災害時の雇用の不安定さや、金融市場への関心の増加など、パンデミックは一般の人々がファイナンシャルリテラシーを身につける機会となった。様々な金融商品が巷に溢れる中で、投資初心者は、何を選び、どのように投資したらいいかが分かりづらい。シンガポールのスタートアップEndowUsは、年金の運用を簡素化し、投資アドバイスを提供する金融アプリを開発している。Founding PartnerであるGregory Van氏に話を聞いた。

大規模ファンドと提携し、誰でも低コストで投資ができるアプリ

――サービス概要について教えてください

 私たちは、シンガポール唯一のデジタルファイナンシャルアドバイザーです。人々が、将来に向けて貯蓄計画を立てるとき、給与の多額を公共のファンドに入れざるを得ません。EndowUsでは、インテリジェントなポートフォリオを組んで、資産を投資し、普通ではアクセスのない機関レベルの投資アドバイスを誰でも受けられるようにしています。

Gregory Van
EndowUs
Founding Partner
ペンシルバニア大学在学中にモルガン・スタンレーでインターンシップを経験し、卒業後UBSに入社。4年近くプライベートファンド業務に携わったのち、現Grab社でテクノロジーや決済手段等を開発するシニアマネージャー職に従事する。2017年にEndowUs社をシンガポールで立ち上げる。

 私たちは、大規模なファンドマネージャーと提携することで、このサービスを低コストで提供できるようにしています。通常、顧客は仲介提供する金融機関から商品を購入し、金融機関はその商品の大元の提供先よりキックバックを得ます。このように、現在の金融業界は、キックバックで成り立っているのです。つまり顧客にメリットはなく、金融機関のみ商品を売りつけることで利益を上げているのです。

 EndowUsでは「フィーオンリー」というポリシーを採用しており、当社の顧客からのみ収益を得ています。キックバックを得た場合、100%顧客に払い戻されます。一見簡単そうに見えるビジネスモデルですが、アジアの99%で採用されていません。

 また、公的資金のデジタルアドバイザーとして、シンガポールの法令に基づいて活動していることは私たちの強みです。EndowUsはシンガポール当局の管轄でもあるので、規制に触れないよう政府とも交渉を重ねました。

――起業のきっかけは何でしたか。

 自身の個人的心情とキャリアの両方に由来しますが、私はもともと金融市場に興味がありました。自身でも投資を行っていましたが、金融市場の値動きに振り回されることが多く、論理的に投資で成功する方法は少ないと実感しました。

大学を卒業後、UBSに就職しましたが、大規模な年金基金や、政府系ファンド、大手のプライベートマーケット投資機関向けに、どのように資産分配を行うのかなどアドバイスを行っていました。

そこで気づいたのは、自分を含む家族や友人といった個人と、莫大な情報量を抱える機関投資家とで投資のやり方が違うことでした。私たちが行おうとすることを、機関投資家は全く別の方法で行います。ただ、効率的にお金を増やす方法は限られているのにも関わらず、どうしてそのような差が生まれるのでしょうか。

 私は、リサーチを開始し、よりシステマティックに投資を始めました。その後UBSを退職し、Grabというスタートアップに就職しました。そこでは、最初のプロダクトローンチに携わることができました。また、テクノロジーや、決済手段、企業提携やビジネスオペレーションに関する業務に関しての知識を得ることができました。

 その後、自身の行っていることが、他の人にも提供でき、拡張的であることを実感し、EndowUsを立ち上げるに至りました。

米国の大手ファンドとも提携、SoftBankなどからも資金調達

――どのような企業と提携していますか。

 高品質のサービスを低額で提供できるよう大手のファンドマネージャー、アセットマネージャーと提携しています。例えば、6000億円ほどを運用している米国のPEファンドとも協働し、シンガポールで幅広くサービスを提供しています。これまで、彼らのファンドに投資するには、5000万円が最低ラインでした。私たちは、最低数万円からでも投資を行えるよう改良し、民主的に投資ができるようにしました。

Image: EndowUs

――起業からまもないですが、これまでの道のりはどうでしたか。

 ​​私たちは、今年の春に資金調達を行うまでは、すべて自社の資金で賄っていました。既存の金融機関や規制当局との交渉を含め、2年間に渡り年金の運用を人々がスムーズに行えるよう努力をしてきました。

 今年に入り、SoftBankや、Lightspeed社などのVC、Samsung社、UBS社等から資金を調達できました。確かに道のりは困難でしたが、私たちには明確な目標がありました。その目標に向かってひたすら突き進み、ミッションに賛同してくれる人々を見つけることに成功したと思います。

ウェルスマネジメントはオンラインに移行すべき

――2021年3月のシリーズAで約1700万ドルを調達していますが、使い道はどう考えていますか。

 まずは、人とテクノロジーへの投資でしょう。私たちの資産は、テクノロジーなので、それを設計し改善し続けることに投資をしたいと思います。従って、商品設計を行う人々への投資に資金は充てられます。

 もう1つは、マーケティングです。今はあまりマーケティングに注力していませんが、今後はより多くの人々の資産運用を自動化し投資を楽にしてあげたいと思っています。資産運用が、ゆくゆく毎月の光熱費の支払いのように生活の一部となり、人々が自身の資産を運用するのが当たり前となる世の中になるよう願っています。

――今後の目標は何でしょうか?

 顧客の意見に耳を傾け、みなさんが欲しいサービスへと商品を改善していくことです。顧客のニーズが長期運用なら、クローバルマーケットへ瞬時にアクセスできるような簡単なソリューションを提供します。既存のポートフォリオからより収益をあげたい方向けのサービスもあります。また、既存のポートフォリオをカスタマイズして、当社で提供しているファンドだけに投資をしたい場合、それも可能です。

 シンガポール外にも拡大しています。もうじき、香港でローンチする準備をしています。その後、インド市場にも進出を考えています。日本は高齢化社会ですので、私たちのサービスのニーズがあると信じています。

 ウェルスマネジメントに関しては、需要は多いですが、その多くがまだオフラインで行われています。私たちの将来図は、オンラインに移行する必要があるという点です。今の暮らしのレベルを維持するには、投資が必要です。フィーオンリーのモデルは、投資家の目標に沿っており、唯一の意味をなす手段と言えます。投資のアドバイスを行っている顧客からしか利益を得られないような仕組みが整うべきです。

 私たちはローンチから20ヶ月も立たないうちに、新鋭のスタートアップであるにも関わらず850億円規模の運用額を達成しました。大手投資家向けの最もよいサービスを全ての人々が利用できるようにするのが目標です。



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