人手不足を解決 警備会社にトータルソリューションを提供
―御社はどのような事業を展開しているのでしょうか。
Cobalt Roboticsは、オフィスや倉庫、大学、空港といった施設の屋内警備を担当する、自律走行型セキュリティロボット「Cobalt」を開発しています。
具体的に、Cobaltがどのようなことを可能にするのか、説明しましょう。
Cobaltは、屋内を走行し、不審者や不審物、熱(煙や火災)、水漏れ、施錠漏れ、CO2濃度などを自動で検知します。これは、Cobaltに取り付けられたカメラとセンサー、マイクが機械学習を通して、人間で言うところの目や耳を使った「認識」を行います。
Cobaltの「目と耳」が認識した異常は、当社のソフトウェアを通して遠地にいる警備本部に通知されます。その後は人員の派遣など必要な手段が講じられる、という流れです。また、緊急を要する場面では、ロボットを通して、本部の人間が現場の人間と会話することも可能です。
これらの「ロボットによる異常の認識→本部への通知」というプロセスだけでも、人件費を大幅に削減することができますが、Cobalt Roboticsが可能にするのはそれだけではありません。Cobaltは、毎日巡回する中で発見した「異常」の傾向に関する日次レポートの作成や、セキュリティプログラムの改善点の分析なども行い本部に提出するのです。
つまり、Cobalt Roboticsはセキュリティのトータルソリューションを提供している、と言えるでしょう。
Cobaltの導入がいかに効果的でコスト削減につながるかは数字でも明らかです。人間の警備員と比較すると、平均して5倍長くパトロールが可能になるほか、51%のコストを削減できるのです。
発砲事件や盗難事件を解決するほか、清掃員の急病などにも対応してきた実績
―Cobaltを使った成功事例を教えてください。
セキュリティとは面白いもので、人々は少々突飛な事例を好みます。しかし、Cobaltの業務の大半は、毎日のように行われている退屈で、危険で、汚い仕事です。そういった業務はロボットにこそ適性があるとも言えます。
しかし、読者の方にイメージしやすいように、いくつかの分かりやすい事例を紹介しましょう。
1つ目は、大学内で発砲事件が起こった時のエピソードです。犯人は、大学構内を車で通りかかり発砲しましたが、その際にCobaltがカメラを撮影していたのです。その証拠写真を警察に提出したことで車両の判別が容易になり、適切な処置がなされました。
もう1つは、深夜、屋内で仕事をしていた清掃員が心臓発作を起こした際の事例です。ロボットがいつものように建物内を点検していると、人が横たわっているのを見つけました。その様子をCobaltが本部に伝え、本部の人員が倒れている清掃員に「大丈夫ですか」と話しかけました。その後、本部から当該建物に救急車を派遣し、清掃員は事なきを得ました。もし、Cobaltも駆けつける警備員もいなかったとしたら、清掃員の発見が6時間ほど遅れ致命的な事態に陥っていたかもしれません。
他にも、オフィスへの乱入者や盗難事件を未然に防ぐなど、当社のソリューションは多くの成功事例を輩出しています。
このような事例があることから、Cobalt Roboticsのビジネスには大きな注目が集まっています。当社にはSequoia CapitalやBloomberg Betaといった著名なVCが投資家に名を連ねているのです。また、売上も毎年対前年比100%以上を記録しているほか、アメリカでは商業用の警備ロボット市場で50%以上のシェアを獲得しています。
image: Cobalt Robotics
―御社が競合他社と差別化を図っている点を教えてください。
それは、我々が単に優れた技術を搭載する警備ロボットを開発しているだけではなく、実際に警備会社にとって役立つソリューションを提供している点にあります。
実は、警備をロボットに任せるというアイデア自体は、それほど新しいものではありません。1960年台半ばから移動型ロボットが警備を担当するという動きは盛んで、1980年代にはヒューレット・パッカード社の施設で消火ロボットが活躍していました。
しかし、こと「屋内」を安全且つ効果的に警備する、となると話は変わります。複数のフロアを移動するためにエレベーターに乗り降りしたり、ドアをくぐったりするには、ハードウェア(ロボット)とソフトウェアの統合が不可欠なのです。
実際、Cobaltのロボットには、障害物を避けて、屋内を歩き回るための自律ソフトウェアからAIやクラウドプロセッシングを用いた異常検知システムまで、実にさまざまなテクノロジーが導入されています。
さらに、先ほどからお伝えしているよう、Cobaltでは遠隔での人間とのコミュニケーションをはじめ、日々のレポート作成や警備会社のシステムとの統合など、顧客企業の警備体制をより強固なものにするさまざまな機能を備えています。
つまり、当社の強みは、単に技術的に優れたロボットを開発しているだけではなく、ロボットを通して警備業務を効率化させるソリューションを提供している点にあるのです。
Cobalt Roboticsは「ロボットを効率的に動かす、オペレーション・システム」を展開しているという観点から見ると、警備ロボット以外の用途も十分考えられます。名前は明かせませんが、他業種とも現在連携を深めていて、今後新たな業界に参入する可能性は高いです。
image: Cobalt Robotics
―あらためてですが、創業の経緯を教えてください。
私のバックグラウンドは、ロボティクスの研究者です。身体障害者の日常生活を支える医療ロボットをはじめ、旧Google X時代は、医療機器などの開発に10年間従事してきました。
当時私が所属していた生命科学部門は現在、Verily Life Sciencesという別会社として独立しています。
退職後、私は、セキュリティ業界に造詣が深い旧友と話し、ロボティクスを応用できる次なるマーケットを模索していました。彼と話しているうちに、「なぜこれまで誰も、この業界に参入してこなかったのか?」とショックを受けたのです。
というのは、警備業界こそ、ロボティクスが本格的に展開されるべき業界だからです。アメリカの警備会社は年間500億ドルもの資金を「人件費」だけに投入しているとされています。これは、市場規模を考えても極めて大きな金額ですよ。
また、カメラや入退室管理などのベーシックな動作は、医療のような高難易度な分野でもないので、現在のロボット技術でも十分対応可能だという確信がありました。
そこで、私たちがエンドユーザー(警備業界人)と一緒になって、ロボットを用いたより良いサービスをつくろうと決意し、Cobalt Roboticsを創業したのです。
日米で異なる「ロボット」への見方 日本企業との提携にも興味
―日本市場をどのように見ていますか?
当社は常に他国での展開を考えています。日本は、アメリカよりもロボットを受け入れる素地ができているのではないでしょうか。
アメリカでは、ロボットが警備をすると聞くと、「ディストピアだ」と反応する人が一定数います。これは「ターミネーター」や「ロボコップ」などの影響も大きいでしょう。
対する日本では「鉄腕アトム」が国民的アニメであることから分かるよう、人々がロボットに対してボジティブな印象を持っています。
ですから、日本での展開には興味を持っていますし、市場進出には自信があります。
ただ、日本の文化・言語面でのハードルの高さを考えた場合、現地事情を知り尽くしたパートナーとの協業は必須です。具体的には、警備会社やセキュリティ技術を開発するベンダーなどとお話ししてみたいですね。
―日本の大企業との協業を考えた場合、どのような形態が理想でしょうか?
投資やジョイントベンチャーなど、財政面で当社と同じ方向を向いて提携できる形態が理想です。なぜなら、当社の事業は「既存のシステムの破壊」でもあるため、同じ目標を向いてコミットできる関係性を築いていかなければならないからです。
警備会社と協業する場合、我々はもちろん、彼らも「これからは警備にロボットを導入しなければ、人手不足と業界構造の変化に対応できない」といった危機感を共有しているとベターですね。
―最後に、御社が向こう12ヶ月で注力することと、長期的な目標を教えてください。
現在、当社はCobaltに新たな機能を与え、顧客層を広げていこうとしています。例えば、「屋外」での警備を可能にするために、プライベートLTEや5Gネットワークとの接続の可能性を高めているところです。
当社の長期的な目標は、「警備業界のオープン・プラットフォーム」になることです。向こう5〜10年のスパンでは、ロボットの導入が現在よりも一般的になり、Cobalt Roboticsが必ずしもロボットを製造する必要はなくなるかもしれません。
その際に重要なのは、当社が「プラットフォーム」という存在であり続けることだと考えています。ビルの管理ロボットやメンテナンスロボット、清掃ロボットなど、「屋内」を回遊するロボットが増え続ける中でも、誰かがそれらのロボットの管理をひとまとめにし、効率的に動かす必要があります。当社はそういったプレイヤーになりたいと考えています。