Enterprise Singapore Division Directer
Johnny Teo
×
SMU IIE Director
Koh Foo Hau

<モデレーター>
イシン株式会社 常務取締役
松浦 道生
2018年9月、東南アジアのビジネスに携わる日本の上場企業経営者、海外責任者など約140名が参加した完全クローズドイベント「Ishin Startup Summit 2018」がシンガポールで開催された。第1部では、シンガポールのスタートアップエコシステムの概況について、シンガポールの通商産業省の傘下であるEnterprise SingaporeのJohnny Teo氏と起業家育成に力を入れている大学であるSingapore Management UniversityのKoh Foo Hau氏に、大学と政府の両者の立場から語ってもらった。

シンガポール政府・大学が取り組むスタートアップ育成施策

松浦:まず、それぞれの組織の目的や取り組みを紹介してもらえますか。

Johnny:Enterprise SingaporeはシンガポールのMTI(通商産業省)の傘下にあり、地元企業が新しい機会を捉え、グローバル競争力をつけるための支援をしています。破壊的な技術革新や、グローバルで成長のアジアシフトが起こっている中、シンガポールにある企業が潜在能力を発揮し、雇用を創出してもらうため、2018年にInternational Enterprise SingaporeとSPRING Singaporeを統合して新しい組織ができあがりました。シンガポールにおいて、Enterprise Singaporeは企業の成長を助け、貿易や国際化を支援する唯一のエージェントです。

Koh Foo:SMUは起業家育成を手がけている大学で、これまでに卒業生は合計30億ドルものビジネスを創造しています。10年後には60億ドル規模に成長するでしょう。どこかの組織に所属するのではなく、自分で事業を起こしたいという学生が多く、優秀な学生を集めていると自負しています。2019年夏には日本にも拠点を構え、多くの学生を呼び込みたいと考えています。

いくつかの取り組みを紹介させてください。

・RAINクラブ:エンジェル投資家に助言をもらったり、実際にサポートや投資をしてもらえるネットワークを世界で初めてつくりました。メンバーになるとトレーニングや経済環境のセミナーへの参加資格を生涯持つことができます。

・2000 BEST BRAINS:1年に2回、MITなど世界中から大学生が来て、プレゼンテーションのコンペをしています。

・イノベーションセンター:Fort Canningに最先端のイノベーションセンターを建設しています。2019年末までに完成予定で、100社以上のスタートアップが入る予定です。コンペ、インキュベーション、トレーニングなども実施していくつもりです。

シンガポールでスタートアップが急増した背景

松浦:シンガポールのスタートアップを取り巻く環境はどう変化していますか。

Johnny:シンガポールは東南アジアでスタートアップハブとしての存在感を高めています。2003年には2800社だったスタートアップ企業は4000社あまりに増えています。ユニコーン企業も出てきました。これは強いコミュニティがあるからできることで、政府の支援、SVCや投資家、SMUをはじめ大学といったエコシステムが機能しています。企業はシンガポールに進出すれば、エコシステムに簡単に入ることができます。規模が小さいのでネットワークも築きやすいですし、シンガポールからアジア各国にビジネスを拡大するのに絶好の場所です。

 インフラについてはイノベーション地区があり、800のスタートアップが拠点を持っています。One Northのインキュベーターも満室になっています。フィンテックのスタートアップイベント、コミュニティタイプのものも多数開催しています。共同投資の枠組みなどもあり、10年くらい前から政府がプライベートセクターと動き始めて、いくつか成功企業が出てきています。

松浦:どのような方針で人材育成を手がけていますか。

Koh Foo:変化の速い時代なので、今計画を立てても、10年後には環境が変わっています。毎年シナリオプランニングをし直して、いくつかのシナリオを想定し、どれかが当てはまるのではないかと考える必要があります。こういった変化の激しい時代に対処するには、起業家精神が必須です。

 学生たちには、全員が起業家になりたいというわけではなくとも、起業家の思考を持たせるということ、予期できない環境にどう対応していくかを考えさせたいと思っています。自分たちでリソースを探し、解決策を探していくことが大事です。大学の中で、アイデアを実際に実行していくこと、自分たちでお金を投資して責任を持って何かをやってみるという取り組みもしています。

シンガポールに合ったエコシステムを作り上げる

松浦:シンガポールにとってモデルになる国はありますか?

Johnny:私たちの建国の父、リークワンユーはとてもプログラマティックな人です。どこからも学ばず、シンガポールコンテクストに合うものを作り上げていくのが私たちの方針です。もう1つの中国にはなれないし、他の真似ではなく独自のものを作り上げていきたいですね。

松浦:最後に、日本企業や日本の投資家にメッセージをもらえますか。

Johnny:シンガポールは強みを生かしてエコシステムを伸ばしていくことができると考えています。JETROとネットワークをつくる活動もしています。シンガポールのエコシステムにご関心があれば、ぜひ連絡をください。私が直接お話ししたいと思います。

Koh Foo:優秀な人材を探しているのであれば、人材のパートナーとして我々を活用してください。学生たちは若くて野心的で才能があります。またエコシステムとのつながりがあるので、イノベーションのパートナーになることができます。研修プログラムなども提供できますね。



RELATED ARTICLES
「自前主義」からの脱却 出光興産が海外を見る理由
「自前主義」からの脱却 出光興産が海外を見る理由
「自前主義」からの脱却 出光興産が海外を見る理由の詳細を見る
「大学のまち京都」が生んだ、個性豊かな京都の大学発スタートアップ
「大学のまち京都」が生んだ、個性豊かな京都の大学発スタートアップ
「大学のまち京都」が生んだ、個性豊かな京都の大学発スタートアップの詳細を見る
小野薬品とパナソニックホールディングスに聞いた「大企業のイノベーション思考法」
小野薬品とパナソニックホールディングスに聞いた「大企業のイノベーション思考法」
小野薬品とパナソニックホールディングスに聞いた「大企業のイノベーション思考法」の詳細を見る
シリコンバレーでMUFGが取り組んでいること:「MUFGをソフトウエアカンパニーに」
シリコンバレーでMUFGが取り組んでいること:「MUFGをソフトウエアカンパニーに」
シリコンバレーでMUFGが取り組んでいること:「MUFGをソフトウエアカンパニーに」の詳細を見る
ロールモデルはフランス? 経産省担当室長が語る、日本のスタートアップ推進の今
ロールモデルはフランス? 経産省担当室長が語る、日本のスタートアップ推進の今
ロールモデルはフランス? 経産省担当室長が語る、日本のスタートアップ推進の今の詳細を見る
新規事業育てたSOMPOの成功要因とは 「オープンイノベーションの猛者」が、今なお肝に銘じる教訓
新規事業育てたSOMPOの成功要因とは 「オープンイノベーションの猛者」が、今なお肝に銘じる教訓
新規事業育てたSOMPOの成功要因とは 「オープンイノベーションの猛者」が、今なお肝に銘じる教訓の詳細を見る

NEWSLETTER

TECHBLITZの情報を逃さずチェック!
ニュースレター登録で
「イノベーション創出のための本質的思考・戦略論・実践論」
を今すぐ入手!

Follow

探すのは、
日本のスタートアップだけじゃない
成長産業に特化した調査プラットフォーム
BLITZ Portal

Copyright © 2025 Ishin Co., Ltd. All Rights Reserved.