Activ Surgical(本社:米ボストン)は、コンピュータビジョンとAI、機械学習(ML)を活かして外科手術向けのインテリジェンスシステムを開発するヘルステック(医療テック)のスタートアップだ。小児外科医Dr. Peter Kimらが2017年に創業した。同社の最初の製品「ActivSight Intelligent Light」は術中、肉眼では見ることのできない血流など生理的構造の可視化を可能にした。

「手術ミスを減らすことで、人命を救い、患者の安全と転帰(疾患・ケガなどの治療における症状の経過や結果)を向上させる」という使命を掲げる同社。Dr. Kimの技術に感銘を受け、チームに加わったというCEOのTodd Usen氏に、日本を含むグローバル展開への展望などを聞いた。

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手術ミスを防ぎ、救える命を救う

 Usen氏は、医療機器やヘルスケア分野で25年以上の経験があり、2019年1月からActiv Surgicalに参画した。医療機器の商業化戦略や市場開発などのエキスパートだ。

 そのキャリアは、医療機器メーカーBoston Scientificから始まった。神経血管部門の営業担当副社長や、内視鏡営業担当取締役、分野開発担当グローバルマネージャーを務めた。2007年にSmith and Nephewに移り、要職を歴任。その後、日本と強いつながりを持つことになる。オリンパスの米国法人であるOlympus Corporation of the Americasの医療システムグループの初代プレジデントとして事業のグローバル化などに貢献した。

Todd Usen
Activ Surgical
CEO
医療分野において25年以上の経験を持つ。Boston Scientificに約13年間在籍し、神経血管部門の営業担当副社長や、内視鏡営業担当取締役、分野開発担当グローバルマネージャーを務める。Smith and Nephewでは、関節再建やスポーツ医学部門、外傷部門の要職を歴任。2015年-2018年、Olympus Corporation of the Americasの医療システム部門初代プレジデントとしてグループを牽引。2019年1月からActiv Surgicalに参画し、CEOに就任。

 カナダ、トロント出身で小児外科医Dr. Kimは、Activ Surgicalの創業者であり、医療技術の発明家でもある。米ワシントンDCのChildren's National Medical Centerの研究所のリーダーを務めながら、1300万ドル以上の助成金を得て、7年の歳月をかけ、現在のActiv Surgicalにつながる技術の土台を作った。Dr. Kimの研究データが公表され、米国のVCであるGreatPoint VenturesのRay Lane氏、Ashok Krishnamurthi氏(現在、Activ SurgicalのBoard of Directorsも務める)の働きかけで、2017年にActiv Surgicalの創業に至った。

 グローバル化を担うCEOとしてチームに加わったUsen氏はこう語る。「私がActiv Surgicalに入ったのは、Dr. Kimの素晴らしい技術を見たからです。米ジョンズ・ホプキンス大の研究者は、医療ミスが米国における死因の3位になっているとの研究結果を発表しています。防げたはずの外科的なミスによって毎年多くの死亡例が生じているとの調査結果もあります。Activ Surgicalの技術によりで救える命があり、手術ミスを減らすことで医療コストの削減も見込めるのです」

AIと機械学習で、高度なリアルタイムインテリジェンスと視覚化を提供

 手術ミスは人命に関わり、医療制度に多額の負担を与える懸念もある。ミスを減らすだけでなく、手術にかかる高額な費用を抑え、命を救う方法があるはずという信念の下、Activ Surgicalはデジタル手術プラットフォーム、ActivEDGEの開発に取り組む。

 ActivEDGEはAIとML、高度な拡張現実(AR)を活かした高度な外科的洞察・知見を提供するソフトウェアプラットフォーム。外科手術において、外科医をサポートするリアルタイムのインテリジェンスと視覚化を提供し、AI、MLのツールと人間の判断を最良のバランスで結びつけることで、外科手術の成功率を高めようとしている。

 このプラットフォームの一部となる最初の製品がActivSightである。ActivSightは既存の腹腔鏡や関節鏡に取り付けることができ、肉眼では確認が難しい血流などの生理的構造を、造影剤を使わずに確認できる。2021年4月、FDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)の認可を取得した。

Image:Activ Surgical

Image:Activ Surgical

「手術室では医師が見たり識別したりできないことも多々あります。手術室にいる間、ActivSightをスコープに装着すれば、医師が的確な判断を下せるように、スクリーン上で視覚的なオーバーレイをすぐに確認できるようにしています」とUsen氏は説明する。

 画像がクラウドに送られ、世界中の外科医が注釈をつけることができるという。それらの注釈が機械学習アルゴリズムを通して、ActivSightを使用するすべての病院に情報をフィードバックする。例えば、東京の大きな病院に勤め、5,000件の手術を経験した外科医と、地方のクリニックで5件の手術しか経験していない外科医では経験に大きな差がある。だが、ActivSurgicalの画像モジュールを使っている医師なら、誰でも同じ情報を世界のどこにいても受け取れるようになる。そんなプラットフォームとなっていく構想だ。

「私たちは新しい技術を駆使し、安全な手術ができることを目的としています。それを私たちは『インテリジェント・ビジュアライゼーション&センシング・ソフトウェア』と呼んでいます。全ての外科医が世界中で同じ情報を得られるようにするものです」

Image:Activ Surgical

日本は重要な市場 パートナーと協力し、2024年の参入を目指す

 Activ Surgicalは2022年3月のシリーズBラウンドで1500万ドルを調達。過去6回の資金調達で合計1億ドル余を調達している。調達資金は、FDAの認可取得、ActivSightのグローバルな商業化、品質とオペレーションの強化、組織の拡大などに充ててきた。グローバル化や組織の拡大に伴い、医療分野で確固たるキャリアを持つCOOも新たにチームに迎え入れた。新たなプロダクトの開発も推進。ActivInsightは術中に収集された膨大なデータを変換し、組織や重要な構造の特性評価を支援する。

 プロダクトは限定的な市場で販売を始めており、今後は徐々にグローバルに展開する。同社は2022年12月、CEマーク(EU加盟国の基準を満たす製品に付けられる基準適合マーク)を取得したと発表した。Usen氏によると、現在、欧州における7つの施設がActiv Sightの使用を開始する準備が整っているという。

 アジア進出も視野に入れている。特に日本はアジアの中でも最初に参入したいと考え、最重要な国だと同社は捉えている。Olympus在籍時は四半期に1回ほど日本へ行っていたことから、Usen氏は日本の医療事情、特に胃がん領域に精通している。現在、Activ Surgicalは、腹膜領域の腹腔鏡手術に注力しており、同社の技術はアジア市場で高く評価されるはずとUsen氏は語る。日本では座り方や膝の使い方が他国と違うため、膝の怪我が多い事にも注目し、その領域にも取り組んでいく予定だという。

「日本にはOlympus時代に築いた素晴らしい人脈があります。また、2019年のシリーズAの資金調達で私たちの技術と仕事を信じてくれたSony Innovation Fundは投資だけでなく、投資先のスタートアップと密接に連携し、サポートしてくださる素晴らしいパートナーです。日本の主要な地域で当社のプロダクトを販売し、さらに全国に広げていくために適切な企業と協力できるよう、Sony Innovation Fundと話し合いを続けるつもりです。医師との協力体制も構築していきたいので、まずは東京の外科医グループと協力する予定です」とUsen氏は日本市場での展望を語る。

 将来的には日本にもオフィスを構え、製品を保管する倉庫を確保し、アメリカから製品を送るのでなく、日本の倉庫から製品を施設等に発送するような体制作りを目指していく予定だ。2023年には、日本における規制当局への手続きなど対応を始め、2024年には主要な販売代理店へのトレーニングに着手し、準備を整える予定という。

 肉眼では見えない生理的構造の視覚化を支援し、インサイトを提供するプラットフォーム。外科医に力を与え、手術ミスを防ぎ、命を救うことにつなげたい。Usen氏に長期的ビジョンについてこう語った。

「医療分野での手術も自律化への進化を遂げています。外科医は、外科手術のインテリジェンスと可視性の発展から恩恵を受けることができます。ロボットは素晴らしい。ロボットの腕は人間の腕ではできないような様々な方法で曲げることができます」

「しかし、ロボットを操作するのは外科医です。ですから私たちは、術中に人間が見ることができないものを、装置や器具、映像、スコープ、ロボットなどを通して画面上で見ることができるように、常に情報を提供していきたいと思っています。それが私たちの目指すところです」

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