企業間のオンライン決済を「もっと使いやすく」
ここ数年、新型コロナウイルスの流行を背景にしたオンラインショッピングの拡大もあり、事前審査がそれほど厳しくないBNPLの利用が欧米の若年層を中心に広がっている。スウェーデン発のKlarnaや、アメリカのAffirm、オーストラリアのAfterpayといったフィンテック企業が有名だ。
Knecht氏はMcKinsey&Companyを経て、2014年に中小企業向け融資を行うZencap(後に現在のFunding Circleに売却)を創業した経験から、BtoB企業を悩ますオンライン決済の課題に気づく。
「この10数年、PayPalやVenmo(アメリカの個人間送金アプリ)のような新しいオンライン決済サービスが登場し、私たち消費者はスマートフォンで、簡単かつシームレスな決済が可能となりました。しかも、支払いが滞ることはありません。これらのフィンテックは、BtoC決済の世界に革命を起こしました。しかし、BtoB決済ではいまだに90年代のような手作業による取引が行われており、処理に数日から数週間もの時間がかかっています。私たちはそのような状況を変えたいとBillieを設立しました」
これまでクレジットカードくらいしかなかったBtoB間のオンライン決済に、Knecht氏は多様なBNPLサービスを提供することにした。たとえばBillieを利用するオンラインショップオーナーは、顧客企業に14日から120日の間で支払いプランの選択肢を与えることができる。またBillieはファクタリングによる売掛金の引き受けができるので、オンラインショップオーナーは顧客の支払いを待たずとも、スピーディに現金化もできるようにした。
こうした機能はBillieが顧客である売り手企業と、買い手企業の間に入り、売り手に代わって請求書発行から代金回収までの業務を請け負い、未回収リスクを保証するBNPLだからこそ可能となるサービスだ。
200秒というスピード与信を可能にしたデータサイエンティストチーム
Billieの特徴の1つは、与信審査のテクノロジーにあるとKnecht氏は説明する。
「Billieを通して取引を行う企業は、バックグラウンドで動く3つの領域の審査をパスする必要があります。1つは、取引をしようとしている相手が、いったいどういう会社なのか、顧客を特定する領域です」
「次に、詐欺のスコアリングを行うことによって、債務不履行のリスクを防ぐ領域です。このリスク評価は、Billieがもつ知的財産の中核をなすものの1つで、200秒で相手を評価できるという非常に高速なものです。これは私たちが誇りにしているコアテクノロジーの1つであり、常に改善を続けている部分です」
「そして、チェックアウトさせることができる買い手と、チェックアウトさせたくない買い手をきちんと区別する領域です。これが、この種のビジネスモデルにおける秘訣のようなもので、この領域の精度が優れていればいるほど、より良いマージンを得ることができ、私たちの顧客により良いサービスを提供することができます」
BNPLの中核をなす与信審査ロジックが優れているほど、顧客企業のコンバージョン率アップにつながる。付加価値の高い決済サービスを提供できれば、Billieは決済が発生する度に取引企業から高い利用料を受け取れるようになるという仕組みだ。
Image: Billie HP
Billieでは十数名からなるデータサイエンスのチームが、機械学習を用いてリスク定量化とロジック構築に取り組んでいて、トランザクションから生まれる膨大なデータを収集してアルゴリズム改良に努めている。
現在、BillieはさまざまなBtoB企業に利用されており、業種はオフィス用品や機械工具、チョコレートメーカーにも至る。顧客数や売上高などの数字は公表していないが、「ドイツのBNPLサービスでは、Billieがトップシェアです」とKnecht氏は明かした。
フィンテック大手Klarnaと戦略的パートナーシップ 欧州展開へ
2021年10月、BillieはシリーズCラウンドでDawn Capitalをリードインベスターに、KlarnaやTencentなどから約1億ドル(約134億円)の大型資金を調達した。調達資金は機能追加や技術開発に充てていく考えだ。その次に取り組みたいこととして、ドイツ以外の国への進出と現地チームの採用、本社メンバーの強化を挙げた。
資金提供したうちの1社で、BtoC向けBNPL大手のKlarnaとは、ヨーロッパ展開の戦略的なパートナーシップも結んだ。Billieはこの提携を足がかりにヨーロッパ各国へサービスを拡大していきたい考えだ。
「まず規制やリスクモデル、回収支払システムの構築方法を熟知しているヨーロッパ諸国から進出するつもりです。ですが、BNPLへのニーズはヨーロッパだけでなく、アメリカ、中南米、アジアにもあると考えています。ヨーロッパの次はもっと多くの地域に進出することになるでしょう」
日本進出の可能性について尋ねると、ヨーロッパ以外へ展開する時はぜひ検討したいとして、次のようにKnecht氏は述べた。
「日本市場の特性に合ったチャネルを選ぶことが重要です。考えられるパートナーとして、BtoB向けオンラインショップ企業と太いパイプを持つ企業や、債権回収などのリスク管理に強い企業があり得るでしょう」
直近の目標は、パートナーであるKlarnaの本拠地スウェーデンでの成功だ。そして開発面ではA/Bテストや行動解析を導入し、買い手のUX(ユーザーエクスペリエンス)改善に努めていきたいという。
「毎月何万社もの企業がBillieを利用していますが、彼らのトランザクションのうち、チェックアウトしか私たちはサポートしていません。私がいつも疑問に思うのは、『どうすれば彼らの取引をもっと助けることができるだろうか』ということです。これらの企業を支援するために、来年にはもっと多くの素晴らしい製品が開発されるでしょう」
BtoB向けオンライン決済の分野で、Billieのような競合他社はまだ現れていない。だが、Knecht氏は「この分野には大きな需要が眠っています。到底、1社だけでその需要をまかなえるような規模ではありません。デフォルトリスクを防ぐハードルは高いですが、もっと参入企業が増えることを願っています」と述べ、BtoB決済におけるBNPLの可能性により多くの企業が気づいてほしいと業界全体に呼びかけた。