宇宙に毎日行って、戻ってくること』です」  

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