米国カリフォルニアに本社を置くArc Technologiesは、成長中のアーリーステージのSaaSスタートアップ向けにデジタルバンクサービスを展開する。包括的なデジタルプラットフォーム上で資金調達、銀行業務、支出管理を行うことができるFinTech(フィンテック)のソリューションを提供している。

スタンフォード大のMBAプログラムで出会った3人が2021年1月に立ち上げたArcは急成長を続けており、「No.1デジタルバンク」を目指している。同社共同創業者でCEOのDon Muir氏に、起業の経緯や将来の展望などを聞いた。

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資金調達と銀行業務を垂直統合したプラットフォームを提供

 FinTech(フィンテック)は、金融(Finance)と、技術(Technology)を組み合わせた造語。金融サービスと情報技術を掛け合わせ、アップデートした様々な革新的な取り組みが広がっている。

 Muir氏はBoston Consulting Groupで2年間勤めた後、ニューヨークに拠点を置く大手プライベート・エクイティ会社に移り、ストラクチャードファイナンスやプライベート・エクイティ投資に携わってきた。その後、スタンフォード大学ビジネススクールに進むため、ニューヨークから西海岸に移ったMuir氏は、そこからスタートアップのエコシステムにどっぷりつかることになる。

 プライベート・エクイティ会社在籍時には、レバレッジ・バイアウト取引の資金調達のため、数十億ドルの負債と株式を調達するなど活躍した一方で、大手銀行の資金調達がいかに時代遅れであるかを目の当たりにし、資金調達の限界を肌で感じていたという。

Don Muir
Co-Founder & CEO
Boston Consulting Groupで2年間の勤務を経て、プライベート・エクイティファーム2社 (Onex、Apollo Global Management Inc.) に在籍。その後スタンフォード大学ビジネススクールに進学し、同大学MBAプログラムで出会ったNick Lombardo氏、Raven Jiang氏と共に2021年1月、Arc Technologiesを設立。同4月に法人化し、CEOに就任。

 Muir氏は、SFベイエリアの何百人ものソフトウェア企業のCEOと会い、スタートアップが資金調達をするにはコストも時間もかかるという共通の問題を抱えていることに気づいた。彼らが従来の金融機関では十分なサービスを受けることができないことを知り、「高成長のSaaSスタートアップに、成功への必要な資金のアクセスを効率的に提供したい」というミッションのもと、MBAプログラムで出会ったNick Lombardo氏(President)、Raven Jiang氏(CTO)と共に、2021年、Arc Technologiesを立ち上げた。

Image:Arc Technologies

MLとAIを駆使した独自のテクノロジーで24時間以内の資金調達が可能

 スタートアップ向けに開発された「Arc Advance」は、スタートアップが将来の収入源を利用して、負債や希薄化なしに、最大5,000万ドルの資金を調達することができるプラットフォームである。決済関連サービスを手掛けるFinTech企業のStripeとの提携により、包括的な1つのデジタルプラットフォーム上で資金調達、銀行業務、支出管理を行うことができるフィンテック・ソリューションを提供している。

 顧客はWebサイト上から申し込みし、年商、ランウェイ(企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間:月数)などの会社情報を入力し、法人銀行口座に接続すると、機械学習(ML)と人工知能(AI)を使った同社独自のテクノロジーにより、顧客の将来の収入を予測し、信用スコアが決定され、そのスコアに基づいた借入可能金額や手数料が表示される。自動引受決定が行われた後、契約書に電子署名すると、24時間以内に銀行口座に資金が入金されるというスピードの速さだ。

 Arc Advanceの申し込みには、年商$250K以上、6カ月以上のランウェイ、米国に銀行口座を有する米国居住者であることが条件だが、米国でビジネスを展開する米国外の顧客に対しては「Arc Treasury」で、FDIC(米連邦預金保険公社)保険付帯のデジタルバンク口座を提供し、ベストインクラスのカスタマーサポートがトラブルシューティングに対応するなど、オフラインの銀行と一線を画すサービスを展開。顧客の米国における事業拡大のサポートをしている。

Image:Arc Technologies

 日本からの申し込みもあり、米国で売り上げを伸ばしている日本の起業家らの米国での事業拡大を支援する予定だという。

「私たちはテクノロジーを使って、過去の生の財務データを取り込み、そのデータをMLやAIを使った引受モデルを実行します。そのデータを処理した後、プログラムで査定指標を計算し、当社のテクノロジー・プラットフォームを使って即座に資金調達条件を作成します。そのため、顧客は往来の銀行による数カ月に及ぶ資金調達プロセスを回避できるのです。そして、その資本をより効率的に使い、希薄化を最小限に抑え、既存の従業員や創業者の所有権を最大化することが可能となります」

Image:Arc Technologies

「Excelと紙とペンを使って手続きをするオフラインの銀行は時代遅れです。顧客はデジタル・ソリューションを求めています。それを実現し、資金調達、銀行業務、支出管理の全てを一元化したデジタルバンクを提供しているのは私の知る限りArcだけです」とMuir氏は熱く語る。

 それを裏付けるように、顧客数は急速に伸びている。現在、Arc Advanceには1000社を超える企業が登録しており、数千万ドルの資金を投入している。設立から18カ月あまり。Arc Technologiesはスピード感を持って急成長を遂げている。

「Arc設立当時、私はスタンフォードビジネススクールの学生でした。スタンフォードを卒業した翌週にシードラウンドを調達し、2022年の1月に収益を上げ、その時から10倍の成長を遂げています。この成功はひとえにNickと優れたチームのおかげです。金融の経験を持つ私と、TeslaやFacebookでソフトウェア・エンジニアをしていた共同創業者、そして他の技術系スタートアップやユニコーン、LinkedIn、Facebook、Googleから集めたエンジニアなど、彼らなしではこの成功は成し遂げられなかったでしょう」とMuir氏は続ける。

 3人で始めた会社は急速に拡大し、現在の社員数は35名ほどに。2022年12月には50名程の規模に拡大予定だという(取材は2022年10月)。

SaaSエコシステムが急成長中の日本に注目 Dreamers VCより資金を調達

 Arc Technologiesは2022年1月、1億5000万ドルのデットファイナンスと1,100万ドルのエクイティファイナンスをシードラウンドで調達。Y Combinator卒業後のシリーズAでは、2,000万ドルを調達した。Left Lane Capital、Y Combinator、Dreamers VC、Bain Capital Venturesなど、非常に強力な投資家が名を連ねている。

 Atalaya Capitalからのデットファイナンスは、顧客に資金を提供するために充て、残りの3,000万ドルは、優秀なソフトウェア・エンジニアを採用し、スタートアップ向けの「No.1デジタルバンク」を構築するべく、テクノロジー・プラットフォームの開発や改善などを行う。また近い将来には、資金使途を分析するプラットフォーム「Arc Insights」や、法人カードの「Arc Card」も提供する予定だ。

 現在は米国でのサービス展開に焦点を当てているが、将来的には日本進出も前向きに検討している。

 俳優のWill Smith氏、元サッカー日本代表の本田圭佑氏、中西武士氏らがファウンダーとして名を連ねるDreamers VCからArcが資金調達をしたのも、将来の日本進出を視野に入れてのことだという。日本のSaaS市場は拡大を続けており、Arcが日本でサービスを提供すれば非常に魅力的なバリュー・ポジションになるはずとMuir氏は意欲を示す。

 上記に加え、今後は、米国外でソフトウェアやクレジットの投資家および、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタルなどとのパートナーシップを探し、彼らの投資先企業にサービスも提供していきたいとも語る。

「Arc Advanceは今後も継続的な成長が見込まれます。Arcエコシステムの中で素晴らしいネットワーク効果が生まれ、将来的には高成長スタートアップ以外の企業にも資金調達の機会を提供することが出来るようになると思っています。Arcは、市場で唯一、資金調達と銀行業務を垂直統合したプラットフォームを持っている会社です。私たちの長期的なビジョンは、市場でNo.1のデジタルバンクになり、資金調達と銀行取引が1カ所でできる唯一のプロバイダーになることです」

 最高の技術とチームによって、躍進を遂げ、市場No.1のデジタルバンクを目指すArc Technologies。「フィンテック・ジャンキー」率いるダイナミックな集団は、スタートアップのエコシステムの震源地となるに違いない。

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