Image: chayanuphol / Shutterstock
地球温暖化、気候変動への対応として、二酸化炭素(CO2)の排出削減や、電動化、蓄電、エネルギーの効率利用など、Climate Tech領域の世界的トレンドとスタートアップ投資はますます加速している。脱炭素社会の実現に向け、国内外の脱炭素テクノロジー(ZET:Zero Emission Technology)関連スタートアップとの協業などをテーマに、3月に開催した「ZET New Japan Summit 2023 Kyoto」には、国内外のスタートアップ40社が登壇した。このうち海外スタートアップ各社の事業概要を紹介する。第1回は、Saratoga Energy、RenewCO2、Greenfluidics、Ecellix、SINAI Technologies、Qnovoの6社。

【Saratoga Energy】二酸化炭素からリチウムバッテリー素材を抽出

Image: Saratoga Energy Corporation HP

設立年:2012年
URL:http://www.saratoga-energy.com/

 Saratoga Energy(本社:米カリフォルニア州 Berkeley)は、二酸化炭素(CO2)から高性能なリチウムバッテリー素材を抽出するテクノロジーを開発しているスタートアップ。

 同社はリチウムイオン電池の材料となる独自製法のカーボンナノチューブを開発。この材料を凡庸なグラファイト(黒鉛)と代替することで長寿命化でき、充電速度の速いリチウムイオン電池を開発することができる。電気自動車(EV)の急速充電、グリッドストレージをはじめ、幅広い産業への応用に適している。再生可能エネルギー向けの蓄電池にも活用できるという。

 従来、グラファイトは中国から採掘された天然物を輸入するか石油から合成することが多い。一方、Saratoga Energyの製法はCO2を使用するため、他の製法と比べ製造コストを削減できる。また、CO2排出量も微量で環境に優しい。

【RenewCO2】CO2をモノマーに変換する触媒技術とモジュラーシステム

Image: RenewCO2 HP

設立年:2018年
URL:https://www.renewco2.com/

 RenewCO2(本社:米ニュージャージー州 Cranford)は、ラトガース大学からのスピンアウトで創業されたスタートアップ。工場などから排出されるCO2をモノマーに変換する触媒技術とモジュラーシステムを開発している。

 同社の電極触媒を用いた炭素利用技術(Electrocatalytic Carbon Utilization Technology =eCUT)は、特許取得済みの触媒技術で、電気化学プロセスを通じてCO2をプラスチック前駆体である、MEG(モノエチレングリコール)に変換する。副産物として高純度のCO2が排出され、ポリエステル製造プロセスに同システムを組み込むことで原材料として使用する石油資源量を大幅に削減できる。

 また同システムはCO2の他に水と電気以外使用しないため、電気が利用できる場所であれば場所を問わずMEGを生産できるという。モジュール式で簡単に設置でき、CO2排出量削減に対する取り組みとして低コストで導入が可能。

【Greenfluidics】藻類を活かしたバイオパネルで省エネ、緑豊かな都市へ

Image: Greenfluidics HP

設立年:2018年
URL:https://greenfluidics.com/

 Greenfluidics(本社:メキシコ Metepec)は、持続可能な都市への移行を促進し、建物のエネルギー効率を向上させ、人々に幸福を提供することを目指すメキシコのバイオテクノロジー企業。光合成によりCO2を吸収する藻類に着目したバイオパネルを開発している。

 同社の特許取得済み技術を活用したインテリジェントソーラーバイオパネルは、微細藻類とナノテクノロジーに基づいたユニークなシステム。太陽放射によってCO2を吸収しながら酸素とエネルギーを発生させる。建物の外観に活用でき、デザイン性も高い。日陰などによって温度を調整し、エネルギー使用量を大幅に節約できる。

 同社によると、バイオパネルは年間最大328KWh/m2のエネルギーを生成でき、かつ温度調整効果で年間最大90KWh/m2のエネルギー使用量を節約できるという。また、CO2は年間最大200Kgを軽減できる。循環型経済、スマートシティへの活用が期待される。

【Ecellix】リチウム電池用の低コスト・高容量微小孔性シリコン負極材

Image: Ecellix HP

設立年:2018年
URL:https://ecellix.com/

 Ecellix(本社:米ワシントン州 Seattle)は、リチウムイオン電池用の低コスト・高容量微小孔性シリコン負極材を開発したアーリーステージのクリーンテック企業。ワシントン州立大学で研究開発されたバッテリーアノード材料を商業化するために、2018年に設立された。

 同社の特許技術を基にした材料「eCell」は、従来のグラファイト負極電池よりも体積および質量エネルギー密度が高く、新しいクラスのリチウムイオン電池の製造を可能にする。シリコンナノテクノロジーとは異なり、eCellは低コストで拡張性のあるソリューションであるため、さまざまな電池形式、アプリケーション、仕様に適応することができるという。

 リチウムイオン電池は10億ドル市場(2025年推定)とされており、同社は市場に対する破壊的イノベーションとなることに注力している。拡大する電池負極材料分野において、市場のコストリーダーを目指している。

【SINAI Technologies】脱炭素インテリジェンス・プラットフォーム

Image: SINAI Technologies HP

設立年:2017年
URL:https://www.sinai.com/

 SINAI Technologies(本社:米カリフォルニア州 San Francisco)は、企業や団体のCO2排出量の測定、分析、評価、削減を支援する脱炭素化インテリジェンス・プラットフォームを開発・提供している。

 同社の「SINAI Decarbonization Intelligence Platform(脱炭素インテリジェンス・プラットフォーム)」は、温室効果ガス(GHG)排出量の算定はもちろん、企業のGHG排出量削減戦略の策定・管理を実現する高度なシミュレーション機能を包括的に有している点を特長としている。事業全体の炭素分析と報告を自動化し、ビジネスやバリューチェーン、組織の環境との関わり方を変革することを可能にする。

 同社はNECなど日本企業との協業・市場展開も行っている。企業・団体のネット・ゼロ目標達成までの変革を支援するソフトウェア企業として、GX(グリーン・トランスフォーメーション)推進などを後押ししている。

【Qnovo】バッテリーの充電をアルゴリズムで最適化

Image: Qnovo HP

設立年:2010年
URL:https://www.qnovo.com/

 Qnovo(本社:米カリフォルニア州 Milpitas)は、スマートフォンや電気自動車(EV)に搭載されるリチウムイオンバッテリーの充電と寿命を最適化する管理ソフトウェアを開発・提供している。

 Qnovoのソフトウェアは、バッテリーが充電器に接続されるたびに、アダプティブ充電アルゴリズムにより、バッテリーの内部特性をリアルタイムで診断。気温などの外部環境も考慮した上で、充電の速度と程度を最適化する。同技術をスマホに搭載することで、スマホ使用時間の延長、充電時間の短縮、危険予測、薄型化などが可能になる。EV向けでは、最大2倍速い急速充電が可能になるほか、バッテリーの劣化を抑える。

 日本の大企業との連携も進んでおり、SonyはスマートフォンXperia X Performanceなどにおいて、Qnovoと共同開発した充電の最適化技術を採用している。



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