「女性の80%がブラジャーのサイズを間違えている」。女性なら誰もが思わずハッとするキャッチコピーで、下着選びのあり方に一石を投じているのが女性用下着のオンライン販売を手掛けるThirdLove(本社:米サンフランシスコ)だ。スマホで写真を撮るだけで自分に合ったブラジャーのサイズが分かる創業当初のアプリに始まり、現在は3Dレンダリングとアニメーションを用いたバーチャル試着室プラットフォーム「Fitting Room」へと進化している。TECHBLITZでは、2018年に共同創業者でCEOを務めるHeidi Zak氏に取材をした経緯があるが、今回新たに、市場やニーズの変化に対して同社がどのように事業を拡大してきたか、パンデミックを乗り越えた現在のビジョンについて話を聞いた。

※2018年にTECHBLITZが取材した記事はこちら

―2013年にThirdLoveを創業されてから、今年で10年目となりました。改めて、創業経緯を教えてください。

 創業当時を振り返ると、私たちは下着市場においてeコマースを活用した草分け的な存在でした。当時、投資家に売り込みに行ったときに、女性が本当にオンラインで下着を買うのだろうかと言われたことを覚えています。

 今日では誰もが「製品を開発し、独自の流通経路を通じて販売し、マーケティングを行う垂直統合型ブランドが数多く存在する」という事実を当然のことと考えていますが、10年前にはあまり存在しませんでした。

 私自身は、Googleに勤務し、過去には小売企業で働いた経験もありました。存在する下着ブランドの多くは、現代の女性の需要に合ったサービスをしているとは思いませんでした。市場にチャンスがあることを見出し、業界がやってきたこととは根本的に違うことができると信じたことから、会社を起業しました。

Heidi Zak
Co-Founder & CEO
デューク大学で経済学の学士号を取得後、Banc of America Securities、McKinsey&Co.の勤務を経て、マサチューセッツ工科大学にてMBAを取得。2007年にAeropostaleの戦略プラニング・マネージャー、2010年、Googleのシニア・マーケティング・マネージャーに就任。2013年、ThirdLoveを共同創業、CEOに就任。さらに、多くの消費者企業に対して、アドバイザー及びエンジェル投資家として携わっている。

―前回の取材時には、モバイルアプリとスマートフォンのカメラを使用し、顧客に適切な下着を提案することで、オンラインでジャストフィットな下着を購入することを可能にするサービスを展開していましたが、ThridLoveのサービスは現在どのように変化したのでしょうか。

 私たちのサービスは、間違いなく時代を先取りしていました。2013年の創業当初は、アプリストアの全盛期のようなものでした。そのため、この技術を受け入れるアーリーアダプターは多くいましたが、アプリをダウンロードすること自体にハードルがあったのは確かです。

 結局、創業から数年後にはモバイルアプリからウェブベースへ移行しました。今日、私たちが提供する「Fitting Room」は、オンライン上での質問事項に答えることで、適切なサイズとスタイルを顧客に提案します。Fitting Roomは、現在、顧客の83%に当たる2,000万人が利用しています。そのうち、顧客の65%が自分が正しいと思っていたサイズとは違うサイズをFitting Roomから勧められています。

 Fitting Roomは、私たちの差別化要因の一つであり、顧客に価値を提供する中核でもあります。私たちはFitting Roomから集めたデータを、商品開発などに活用し、そのデータを介して顧客に本当に正しいサイズとスタイルを提供する。つまり双方向で機能しているのです。

image: ThirdLove HP

―2018年の取材から5年が経ちました。その間にパンデミックも起こりました。どのような市場変化を感じましたか。

 パンデミックも経験した過去5年間はさまざまな学びのある道のりでした。新型コロナの影響は、特に製品の観点から、当社のビジネスに影響を及ぼしています。オフィス勤務から在宅勤務へと働き方が変化したことに伴い、マーケットにも少なからず変化がありました。この間に当社は、スリープ&ラウンジウェア(パジャマや部屋着)に参入しましたし、さらにワイヤレスブラの需要も増えました。2023年12月にはさらに、新しいカテゴリーを立ち上げる予定です。この5年間は、新しいカテゴリーの拡大に取り組んできました。

 一方、流通チャンネルもオンラインの他に、実店舗を展開することで、製品へのアクセスの選択肢を拡大しました。当社のビジネスは今もB2Cであり、収益の大半はオンライン販売ですが、この1年で実店舗を9店舗展開しました。

 私たちは、今自社小売の「テスト・アンド・ラーン(試しながら学ぶ)」の段階にあり、2024年早々には、卸売販売に関しても新しい提携を立ち上げる予定です。

 市場では、サステイナビリティへのシフトというもう一つの大きな変化がありました。2023年7月に、オーガニックコットンの下着を発表したばかりですが、私たちは、より持続可能な製品、パッケージングに焦点を当てています。

 パッケージングに関しては、現在はリサイクル包装を使用していますが、2024年以降に向けて、環境にも優しいパッケージング、ブランドとしての理念をパッケージングがどのようにサポートするかを総合的に考えています。

――品ぞろえも拡大していると仰いましたが、昨年Z世代に特化した下着のKit Undergarmentsを買収し、さらにアクティブウェアも販売開始しました。これは最近のトレンドですか。

 ThirdLoveの中心的な顧客は30~50代です。そのためKit Undergarmentsは当社に新たな層へのアクセスを提供してくれることになりました。Z世代の顧客は、型にはまらない下着を求めるかもしれないし、低価格帯を求めるかもしれない顧客層です。今後、Kit Undergarmentsと何ができるかとても楽しみにしています。

 また、スポーツブラは、私たちのウェブサイトで最もリクエストの多かった検索キーワードでした。そのデータと、Fitting Roomで得たデータを使って、どのサイズを狙うか、どのカテゴリーを狙うかを考えています。

 スポーツブラや動きやすいキネティック下着は著しい急成長を遂げており、前年比2倍以上の売れ行きとなっています。スポーツブラのサイズは、限られており多くの女性に適していません。ThirdLoveは多様なサイズのスポーツブラを提供していることから、市場において際立った存在であり、女性から高い支持を得ています。

―ここ2、3年の市場の変化に対応して、ThirdLoveはどのようなイノベーションを行いましたか。

 最も大きな変化のひとつは、Fitting Roomの進化です。Fitting Roomを利用する顧客が増えれば増えるほど、私たちのレコメンデーション・エンジンはよりスマートになります。顧客に、サイズ、スタイルまでも考慮した体験を提供することへ進化しています。

 また、コンテンツに関しては、インフルエンサーやUGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用し、信頼できる方法で製品を紹介することはブランドにとって非常に重要なことだと思います。

 一方、技術やサービスに関して言うと、今日存在する多くのアプリやサービスによって、顧客によりシームレスな体験を提供することがとても簡単になりました。私たちは、オンライン販売プラットフォームとしてShopifyを使用していますが、顧客の出荷追跡、チャットボットなど、私たちのデータセットを活用するのに役立つ方法を提供してくれています。

 つまり、5年前よりもはるかに優れたデジタル・ショッピング体験ができるようになったのは、小さな変化が積み重なったからだと言えます。

―前回の取材以来、御社が直面した最大の課題とそれを乗り越えられた理由を教えて下さい。

 2019年には、ニューヨークで実店舗としてポップアップショップを展開しており、評判が良かったためリースを延長しようとしていたところに、2020年に入ってパンデミックが起こりました。

 そのため、約2年後に実店舗を再開しました。今米国で9店舗展開していますが、オンラインと異なる点は、顧客が品ぞろえの多さを直接見ることができるため、カテゴリーを超えた買い物が増えている点です。

 マーチャンダイジングについて考えるとき、実店舗でのマーチャンダイジングとオンラインでのマーチャンダイジングは全く異なります。

 実店舗では、実質的に即座に変更を加えることができるオンラインよりも、明らかに時間がかかります。私にとっては、変化を起こしている初期段階のスタートアップに近い感じだと言えます。

image: ThirdLove

―日本市場に参入する計画はありますか?

 日本市場への参入には、高い関心があります。ここ半年ほど、ライセンシングに関する問い合わせが増えました。当社は、日本を含む国際市場とライセンシング・パートナーと話をすることに前向きで、今後2、3年のうちに、国際的に展開することにも興味があります。

 国際的なマーケットに進出する際には、国によって明らかに異なる顧客とその状況を深く理解することが重要であると理解しています。私たちの専門性は、商品開発、デジタル、eコマースです。そのため、消費者にアクセスし、消費者のニーズを理解する能力を持っている人とパートナーを組むことは最重要だと考えています。

―どんな強みを打ち出していきたいですか。

 過去10年間で、私たちは米国でトップクラスのデジタル・インティメート・ブランドとして確固たる地位を築いてきたと自負しています。

 そして、私たちのブランドが掲げる、女性が快適で自信を持てるようにサポートするという使命、美しく格調高い美的感覚を持ちながらフィット感と快適さのギャップを埋めるという使命は、他にはないユニークなものだと信じています。

 多くのブランドはまだセクシーな領域でプレーしていますが、それはThirdLoveの核心ではありません。そうした違いを打ち出していけるという意味でも、日本を含めたインターナショナルな市場で可能性を探っていくのは非常に素晴らしいことだと考えています。

―最後に、御社の今後のビジョンを教えて下さい。

 今年から来年にかけて、新製品を続々と打ち出していく計画です。研究開発と製品開発が私たちの仕事の中核であり、とても楽しみにしています。

 そして流通の拡大です。流通とは自社の実店舗、戦略的パートナーシップ、卸売を含むその他のチャネルを通じたもので、来年には卸売契約を結ぶ予定です。最後に、国際的な展開も、今後3年間の戦略的ロードマップの一部です。

 私たちの使命は、女性たちが日常生活で素敵に、そして自信を持って過ごせるようにお手伝いすることです。今後の展開は、更にエキサイティングになるでしょう。



RELATED ARTICLES
eコマース・小売分野の成長スタートアップ50社を紹介【eコマース&小売50レポート】
eコマース・小売分野の成長スタートアップ50社を紹介【eコマース&小売50レポート】
eコマース・小売分野の成長スタートアップ50社を紹介【eコマース&小売50レポート】の詳細を見る
九州大学発、有機半導体レーザーダイオードの商業化を目指すKOALA Tech
九州大学発、有機半導体レーザーダイオードの商業化を目指すKOALA Tech
九州大学発、有機半導体レーザーダイオードの商業化を目指すKOALA Techの詳細を見る
農村部の「買い物格差」、ソーシャル時代の解決法 Super
農村部の「買い物格差」、ソーシャル時代の解決法 Super
農村部の「買い物格差」、ソーシャル時代の解決法 Superの詳細を見る
Apple Vision Pro、現場での活用術を探れ │ TECHBLITZが選ぶスタートアップ5選
Apple Vision Pro、現場での活用術を探れ │ TECHBLITZが選ぶスタートアップ5選
Apple Vision Pro、現場での活用術を探れ │ TECHBLITZが選ぶスタートアップ5選の詳細を見る
「作業空間の創出に良い」「課題は装着疲れ」、米国ユーザーのApple Vision Proへのリアルな反応
「作業空間の創出に良い」「課題は装着疲れ」、米国ユーザーのApple Vision Proへのリアルな反応
「作業空間の創出に良い」「課題は装着疲れ」、米国ユーザーのApple Vision Proへのリアルな反応の詳細を見る
小規模なeコマース業者にも対応できるフルフィルメントサービス Huboo
小規模なeコマース業者にも対応できるフルフィルメントサービス Huboo
小規模なeコマース業者にも対応できるフルフィルメントサービス Hubooの詳細を見る

NEWS LETTER

世界のイノベーション、イベント、
お役立ち情報をお届け
「グローバルオープンイノベーションインサイト」
もプレゼント



Copyright © 2024 Ishin Co., Ltd. All Rights Reserved.