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いよいよ来週に迫った「Silicon Valley - New Japan Summit」。昨年も「日本企業のシリコンバレー活用」をテーマにスタンフォード大学に約500名が集い、2日間に渡ってサミットを開催した。今回はサミットを直前に控え、昨年の基調講演「アルゴリズム革命のディスラプションとシリコンバレー経済圏の「活用」に向けて」を振り返る。

※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit 2017」の基調講演『アルゴリズム革命のディスラプションとシリコンバレー経済圏の「活用」に向けて』を構成したものです。

かつては日本企業もディスラプターだった

 「シリコンバレーがもたらすディスラプションと、経済圏の活用に向けて」というテーマでお話しします。まず世界のディスラプターについてお話します。ディスラプターっていったい何かというと、技術の方向性を決める存在です。ご周知の通り、70年代、80年代は日本がディスラプターでした。当時はアメリカがもっていた先進的な発明を日本が商用化したわけです。そして新しいカテゴリーキラーを作り上げていった。ソニーのウォークマンのように、それまでの大きなテープレコーダーを商品カテゴリーの定義自体に欠かせない録音機能なしで、あんなに小さくして持ち歩けるようにしました。製品の小型化と再定義です。このように日本が世界の技術の方向性を定める時代もあったのですが、最近はシリコンバレーです。ボルボが「ガソリンエンジンをあきらめます」と発表しましたが、その社長のインビューでは「テスラの存在が決定的だった」と語っています。

 ディスラプターは技術の方向性を定めるだけではなく、業界や競争の構図を大きく変える存在でもあります。例えば日本がディスラプターであった時代には、トヨタ、東芝、富士通などの商品がハイクオリティーとロープライスで世界に溢れ、世界が日本にアジャストしなければなりませんでした。そうしないと置いていかれてしまうからで、実際に数多くのアメリカの老舗企業は淘汰されました。ところが現在では、アマゾン、グーグル、アップルなど、IT業界が世界の経済を牽引しています。日本企業がアジャストしなくてはならない状況です。

 ディスラプターのもう1つの役割が、生産パラダイムを作り変えるということです。トヨタのリーン方式は世界の製造業において革命的でした。在庫保留を劇的に減らせるだけではなく、製造現場の社員からのカイゼンといった下から上への情報の流れは決定的な競争の優位性を作り出しました。しかし淘汰されずにその後にアジャストしたシリコンバレーの企業が付加価値の創出方法を大きく変えました。インテルはパソコンの心臓部だけを抑えた“Intel inside”のプラットフォーム戦略、シスコのような大量のM&Aと外注委託生産、そして復活したアップルのDesigned in California, Assembled in Chinaで日本の製造業の強みに対抗し、世界の大きな流れとなっています。

シリコンバレーから黒船がやってくる

 シリコンバレーがディスラプターとなっているということは、言い換えるならば、これは日本にとっては「シリコンバレーから黒船がやってきた」ということであります。そしてこの黒船の大きな特徴とは、既存の業界の境界を打ち破るイノベーションであるという点です。

 例えば、携帯電話、カメラ、ビデオカメラ、ポータブルゲーム機、POS端末、スキャナー、複写機、電子書籍リーダー、あらゆる周辺機器専用ディスプレイ、さらに温度計、懐中電灯、振り子、タイマー、など、それまで別々の業界で、それぞれ異なる企業が世界のマーケットシェアを争っていました。しかし、スマホの登場でそれぞれの製品やサービスが一気にスマホの中に入り、競争の姿が激変し、既存の企業は大打撃を受けました。これからAIがありとあらゆるものの中に入ってくると、現在の業界はどこまでどのように変化することになるでしょうか。

 ところで日本の企業の中には、シリコンバレーの企業は「ネット企業である」という勘違いをしているケースが多くみられます。日本のメディアではアマゾンのWhole Foodsの買収を「ネットからリアルへ」という表現もありましたが、これは大きな誤解です。アマゾン、グーグル、マイクロソフトなどは巨大設備投資を土台にした企業体であり、グーグルは世界でもっともコンピュータを作っている会社です。しかも半導体まで自社で設計しているわけです。

 アメリカの企業の時価総額ランキングを見ると、2016年の時点でアップルやアルファベット、フェイスブックなどシリコンバレーに拠点を持つ企業が上位に並び、同時にアメリカ企業の保有キャッシュも右肩上がりに推移し、キャッシュ保有もこれらシリコンバレーの企業が世界のトップに並んでいるのが見て取れます。いかにこの地が、アメリカ経済を牽引し、世界中から莫大な富を急速に集めているのかがわかると思います。

 ここまでのお話でお気づきになられたと思いますが、アメリカ経済を牽引している企業はFAMGAです。F(フェイスブック)A(アップル)M(マイクロソフト)G(グーグル)A(アマゾン)、なんとこの5社だけで、TOPIXの時価総額の46%を占めています。シリコンバレーはスタートアップの聖地として広く知られていますが、実際には世界トップの巨大資産を持った大企業の集積でもあるのです。

「両利きの経営」の必要性

 シリコンバレーの黒船たちが先導する世界経済の流れの中で、日本企業はどのようにして生き残っていけばいいのか。それが2番目のトピック「両利きの経営」です。

 まず主力となる本業を「利き腕」とします。こちらは既存の方向性でイノベーションを図りながら伸ばしていく必要があります。今までは、これだけでよかったのです。しかし業界という枠組みが崩れ去ろうとしている現在、企業がしなければいけないことは、「利き腕ではない方の腕も同時に伸ばす」ということです。これは既存の評価軸とはぜんぜん違う物差しで評価しなければいけないし、違うロジックで社内も動かさなければいけません。まさにシリコンバレーとの付き合い方にもつながってくるわけです。ディスラプションがきて、本業が著しくそぎ落とされるようなことになったら、何に頼るのか? 次のディスラプションに備えて新しいバリューを作らなければならず、本体のリソースは欠かせません。いろいろなものを効率化させてコストを減らすのは利き腕、新たな付加価値を作るのは、利き腕でない方で鍛えていかないといけないのです。

シリコンバレーから見える、すぐそこまで来ている革命

 今起こっている革命の基本的に根底にあるのは、情報の蓄積能力と処理能力の進化。これは人類史上ずっと希少リソースだったからコストも高かったのです。豊富なリソースがある時代になったのはごく最近のことです。人類史上、希少リソースだったものが豊富にリソースに変わった時には文明が大きく動きました。例えばエネルギーのリソースでは、古代メソポタミア文明ではエネルギーは薪を切るしかなかった。すばらしい文明でしたが、木を伐り過ぎて森がなくなり、砂漠となる気候変動になって滅びました。薪よりもエネルギー効率がいいのは石炭で、石炭よりもエネルギー効率がいいのが石油です。我々の現在の文明は石油の上にずいぶん乗っかっています。豊富に使えるので人類は大きく進歩しました。でも石油はどこで採れますか? 中東に集中してましたよね。石油という人類にとって重要なリソースが集中的に中東で取れなければ、中東各国の莫大な富と世界経済への大きな影響力は考えられません。

 こうしたことが今、コンピューティングパワーでの分野でも起こり始めています。グローバル規模のクラウドコンピューティングで世界中の誰でもが豊富に安いプロセシングパワーを活用できます。でもそれを提供していて、技術的なフロンティアにいるのはシリコンバレーの一握りの企業です。だからシリコンバレーや、重要な開発の拠点がシリコンバレーにあるアマゾンなどに富が集中しているのです。

 そして何よりも、豊富となったプロセシングパワーが、これから出てくるいろいろな技術や、根底ではコンピューティング技術とセンサー、プラットフォームによって人間の活動をキャプチャーして、その活動をトランスフォームするものです。これを私は「アルゴリズム革命」と呼んでいます。AI、IoT、Fintech、Blockchain、Sharing Economy、Platform、Cloud Computing、Edge computingなどはアルゴリズム革命の上に乗っているものなのです。これからはどんな分野でもアルゴリズム革命の上に乗っていかなければ成り立たなくなるでしょう。

人間の活動を自動化する分野こそ、これから飛躍的に伸びる

 人間の活動をアルゴリズムで表現すると、人間にしかできなかった活動というものは、どんどん生産性が上がるわけです。それでもまだ初期は人間が中心にいます。でも最終的には完全に自動化されることになります。人間にしかできない活動を全てリストアップしてみましょう。例えば散髪はまだロボットには無理ですよね。少なくとも私はまだ怖いです。でも数年前なら車の運転というのも含まれていましたが、もう可能になっていますよね。最初のまだ人間ありきの運転で、ある地点からある地点まで行くには、ルートが最適化され、ライドシェアでウーバーのように人間一人あたりの生産性が上がっても、まだ人間の時間が必要でした。しかし完全に自動化されれば、その人間も時間も別のことに使えます。

 1960年代に著名な経済学者、William Baumolが「サービス業の生産性が上がらないので、経済全体に占めるサービス業の割合が上がるにつれて経済の足を引っ張る」という有名な論文を書きました。しかし、アルゴリズム革命によってサービス業もどんどん生産性を上げることができるようになっていきます。例えば服を折りたたむ、これは未来永劫自動化できないだろうとBaumol博士は書いていましたが、日本のセブンドリーマーズというスタートアップが冷蔵庫サイズの服の折りたたみ機械を作っています。人間の活動を完全に自動化するサービスやツールはこれから伸びます。シリコンバレーのトップクラスのベンチャーキャピタリストは場外ホームランだけを狙って投資するわけですが、一番スケールするのは、人間の活動を完全に自動化するものなので、そういったサービスや仕組みにどんどん資金が集まるわけです。

 AIはこの「人間の活動の自動化」を劇的に加速させています。人間の活動を飛躍的にキャプチャーしやすくさせるからです。アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスが2017年に株主総会で言っていたのは、「ここ数十年で人間の活動はソフトウエア・プログラマーによって明確なルールとアルゴリズムで表現されることで自動化されてきた。しかし、最新の機械学習の技術を使うと、明確な表現が難しい活動をもキャプチャーできるようになる」というものです。

 ところでAIって何かというと、実はパターン認識なのですね。因果関係はわからないんです。パターンがわかればそれをキャプチャーして、それを人間の活動に置き換えることができます。今、飛躍的に伸びているAIの最も分かりやすい例は、グーグル傘下のDeepMindです。DeepMindの囲碁プログラムAlphaGoが2016年に世界チャンピオンを3勝1敗で破り、世界に衝撃を与えました。AlphaGoはまず囲碁のルールを教わり、それから過去の対戦データを大量に入力して、それから何億回も自分と対戦しながら強くなったのです。しかし新しいバージョンAlphaGo Zeroは、ルールだけを教わり、過去の対戦データ無しで、自分と対戦して進化していきました。そしてAlphaGoに比べてはるかに短期間に、そして自分との対戦数が桁違いに少ない状態でAlphaGoと対戦させたところ100勝0敗という勝利を収めました。圧倒的に強くなっているのです。これはAI革命の序章に過ぎません。技術が今突き進んでいる速度があまりにも速いのです。

シリコンバレーは秘密主義とオープンさが共存している

 ちなみに、いったん余談に入りますが、シリコンバレーの面白いところの一つは、シリコンバレーが秘密厳守主義である一方、オープンになるものがある程度ないとわからせることができないので一部を公開しています。グーグルにもGoogleXという秘密研究所がありますが、具体的には何をやっているのかわかりません。アップルの次期製品でもサプライズをいつもやるじゃないですか。でもグーグルがDeepMindをお金だけで買ったわけでは決してありません。DeepMindの創設者は中学、高校生の時点で世界的なチェスのチャンピオンだったという天才なのですが、グーグルが歩み寄って、「我々のコンピューティングリソースと資金リソースを使ってもらい、一緒によい未来を作っていきましょう」という説得も必要だったらしいのです。ある程度は自社のビジョンやリソースを共有しないと、お金だけでは仲間に入ってくれません。従って、何でも秘密というわけではないのです。秘密厳守主義とオープンイノベーションとの絶妙なバランスでシリコンバレーは回っています。

DeepMindの本当の衝撃

 もっと重要なニュースがあって、なんでもっと大きく取り上げられなかったのかわからないのですが、グーグルが2016年DeepMindを自分のデータセンターの空調オプティマイゼーションに活用しました。その数年前の試算によると、グーグルのデータセンターは一時期、全世界の電力消費量の0.01%も使っていたのです。ものすごい量の電力です。そこにDeepMindにAIで空調のオプティマイゼーションをやらせたわけです。そうしたらなんと空調の効率を40%も向上できたのです。消費電力も15%減らすことができました。

 しかし、これはまだ衝撃ではありません。グーグルはもちろん、その自社のデータセンター全てをこのプログラムで効率化しているはずです。でもまだこのDeepMindのツールはグーグル社内のみのものです。衝撃はこれからです。例えば月10ドルで誰でもこのDeepMindのプログラムを使えるようになったらどうなりますか。歴史的には文明の発展というのは、一部の人しか使えなかった先端の技術が広く普及し、誰でも安価で使えるようになったことで大きく進展しています。今、まさにそういうところにきています。直前です。こんなことができるんですか、ということがこれから始まるわけです。

これから想像もつかなかったものが来る。来た瞬間にアジャストせよ。

 安い価格で誰でもDeepMindを使えるとなったら、企業をどう変えられるのか? 誰が変えられるのか? 受け身だと負けます。もちろん物流やロジスティックスは効率化できますが、恐らく最もインパクトがあるのは我々が今考えていない領域で活用することでしょう。技術の発展の文明の進化はそういうものです。事前に想像していなかったものが来るのが、世の常だからです。次に何が来るのかわからない状態で、来た瞬間にアジャストをいかに早くできるか。そこが企業が生き延びることができるかどうかの分かれ目になります。

 豊富なコンピューティングリソースの時代がどれくらいすごいかというと、グーグルは1000億円級のデータセンターを世界各地に保有していますが、そのデータを2~3年で完全に入れ替えています。

 近年、プロセシングパワーが希少リソースから豊富なリソースへと変わったわけですが、さらに2007年頃から急展開を迎えました。例えばスマートフォンの到来です。センサーの価格を劇的に下げるナノテクとマテリアルサイエンスも急発展しました。ムーアの法則は皆さんご存知だと思いますが、これは18か月毎に半導体に乗るトランジスターの数が倍増するというもので。倍々ゲームというのは、普段の私たちの暮らしの中ではあまり経験することではないので過小評価しがちですが、どれくらいすごいのでしょうか? チャートにするとずっとフラットで、あるところまで行くとバンッと跳ね上がるわけです。歴史を振り返ると、1880年代に機械式計算機が発明され、それまでは手で計算する以外の方法がほとんどありませんでした。1955年のIBMの初期のスーパーコンピューターはメモリが10キロバイトでした。随分少ないですよね。先ほど私のパソコンのファイルを見たら、エクセルファイルの50人分くらいの講演申し込みファイルの容量です。3年後の1958年にはスーパーコンピューターの容量が1.5倍になりましたが、そのコンピュータの大きさはサッカー場の半分くらい、重さは275トン。もっと驚いたのが、1969年に人類を月に送ったアポロ計画のメインシステムは、いわば我々の文明の最高到達点の一つで、ちょっとでも間違えたら宇宙飛行士たちは月面に到着できないばかりか、生還できなかったのは明らかです。でも人類を始めて月に送ったNASAの中央制御システムがどのくらいの情報処理能力を持っていたかというと、なんと1983年に発売された任天堂ファミリーコンピューターと同じくらいの能力でした。そして1985年に世界で最も早いスーパーコンピューターは「Cray 2」というのものだったのですが、それは2014年発売のiPhone6はその6分の1の処理能力でした。しかも「Cray 2」は世界に数台しかなかったのですが、スマートフォンの出荷台数2015年だけで15億台です。

 もう少し数字を並べてみます。1971年のインテルの最初のマイクロチップと2016年のチップを比較すると3500倍のパフォーマンス向上、90000倍の電力効率アップ、60000倍のコストパフォーマンスアップとなります。数が大きすぎてピンと来ないと思いますので、1971年のVolkswagen Beetle のパラメーターが同じように倍々ゲームでパフォーマンスが上がっていったらどのようになるかを考えてみましょう。インテルの人が計算したのです。すると2016年モデルは最高時速3000mp/h (4828kph)、燃費が1gallon で 2,000,000マイル (300万キロ)、そして価格は4セントとなるわけです。それが2016年なので今年のモデル(2018年)は9000キロ出るということです。しかも価格は半額の2セントです。こういうことが半導体の世界で起きているのです。

 でも皆さんの会社のシステムは、こんなに劇的に速くなっているような気がしないじゃないですか。それはそうで、例えばこんなに速い車があっても今の都市設計では走らせることはできません。それと同じことで、今の基幹システムを総取り替えして新しいシステムをもってくるというのは、昔の設計のままではできないのですね。ただしアマゾン、アップル、グーグルなどは、このフロンティアをさらに進めています。

 こうした豊富なコンピューティングリソースでどのような変化が起こるのか。今まで測れなかったものが測れるようになります。例えば車の運転の仕方などでグッドドライバーか、バッドドライバーかがわかる。バッドドライバーと判定されると保険料が随時上がるようにすれば気をつける人が増えるので、事故も減る。航空会社のカスタマーサービスや機内の快適度合いなども、今まではクチコミなどでしか評価できなかったものが測れるようになる。乗客の人たちのストレスレベルを測って、そのデータを解析すれば、どれくらい快適に過ごせたかがわかります。そうすると価格競争だけではなくて、クオリティを反映させた競争にもなっていきます。基幹ITシステムはそう簡単にはいじれないので、じゃあデータをパラレルで安いプラットフォームに乗せて分析の対象にして、新しい価値を創造する。まさにそういうことをシリコンバレーでさまざまな企業が実践するタイミングに来ているのです。科学的でないことより科学的な方がいいわけですから、どんどんいろいろなものを測りましょうという時代になってきています。

 ちなみに非常に重要なAIの考え方の一つですが、コンピュータサイエンスの開発のパラダイムは、人を置き換えるAIと、人の能力を伸ばすAI、これで初期の頃から枝分かれしています。ですから今スキルが低い人でも、ハイエンドの人たちと同じことができる仕組みづくりも進んでいます。こういうパラダイムというのは、あらゆるところに存在します。例えば肺炎という病気はお医者さんより機器の方が正確に診断できるとするならば、機器による診断は他の人に任せて、お医者さんはその時間でもっと価値が高いことをした方がいいとなるでしょう。そういう仕組み作りがこれからさまざまな分野で出てきてきます。

スタートアップを買う大企業がいるから生態系が成り立つ

 シリコンバレーはエコシステム=生態系なのでいろいろな特徴があります。そのすべてを説明している時間がないのですが、2つ重要なものについて述べます。1つが「失敗も貴重な経験として評価する文化」です。上手な失敗をすればプラス評価となり、上手じゃない失敗をしたらゲームオーバーです。これは失敗が上手だったか下手だったということを見定めるところからきます。ただ単に失敗はダメ、という減点主義ではないのです。2つ目の生態的特徴が「大企業群とスタートアップ企業群の共存」です。ベンチャーキャピタルは一番伸びるところ以外は潰すか売るしかなく、数としてはM&Aで売る企業はIPOさせる企業よりも桁違いに多いのです。なので、買い手がいないとベンチャーキャピタルの投資戦略自体が成り立たないのです。新しい企業を買ってくれる大企業がいるからこそ、スタートアップのエコシステムが成り立つのです。

中途半端なコミットメントならば、やらない方がいい

 そしてシリコンバレーを活用するキーポイントは何かというと、上層部と中間層の理解、連携です。そのためには仕組みが必要ですが、形だけではうまく動きません。日本企業のメリットを活かせるチャンスはまだまだありますが、ただ中途半端なコミットメントだとうまくいかないばかりか、風評被害になってしまうこともあります。数年いて、「すみません本社に戻りました」、しばらくして「また進出してきたのでよろしく」。でもこっちの人は、ずっといるわけですから「何やってるの、あの企業」となってしまいます。中途半端なコミットメントでは上手くいきません。

 シリコンバレーを活用するにあたっては、豊富なプロセッシングパワーの時代に沿ったものなのか、それとも豊富なプロセッシングパワーにいずれやられるようなものなのか。それをあらゆる領域で考えるべきだと思います。来たるべき、誰でもDeep Mindのツールのようなものが使えるようになる時代。そうなったら社内の誰がどのように使うのか? 専門部隊というのは、専門ではない部隊をエンパワーするための部隊ですね。どのようにエンパワーして、どのように伝えるか。それを考えることも重要です。



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