Benedict Evans氏は、米国著名VCであるAndreessen Horowitzの元パートナーで、現在は独立してアナリストやコンサルタントとして活動しつつ、読者15万人の個人メディアを運営している。毎週配信されるメールニュースでは、その時々に注目すべきテーマを選び、他の人が追求していない「問い」を投げかけながら、導き出した答えを配信している。iモード時代からモバイルネットワークに詳しく、日本でも注目を集めるEvans氏に、メールニュース運営の裏側や今後の注目テーマなどについて聞いた。

2013年から運営、読者15万人の有名ニュースレター

――米国テック界隈でEvansさんのニュースレターは有名ですが、日本では知らない方もまだ多くいると思います。改めて紹介してもらえますか?

 2013年から週刊のメールニュースを配信しており、いま約15万人の読者がいます。読者の中には、Googleの上級職に就いている方もいれば、銀行や出版社で働いている方など様々ですし、欧米諸国だけでなく、日本、韓国や中国でも読まれています。

 世の中で起きている膨大な量の出来事や新たに生まれたテクノロジーの中から、見逃すべきでない、重要なトピックを私がピックアップしています。そしてそれらの紹介と解説を加えた記事をメールでお届けしています。

Benedict Evans
1998年、ケンブリッジ大学にて歴史学の学位を取得。ロンドンの証券会社にてエクイティアナリストやコンサルティングファームでコンサルタントを務めた。フリーランスのコンサルタントとして活動した後、2014年にシリコンバレーのAndreessen Horowitzのパートナーに就任。2020年にロンドンに戻りアナリスト・コンサルタントとして活動。
 2〜3ヶ月に1回のペースで新しく興味を引くテーマを見つけているので、テーマはその時々で入れ替わります。例えば、機械学習モデルのバイアスに興味があれば、専門的な内容まで学びますし、次にコンテンツモデレーションに興味が移れば、その分野を追求します。また、シリコンバレーのニュースだけでなく、聞いたことはあっても、まだ詳しく知らないようなテーマを世界中から選んでいます。

 私のニュースレターは短時間で読み切れ、読むとその時々に起きている重要なことがわかるようになります 。エレベーターピッチという概念をご存知でしょうか。例えば、社長や上司と偶然エレベーターに同乗し、最近のニュースや話題に関して意見を求められても、私のニュースレターを読んでいれば、目的の階に着くまでの数十秒以内に完結する、有意義な回答ができるようになるでしょう。

 今までは無料版のみでしたが、2020年から月額10ドルのプレミアム版の配信を始めました。プレミアム版では、無料版より深い分析を含んだ記事を先駆けて配信し、アーカイブスへのアクセスなど、特典を設けています。

Photo: Benedict Evansホームページ

――どのように情報収集をしていますか?何らかのテクノロジーを活用していますか。

 リサーチは全て自分ひとりで行っています。レポートや専門家のブログやメルマガなど、かなり多く読んでいます。あとは、ツイッターで尖った人を多くフォローしたり、自分が知らないことに関して情報を探しますし、インターネットの片隅までリサーチし情報を得ることもありますが、誰も知らない情報を得ようとしているわけではありません。

 新しいテーマ、例えば今話題のeスポーツに関して記事を書くために、リサーチに1〜2ヶ月程度は費やし、独自の視点で発信ができるようになるまで準備します。eスポーツに関して他の人が分析していない「問い」や、説明されていないことがあり、自分でも理解できていないことで、他の人たちも理解したいと思っていることがあれば、そのテーマに取り組みます。そして、そのテーマについて、他の人が書いていない独自の視点で分析記事を書くのです。

20年前のiモードのように、現在の中国のイノベーションは欧米圏にとってミステリー

――いま興味を持っているテーマは何でしょうか。

 そうですね、いくつかあります。まず1つ目は、新型コロナウイルスによる影響ですね。ロックダウンによって多くのことが変わりましたが、私たちはまだ全ての変化を把握できていませんし、理解していません。今後の「日常」がどういったものになるのか、ロックダウンがどう影響しているのか分かっていません。まだまだ多くの「問い」があるので、今後も継続的に取り上げていくと思います。

 2つ目のテーマは、規制です。テクノロジーと越境データ等に関する規制と、規制をめぐる国家間の対立についてです。テクノロジーは、小さい産業でしたが、民主主義において社会的および構造的に非常に重要なものになっています。

 これまでの20年間は、世界中の人がスマートフォンを持つようになり、オンラインになることを予見し、その状況から何が生まれるのかを考えればよかった。ですが、その時代は終わりました。しかし、次のトレンドが何になるのか、はっきりしていません。様々なことが起きており、それに伴い、様々な「問い」が生まれます。

 例えば、車が普及して、皆が所有するようになったことで、車自体はつまらないものになりましたが、車社会が整備されたことで、ウォルマートやマクドナルドのような企業が生まれました。スマートフォンを皆が所有するようになった今、私たちは「デプロイメントフェーズ」に立っていて、次に何がでてくるのか、これを考えているところだと思います。

Photo: Deman / Shutterstock

 興味深い「問い」が生まれる一つのエリアは中国でしょう。アメリカがインターネットを作り、世界で権力を保持していましたが、その時代は終わりました。これが何を意味しているのか、アメリカだけでなくヨーロッパ、日本、インドや他の国々でも皆が答えを探しています。

――昨年のニュースレターで、中国の通信事業者について取り上げていました。20年前の日本のモバイルインターネットに関しても少し言及していましたね。

 20年前に、日本のモバイルインターネットが革新的だった時期がありました。私も当時は日本のモバイル市場についてかなり詳しく知っていました。iモードやEZwebなど、日本国内だけで使えるモバイルサービスを、何千万もの日本人が使っていましたね。

 今の中国は20年前の日本と面白いほど重なる点があります。例えば、皆がiモードのことを知りたがっていた頃、資料もマーケティングもマニュアルも、全て日本語でしたし、議論も日本語だけで行われていました。日本語が読めなくて製品を使いこなすことができず、飛行機に乗れば12時間で日本に行くことはできましたが、製品を買うことはできませんでした。

 今の中国を見ていると、当時のことが重なります。本当に興味深くて、クールなことがたくさん起きているのに、中国語が読めないため製品を使えません。中国にも12時間で行くことはできますが、現地のサイエンティストたちによる議論は全て私には読めない言語で行われています。現在の中国のテクノロジーを理解しようとすると、20年前にiモードを理解しようとしていた時と同じ問題に直面します。

――しかし、日本と中国は政治体制が大きく違います。

 状況は似ていると思いますが、アメリカから見た「心配事」の性質はかなり違うかもしれません。1980年代に日本経済はアメリカにとって脅威となりました。しかし、日本市場はアメリカ市場の半分ほどの規模でしたし、日本は自由民主主義です。近年では、アメリカは中国に対して脅威を感じていますが、中国市場はアメリカ市場より大規模ですし、中国は自由民主主義ではありませんから。

ベンチャーキャピタリストの仕事は「ノー」と言うこと

――Evansさんは2019年まで大手VCのAndreessen Horowitzでアナリストとして働いていました。

 2019年まで、6年間Andreessen Horowitzでアナリストをしていました。それ以前は、証券会社で移動体通信産業のエクイティアナリストとして、他には、経営戦略や、メディア・モバイル分野のコンサルタントなど、その時々に興味を持った分野や産業に携わってきました。

 2020年にロンドンに戻り、現在は独立したアナリストとしてニュースレターやエッセイの執筆や講演を行いながら、アーリーステージのVCにメンターとして携わり、スタートアップ支援に取り組んでいます。

――なぜシリコンバレーのVCで働くことにしたのですか?

 キャリアは個人的な興味に従って築かれるものです。私はその時々に生まれる「問い」に興味があるため、それを分析することに関心を持っています。

 20年前は移動体通信業界が刺激的で革新的だったので、エクイティアナリストとして携わりました。しかし、ある時から通信業者への興味は減り、スタートアップから生まれる次世代テクノロジーへと関心がシフトしました。スタートアップがどうやって作られるのか、そして、新しいテクノロジーがどうやって創造されるのかを知ることができるので、VCで働いていたのです。

――今のスマートフォンはどうでしょう。モバイルネットワークのように、もうEvansさんの興味を引くものではないですか?

 モバイルネットワークは、携帯電話が爆発的に普及し始めた時代は、新しくてエキサイティングでした。しかし、誰もが携帯電話を持つようになったら、突如、非常に退屈なものに変わりました。

 スマートフォンも登場したばかりの頃は、新しくて非常にエキサイティングでしたし、PCに取って代わるものとしても注目を集めていました。今では誰もが持っていますし、予測されていたことが実現し、退屈なものになりつつあります。今は、根本的な変革を起こす次なるテクノロジーに興味があります。例えば、1920年代には、電気は最先端で革新的でしたが、今は特別なものではなく、誰も注目していませんよね。これと同じです。

――今もロンドンでVCのメンターをしているとのことですが、シリコンバレーと他のエリアでは大きな違いがありますか。

 シリコンバレーは、世界的な起業家たちの集合体です。私は学園都市のようなものだと思っています。

 例えば、カフェでレジの列に並んでいる人は全員スタートアップで働いています。そして、あなたが働いているスタートアップのことや、あなたが何を創ろうとしているか、皆が知っています。席に着くと、その周りには、世界的に有名な専門家や、博士課程にいる研究者などが座っています。もちろん、あなたも博士号を取っているはずです。

Photo: fizkes / Shutterstock

 常に大学内にいるような環境なので、息が詰まりそうになることがありました。私は、テクノロジー以外の話を雑談できる場所に魅力を感じますし、今はシリコンバレー以外の場所でもソフトウェアの開発は行われています。台頭している中国だけでなく、ヨーロッパやロンドンでも開発は行われています。

――シリコンバレーのVCとは、簡単に言うとどういう仕事なのでしょう。

 VCは、パラドックスが生じる仕事です。クレイジーな夢を持って世界を変えようとしている”マニア“のビジョンを信じることが唯一の仕事ですが、実際に日々行っていることは、彼らに「NO」と回答することです。例えば、年に1000社見ても、実際に投資をするのは10社程度ですから。VCの仕事は、クレイジーな夢想家を信じ、一方でいつも「ノー」と言い続けることなのです

――最後に日本の読者にメッセージをお願いします。

 私の仕事は、テクノロジーを「翻訳」して世の中に届けることだと考えています。米国の著名ジャーナリストA.J. Lieblingは、「私は、私より早く記事を書ける人より、良い記事を書ける。そして、私より良い記事を書ける人より早く書ける(I can write better than anybody who can write faster, and I can write faster than anybody who can write better.)」と言っていました。

 私は同じ言い回しを使い、自分のことを「私は、私よりテクノロジーを理解している人より優れた分析ができる。そして、私より優れた分析ができる人よりテクノロジーを理解している(I’ll do better analysis than anyone who’s more technical and I’m more technical than anyone who does better analysis)」と表現しています。



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