TECHBLITZがコンテンツパートナーであるジャンシン(匠新)のCEO田中年一氏と、Immersive Creations ChinaのCo-founder & CEOである近衛元博氏を迎え、「投資トレンドから見る中国メタバース概況」のテーマで開催した「BLITZ SEMINAR」。今回は、そのセミナーで紹介した中国メタバース産業の技術動向から企業分布、そして投資動向とともに、一歩踏み込んだ洞察を盛り込んだジャンシン(匠新)の寄稿を紹介する。中国国内のメタバース活用事例は、新しい取り組みや画期的な事例が続々と生まれている。その増加を足元で支えるメタバース2強の中国ネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)と、中国発の動画投稿アプリ「TikTok」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)をはじめとした中国メタバース独自の発展動向についてもカバーする。

※TECHBLITZのコンテンツパートナーであるジャンシン(匠新)の協力で、中国メタバース関連スタートアップへの投資トレンドと、最新動向に関するインサイトを紹介する。

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田中 年一(たなか としかず)
日中でのスタートアップおよびイノベーション共創を推進するアクセラレーター「ジャンシン(匠新)」の創業者。2015年に上海でジャンシンを立ち上げ、2018年には深センと東京にも拠点を設立。

2013年の独立以前はデロイトトーマツ東京/上海にてM&Aや投資コンサル、ベンチャー支援、IPO支援、上場企業監査等の業務に従事。新卒ではHewlett Packardでエンジニア職に就き、ITのバックグランドも有する。上海に多大なる貢献をしたと評価される外国人に対して表彰される賞「白玉蘭記念賞」を2019年に受賞。

東京大学工学部航空宇宙工学科卒、米国公認会計士、中国公認会計士科目合格(会計、税務)、中国ファンド従事者資格合格。

朱 真明(しゅ まさあき)
「ジャンシン(匠新)」のマネージャー/アナリスト。中国国内で進むイノベーション動向を各業界トレンドからエコシステム事情、ベンチャー投資、スタートアップ、中国大手IT企業4強のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、フアーウェイ)などの最新動向から調査・分析をする。日本生まれ日本育ちの中国人。上海理工大学材料工学科本科卒。1年間のインターンを経て2017年に匠新へ入社。

齋藤 慶太(さいとう けいた)
「ジャンシン(匠新)」のアソシエイト/アナリスト。中国エコシステム事情や中国の各業界のトレンドとスタートアップ、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の最新情報などについて調査/分析を担当。2018年9月より北京大学および上海復旦大学に計1年半留学し、留学期間中に匠新でインターンを経験、その後複数社のインターンを経て21年に入社。神戸大学経済学部中国経済専攻卒業。

中国メタバース関連スタートアップの投資トレンド 2021年以降に大幅増

メタバース投資件数と金額の推移(2022年上半期まで)
Image: IT桔子、ジャンシン(匠新)が整理

 中国メタバース業界における資金調達(投資)は、一貫して増加傾向にあり、その傾向は2021年に急激に顕著になっている。投資件数および投資金額は、2020年以前までは、それぞれおよそ20件以下と20億元(約400億円)以下で推移してきた。2021年になって、その数字は大幅に増加し、投資件数は50件、投資金額は93.5億元(約1870億円)と過去最高を記録している。この2022年全体の数字は、同年上半期の数字を基に単純2倍すると、投資件数は106件、投資金額は141.6億元(約2832億円)となることが予想される。この増加動向は、2021年になって始まったばかりのものであり、グローバルのトレンドとも軌を一にしている。

メタバース投資件数領域別分類(2022年上半期まで)
Image:IT桔子、ジャンシン(匠新)が整理

 注目したいのが、中国メタバース業界における小業界(細分化領域)別の動向だ。上記の2011年から2022年上半期までのデータを総合すると、最も多くの投資件数を誇るのは、「バーチャルヒューマン(35件)」の領域となっており、その後続には、「ゲーム(27件)」「業界応用(例:教育現場におけるVRソリューションの導入、26件)」が来ている。

 これら上位3つの領域が全体に占める割合は、45%と約半数になっている。加えて、その他の領域である「ソーシャル」や「デバイス」でも投資件数が上位3位の領域とほぼ僅差で多くなっている。以上の点から、メタバース関連の細分化領域がバランスよく成長していることが伺える。

中国スタートアップ投資領域及びその件数の推移(2020年-2022年上半期)
Image:IT桔子、ジャンシン(匠新)が整理

 それぞれの細分化領域別の直近の投資件数推移を見てみると、細分化領域別の偏りが顕著になっている。2020年から2022年上半期を基にした2022年全体の予測までの推移を比較すると、「バーチャルヒューマン」「業界応用」「ゲーム」「インフラ技術」は、一貫して全体に占める割合が比較的高く、かつ目立って増加傾向にあることが分かる。

 これに対し、「デバイス」「ソーシャル」「ブロックチェーン」はその割合が比較的低い。とりわけ、「ブロックチェーン」は近年のメタバース発展の波の中でも、相対的に低調な増加の一途を辿っている。また、「ソーシャル」は、2021年に大きな増加を見たものの、2022年上半期までではそのパイを大きく減らしている。

 その背景にある要因として、以下の2つが挙げられる。1つは、ブロックチェーンや仮想通貨の領域に対する中国国内の法規制だ。現在、中国国内では、NFT(Non-fungible token)の各関連プラットフォーム上における二次取引を原則禁止している。

 加えて、中国国外で一般的な、誰もがアクセスできるパブリックチェーンではなく、複数の限られた組織が運用するコンソーシアムチェーンの運用のみが許されている。そのコンソーシアムチェーンは、政府のインフラのもとで管理され、そのNFTコンテンツの公開発行は政府による検閲を通過しなければならない点も中国国外とは大きく異なる点だ。

 もう1つは、中国が擁する世界で最も大きな電子商取引(EC)とゲームの市場だ。中国EC最大手のアリババ集団や世界最大のゲーム企業としての側面をもつテンセントは中国のそれら市場を支える代表企業である。また、彼らを中心として発達してきた産業エコシステムが、比較的盤石なリソース源として、時には中国スタートアップの成長を支える戦略的パートナーとなりうる。

 中国のメタバース業界は、以上の2つの要因により、主にエンターテインメント領域を対象とした規制の影響を受けながら、「バーチャルヒューマン」や「ゲーム」などの応用寄りの細分化領域に有利な形で、産業上の応用実装が促進されていることが分かる。

中国メタバース企業2強―テンセント&バイトダンス

中国国内外3大メタバース企業のメタバースエコシステム構造の比較
Image:中信証券研究部、ジャンシン(匠新)が整理

 現在の中国では、代表的なメタバース企業として2社がおり、彼らが中国のメタバースのエコシステムにおいて、核心的役割を担っている。その2社とは、テンセントとバイトダンスだ。彼らは、自社傘下に各層の事業会社を配置し、垂直型のメタバースエコシステムを形成している。特徴として、テンセントはコンテンツ領域に一貫として優位性をもち、デバイスの部分については踏み込んでいない。一方で、バイトダンスは2021年、15億ドル(約1950億円)を投じて、VRヘッドセットメーカーである北京小鳥看看科技(ピコ・テクノロジー)を買収し、SNS&メッセージからVRデバイスまでのメタバースの3層を全面的にカバーすることを試みている。

テンセントの戦略「全真インターネット」

テンセントが提唱する「全真インターネット(CRI)」の現状とその分布
Image:騰訊財報、ジャンシン(匠新)が整理

 今回は、中国メタバース企業2強の1つであるテンセントを深掘りする。テンセントはメタバース関連の戦略として、「全真インターネット(Completely Reality of Internet、CRI)」を提唱している。CRIとは、オフラインとオンラインの一体化やリアルとデジタルの融合により、仮想世界と現実世界の貫通を実現した世界のことを指す。テンセントは、この実現により、仮想世界と現実世界を自由に往来し、どちらの世界でもユーザーがよりリアルな体験を得ることができるように尽力している。

 その特徴として、1つは、コンテンツを主力とした強大なデータエコシステムだ。同社は、SNSに代表されるソーシャルと主力事業であるゲームを基礎体力として、動画やライブストリーミングなどの没入型コンテンツを展開しているのが顕著だ。

 もう1つは、先見性のある事業配置だ。テンセントは、同社が運営するSNSアプリ「微信(ウィーチャット)」やインスタントメッセンジャー「QQ」を中心に据え置き、その周辺に様々なサービスを戦略的に配置することで、メタバース構築のための強固な基盤を築いている。CRIの概念に基づき、同社は、ソフトウェア・アプリケーションの継続的なアップデートや開発実装に取り組んでいる。

 同社は現時点で、メタバース関連の特許を2万4000件以上保有し、世界126カ国・地域をカバー。その対象領域は、主にバーチャルステージや画像処理、AI、サーバー、ブロックチェーン、そしてデータ処理などとなっている。

テンセントが提唱する「全真インターネット」の実現への道のりとその発展段階
Image:中信証券研究部、ジャンシン(匠新)が整理

 テンセントは、自社で提唱するCRIをどのように長期的に実現していくのか。同社は、その発展の道のりを3つの段階に分けている。第1段階では、エンターテインメント領域を入口として、特定層のユーザー間に浸透させていく。例えば、ゲームやマーケティングのツールとしての広告だ。特に、ゲームや新しいPGC(Professional Generated Content)およびUGC(User Generated Content)の個人を対象とした分散的な発展がこの段階におけるメタバースの普及に大きく貢献すると考えている。

 第2段階では、個人を取り巻く生活サービスに深く浸透させていく。例えば、電子商取引プラットフォームは、そのプラットフォーム自体を仮想世界に移動させ、仮想世界での購入体験をもたらす。そして、第3段階では、CRIの誕生である。そこでは、BtoB向けの企業サービスや政府まで、全ての産業にメタバースが普及し、リアルとデジタルが織り交ざり、それらの共存が当たり前になるという。

中国メタバース企業2強 vs. スタートアップ

 では、テンセントとバイトダンスのメタバース企業2強が勢力を拡大していく中で、中国のメタバース関連スタートアップは、どのようなポジションでいかに商機をつかんでいるのか、その体系についても触れたい。

 メタバース企業2強は、既存ビジネスに特徴的なプラットフォーム特有の拡張性や相互運用性を活用するとともに、外部からの豊富な資金調達により、自社でメタバース関連事業を優位かつ迅速に進め、強固なメタバースエコシステムを形成している。資金面では、その2強はCVC(Corporate Venture Capital)機能も動かし、メタバース領域におけるスタートアップを対象とした投資を増加させている。

 一方で、スタートアップはそのエコシステムと親和性の高いかつテンセントやバイトダンスにはない画期的なソリューションやプロダクトを創出することで、両者の間での補完関係を形成している。

バーチャルヒューマン市場規模の推移および構成

中国におけるバーチャルヒューマンの各分類の定義
Image:量子位、ジャンシン(匠新)が整理

 最後に、数あるメタバース細分化領域の中でも、バーチャルヒューマンに焦点を当てたい。中国では、バーチャルヒューマンを大きく2種類に分けている。1つは身分型バーチャルヒューマン、もう1つはサービス型バーチャルヒューマンだ。前者は、現実世界を生きる生身の人間とは別に身分を持つ、あるいは人間の分身として位置づけられ、エンターテインメントやSNS領域に応用される。一方、サービス型バーチャルヒューマンは、主に人の代わりにサービスを提供する人間の労働力代替あるいは補助として位置づけられ、業界を限らず広く応用が進んでいる。

 特に、サービス型バーチャルヒューマンは、中国が得意とする電子商取引のライブコマースにおける活用が特徴的だ。中国のライブコマースの中には、24時間連続生放送をしているものもあり、生身の人間のみで運営するには無理がある。そこで、人間の代わりにライブコマースのMCを勤めさせることで、円滑なECサービスの提供を可能にしている。

バーチャルアイドル市場規模推移(2017-2021)
Image:観研天下数据中心、ジャンシン(匠新)が整理

 バーチャルヒューマンの身分型バーチャルヒューマンに類するバーチャルアイドルの市場規模の推移に注目してみると、早くも2017年から一貫して成長し続けている。最新の2021年の市場規模予測は62億2000万元(約1264億円)と、前年同期比で79.8%の増加を記録している。

2030年における中国バーチャルデジタルヒューマン市場規模予測
Image:量子位、ジャンシン(匠新)が整理

 また、上記の中国2種類のバーチャルヒューマンのうち、中国では将来的な身分型バーチャルヒューマンの市場規模が、2030年時点で1747.2億元(約3兆4944億円、64.6%)と、サービス型バーチャルヒューマンの955.4億元(約1兆9108億円、35.4%)より2倍近く大きくなると予想されている。

 また、その身分型バーチャルヒューマンの内訳を見ると、バーチャルIPが1474.3億元(約2兆9486億円、85.1%)、第2身分バーチャルヒューマンが262.1億元(約5242億円、14.9%)となっている。したがって、中国では、いわゆるアバターとしての活用よりも、人間とは別に確立された身分を持つバーチャルヒューマンのコンテンツとしての活用が主流になっていく可能性が高いことが見て取れる。

中国バーチャルヒューマン事例「夏語冰」

バーチャルヒューマン「夏語冰」が歌を歌う様子
Image:中国中央電視台(CCTV)

 中国のバーチャルヒューマンの事例の1つとして、絵画制作能力や歌唱能力も備えるバーチャルヒューマン「夏語冰(シャー・ユービン)」がある。このシャー・ユービンは、2022年1月29日の中国中央電視台(CCTV)の番組で公式に初公開された。このバーチャルヒューマンは絵を描けるだけでなく、歌も歌える能力を持っており、その歌声は、放送時点で世界でも最も高度な技術が実現しているAIの合成によるものだと言われている。

CCTVの番組でバーチャルヒューマン「夏語冰」の作詞能力を紹介する様子
Image:中国中央電視台(CCTV)

 さらに、シャー・ユービンは中国語の作詞能力も持ち合わせている。番組では、2022年冬季北京五輪のポスターを用意し、コンピューターのブラウザ上にアップロードすると同時に、作成のためのヒントとなる文字列を入力することで、数十秒で1つの詩を書きあげることが可能だ。このバーチャルヒューマンは、AIコンテンツ生成技術を手掛けるスタートアップ企業「紅綿小冰(xiaoice)」とマイクロソフト中国によって開発および運営が行われている。

中国バーチャルヒューマン企業事例「魔琺科技(Xmov)」

魔琺科技(Xmov)のロゴと同社が手掛けたIP事例の一覧(一部)
Image:魔琺科技(Xmov)

 現在最も中国で成長著しいバーチャルヒューマン関連スタートアップの1つが、メタバースインフラスタートアップ企業の「魔琺科技(Xmov)」だ。同社は2017年10月に設立、コンピュータービジョンおよびコンピュータグラフィックス(CG)をAIと掛け合わせることで、よりリアルなバーチャルコンテンツの作成をサポートしている。

 また、コンピュータービジョン技術を通じて、人体の動きおよび表情を認識し、CG化することで、人の動きをアニメーションにリアルに反映できる。さらに音声や動きに応じた視覚効果を加えることで、より豊かな表現も可能。物体識別ができるAIエンジンプラットフォームも構築しており、企業向けに技術提供もしている。直近では、2022年4月6日にステージCで1.1億ドル(約143億円)の資金調達に成功しており、投資家の中にはソフトバンクビジョンファンドがリード投資家として参加している。

魔琺科技(Xmov)の代表的なバーチャルヒューマンIP「翎(Ling)」の事例一覧(一部)
Image:ジャンシン(匠新)

 同社の代表的なバーチャルヒューマンの1つが、翎(Ling)だ。彼女は、Xmovとデジタルヒューマン制作企業「次世文化」が共同で制作した中国風バーチャルKOLで、2020年5月に正式デビュー。Lingは、デビュー以来、そのユニークなイメージとスタイル性の高いコンテンツで、多くのユーザーを魅了。スマートテクノロジーが生み出した単なるアバターではなく、現実世界と仮想世界の間を自由に行き来し、仮想生活空間で過ごす時間を欲する人々にとって実際に会えそうで会えないアイドルとしての要素をもつ。Weibo(中国版SNS)を主要な媒体とした紹介投稿・記事の閲覧数は、デビュー後3日間で1200万回を突破。2022年1月末時点で、10以上のコラボ事例がある。

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