目次
・カスタマーサポートが「壊れている」と感じた
・ハードウェア製品のサポートに特化した理由
・音声機能の拡充とアジア市場への展開を視野
・パートナーシップ戦略と製品サポートの未来像
カスタマーサポートが「壊れている」と感じた
―まずは、ご経歴とMavenoidを立ち上げた理由についてお聞かせください。
私はソフトウェアエンジニアとしてのバックグラウンドを持っています。以前はGoogleに在籍し、その後、フィンテック分野でも経験を積みましたが、一貫してソフトウェアエンジニアとして働いてきました。
Mavenoidを立ち上げたのは、世界の一部が「壊れている」と感じる機会があったからです。それというのも、カスタマーサポートは、どう転んでも楽しいものではありません。しかし、そこに機会があると考えました。Googleでの経験から、情報は単に存在するだけでなく、ユーザーと対話すべきだと考えています。「これを読んでください」ではなく、「どんな問題ですか?これを試してください、あれを試してください」というように、情報がスマートに対応すべきなのです。
私たちは製品メーカー、つまり物理的な製品を製造する企業に特化したサポート自動化を提供しています。ヘッドフォン、EVチャージャー、芝刈り機、冷蔵庫など、触れることのできる製品のメーカーです。
例えば、スマート芝刈り機のアプリで問題が発生した場合、私たちの仮想アシスタントが顧客対応をします。また、Webページでも同様のサポートを提供しています。現在は音声アシスタントの開発も積極的に進めており、電話での対応も可能になります。
収益モデルですが、私たちはSaaS(Software as a Service)企業として、各メーカーと契約を結んでいます。通常は年間契約で、プラットフォーム利用料とサポートの量に応じた従量課金のコンポーネントがあります。会話量に応じて料金が段階的に設定されているため、料金は予測可能です。
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ハードウェア製品のサポートに特化した理由
―なぜハードウェア製品のメーカーに特化されているのでしょうか。また、同じ分野に競合はいますか?
製品メーカーの場合、複雑性が非常に高いのが理由です。物理的な製品には常に多くの問題が発生する可能性があります。水がかかる、落として何かが外れる、コーヒーをこぼす、特定の日付で生じるソフトウェアの問題など、さまざまな状況に対応する必要があります。私たちはその複雑性への対応が得意です。
また、製品サポートには特別な機能が必要です。例えば、アプリからシリアル番号を自動スキャンできる機能を提供していますし、ユーザーインターフェースでは、イラストや画像、動画を効果的に表示し、できるだけインタラクティブにする工夫をしています。理想は、IKEAの説明書のように、読まなくても理解できる「見せる」アプローチです。一般的なチャットボットのようなテキストのやり取りとは異なる方法で、ユーザーをサポートしています。
主な競合としては、SalesforceやZendeskのような企業が挙げられますが、彼らはより一般的なカスタマー対応のソリューションを提供しており、物理的な製品に特化していません。そのため、私たちが提供するソリューションのように問題を解決することはできません。物理的な製品向けに最適化されていないため、解決できる問題の数も限られています。大手企業も同様のユースケースをカバーしようとしていますが、私たちの方がより良い仕事ができていると考えています。
―成功事例について教えていただけますか?
私たちの最大の成功事例の一つが、農林・造園機器メーカーのHusqvarna(ハスクバーナ)です。当社はスウェーデンに本社を置いていますが、Husqvarnaもスウェーデンの企業で、芝刈り機や除雪機、チェーンソーなど家庭やガーデニング向けの機器などを製造しています。
Husqvarnaでは、私たちのシステムを導入することで60%の解決率を達成しました。つまり、問い合わせの60%を自動で処理できているということです。この成果により、必要な人員を抑えつつ、より効率的なサポート運営が可能になっています。解決率とは、入ってきた問い合わせのうち、どれだけを自動で解決できたかを示す指標で、私たちのサービスの価値を測る重要なポイントです。解決できたということは、顧客企業だけでなく、エンドユーザーにも価値を与えていることになります。
音声機能の拡充とアジア市場への展開を視野
―現在、どの地域でビジネスを展開されていますか。また近年の成長性についてもお聞かせください。
現在、私たちのビジネスの中心はヨーロッパと北米です。ヨーロッパ全域に加え、アメリカとカナダが主要市場となっています。オーストラリアにも数社の顧客があり、アジアにも一部導入されていますが、現時点ではまだ積極的な展開はしていません。
成長の面では、過去3年間で従業員数が25名から70名弱へと、ほぼ3倍に増加しました。顧客数も現在およそ100社に達しています。ただし、2024年は単に顧客数を増やすのではなく、大手顧客に対してより深くサービスを提供することに注力し、より安定的な成長を目指しました。
―今後、12〜24カ月のマイルストーンについて教えてください。
今、最も重要だと考えているのは音声アシスタントの機能です。すでにいくつかの顧客とは実運用を開始しており、電話番号を用意して実際に体験していただくこともできます。今後1年間で、既存顧客全体への展開を目指しています。
音声自動化は、これからのカスタマーサポートにおいて非常に重要な役割を果たすと考えています。コールセンターを持つ企業は、ユーザーをすぐにオペレーターにつなぐのではなく、まずはスマートな自動化システムを活用し、それでも解決できない場合にのみ人間が対応する形にすべきです。単純なIVR(音声自動応答システム)、つまり「1を押してトラブルシューティング、2を押してステータス確認」といった仕組みではなく、もっと高度な対話型のシステムが必要だと考えています。
現在、一部の企業はコールセンターの規模を拡大する方向で考えていますが、私は異なる視点を持っています。規模を拡大するのではなく、縮小しながらも、より良く、より効率的に運営することが重要です。音声機能については、現在は英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語などの主要言語に対応していますが、今後さらに拡大する予定で、日本語を含む主要なアジア言語への対応も問題なく進められると考えています。
私は2019年ごろから、アジア市場には大きな可能性があると感じていました。アジアは製造業が集中している地域であり、私たちはそこから欧米の消費者へとつながる役割を果たせると考えています。メーカーと顧客の間に立ち、適切なコミュニケーションを支援しながら、欧米の消費者に向けた魅力的な見せ方をサポートしていきたいと思っています。
すでに、日本とフィンランドの共同投資ファンドであるNordicNinjaから出資を受けています。今後、次のシリーズCの資金調達が完了すれば、本格的にアジア市場への展開を進めるつもりです。
パートナーシップ戦略と製品サポートの未来像
―日本企業とのパートナーシップについて、どのようにお考えでしょうか?
私たちは統合パートナー、つまり製造業者と協力してサポート業務やアプローチ方法についてコンサルティングを行う企業との協業を歓迎しています。製造業に関しては、米国に拠点を持つ企業が理想的です。通常、彼らは米国に現地法人を持っています。私たちは米国市場を理解しており、その市場でどのように機能するかを知っています。米国側と日本側の両方とコミュニケーションが取れる体制があれば、それが良いスタートポイントになるでしょう。
―今後10年を見据えた長期的なビジョンをお聞かせください。
10年という期間は長く、その間に多くの変化があるでしょう。しかし、私たちのビジョンは明確です。例えば、冷蔵庫が故障したとき、それが小さな問題なのか、大きな修理が必要なのか、ユーザーはすぐには判断できません。私たちの目指すのは、そうした不安をなくすことです。
将来的には、ユーザーがスマートフォンで製品の写真を撮るだけで、システムが自動的に製品を認識し、「これはあなたの冷蔵庫ですね。こちらがデータです」と即座に表示。さらに、2〜3のステップで診断を行い、修理が必要か、新品と交換すべきかを判断するような仕組みを実現したいと考えています。これは、洗濯機が登場し、手洗いの苦労がなくなったのと同じように、製品サポートのストレスを大幅に減らすものになるはずです。
現在、多くのユーザーは製品が故障すると、夜遅くまでGoogle検索をして原因を探し回るような状況にあります。その時間を大幅に短縮し、わずか2分程度で問題を特定できる仕組みを作ることが私たちの目標です。そして、チャットでも電話でも、どのチャネルを選んでも高品質なサポートを受けられる世界を実現したいと考えています。
―将来のパートナーや顧客となる日本企業へのメッセージをお願いします。
私から伝えたいメッセージは2つあります。
1つ目は、サポートの自動化は確実に進むということです。ただ人員を増やすのではなく、まず自動化を導入し、それでも対応が必要な部分に人を配置するという考え方が重要になります。人を先に増やし、後から自動化を進めるのは、自動車が普及する時代に人力車を大量に用意するようなものです。これからの時代に適したアプローチを取るべきだと考えています。
2つ目は、特に国際市場を持つ企業にとって、私たちのサービスが本当に役立つということです。Mavenoidは製造業に特化しており、物理的な製品を持たない企業とは基本的に仕事をしていません。技術文書やマニュアルの整理、多種多様な製品を扱う企業の複雑なサポート、新モデルの市場投入時の対応など、これまで何百回と直面してきた課題を解決してきました。
テクノロジーは時として人々の頭痛の種になります。しかし、私たちはそれを取り除くことに全力を注いでいるのです。
image : Mavenoid HP