人口が急増しており、平均年齢も若い東南アジア。経験豊富な起業家、世界各国のVCのプレイヤーも増え、既存産業を変革するダイナミズムが生まれている。今回は東南アジアで活躍する日本人投資家3名に、現地の投資トレンド、日本企業がコラボレーションできる点などについて聞いた。前編はこちら。 ※本記事は「イシン・スタートアップ・サミット シンガポール2019」のトークセッションをもとに構成しました。

とにかく現地に住む

―投資家から見た東南アジアのエコシステムの特徴、入り込み方について教えてもらえますか。

鈴木:日本は基本的に日本の投資家しかいませんが、東南アジアには世界各国の投資家が集まっています。起業家も母国の大学出身者もいるが、アメリカのトップ大学を出て、ウミガメ的に戻ってきているケースが多いですね。

 エコシステムへの入り込み方は「住む」しかありません。VCの本質は、ローカルのビジネスなので、住んでいることが一つの大きな価値になる。住んでいるからこそ見えてくることもある。特徴もわかっている。

―クローズドな村社会になっているのですか?

鈴木:いえ、クローズというわけではありません。投資家の数自体は足りていないという認識がありオープンではあります。

斉藤:国別に言うと、シンガポールの場合はさらなる産業の高度化を目指しています。スマートネイションの実現を掲げているので、ディープテックやスマートシティソリューション系のスタートアップが多く出てきています。マレーシア、タイだと中所得国からの脱却を目指しているので、Eスポーツやブロックチェーンなどの新産業が起こりやすい。

 インドネシア、ベトナム、フィリピンは社会問題解決的なソリューションがホットです。たとえば、貸金のビジネスでは法定金利がないので、闇金のような業者が低所得者層には月40%の金利で貸し付けを行っているのが現状です。低所得者層の信用情報を公共データ、ソーシャルネットワークから集め、月10%の金利で貸金をしているスタートアップは非常に大きな需要があり、ユーザーは喜んで借りています。

 東南アジアのエコシステムの入り込み方としては、エグジットした起業家がより新しいスタートアップの情報持っていたりしますので各国のキーパーソン(起業家)と頻繁に連絡をとりあっています。あとは財閥系のファミリービジネスの創業者の息子などですね。そういう人たちと飲み歩いているといいことがあります(笑)。

堀口:日本企業には期待が大きく、日本から学びたいと思っている起業家は多い。相談されるときにしっかりとした答えを返してあげる、汗をかいてあげるとか小さい積み重ねが評判として回る。相談を受けたときは、ある意味試されていると思ったほうがいい。小さな期待に応え続けることでエコシステムに十分には入れると思います。

「日本企業は意思決定が遅い」は共通認識

―東南アジアのスタートアップは日本企業をどう見ていますか?

鈴木:日本企業に期待しつつも、日本企業は意思決定スピードが圧倒的に遅い。「会議の雰囲気は良かったけど何も進まないよね」となることが多い。投資については社内でしかるべき意思決定プロセスを踏まないといけないのはわかりますが、いいスタートアップは他のVCが放っておかないので、検討に半年とか1年とかけている間に株価が3倍くらいになってしまうこともよくあります。できれば投資可否は3か月以内くらいで判断してほしい。

 あとは、投資する前に、まずスタートアップのサービスを使ってみるなどして、共に働く中での相互理解をしておくのがいいのではないでしょうか。「はじめまして」でいきなり結婚を申し込むのは離婚リスクが高いですよね。まずは関係構築をしていきましょうと。そのときに、はじめからシナジーを求めすぎないことも大事だと思います。サービスをまずトライアル使ってみてフィードバックしてほしいというときに、日本企業は使う前から色々な数多くのハードルがあったり、多くのリクエストを付けるということが多いと思います。

堀口:日本企業は「純投資はしない」とよく言います。事業的にシナジーがないと、お金を入れられないと。そうするとPoCから入るのですが、要件定義に数か月かかります。社内で結果の検討がはじまり、経営会議が1年後ということもざらです。

 大企業の意思決定プロセスを変えるのは難しく、仕方ない側面もありますが、1つアドバイスできるとすれば、PoCの前にコンバーティブル・ノートで入れてもらうといいかもしれない。PoCのコストを手弁当でやるとつらくてスタートアップ側も萎えてしまうので、PoCがうまくいったらエクイティに転換する、スタートアップが問題でうまくいかなかったら返してもらうよ、というやり方にするといいのではないでしょうか。

鈴木:日本企業はなんでも自前主義で、外部と連携しないという傾向もあります。かと言ってスタートアップに関してはアンテナを張っていきたいと今なりつつあります。ただ彼ら自身は、スタートアップのことをわからないので、結果的にリサーチをサポートしてくれるコンサル会社に結構な金額払っています。ただ結局そのコンサルが我々ファンドに話を聞きに来ている(笑)。宣伝するわけではないですが、ファンドに間接的に出資して、情報を広く集めてから投資するというやり方もあり得るでしょう。投資となるとすぐにCVCをつくりますとなるが、VCへの出資を通じてコネクションや情報を得るという方法がある。アメリカのファンドには投資していたりするので、アジアにも投資するとスタートアップ企業への理解が深まるのではないでしょうか。

まずはやってみる、コミットメントを示す

―最後に、日本企業へのアドバイスはありますか。

斉藤:先ほど「いきなり結婚」ができないという話があり、それはわかるのですが、といっても結婚をズルズル延ばしていると起業家側から嫌われてしまいます。ですので、お金でコミットメントを示すのは大事です。起業家にしっかりと寄り添う形でコミュニケーションをとりコミットメントを示していくしかないのではないでしょうか。

鈴木:たしかにリサーチばかりし続けていると声がかからなくなります。少額であればロスしてもしかたないと割り切って一回投資してみる。そこから良い評判ができ、ネットワークが広がりますので、まずやってみることが大事です。

堀口:我々は東証マザーズの箱を使って日本のお金をまず東南アジアに入れようとしています。そうすると日本にブランチが必要になり、日本市場でIRやマーケティングをする優秀な日本人CFOなども必要になる。例えばユニコーンや成長著しいユニークなアジア企業が日本に来て常駐しているとなったら、もっと日本企業との距離感も縮んで組みやすいのではないでしょうか。より一層、東南アジアと日本をつなげるために、これから東証IPOをきっかけに東南アジアの企業を日本に連れてきたいと思っています。

堀口 雄二
Spiral Ventures
CEO & Managing Partner
株式会社リクルートにてグループ経営マネジメント、新規事業開発支援、メディア編集長として総合的なメディアプロデュース及びマーケティングを担当。その後、株式会社アイ・エム・ジェイ(IMJ)に参画し、同社CFOとしてグループ経営、多数の買収案件、売却・事業再編案件及び韓国、中国、ベトナムなどの海外投資業務を担当。2012年に株式会社IMJインベストメントパートナーズ(IMJIP)を日本で設立し、同社代表取締役として日本及びシリコンバレーのベンチャー投資事業を開始。その後、2013年にシンガポールに会社移転すると同時にシンガポール移住。2016年末に同社MBOを実施し独立。 神戸大学卒業。
鈴木 隆宏
Genesia Ventures
General Partner
2007年4月、サイバーエージェント入社。学生時代からインフルエンサーマーケティング子会社CyberBuzzの立上げに参画し、新規事業立ち上げ、アライアンス業務、新規営業チャネルの開拓等に関わる。その後、サイバーエージェントグループのゲーム事業の立上げに関わり、子会社CyberXにてモバイルソーシャルアプリケーションの立上げ、およびマネジメント業務に従事し、高収益事業への成長に貢献。2011年6月よりサイバーエージェント・ベンチャーズ(現:サイバーエージェント・キャピタル)へ入社し、日本におけるVC業務を経て、同年10月よりインドネシア事務所代表に就任すると共に、東南アジアにおける投資事業全般を管轄。2018年9月末、同社を退職し、株式会社ジェネシア・ベンチャーズにGeneral Partnerとして参画。早稲田大学/スポーツ科学部卒。
斉藤 晃一
KK Fund
Founder & General Partner
オリックス、三菱UFJモルガンスタンレー、米ジョージ・ソロスのPEファンド(IHG)を経てシンガポールに移住。IMJ Investment Partnersの東南アジア投資責任者としてVC業務に従事。2015年に東南アジアのシードステージ投資に特化したVC、KK Fundを設立、代表パートナー就任。スペインIEビジネススクールMBA修了。日本証券アナリスト検定会員。



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