2023年から本格始動する岸田内閣の「スタートアップ育成5か年計画」。計画の司令塔、後藤茂之スタートアップ担当大臣は若い世代の起業家精神に「火をつける」と意気込む。2027年度の計画終了年度に向け「この5年で成功事例をつくることが(日本経済再興の)一番の突破口になる。5年で日本の国は大きく変わると思うし、5年で変わらなければ、日本という国は本当に先が見えないということだ」と語る。スタートアップ育成にはベンチャーキャピタル(VC)や大企業の連携が必須で、計画の3本柱の1つはオープンイノベーションの推進を掲げる。後藤大臣に今後の展望を聞いた。

※資料は全て内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局提供

※インタビュー前編 スタートアップ5か年計画とは?後藤スタートアップ担当相に聞く(前編) 起業家精神に「火をつける」「5年で変わらなければ、日本という国は本当に先が見えないということ」

<目次>
少子高齢化、過疎、災害 地方発のスタートアップにも期待
VCはスタートアップの成長に欠かせないプレイヤー
大企業はオープンイノベーションの推進、M&Aでぜひ施策の活用を
景気の下振れリスクに先手を打ち、民需主導の持続可能な成長経路へ

少子高齢化、過疎、災害 地方発のスタートアップにも期待

―「スタートアップ育成5か年計画」の第2の柱「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」で「地方におけるスタートアップ創出の強化」を挙げています。地方への期待、政府として力強く支援していくことを教えてください。

 スタートアップはまだまだ東京圏に多いですが、全国各地にある研究大学など地方にもスタートアップ創出のポテンシャルは十分にあると考えています。

 また、スタートアップは社会的課題を成長のエンジンへと転換して持続可能な経済社会を実現するものであり、少子高齢化や過疎化、災害対策といった各地域が抱える課題に挑み、それを全国展開するスタートアップ企業が各地域で生まれることを期待しています。

後藤 茂之
内閣府特命担当大臣(経済財政政策)、経済再生担当、新しい資本主義担当、スタートアップ担当、新型コロナ対策・健康危機管理担当、全世代型社会保障改革担当
東京大学法学部卒業。1980年大蔵省入省。1984年米国ブラウン大学経済学部大学院修士号取得。大蔵省主税局企画調整室長などを経て、2000年6月衆議院議員初当選。現在6期。国土交通大臣政務官、法務副大臣などを経て、2021年から厚生労働大臣(第1次、第2次岸田内閣)を務めた後、第2次岸田改造内閣の2022年10月から現職。

 そのため、スタートアップ育成5か年計画においてはまず1つ目に、全国各地の研究大学は「1大学につき50社創業し、1社はエクジットを目指そう」という1大学1エクジット運動を展開していきます。また、2つ目には社会的起業家(インパクトスタートアップ)を支援するため、社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進をしていきます。

 さらに、地方自治体による公共調達の促進や、地域金融機関によるスタートアップ支援を通じた地方発のスタートアップ創出の促進など、地域に着目した様々な施策を盛り込んでいます。

 政府としては、各地域の多様な人材が起業に挑戦できるよう、全力で支援を行うとともに、幅広い情報発信にも努めていきます。

 地域においてもスタートアップが地域の特性や地域のニーズに応じた形で創出されていくように、政府として多様な形のスタートアップをしっかりと視野に入れた上で、支援をしていきたいと考えています。

VCはスタートアップの成長に欠かせないプレイヤー

―資金についても伺います。第2の柱「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」において、国内VCと連携したいことや、期待・要望を教えてください。

 米国の論文によれば、ベンチャーキャピタルの投資を受けた企業とそうでない企業を比較すると、投資を受けた企業の方が雇用の拡大やイノベーションに積極的であるという結果が出ています。すなわち、ベンチャーキャピタルはスタートアップを有意に評価し、育てる能力があると考えています。

 ベンチャーキャピタルは資金供給だけではなく、目利きやビジネス展開のアドバイス、ネットワークの提供など、スタートアップの成長に欠かせないプレイヤーであり、政府のスタートアップ支援策においてもベンチャーキャピタルとの連携を推進していきたいと考えています。

 具体的には、ベンチャーキャピタルによる支援を拡大するため、ベンチャーキャピタルへの公的資本の投資の拡大や、ベンチャーキャピタルと協調した政府によるスタートアップへの支援の拡大等を実施したいと思っています。

 国内のベンチャーキャピタルの皆さんに期待していることは、グローバル市場で活躍を目指すスタートアップに対する長期的な視点での伴走支援や、ディープテックなどの成長分野に対する積極的な投資をぜひお願いしたいです。政府としてもぜひ連携して取り組み、日本のスタートアップ・エコシステムを更に盛り上げていただくことを期待しています。

大企業はオープンイノベーションの推進、M&Aでぜひ施策の活用を

―事業会社のCVCなどへの期待や要望はありますか。

 CVCについていえば、やはり大手企業が戦略的にM&Aやオープンイノベーションを進めている中で数が増えていると聞いています。オープンイノベーションは非常に重要です。大企業がスタートアップと協調して活動する、協業することによってスタートアップを育てるだけでなく、大企業も変わるということだと思います。

 例えば、建機会社の取り組みとして、建設現場を管理するソフトウェアのスタートアップと一体化した取り組みをすることによって、建設機械を製造するメーカーとしてだけでなく、工事現場のオペレーション、遠隔システムまで一気に展開できるようになったという事例があります。

 また、日本を代表するような大企業もスタートアップとのオープンイノベーションを通して、企業の風土そのものが変わっていくこともあると思います。

 そういう意味で言えば、当然CVCもVCも大事です。今は本当にいいベンチャーキャピタル、CVCがたくさんあり、政府としてもきちんと応援したいと思います。

―日本の大企業は人材や研究開発の「自前主義」が強いことが指摘されてきました。オープンイノベーション推進で大企業への期待や要望があれば、教えてください。

 大企業とスタートアップの協業は、大企業の人的・資金的リソースを活用できる点においてスタートアップ側にメリットがあるだけでなく、大企業にとってもスタートアップの提案する新たなアイデア・技術を早く事業化につなげるチャンスであることから、双方に大きなメリットがあると認識しています。

 人材や資金、営業先などを含めて、大手の支援があればスタートアップの成長を加速させることができますし、スタートアップ側も創業から巨大企業にしていくことが事業の目的ではなく、自分たちの最も得意な分野に技術を大企業に早く譲渡することも一つの手法だと思います。

 アイデアのある人たちにとっては、経営で頑張るよりも自分たちはまた次のアイデアを生み出していくという連続起業にもつながります。

 そのため、第3の柱「オープンイノベーションの推進」に関していえば、例えば、オープンイノベーション促進税制や研究開発税制の拡充、スピンオフ税制の見直しについて令和5年度税制改正大綱に盛り込むなど、オープンイノベーションの推進に向けた環境整備も進めています。

 大企業においてはこれらの施策もぜひ活用してスタートアップとの共同研究、人材の交流、積極的な調達などにスピード感を持って取り組んでいただくとともに、М&Aや事業再編などによって更なる成長につなげていただくことを期待しています。政府も一緒になって応援していきます。

―これまで日本のスタートアップはIPOが多く、M&Aが少ないという指摘もありました。米国などと同様、M&Aも事業成長の手法としてどんどん活用してほしいということでしょうか。

 はい。M&Aや事業再編などをうまく成長につなげていけるように、ぜひ大企業にもこれらの施策を最大限使ってもらいたいですし、逆にスタートアップの経営者側もIPOだけが目的ということではなく、M&Aも含め、的確に自社の資産、資源を評価する形で弾力的に対応すべきだというふうに思います。

景気の下振れリスクに先手を打ち、民需主導の持続可能な成長経路へ

―今後5年間でさまざまな取り組みが進みそうですね。とはいえ、足元では市況の悪化やリセッションなどの懸念も指摘されています。計画終了年度に当たる2027年度、どんな日本経済を実現したいとお考えですか。

 日本経済はウィズコロナの下で緩やかな景気回復基調ですが、一方で、国民生活に身近なエネルギーや食料品を中心に物価上昇が厳しい状況で続き、また、欧米各国の金融引き締め等が続く中で、世界的な景気後退懸念が高まるなど、仰る通り、我が国の経済を取り巻く環境は厳しさが増しているという現状認識は持っています。

 このような景気の下振れリスクに先手を打ち、我が国経済を民需主導の持続可能な成長経路に乗せていくためにも、「新しい資本主義」を加速させることが重要だと考えています。

 イノベーションや人への投資を進めることで、生産性や付加価値を向上させるとともに、適切な価格付けを通じてマークアップ率を高め、物価の上昇に対応した賃上げや、コスト上昇を転嫁のできる適切な支払いをしっかり確保していく。このような連続的に拡大が続く「成長と分配の好循環」を実現していくことが何より必要だと思っています。

 少しくどくなるかもしれませんが、これまでの日本経済の問題点を考えてみると、一生懸命にコストカットを進めた一方で、人への投資や賃金の引き上げがなかなか進まず、研究開発投資も増えない。そして企業の現金がたまる、内部留保が増えるという事態だったとざっくりと言えると思います。いわゆる縮んでいくスパイラルではなく、しっかりと投資をし、給与を引き上げて、拡大のスパイラルにつなげていく、「成長と分配の好循環」を実現していくことが必要だと思います。

 中でもスタートアップは、社会的課題を成長のエンジンに転換して「成長と分配の好循環」をつくり、持続可能な経済社会を実現する「新しい資本主義」の考え方を体現するものだと思います。5か年で人材、資金供給、オープンイノベーションという3本柱を一体として取り組んでいきたいと考えています。

 スタートアップ育成5か年計画の着実な実行を通じ、我が国に起業家精神を取り戻し、持続可能な経済社会と社会課題解決を実現する、世界に伍するスタートアップ・エコシステムを日本に作り上げ、新しい時代を切り拓いていく、力強い日本経済を実現していきたいと思います。

 コロナ後の世界において、産業構造も就業構造も大きく変わろうとしており、この5か年は激動の年になると思います。そういう意味では先ほども『この5年が勝負』と説明しましたが、足元の物価高や経済よりも、もう一段突き抜けた日本の新しい経済構造を考えていく必要があると思います。

 やはり、アントレプレナーシップ、挑戦することが大事です。日本は戦後、まさに「起業家精神の塊」だったわけですし、いま世界的な大企業となった日本の大企業はみなそういう中で大きくなっていったわけです。ですから、日本には起業の「遺伝子がない」などと非常に悲観的なことをいう人もいますが、そんなことは絶対にないと私は思っています。

「面白い」「やれる」という手応えがまず一番大事です。施策の中でも特に力を入れていくものとして先ほども若い層に対するメンターや海外に1,000人を派遣するなどの取り組みをお話しました。まず成功事例を作って見せること。私も俺もやってみようと思えば、スタートアップ創出の一番大きな原動力になるだろうと思います。

 社会全体としても、雇用の在り方も変わりつつあり、人材の流動性が高まってきています。大企業も雇用戦略において弾力的な働き方や副業・ダブルワークを認めるなど、様々なチャレンジを認めるような企業も増えてきています。

 計画には、スピンオフの促進なども盛り込みましたが、大企業の中にあっても自分の持っている技術や能力を最大限に活かすということで、これもスタートアップ創出、育成につながっていくと思っています。



取材、執筆、編集、写真撮影:座波幸代

※インタビュー前編 スタートアップ5か年計画とは?後藤スタートアップ担当相に聞く(前編) 起業家精神に「火をつける」「5年で変わらなければ、日本という国は本当に先が見えないということ」



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