※本記事は「CYBERTECH TOKYO 2019」の登壇コンテンツをもとに構成しました。
編集部からのお知らせ:本記事の内容も含め、イスラエルスタートアップやそのエコシステム関連情報をひとつにまとめたレポート「Israel Startup Ecosystem Report」を無償提供しています。こちらからお問い合わせください。
本当に利益をもたらすHealthyな関係
Herzog, Fox & Neeman(以下HFN)は、イスラエル国内の大手法律事務所として初めてJapan Practice(日本担当部署)を設立し、現在も日本に重点をおき、大企業だけでなく日本の中小企業も対象に、サービスを提供しています。
近年では、イスラエルのスタートアップと商業的なコラボレーションを希望する日本企業が増えています。こうした取引においては、技術の共同開発や、日本またはグローバル市場での配信・流通に関する取り決めおよび契約が必要になります。そして、ほぼ全てのケースにおいて投資も含まれます。イスラエルのスタートアップは投資により、日本企業との関係性を強め、事業開発や研究開発の促進が可能となります。日本企業の投資金額は、大体200万ドルから1000万ドルの間で、投資ラウンドはシリーズAからCがほとんどです。
ハイテク分野のイスラエルスタートアップは世界中から注目されており、優良なスタートアップは資金調達先を選べます。彼らは、戦略的な投資を求め、本当に利益を享受できる投資を望んでいます。コミットメントと投資の両方を兼ね備えた取引は、日本企業にとっても本当の意味でビジネス関係構築になりますので、ある意味、健全な関係の構築だと言えます。
小規模取引であっても契約類は細部まで確認すること
取引の最初のステップは、NDA(秘密保持契約)の締結です。イスラエルのスタートアップは、小規模なスタートアップも多く、彼らとのNDAに関しては特に注意しましょう。
イスラエルのスタートアップは動きが速く、かなり小規模な企業、または事業主1人のみの個人事業者と共同で開発を進めていることがあります。こうした企業や事業者の中には、越境取引に慣れていないため、NDAを「Opportunity(機会)」と捉え、秘密保持以上の規定を含めてくることがあります。
実際に、知的財産権に関して排他的な規定を含めたNDAを何回か目にしてきました。共同開発した技術や、日本企業がイスラエル側から提供された情報に基づいて開発した技術の使用をNDAで制限する内容で、共同開発した技術やその情報を使い作られた製品および関連する事業の権利をイスラエルのスタートアップのみが所有する契約になります。
こうした規定を含めてくる可能性があることを念頭に置き、必ず注意してNDAの内容を確認してください。小規模な取引だから、と言って自社内の法務部門にNDAを展開せず、知的財産権に関する規定が含まれていたことを見落とし締結してしまったケースが実際にありました。もちろん、私たちもお手伝いできますが、少なくとも顧問弁護士にNDAを見せて、変な条項が含まれていないことを確認してください。
NDAの次はタームシート(条件規定書)です。タームシートは、イスラエルでは一般的に用いられています。タームシートまたはEメールでもいいので、ビジネスポイントを一つのドキュメントにまとめ、正式契約前にお互いの認識が同じことを確認しましょう。
よくあるのが、当事者同士が意見交換を行い、何度かEメールを交わし、会食等を行ったものの、詳細を確認する時間を取らないまま正式契約に進み、その時になって初めて認識が全く違うことに気づくケースです。
日本企業では、正式契約に至る前に社内承認を受けている場合がほとんどですから、まずは必ず主要ポイントをタームシート等にまとめましょう。タームシートには、拘束力がない場合がありますが、例えば守秘義務や競合しないことに同意する内容の拘束力を持たせることが一般的です。
知的財産権、法律、直接投資などの重要ポイント
日本企業は、知的財産権を共有するケースが多くありますが、これに関してはイスラエルの法律は曖昧なので、特に特許の所有権を共有することはお勧めしません。例えば、イスラエルの法律では、当事者間の合意がなくても、どちらか一方が単独で商業化することが可能ですし、知的財産権の侵害に対して単独で訴えることもできます。所有権を共有する場合は、できることとできないことを定め、権利を指定する契約書が必須です。
次に、どの国の法律を適用するかです。NDAで適用した国の法律を、最終契約でも適用する場合がほとんどですので、NDAの時点で決めておきましょう。
イスラエルのスタートアップはイスラエルの法律を適用することを前提にしていますが、これは日本企業にとっても問題はないと思います。イスラエルの訴訟裁判所は公正で、バランスが取れており、外国人を差別しませんし、日本の訴訟当事者は、イスラエルの訴訟者と同様に扱われなければならないという二国間協定があります。また、イスラエルのハイテク分野におけるエコシステムでは英語が使われており、契約書もヘブライ語ではなく英語が使われています。M&Aによる投資の非公開取引においては、米国の契約実務に従っているので、シリコンバレーとほぼ同じです。
イスラエルでは、特殊分野以外の直接投資には規制はほぼありません。シリーズAまたはBラウンドでの投資では、株式の一部取得が一般的です。その際、優先株を取得し、役員会の席を確保、またはオブザーバーとしての役割を獲得しましょう。これは、イスラエルでは当たり前のことです。日本企業は、オブザーバーを好む傾向がありますが、その際には、全ての情報へのアクセス権を持つことをお勧めします。また、拒否権(議決を拒み否決させる事ができる権限)などの権利を要求しましょう。こうしたことは、全て交渉可能ですので、イスラエル現地の専門家に相談しながら、契約を締結する前に積極的に交渉を行ってください。契約条項に関して合意した後の変更は難しいことを理解しておくと良いでしょう。
その他、商業化した際に重要なのが、ソースコードのエスクロー(第三者預託)です。特にソフトウェア分野では、信頼のおける第三者を仲介することで、イスラエルのスタートアップが撤退してもサービスを提供し続けられるようにしておくことが重要です。
アイコン出典:Shuttersotck.com/Nitichai
デューデリジェンスもイスラエル式に行うこと
デューデリジェンスにおいては、スタートアップの技術がイスラエルの国防省や経済産業省のライセンスで守られ提供に制限がないかなど、イスラエル特有の確認事項や、ストックオプションに関してなど、一般的な確認事項があります。リスク削減のためにも、専門家を交え実施することをお勧めします。
例えば、投資を行う前に、そのスタートアップが知的財産権を全て所有していることを確認してください。なぜなら、組織化されていないスタートアップでは、知的財産権の帰属や権利の放棄に関して、従業員および開発協力者と法的に有効な契約を交わしていない場合があります。また、大学所属の研究者においては、在職中に開発した技術の知的財産権は全て大学に帰属する場合がありますので、必ずデューデリジェンスで確認を行ってください。権利が大学に有るケースでは、交渉による解決が可能ですが、やはり事前に把握する方が物事はスムーズに進みます。
政府機関から資金提供を受けているスタートアップの発明は共有ができない、または制限されている場合や許可などが必要なことがあり、デューデリジェンスで確認すべき事項の一つです。
他にも、環境保護に関してイスラエルは厳しく規制があります。特に製造業などにおいて、取引先企業が違反をしていないか確認が重要です。
イスラエル人の言動を日本の価値観で判断しないこと
次は、イスラエル人との交渉方法です。イスラエルでは、ミーティングの最初に雑談することが一般的です。ミーティングが始まった一分後には、かなり個人的な質問をされ、不快に感じる方もいるかもしれませんが、これは相手と打ち解け、共通の話題を見つけ出すための質問だとご理解ください。共通の話題として、政治を話題にすることは避けましょう。センシティブなトピックであるとともに、イスラエルでは、政治の話が始まると長くなり、本題を話す時間がなくなってしまいます。
イスラエル人のコミュニケーションは直球型です。率直で発言はそののままの意味を持ち、裏はありません。話し合いでは、熱が入り、声が大きくなります。交渉の場において、イスラエル人が大声を張り上げたとしても、怒っているわけではなく、そういうスタイルなのだと思ってください。また、イスラエル人はダラダラすることを好みません。特にスタートアップは時間を無駄にしません。
イスラエルでは日曜日から木曜日が平日で、金曜日と土曜日が週末ですが、金曜日は働くこともあります。イスラエルでは、雇用・労働関係の規制は厳しく、例えば、従業員は週末に36時間の休息を取る権利があり、企業にはそれを守る義務があります。こうした規制は、委託関係にある個人に対しても適応される場合が多く、違反すると時には起訴されますので注意が必要です。
イスラエルは年間の休日が多く、9月から10月の「Golden Month」は、ほとんど営業していませんし、4月中旬にも長期休暇があります。こうしたことも踏まえて、予定を立ててください。
当然ですが、イスラエルと日本には文化的な違いがあります。日本側のチームにも、イスラエル文化に精通し、ヘブライ語を話せるメンバーがいるとよいと思います。
最後に、イスラエルでビジネスを行う皆様には、まずイスラエルを訪れ、東西南北に広がる多様な自然と文化的景観を楽しんでほしいですね。そして、イスラエルが革新的な理由の一つである多様性をぜひ肌で感じてください。
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