5億ユーロ(約600億円)のファンドを設立し、シリコンバレーに本社を置くBMW i Ventures。現地で投資の意思決定権を持ち、4週間程度でスピーディーに投資する体制を持つ一方、ファイナンスリターンと事業シナジーの双方を実現する責任も負う。投資分野は自動車領域を始め、サイバーセキュリティ、デジタルライフ、エネルギーなど幅広い。どのような投資方針、体制で運営しているのか、Managing PartnerのUlrich Quay氏に聞いた。

600億円ファンドを設立、現地で迅速に投資

―まずBMW i Ventures のこれまでのヒストリーを聞かせてもらえますか。

 当社は、2011年にBMWグループ(以下BMW)の投資子会社としてニューヨークで設立されました。設立から5年間は、1億米ドルの予算を持ち、約20社に投資を行いました。この5年間は、モビリティーサービス関連企業を対象に、戦略投資にフォーカスしていました。

 2016年に新たに5億ユーロ(約600億円)のファンドを設立し、本社をニューヨークからシリコンバレーに移しました。シリコンバレーでは、より大きいチームを編成して当社の権限を増やし、出資の決定も現地で行える体制にしました。また、投資対象も8つのエリアに広げ、自動車メーカーに関係するあらゆる技術やサービスを対象に活動しています。

 現在は11名のメンバーが在籍しており、BMW出身の人間は2名のみです。今までは、BMWが限定パートナーであり唯一の出資者でしたが、次のステップとして、オープン型ファンドをスタートし、外部投資家も加える計画があります。オープン型のファンドは中国でもスタートします。

―オフィスは米国とドイツにありますが、投資対象のエリアは?

 アメリカ、カナダとイスラエルを含めたヨーロッパ全域を対象にしています。アジアでは、中国での展開を進めているところです。

―御社の目指すゴールは何でしょうか。

 まずファイナンシャルリターンを得ることです。これは達成度が測定しやすいゴールですね。もう一つは戦略的なリターンを得ること。市場動向のインサイトを得ることと、優れた先進的なスタートアップをBMWにつなげることを特に重視しています。現在もBMWの事業部門と多くのプロジェクトを進めています。

―ファイナンスと戦略的なリターンのどちらを重視していますか。

 両方とも同様に重視しています。全てがうまくいけば、BMWの自動車部門以上の利益をもたらすことができますし、最先端企業とBMWをつなげることができます。

Ulrich Quay
BMW i Ventures
Managing Partner
1996年University of Freiburg法学部卒業。ドイツ・ハンブルグ高等地方裁判所にて2年間Referendariatとして実践的なトレーニングを受けた後、University of Freiburgに戻りInternational Contract Law(国際契約法)の博士号を取得。2000年よりBMW AGの弁護士、2006年より英BMWの主席弁護士を務めた後、2010年よりBMW AGの主席弁護士としてM&Aおよびジョイントベンチャーを担当。2011年にBMW i VenturesのManaging Partnerに就任。
 

BMW単体では、出会えなかったテクノロジーを発掘する

―どんな投資事例がありますか。

 数多くありますが、あえて挙げるならば電動キックボード事業を展開しているLimeや、自動車サブスクリプションスタートアップのFairは、事業の拡大や、海外展開という意味でも順調に成長している企業です。

 当社の投資先にはユニコーンが6社あります。また2019年は、Life360がIPOするなど、投資先が5社イグジットしました。

―投資先の企業の中には直接的にBMWとつながりそうにないものもありますね。

 BMW単体では、出会わなかったテクノロジーやサービスを見つけ、紹介することも当社の役割です。例えば、けん引車サービスを提供する企業を紹介したことがありますが、こうした会社はBMWの既存サプライヤーから外れており、関わる相手として見られていませんでした。

 ファイナンシャル目的以外の投資先は皆、BMWと何をしたいかというビジョンを持っています。そのビジョンが実現することもあれば、残念ながら実現しないこともあります。

―御社は様々な技術分野に投資を行っていますが、いま特に注目している新しい分野はありますか。

 特定分野に注目するというより、企業ごとにケースバイケースで検討しているため、当社の投資先企業は幅広い領域にまたがっています。

 5Gの拡張に役立つテクノロジーを開発している企業であったり、燃費への影響が少ないHVAC(Heating Ventilation and Air Conditioning/ 空調ユニット)を開発している企業に投資することもあります。

年間1000社を調査、面談から4週間程度で出資

―御社はどうやってスタートアップを探し、投資判断をしていますか。

 当社では、2名でチームを組んで投資先を探します。2011年から数えて、1万社以上を見てきました。年間で1,000社見ているということですね。その中で、関心を持った企業を掘り下げて調べ、さらにはデュージェリエンスを行います。

 チームメンバー2名がそのスタートアップを良いと評価したら、次は投資委員会でパートナーを説得します。その次は、スタートアップを招いて直接会い、投資を判断します。通常は4週間ほどかかりますが、必要があればもっと短い期間で判断することもあります。最短10日弱で投資を行ったことがあります。

―BMWから投資を受けたい企業は多くいると思いますが、御社から企業にアプローチすることの方が多いのでしょうか。

 そうですね。当社が見つけてアプローチする場合と、既に関係がある創業者や投資家、またはその他の関連企業から紹介される場合がほとんどです。当社の投資先のうち半数以上が紹介された企業です。

 スタートアップから直接問い合わせを受けることもありますが、投資につながるケースはほとんどありません。投資家にダイレクトメールを送るのはあまりよい方法とは言えないでしょうね。

―VCとして、スタートアップに対してどういった価値を提供していますか。例えば、プロトタイプ作成用に車を提供するなど、具体的な事例を教えてもらえますか。

 車を提供したことはありませんが、実験を行うためにBMWの自動車部門が所有している試験施設を貸したことはあります。しかし、全てケースバイケースで、投資先企業はそれぞれ違ったサポートを必要としていますので、それに応じて柔軟に対応しています。

 当社では、投資先の状況や計画などは個々に把握するようにしています。顧客またはパートナーを探している場合は、ポートフォリオ内の企業同士をつなげることもできますし、BMWが顧客になり、1億ドルの契約を交わしたケースもあります。

 例えば、3DプリンターのCarbonは当社が投資し、BMWが自動車メーカーとして初めて3Dプリンティング技術を製造に用いることになりました。技術的な支援が必要な場合はBMWの技術担当者から協力を得ることも可能です。

自動運転車は「明日できるわけではない」

―昨今、自動運転車についてニュースでも当たり前のように見るようになりました。自動運転車についての見方はどう変わってきていますか。

 自動運転車関係の企業にとっては、投資環境は厳しいものになっていると思います。ほとんどの製品やサービスが発売日を延期しているので、市場では懐疑的な見方も出ています。3〜4年前、自動運転スタートアップの企業価値はクレイジーなくらいに高騰していましたが、現在はそのような状況ではありません。

 BMWは、自動運転車は「明日できるわけではない」と常に言ってきました。そんなに簡単なものではないことに皆さんも気づき始めていると思います。自動車メーカーは、特定の環境や天気でしか動かないものを発売することはありません。どのような環境下でも、どんな天気でも運転できなければダメなのです。大学のキャンパスや小さな街だけで実験することとは大きく異なります。

 自動運転車の課題は、発売するためにはサービスの安全性を確実にする必要があることです。 従来の自動車メーカーはリスク以上に安全性を確認できなければ、製品としてローンチしないので、特に慎重になりますね。なぜなら、技術で何百人もの命を救ったとしても、1人でも死亡者が出れば、そのことだけ注目され、責任を問われ、功績は忘れられてしまいます。ですから日本でもドイツでも、従来の自動車メーカーは、安全性が100%確認でき、失敗の可能性がないものしか発売しないでしょう。



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