蛯原 健Ken Ebihara
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インキュベイトファンド 代表パートナー
本間 真彦Masahiko Honma
<モデレーター>
イシン株式会社 常務取締役
松浦 道生Michio Matsuura
「市場」としての東南アジア
―最初に東南アジアとの関わりを踏まえて、自己紹介を聞かせてください。
蛯原:元々、ジャフコからキャリアをスタートさせ、以来20年以上にわたって、スタートアップ投資及び、事業会社の経営・起業も経験しています。東南アジアでの投資は、2011年に東南アジアで2~3位規模のeコマース企業に投資したのを皮切りに現在まで40件弱の投資を行っています。現在は、シンガポールに家族と在住して、インドを中心にアジア全般で投資をしています。
本間:私も蛯原さん同様、ジャフコ出身でスタートアップ投資は、20年近くしています。現在、創業期の投資・育成に特化したインキュベイトファンドというベンチャーキャピタルを運営しています。ファンドの運用規模としては合計280億円ほどで日本最大のファンドです。これまで、関連ファンドを含めると200社以上のスタートアップに投資してきました。東南アジアでの投資活動は2013年より開始して、2016年からインドでの投資も始めました。現在、東京、シンガポール、インドのバンガロールを拠点に、インターネット関連から最近ではロケットまで幅広く投資しています。東南アジアではマーケットプレイスやeコマース関連、日本ではほぼすべての業種のアーリーステージでの投資に関与しています。
―お二方はどのような強みをもち、どういったスタンスで東南アジアに出資しているのですか。
蛯原:自分たちは、デジタル分野はもとよりIoTや既存産業のデジタル革新系の投資を積極的に行っていますので業種分野としては幅広く取り組んでいます。東南アジアとインドのアーリーステージ投資を行う4つのファンドを運営していますが、出資者のほとんどが日本企業および個人からの出資者です。ファンドの特徴としては、出資を通じて日本から新興アジア地域へのゲートウェイ(入口)の一役を担っています。出資者である日本企業がアジア・ビジネスを成功させるために、出資者と現地の市場・企業キーマンを繋げるためのあらゆる活動に注力しており、そのための専門家もチームに配している点が強みです。
本間:我々はインキュベイトファンドなので、名前の通り、設立したばかりの会社に特化して投資しています。なかには一緒にアイディア段階から考えて会社を作ることもあります。ここ東南アジアでも、日本で得たビジネス上の知見や経験をシェアしながら展開しています。投資先と出資者をつなげることも、もちろんありますが、考え方としては、ベストな起業家に投資することを考えれば、出資者もついてくるし、マッチングもうまくいく、という考えです。
―投資家としてのスタンスは分かったのですが、もう少し「なぜ、東南アジア」なのかというところを教えてもらえますか?
本間:純粋に「投資先」という観点では、東南アジアやインドだけでなくアフリカでもいいと思っています。しかし日本の立場に立った時に、文化的、人類学的、歴史的に近いところがやはりやりやすいのは確かです。国、会社単位で相対的優位性はどこか見極めて出ていくとなると、東南アジアに出てゆくのは自然です。その際、進出先の市場(マーケット)をとりにいくのか、技術やイノベーションをとるのかという問題はあります。東南アジアの場合、技術ではなく市場だと思います。
―「市場を取る」、具体的な方法ありますか?
本間:大きく2つの方法があると思います。日本で培ったビジネスをゼロから自分たちで東南アジアで展開するという発想と、最初から「チームを買う」という発想です。例えば、私のやっているVCのような金融はサービス産業なので、東南アジアはマーケットとして事業を組み立てやすい。日本でやってきたビジネスをゼロから横展開できる感覚はあります。一方で、日本の経営者ではないですが、私の知り合いでDavig Ngという経営者がいます。4ヵ国語を話す彼は、1年で130名の社員を雇い、台湾、香港、シンガポールに拠点を作りました。東南アジアビジネスのレシピを持って、過去彼が他の業界でやったように、同じやり方でビジネスを展開しています。彼の手法は「チームごと買う」というスタイルです。私にはできないスタイルですが、市場を取るという観点ではとても有効です。
日本を土台にして、海外と付き合っていく
―ここ(会場)に集まっている方は経営者の方が多いです。ずばり、「日本企業は東南アジアで勝てますか?」。具体的な事例で、どういう会社なら勝てるのか教えてください。
蛯原:「勝てます」と言わないといけない雰囲気だと思うのですが(笑)、やはり今現在勝っているのは日本の比較優位が一番強い製造業です。日本に限らず、サービス産業の海外移転は難しい、特にインターネット系は難しいです。サービス業で数少ない例としては、日本の企業では電通が勝っています。その理由は、元々買収した英国イージスです。東京のヘッドクォーターではなくて機動性の高い英国のチームがばんばん買収戦略を進めている、これは日本企業にとって一つの参考事例として学ぶ点はあると思います。
本間:日本企業が成功するモデルは見えつつあります。具体的な事例で言えば、ローカルに本社の役員クラスが住み、比較的小規模のインターネット広告の会社を買収して、今、大きく成長させているケースがあります。 以前は若い人を現地に送り込ん「お前、何とかしてこい」という形でゼロから立ち上げをさせることが多かった。そして、3年くらい経って、頑張ったけどうまくいかず、「まあ、しょうがないか」と本社でも諦めるケースが多かった。しかし今は大型買収とはいわないまでも、10億円程度の案件を買ってオペレーションを改善していくという形がひとつあります。意外にも日本のBtoBサービスのオペレーション優位性は東南アジアでも活きます。10億円規模の会社だと、事業で日本では当たり前のことがどこかで抜けていることも多く、営業効率を上げるためにツールを導入して、ツールをきちんと徹底するだけでも、うまくいくケースがあります。一方、BtoCサービスは日本人がローカル市場向けのスタートアップをやっても、成功するのは難しい。
―海外で投資しているお二人からみて、「日本のみでビジネスをし続けるリスク」を感じますか?
蛯原:まず、最近日本は、とか中国はとか、国単位で考えることに疑問を持っています。都市単位で見ていくことが極めて重要だと思います。それでもあえて日本のことをと聞かれますと、ただちに日本全体が沈むことはありません。しかし地方と都市の違いは大きく、地方は切実です。また都市については私は東京よりも関西に期待しています。実はインドや東南アジアに関心を持ち事業活動をされているのは関西の企業が多く、関西地区はこれから伸びると思います。
本間:日本はいろいろなアセットが揃っています。日本か海外かの二者択一的な考え方ではなく、日本を土台にしながら、他国もみるべきです。ベンチャーをしかける側としては、ユーザーが育っていないと、企業が革新的なモノを出しても何も響きません。例えば、韓国ユーザーはアプリなどに熱狂的な土壌や市場があり、日本ではエンターテイメントユーザーが多いです。だから、エンタメ関連のイノベーションが起こる。東南アジア市場はエンターテイメントユーザーが育っていないので、まだ難しい。タイムマシーンではないですが、日本、韓国のことを知っていると、今の東南アジアで不足している部分や、ビジネスチャンスが見えてくる。
良いパートナーを見つけて緩めの意思決定をする「リラックス経営」を
―(会場にいらっしゃる経営者に対して)最後に投資家ならではの海外ビジネスに対するアドバイスはございますか。
蛯原:IT産業はアジア、特にインドなどは日本より進んでいる分野も多いです。よく「リープ・フロッグ現象」と言われますが、インフラを持たない新興国のほうが新産業・新インフラが発展しやすいからです。例えば遠隔医療ではモバイルアプリで薬の処方箋まで出せたりします。日本では規制があって難しい。そういう学べるところは学んでいったほうがいいと思います。
本間:日本と全く同じビジネスをそのまま海外で展開するのではなく、もう少し緩めのスタンスをとってやればうまくいくというケースが多々あります。良いパートナーを見つけて現地のスタッフに任せるとか、緩めの意思決定をする「リラックス経営」を行うこともよいと思います。「彼に任せる」というパートナーを見つけ出し、「彼とならどうやるか」。そんな緩いスタンスでやるのも面白いのではないでしょうか。ビジネスモデルは物理法則と同じで、海外であっても、自分の国で機能するものしか成立しません。そのモデルをベースに、国によって事情は異なりますが、チューニングして事業は立ち上げることはできます。しっかり現地のパートナーと議論して一緒にやっていくことが大切だと思います。