目次
・Eliyanが取り組むチップの課題とは
・創業の立役者はSerDes技術の専門家
・2027年までにチップレット生産体制を確立
Eliyanが取り組むチップの課題とは
―Eliyanはどのような課題解決に取り組んでいますか。
Eliyanの技術は、特に生成AI向けチップの性能向上に焦点を当てています。AIの処理プロセスの実行には莫大なコストがかかり、データセンターは非常に高価で、そこで使用されるチップは大量のエネルギーを消費します。われわれはこの課題に取り組んでいます。
私たちが開発している技術は、チップ開発者が利用する非常に高度なものです。この技術によって、チップの性能向上と消費電力の削減、そして理論的にはコストの低減も可能になります。鍵となるのは、複雑なチップ内のさまざまな要素間のコミュニケーション改善です。
チップを大都市に例えると分かりやすいでしょう。都市には多くの建物や道路があり、人々が移動する必要があります。同様に、チップ上でも多くの処理を行い、効率的にデータを移動させる必要があります。これがEliyanの専門分野、つまりチップ上のインターコネクト技術です。
チップの設計、必要な電力、データ循環速度を考慮すると、これは非常にリソース集約的なプロセスです。Eliyanはこの分野に特化しており、微細なレベルでの技術開発を行っています。当社が取り組む最重要課題は、接続速度の向上と消費電力の削減です。これはダイ間やチップ間の接続全てに適用されます。また、メモリやI/Oの性能ボトルネックを解消する新しいチップレットの開発にも注力しています。
具体例として、高帯域幅メモリ(HBM)技術への取り組みを紹介しましょう。HBMは大手メーカーが製造する高性能メモリで、GPUの近くに配置することで高い帯域幅と大容量を実現します。従来、HBMのベースI/Oは速度が遅く、消費電力が高いという問題がありました。
そこで、主要メーカーはより高性能なプロセスでの製造に移行しました。これにより、当社はHBMとGPU間の接続を改善する新たな機会を得ました。現在、あるメモリメーカーと共同で、AIアプリケーション向けの新しいベースダイを開発しています。このチップレットは、従来よりも効率的で低消費電力なメモリ操作を可能にします。従来の技術で必要だったインターポーザーを取り除き、HBMブロックの下に当社が開発したベースダイを配置することで、性能向上と消費電力削減を同時に実現できるのです。
image : Eliyan HP
創業の立役者はSerDes技術の専門家
―これまでの経歴と創業の経緯を教えてください。
Eliyanは2021年に創業しましたが、その前のおよそ11年間は、eSiliconという会社で働いていました。そこでは執行部の一員として、マーケティング、事業開発、企業開発戦略、そしてIPビジネスユニットを率いる時期もありました。eSilicon以前は、3つの異なるチップ会社と1つのソフトウェア会社でCEOを務めました。そのさらに前には、約7年間自身のベンチャーキャピタル会社を経営し、約15社に投資を行いました。ベンチャーキャピタルの前は、現在Intelの一部となっているAlteraに勤務し、その前はAMDに在籍していました。AMDの前はTRW LSIで働いていました。
Eliyanの技術は、2016年ごろにAquantiaという別の会社内で最初に開発されました。当社の共同創業者でCEOであるRamin Farjadradは、AquantiaのCTOでした。2015年ごろ、Raminは異なるパッケージの複数のバージョンを作成したいと考え、チップレットを作成しました。複数のチップを持たずに、チップレットを取り出したり入れ替えたりするだけで、新しい機能を持つ技術ができあがりました。
Raminは非常に優れた技術者です。スタンフォード大学で博士号を取得していて、150以上の特許を持っています。特にSerDes(Serializer / Deserializer、シリアライザ / デシリアライザ)技術は非常に専門的で複雑な分野で、デジタル信号とアナログ信号の両方を扱い、しかも非常に高速で動作するため、深い理解と豊富な経験が必要です。Raminはこの分野のトップレベルの専門家です。世界中を見渡しても、Raminと同じレベルでSerDes技術を完全に理解し、最先端の開発ができる人はおそらく5人程度しかいないでしょう。
さて、RaminがAquantiaで実現した技術は、ある会社の機器に使う特別なチップに使われました。彼の技術は実証だけでなく、大量生産も可能であることが示されたのです。その後、AquantiaはMarvell Technologyに買収され、その技術を応用する予定がなくなったので、Raminは自分の会社を作って活用したいということになりました。Marvell Technologyは、2016年、2017年、2018年ごろに開発した特許技術と知的財産権を引き換えに、Eliyanの一部を所有することとなりました。
Eliyanの創業者は私とRamin、そしてCOOのSyrus Ziaiです。Syrusの専門は大規模なチップ設計で、とても実行力に優れた人物です。Eliyanの前はNuviaに勤務しており、同社はQualcommに買収されました。彼はそこで大規模なサーバー向けCPUの開発を担当していました。それ以前はQualcommやCavium、その他いくつかの企業で勤務していました。
2027年までにチップレット生産体制を確立
―資金調達や主な顧客と技術の適応状況、日本企業とのパートナーシップの可能性についてお教えください。
資金調達については、まず2022年にシリーズAラウンドで4,000万ドルを調達しました。この時は、Intel CapitalやMicron Venturesなどから資金を得ました。2024年には、シリーズBの資金調達を実施しました。この時は約6,500万ドルから7,000万ドルを調達しました。ここでSamsungとSK hynixという2つの大手メモリサプライヤーが新たに加わり、Tiger Global Managementも参加しました。資金調達と並行して、われわれは製品開発も着々と進めています。TSMC(台湾積体電路製造)で5nmチップと3nmチップを製造し、最近ではSamsungで4nmチップをローンチしました。
当社の潜在的な顧客は非常に広範囲に及びます。まず、GoogleやMicrosoft、Meta、AWSなどの主要なクラウドサービスプロバイダーが挙げられます。将来的には、CiscoやMarvell Technologyのようなメーカーも顧客になる可能性があります。さらに、NVIDIA、AMD、Intel、Qualcommといった主要なCPU、GPU企業も対象です。また、現在はSoftbank傘下のArmのような、IPサプライヤーで大きな企業になることを目指している会社もわれわれの技術に興味を示しています。これらの企業はチップレットを構築しており、パッケージ内でそれらのチップレットを接続する必要があるからです。このように、われわれは幅広い顧客基盤に対してソリューションを提供していく計画です。
私たちの技術の適応状況については、IP(知的財産)は準備ができており、顧客がそれを使用できます。ご存知の通り、チップの設計には2年、生産には3年かかる可能性があるので、実際の製品に私たちの技術を導入するには時間がかかります。当社のチップレットはおそらく2026年から2027年の間に生産に入るでしょう。
なお、高性能コンピューティング(HPC)やAIチップの構築を考えている日本企業があれば、通常、当社に関わる決定を行うのはチップのアーキテクト責任者などです。ですので、そういった人々とのつながり、紹介、関係が望ましいですね。
image : Eliyan 5nmチップ
―御社の長期的なビジョンについて教えていただけますか?
私が将来の5年後や10年後の当社の姿を想像するとき、常に念頭に置いている4~5社があります。例えば、Avago(現Broadcom)、Credo、Marvell Technology、INPHI、Xilinxなどです。これらの企業はすべて、高速通信技術という同じ基盤から出発しました。この技術は非常に重要で差別化が可能であり、優れた技術であれば多様な製品開発につながります。そして、それを基に持続可能なビジネスを構築し、成長を遂げてきたのです。
私たちのビジョンは、高度に差別化された技術を活用してチップやチップレットを開発し、そこから更なる成長を目指すことです。私たちは最高のパフォーマンスと最小の電力消費を実現するダイツーダイおよびチップツーチップのインターコネクト技術、つまりPHY / SerDesを提供しています。高性能かつ低消費電力でチップやダイを接続したいとお考えの方がいらっしゃれば、私たちこそが最高の性能と最小の消費電力を同時に実現できる唯一の企業だと、自信を持ってお伝えできます。