古い家を買って、直して、高く売る。不動産市場では当たり前に行われているビジネスだが、この分野におけるテクノロジーの活用は意外と遅れているという。不動産テック系のスタートアップ、Backflip(本社:米国コロラド州)は、専用アプリやプラットフォームを構築し、この市場にテクノロジーの風を吹き込んでいる。共同創業者でCEOのJoshua Ernst氏に、創業の背景と事業の狙い、そして今後のビジョンについて聞いた。


目次
かなりアナログだった、一戸建ての買取再販事業
グローバルな住宅問題、まずは米国市場に専念
大手競合との差別化要因は「テクノロジー」
事業拡大とテクノロジー革新への投資

かなりアナログだった、一戸建ての買取再販事業

―まずはご自身の経歴と、Backflipを立ち上げた理由についてお聞かせください。

 私はこれまで複数の企業を創業し、運営してきました。特に不動産テックやフィンテック分野での経験が豊富で、投資や金融の知識も持ち合わせています。キャリアの多くはニューヨークで過ごし、企業経営や投資活動に携わってきました。
 
 さまざまな業界で仕事をする中で印象的だったのは、テクノロジーやソフトウェア、データ分析が事業をいかに大きく変革するかということです。業務効率向上やプログラマティックな運用、サプライチェーン全体の改善につながるのを目の当たりにしてきました。

 Backflipを設立する以前は、別の不動産テック企業にCOOとして招かれ、そこで現在のビジネス領域について深く知ることになりました。米国の一戸建て住宅市場においては、多くの事業者が古い住宅を購入し、リノベーションを施して売却することによって大きな価値を生み出しているのです。

 この分野を詳しく知るにつれ、業界の現状が非常にアナログで手作業に依存していることに気づきました。最新のソフトウェアや、データ駆動の意思決定ツール、現代的な資金調達手段などが欠けていたのです。これは市場に大きな変革の波が来る前兆だと感じました。この波を前進させたいと思ったのが、Backflip創業の理由です。まだ手作業が主流である、大きな取引価値を持つ市場に、テクノロジー主導のイノベーションをもたらす可能性に魅力を感じました。

Joshua Ernst
Co-Founder & CEO
米テキサス大学オースティン校で経営学を専攻。投資銀行やベンチャーキャピタルでの経験を経て、2012年に収納サービスurBinを創業。同社を2015年に売却後はベンチャーキャピタルで活動し、2018年には不動産関連事業を展開するDeShong CompaniesのCOOに就任。2020年にBackflipを共同創業し、現在に至る。

グローバルな住宅問題、まずは米国市場に専念

―御社のサービスについて詳しく教えていただけますか? 顧客層やコミュニティの特徴などもお聞かせください。

 私たちのお客様は、米国の住宅市場、特に一戸建て住宅分野で不動産ビジネスを展開する小規模事業者です。米国には多くの古い住宅があり、修繕を必要としている物件も数多くあります。これは実はグローバルな課題でもありますが、現在私たちは米国市場に集中しています。

 こうした事業者は、不動産市場を理解し、マーケティングと販売を行い、チームを運営し、設計や建設の専門知識を持ち、さらには財務や意思決定のためのデータを理解するなど、実に多くの業務をこなす必要があります。彼らの日々の仕事は非常に複雑です。

 そこで、私たちは彼らが真に得意とする分野に集中できるよう支援しています。例えば、低コストで効率的に物件を改善することが得意な人は、その能力を最大限に発揮すべきです。必ずしも他のすべてを同じレベルで習得する必要はありません。

 そこで私たちは、物件分析のためのアプリケーション、案件のワークフローを管理するためのツール、物件購入や改修、事業拡大のための資金調達サービス、そして参加者同士が支援し合うコミュニティを提供することで、彼らをサポートしています。これにより、時間を節約し、より良い意思決定ができるようになります。節約された時間は、彼らが得意とする分野により多く投資できるのです。

大手競合との差別化要因は「テクノロジー」

―市場における競合状況はいかがですか?

 私たちの主な収益源は資金提供サービスです。事業者が住宅を購入し、改修するための資金を提供しています。この分野は非常に細分化されていますが、競争も激しいです。

 しかし、適切な方法で適切な人を見つけることができれば、このビジネスは比較的リスクが低く、良好なリターンが得られます。Backflipはアプリとエコシステムを通じて、業界で最も多くの住宅再生事業者とつながっており、より優れたデータにアクセスできるため、最適な案件と人材を選別することができます。

 大手競合他社の中には、すでに規模が大きく、数十億ドル規模で全国展開しているところもあります。私たちも全国展開していますが、取扱高はまだ10億ドルに近づきつつあるという段階です。しかし注目すべきは、これらの大手企業でさえ、テクノロジーをあまり活用していないことです。

 彼らはより従来型のアプローチで事業を運営しており、それも一つの方法ですが、私たちはソフトウェアによるイノベーションとデータを活用した意思決定が、競争優位性を築く上で重要だと考えています。

―御社の事業成長についてお聞かせください。

 商用サービスを本格的に開始したのは2022年で、それ以降は毎年、前年比100%超の成長を続けています。最近、5億ドル以上の融資実績を達成したところです。

 この急成長の要因は、私たちのテクノロジーファーストのアプローチにあると思います。この業界で唯一のモバイルアプリを持ち、顧客に対して「より良くなるためのサポートをしましょう、より良い決断ができるようにしましょう」と言えるのは私たちだけです。その結果、彼らがより多くの利益を上げ、私たちもそのパートナーとして参加できる関係を築いています。

 テクノロジーを重視し、サポートするコミュニティを持ち、価値創造を第一に考えるアプローチが市場に歓迎されていると思います。

―顧客はどのようにして御社のサービスを知るのでしょうか?

 これまでの成長の大部分は口コミによるものです。当社のサービスに満足したお客様が他の人にシェアしてくれています。また、様々なチャネルも開拓・拡大しています。コミュニティは単なるサポート手段だけでなく、成長手法としても機能しています。例えば、事業の特定の側面について理解を深めるためのオンラインウェビナーを開催したり、起業家同士が出会えるリアルなイベントを主催したりしています。これが口コミの自然な拡大にもつながっています。

 さらに、オンライン広告チャネルを成功させ、どの顧客と連携したいのか、なぜ連携したいのかを考えるのに役立てています。

image : Backflip

事業拡大とテクノロジー革新への投資

―2024年10月に資金調達されましたが、今後1~2年で達成したいマイルストーンはありますか?

 引き続き顧客のために投資を続けており、彼らのための製品とサービスの向上に努めています。また、新製品も追加しています。さらに、ビジネスを展開する市場も拡大しており、最近、カリフォルニア州にも参入しました。このように、より多くの場所に私たちの製品とサービスを展開し、顧客のためのメリットを拡大することを目指しています。

 成長に関するマイルストーンがあり、引き続きそれに取り組んでいきます。また、地理的な拡大のマイルストーンもあり、これも楽しみにしています。さらに、資金パートナーシップのアプローチも積極的に進化させており、その分野でも新たなマイルストーンを設定しています。投資家として誰を迎え入れるか、どのような資金を持つか、どのような形になるかについて、進展を続けたいと考えています。これまで投資家には良好なリターンを提供してきましたが、事業の成長に伴い、より多くの資金が必要となるため、適切なパートナーを確保したいと考えています。

―テクノロジー面での今後の展開についてはいかがでしょうか?

 多くの企業と同様に、AIを活用した様々な取り組みを行っています。製品の機能セット内でのAIの異なる応用を探索しており、顧客基盤や内部運用に適したものを検討しています。

 私たちは非常に価値のある独自のデータを多く持っており、これを外部のLLM(大規模言語モデル)と組み合わせることで興味深い結果が得られると考えています。独自のモデルは構築していませんが、外部のインフラと外部のモデルに、既知の機能と独自データを組み合わせることで、顧客、製品、内部チームに有益な新しいソリューションを生み出せると期待しています。

―日本企業とのコラボレーションについてはどのようにお考えですか?

 日本のパートナーとの協業には非常に前向きです。日本市場だけでなく、世界的な協業も視野に入れています。日本市場は、多様な不動産への投資意欲が常にあると承知しています。これは様々な理由で浮き沈みしますが、私たちにとって興味深いのは、資金面でのパートナーシップの可能性です。潜在的なパートナーが私たちのビジネスの様々な部分に資金を提供することに興味があれば、それは両者にとって非常に価値のある相乗効果を生み出す可能性があります。

 Backflipとしては現在、日本企業との関係はまだありませんが、私の以前の不動産関連ビジネスでは日本との関わりがありました。これまでのところ、主に米国のパートナーや一部の国際的なパートナーとの連携に問題はなく、多くの関心や問い合わせをいただいています。ただ、日本でのパートナーシップの可能性を探る時間はなかったというのが実情です。

―日本には「空き家」と呼ばれる古くて使われていない家が多くあり社会問題となっています。御社のビジネスは日本でも機能すると思いますが。

 そう思います。これはグローバルな課題です。世界中に古い住宅があり、十分な住宅供給がなく、特に手頃な価格でより現代的な住宅が不足しています。また、不動産起業家になりたい、物件を成功裏に再生したいと思っている人々が世界中にたくさんいますが、彼らは助けを必要としています。スタートアップやビジネスの成長と拡大のために、パートナー、ツール、情報が必要なのです。

―長期的なビジョンについてお聞かせください。

 ご存じかと思いますが、Shopifyという有名なプラットフォームがあります。これはオンラインでビジネスを立ち上げたい起業家を支援するものです。オフラインで商品やサービスを販売していた事業者がオンラインでビジネスを構築するのを支援しています。

 私たちは、不動産起業家のための同様のプラットフォームを目指しています。現在、ほとんどの不動産起業家はオフラインでビジネスを構築しています。電話を使い、ペンと紙で作業を行い、非常にアナログでオフラインの運用を行っています。

 オンラインに移行するためには、いくつかのことが必要です。相互接続とコラボレーションの能力、大規模なデータ活用能力、オンラインでのワークフロー管理能力などです。Backflipはこれらを継続的に構築し、投資しています。これは非常に大きな機会だと考えており、その間に素晴らしいビジネスを構築することに取り組んでいます。

 Backflipはこうした人々が住宅を再生する機会を提供することで、社会にも貢献できると考えています。

―ビジョン達において直面する課題は何でしょうか?

 確かに課題はあります。どのビジネスの運営も大変ですが、私たちのビジネスの課題は非常にコントロール可能だと思います。主に実行に関する課題です。急速に成長しているため、良いことばかりではなく、新たな課題やリスクも生じています。夜も眠れなくなるような問題は、ビジネス内のコントロール可能な既知の問題を解決しようとすることに関連しています。

―最後に、日本の潜在的なパートナーやクライアント、メンバーへのメッセージをお願いします。

 近い将来、何らかの形で日本に進出したいと考えております。まずはパートナーシップという形から始める可能性がありますが、将来的には運用面での展開も視野に入れています。もし、そのプロセスを支援することに関心をお持ちの方がいらっしゃれば、特に初期段階では資金面での連携を通じて、対話の機会を持てることを歓迎いたします。



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