オンライン教育プラットフォームを運営するCoursera。スタンフォード大学、ミシガン大学、プリンストン大学、ペンシルバニア大学、シンガポール国立大学など、世界中の有名大学の授業が無料で受けられる。現在、全世界145校、約1600のコースを提供しており、日本では東京大学も講義配信をしている。今回は、全米屈指の名門大学であるイェール大学の元総長で、2014年より同社CEOに就任したRick Levin氏に事業内容や今後の展望を聞いた。

Rick Levin
Coursera
CEO
スタンフォード大学、オックスフォード大学マートンコレッジを卒業後、1974年にイェール大学にて博士号を取得。その後、イェール大学に40年間在籍し、総長を務めた。2014年よりCourseraのCEOに就任。

世界の名門大学145校と提携

―まずCourseraの概要について教えてもらえますか。

 Courseraは、もともとスタンフォード大学のコンピューターサイエンスの教授2人が始めたオンライン教育プラットフォームです。現在、世界で145校の大学と提携しており、大学の1600のコースを世界のどこからでも視聴できるようにしています。

 通常、大学の授業は教室の物理的な制約により、多くの生徒が受講できるわけではありません。一方、Courseraはオンラインスクールですから、教室という物理的な制約がなく、一度に数多くの生徒が授業を取ることができます。人気の授業になると、一度に10万人以上の履修登録があります。

―ユーザー数はどれくらいいるのでしょうか。

 月に約100万人が、私たちのプラットフォームを訪れています。創業から累計すると、1600万人になりますね。嬉しいことに、本当に多くの方がCourseraを活用し、勉強できる機会を大変喜んでくださっています。

ユーザーの75%が海外在住

―御社の教育プラットフォームは世界中で使えますが、どのエリアからのユーザーが多いのでしょうか。

 アメリカのユーザーが約25%で、それ以外の国が75%です。ネットサービスの場合、通常は国内ユーザーが多くなりがちですが、Courseraの場合は創業時から海外比率が高かったのです。海外受講者のうち、25%程度がアジアの受講者です。ヨーロッパも他の大陸からも、広範囲にわたって受講者がいます。先進国と発展途上国の割合も半々です。

 ちなみに米国に次いでユーザーが多いのは、2位が中国、3位がインド、4位はイギリスです。残念ながら、日本のユーザー数は多くありません。なぜなら、私たちが日本語のコンテンツを持っていないこと、そして英語のコンテンツが日本語に翻訳されていないからです。また、日本人は英語で受講するのは得意ではありません。いま東京大学が4コースを提供していますが、それは日本国外も対象としているので、英語の授業となっています。

―御社はコンテンツの制作に携わっていますか。

 コンテンツは大学が制作しています。私たちが担当するのはプラットフォームを構築することと受講者のサポートです。売上は、大学と私たちで半分ずつ分けています。

―売上はどのように得ているのでしょうか。

 原則、大学の授業、コンテンツは無料です。ただし、コースを修了して資格を得たい場合は有料になります。受講料は決して高くはありません。4週間のコースで、49ドルから95ドル程度ですので、とてもリーズナブルです。しかも、発展途上国の生徒にはファイナンシャルエイド(受講に関して奨学金的なサポート)を用意しています。

 今のところ、有料でコースを受講している人は多くありませんが、コースを修了しようとしている人も増えているので、有料の生徒は増えていくでしょう。Courseraで取得した資格が世の中から価値があると認識されるようにすること、これは私たちの重要な戦略の一つですね。

MBAを取得できるプログラムも開始

―他に考えているマネタイズプランはありますか?

 まだ始めたばかりですが、大学院の修士号を取得できるプログラムがあります。値段は高くなりますが、その分、少数精鋭のプログラムになります。MBAプログラムもイリノイ大学と一緒にスタートしたばかりですね。他の大学にも声をかけて、修士プログラムを展開しようと思っています。これがビジネスとしては堅固なものになっていくと思います。さらに将来的には、家庭教師のようなサービスの提供も視野に入れていますね。他にも、学校の先生を教育すること、大企業での研修なども今後の展開の一つになりえるでしょう。

―Courseraのオンライン授業は、大学と競合することにならないのでしょうか。

 なりませんね。私たちは、大学の活動を補ったりバックアップすることはあっても、大学に取って代わろうとはしていません。なぜならCourseraで受講しているユーザーの多くは、すでに大学の学位を持っています。

 ユーザーの約半数の目的は、仕事を続けながら、自分のキャリアに役立つ知識を習得したり、資格を取って職場でより高い評価を得ようとしています。Courseraでは多くのテクノロジーやデータサイエンスのコースを取り揃えています。それらのコースを取得することは、実際に職場で認められてきています。

 一方、残りの半数のユーザーは、仕事とは関係なく、自分の興味のあるコースを受講しています。例えば、天文学、文学などです。また、人気コースの一つに「学び方を学ぶ」というコースがあります。

―オンラインスクールでは、教師と生徒のコミュニケーションが難しくなります。その点についてはどのように考えていますか。

 その点についてはトレードオフになります。つまり、たくさんの人々に教育機会を提供することと、実際に大学に通学することで得られるようなふれあいは同時には実現できません。現在、クラスのディスカッションフォーラムを運営しており、教授が参加することもありますが、教授たちがいつでもオンラインに参加できるというわけではありません。そこで、質問がある受講生はそのディスカッションフォーラムに参加して、以前そのコースを受けたことのあるボランティアに質問できるようにしています。教授だけでなく、OBも含めたコミュニティにサポートしてもらうのです。

どうやって有名大学をパートナーに口説いたか

―Courseraはどのように立ち上げたのですか。

 先ほどお話ししたように、Courseraはスタンフォード大学のコンピューターサイエンスの教授であるAndrew NgとDaphne Kollerが立ち上げた会社です。その時、私はまだイェール大学の校長でした。彼らがコースをオンライン上にまとめ、スタンフォード大学のウェブサイトで発表したのは2011年のことです。これは世界をとても驚かせました。最高のクオリティのコンピュータサイエンスの授業を配信したからです。

 そして、2012年4月に最初のコースを発表しました。これは、とても大きな社会的意義があることです。世界中の名だたる大学の、その分野での権威のある教授の授業が受けられるのですから。

 通常、教授の授業を聴講できる生徒の数は限られています。スタンフォード大学、イェール大学、東京大学などの難関大学で、一人の教授が教えられる生徒数は、生涯で2000人程度。どれだけ多くても4000人くらいでしょう。しかし、オンラインスクールという新しい方法では、一度に何万人という生徒が授業を聴講することができます。とても意義のあることではありませんか。誰でも世界トップクラスの教育にアクセスできるようになるのです。

―どうやって世界の名だたる大学をパートナーにしていったのでしょうか。

 創業者のDaphne Kollerは、創業した最初の年、世界中を飛び回りました。それこそ、航空会社の年間マイレージの世界最高記録を持っているのではないかというくらいですよ。そして世界中の大学に直接足を運んで説明して回ったのです。彼女が説明したのは、Courseraで授業を提供することで、どんな恩恵を受けられるかということです。具体的には、大学の認識度を向上させること、より多くの生徒に教育を提供して各大学のミッションを多くの人々に広められること、そして将来的には彼らの学校運営を支える大きな収入源にもなるだろうということです。この説明に納得し、共感してもらい、多くの大学がパートナーに加わってくれたのです。

大学は生涯教育をする機関になる

―少しテーマを変えて質問します。近い将来、教育はどうなっていくと思いますか。

 教育は生涯を通じて行っていくものになります。私たちのイノベーションの根底には、その考えがあります。テクノロジーによって誰がどこにいても教育が受けられ、それが生涯に渡って続いていくものになるのです。これは印刷技術の発明以来の革命的な出来事だと思います。非常に大きな変革ですね。

 昔に比べて、人々は頻繁に転職するようになりました。以前は大企業、アメリカでしたらP&G, AT&Tなどが終身雇用をしていました。日本ではそれがより顕著でしたよね。しかし、大企業が終身雇用をするという概念がアメリカ、ヨーロッパ、日本でさえも崩れつつあります。かつてオンラインテクノロジーが発達するまで、人々がスキルを磨くということは簡単ではありませんでした。しかし、いまやオンラインにより、新しい知識やスキルを習得することは簡単になってきています。

 こういった変化に応じて、大学の役割も変わりつつあります。4年や6年限りで教育を提供する機関ではなく、生涯を通じて教育を提供する機関となるのです。

―これからの時代、どのような知識、スキルを習得すべきでしょうか。

 私たちが大きな市場になると考えているのは、テクノロジー分野、ソフトウエア開発分野、データサイエンスの分野です。特にデータサイエンスは新しく伸びている分野ですね。ここ数年、ビッグデータを分析するツールが実用化され始めています。それに関連した仕事も多くあります。また将来的にヘルスケアの分野も必要になっていくのではないでしょうか。

 それ以外にも、管理職として働くこと、チームで働くこと、リーダーシップを発揮することなど、ヒューマンスキルも必要とされます。そのようなスキルを向上させることも必要でしょうね。

―御社の今後のビジョンをお聞かせください。

 ネットサービスの世界では、検索と言えばグーグル、ソーシャルネットワークと言えばフェイスブック、ショッピングと言えばアマゾンのような存在がいます。その中で「学習ではCoursera」と言われる位置づけになりたいですね。

 高校生が大学進学の準備をするため、大学院に進むため、仕事のスキルアップのため、20代や30代の人たちが資格を取得するため、または仕事を引退してから生涯学習を楽しむためなど、どんな目的であっても「学ぶ」ことに関してはCourseraと言われたい。それが世界のどこであろうとも、そういったポジションを目指しています。

―最後に、日本の読者へ向けてメッセージをお願いします。

 私がイェール大学に在籍していた時、日本人の学生と会う機会がありました。日本人の生徒はとても規律正しく、物事を達成するための基礎的な力を備えていました。

 Couseraのようなプラットフォームを活用して生涯に渡って学習すること、キャリアを磨くことはとても重要です。私たちは近い将来、日本語のコンテンツも充実させていくつもりです。それは日本の方たちが生涯に渡って学ぶ上で、非常に大きなインパクトになるでしょう。

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