※本記事は「イシン・スタートアップ・サミット シンガポール2019」のトークセッションをもとに構成しました。
ユニコーンに初期投資したときの状況
―東南アジアのユニコーンというと、Grab、Tokopedia、Bukalapak、Go-Jek、Travelokaの5社が挙げられます。お二人がユニコーンに初期投資したときの状況はどうでしたか。
蛯原:Bukalapakに投資したのは2011年に会社がまだ設立していない段階でした。社員が7人くらいしかいないときで、決済がまだないオンラインカタログ状態から始まりました。シリーズBでインドネシアの大手総合メディアグループから資金調達し、シリーズCではシンガポールのGIC(シンガポール政府投資公社)に資金を出してもらって、シリーズDは中国の大手IT企業に出資してもらって現在に至っています。
北川:インドネシアのユニコーン企業Tokopediaに初期投資をし、当社は2017年にアリババが投資をしたときに株式売却をしています。Eコマースの月間取引総額は2011年のころはわずか1500万円でしたが、現在はラマダン明けのセールで1300億円という報道も出ています。従業員も当時は30人くらいだったのが現在は3500人。事業モデルは楽天と同じで、市場の中での存在感はインドネシア国内でトップ3の大手という存在感ではないでしょうか。
資金調達が後押し、タイミングがすべて
―なぜ、Tokopediaはユニコーンになれたのでしょうか。頭ひとつ抜けられた要因は何だと思いますか。
北川:やはり彼らが早かったこと。当時、インドネシアでオンライン上で売買を完結させられる技術を持った企業は少なく、Eコマースの可能性にかけて努力した先行者メリットはあったと思います。ただ突き抜けた要因としては資金を得られたことも大きかった。2014年に約100億円調達していて、東南アジアではものすごく大きい金額だったので、思い切りアクセルを踏んでライバルに差をつけられたのです。
―Tokopediaに対して、日本の技術や経験など提供できたものもありましたか?
北川:事業環境が全く違うので、事業面で日本の経験というよりは、ベトナムや中国で投資した経験が活きました。「インドネシアでもこんなことができるはず」という議論をよくしていました。日本とかアメリカでこんなことが流行っていると言ってもあまり響きません。東南アジアの他の国でもできているという話のほうが有効だったと思います。
―蛯原さんは、高確率で優良企業に投資しているがどうやって目利きしているのですか。
蛯原:ソーシングは泥臭くやっています。主要大学に毎月通って、アントレプレナークラブとかセンターとかあるのでそこで探すなど。当時他にVCがなかったので、たとえばインドネシアで講演すると聴衆が非常に多く、そこで交流することもありました。あとは、1社有望企業に投資すると、他の有望企業も集まってくることもありますね。
目利きというのは正直あまりないんです。テクノロジーであれば優れた技術をもっているかという目利きは有用ですが、Eコマースのようなサービス業は気合と根性といったところがある。たとえばBukalapakの場合、もちろん、創業者に「この国のNo.1ECビジネスを作る」という熱意はあった。一番重要なのはリーダーシップなので、どれくらいの規模と質のチームを作って運営していけるかチームを見る必要はある。結果的に、喧嘩別れもせずに共同創業者3人が役割分担もしてうまくやっている。ただ当時は二十歳そこそこの若者が8年たった今は3000人の従業員を率いるリーダー、その間経営者も大きく成長します、最初からそれを見抜くというのは簡単ではありません。
では何が大きな成功要因だったかったというと、タイミング。参入の窓は6か月しかないといわれるが、何十年に一度しか起こらないそのタイミングに投資することができました。
東南アジアのスタートアップは日本企業に何を求めているか
―日本企業はどういう形で東南アジアに入っていけば、共存共栄の関係を作っていけるのでしょうか。
蛯原:まずは、スタートアップが持っていないリソースを提供することです。サプライチェーンが必要だとか、ソフトは自前でやっているがハード面が弱いなど、ウィークポイントが明確にあれば、そこを提供すればフィットします。
ただ、サービス業同士はほとんどワークしません。お金はありがたがられますが、中国が多額の資金を持ってくるようになっているので、最低でも1億円くらいはないと話も聞いてもらえない。すでにそういうルールのゲームになってしまっています。
北川:東南アジアも中国も明らかに投資家の数、資金規模が増えています。なので、スタートアップ側も、お金+αを求めているのではないでしょうか。投資をしたい、組みたいと思ったときに、どんな付加価値を付けられるのかを一生懸命、考える必要があります。
ただそれはそんなに頭でっかちで考える必要はなく、熱意のようなものでもいいかもしれません。我々の場合はアセットがあるわけではないけれど、こういう事業立ち上げた経験があります、頑張ってサポートしますと伝えました。熱意ややる気がコミュニケーションして伝わると「じゃあ」となることも多いのです。事業面のわかりやすい付加価値があればもちろんいいのですが、そうでなくてもアナログな人と人の関係で食い込んでいくチャンスはあると思います。
―お二人は投資活動の場を東南アジアだけでなく、インドや中国などにも拡大していますね。
北川:当社の場合は中国から投資して東南アジアに広げたという順番です。東南アジアは中国の5~10年前くらいのイメージで、中国で成功したものや起きていることを知ったうえで東南アジアをやるとバリューがあると感じていたんです。
蛯原:両方やっています。東南アジアをやっていたからこそインドの爆発的成長をキャッチアップできたし、それぞれの市場に特徴があります
地方の問題解決を
―最後に日本企業にメッセージをお願いします。
北川:東南アジアでスタートアップと活動をしたいのであれば、自分たちはこういう付加価値が提供できるという提案は必須だとは思います。ただ、それはものすごいことじゃなくてもいい。担当者の熱意とかでもいい。難しく考えすぎなくてもいいと思います。
蛯原:インターネットの勝負はもう終わっていますが、インターネットの外、全産業のデジタルトランスフォーメーションの勝負はまだこれからです。教育、金融、物流、医療の分野などのスタートアップが続々と出てきています。その各セクターでは日本企業がバリュー提供できる余地があります。
あとは、バンコクとかジャカルタとか都市はもはやあまり東京と変わらないのですが、ぜひ東南アジアでも「地方」を攻めていってもらいたいですね。地方の問題解決を日本企業が現地スタートアップとともにやるというのは勝ち筋としていいと思います。