航空機エンジンの専門メーカーがあるように、電動航空機の推進システムもそれに特化した企業があるべきだ。そうした考えから生まれたのが、超静音で効率性の高い電気推進システムを開発するWhisper Aero(本社:米国テネシー州)。現代の車のように、空をたくさんの電動航空機が行き交う未来を実現するには、騒音公害などを防ぐ意味でも、静かな推進システムが重要な要素の一つになるという。共同創業者でCOO(最高執行責任者)兼 CPO(最高製品責任者)のIan Villa氏に、創業の経緯や、製品に組み込んだ独自技術などを聞いた。

目次
ノイズを超音波化して聞こえなくする
電動航空機業界のGEやRolls-Royceに
日本の航空モビリティ関連企業などに関心

ノイズを超音波化して聞こえなくする

―これまでの経歴とWhisper Aeroを創業した経緯を教えてください。

 スタンフォード大学で航空学と宇宙工学の学士及び修士号を取得しました。卒業後は、主に戦闘機、軍用輸送機などを製造しているNorthrop Grummanに入社し、設計を担当して多くのプログラムに携わりました。その後、Uber Elevate(Uberの航空部門)の創業者の一人であるMark Moore氏にスカウトされ、2017年にUber Elevateの7人目のメンバーとして、航空機のエンジニアリングチームに加わりました。そこでは、Uberのプラットフォームでドローン配送やエアタクシー、地域間輸送用の航空機をどのように立ち上げるかを考える仕事などを任されました。

 Uber Elevateは2020年にJoby Aviationに売却されましたが、私はJoby Aviaitonに残らず、別の道を選びました。航空やモビリティが大きく変化する前には、必ず推進力に関する変化があります。私たちは、エアモビリティために、よりクリーンで静かで効率的な推進システムを提供する次世代推進技術を進化させる機会を提供したいと考えたのです。

Ian Villa
Co-Founder, COO & CPO
米スタンフォード大学にて航空学と宇宙工学の学士号と修士号を取得後、Northrop Grummanに入社。その後2017年にUber Elevateの7人目のメンバーとして電動航空機のキャリアをスタートさせ、戦略・システムシミュレーションの責任者としてチームを牽引。2020年、Mark Moore氏(CEO)と共にWhisper Aeroを創業し、COO、CPOに就任。現在に至る。

―超静音かつ効率的な電気推進システムをどのように実現したのでしょうか?

 ノイズに関する課題が重要であることは分かっていたので、推進力に関連した機材などのノイズを評価するために、多くのソフトウェアツールやフレームワークを開発しました。

 私たちのアプローチは、全てのノイズの発生源に目を向け、それを評価し、潜在的なノイズの発生源を最小限に抑えるというものです。通常、ファンやエンジンの音を聞いたときに耳が一番最初に感じるのはブレードの音です。そのブレードの音を超音波の領域まで押し上げるのです。

 通常、人間が音として聞き取れる周波数は20~2万ヘルツと言われています。ブレード枚数を多くすることで、ブレード通過周波数(BPF、ブレード式装置の潜在的な振動周波数)を超音波の域に押し上げることが可能となります。そのため、人間には聞こえなくなり、動物にとっても迷惑にならない程度の超音波の範囲に収まる。それが私たちの“トリック”です。

image : Whisper Aero HP

電動航空機業界のGEやRolls-Royceに

―競合他社と比べて御社の違い、優位性についてどう思われますか?

 電動航空機に注目している企業は多いですが、私たちは異なったアプローチをとっています。

 一般的な航空機について考えると、例えば、Boeingはエンジンは製造してなく、General Electric(GE)やRolls-Royce、Pratt & Whitneyから購入していますよね。それと同じように、電動航空機の世界においても推進システムの提供者が必要となってくるでしょう。私たちはこの分野のリーダーになりたいと考えています。これが私たちの位置付けであり、私たちのようにここに注目しているプレーヤーは他にあまりいないと思います。

 また、価格面についても従来よりもはるかに安価にしています。この推進システムの原理は、リーフブロワー(落葉や塵、埃などを吹き飛ばす清掃用機械)や空調制御システム、ガスコンロ用のファンなど消費財にも応用可能です。多くの異なる製品への技術のスケーラビリティに焦点を当て、コストを抑えることにつなげました。最高のイノベーションは妥協を許しません。より静かで、より効率的で、より手頃な価格であれば、それが“勝利の組み合わせ”になるのですから。

―製品はどのようなケースで活用されることを想定していますか。

 まず、ドローンへの活用について、警察が最初に関心を示してくれました。犯罪などがあった場合、迅速に現場に到着し、証拠を集めることが可能になるといった用途です。

 貨物輸送に関しては、FedExやDHLのような大手と協力して、より大きなペイロードや郵便貨物などを運ぶことも可能になるでしょう。

 商業的な分野では、旅客輸送があります。リージョナルジェットで今の自動車と同じくらい安く、しかも地上の5~6倍の速さで飛ぶことができたら最高です。このようなリージョナル・エア・モビリティのユースケースは、私たちが何度も検討してきたものです。20年、30年先には、私たちの技術により、空を飛ぶことがもっと身近になる世界を想像しています。

―2023年のシリーズAラウンドでは3,200万ドルの資金調達に成功しました。 投資家を惹きつけた理由はどこにあると思いますか?調達資金の使途も教えてください。

 多くの場合、VCはFMF(Founder Market Fit)をチェックします。CEOのMarkは32年間、NASAに在籍し、電動航空分野の権威のような存在でもあること、そして私たち2人のUber Elevate時代から得た経験と起業家精神の組み合わせが、FMF適合性が高いと証明されたからだと思います。そして、もちろん重要な要素は、製品自体が非常に素晴らしいということです。

 調達資金は主に研究開発に使う予定です。私たちにとってのシリーズAラウンドは、技術の改善・強化や、最初の防衛業界向けの製品であるスラスターを顧客に提供すること、低コスト技術をリーフブロワーに導入し、大手企業との提携を果たした後、製品を世界展開できるようにするためなどに充てられています。

日本の航空モビリティ関連企業などに関心

―日本市場への進出はいかがでしょうか?参入する場合、どのようなパートナーシップを求めていらっしゃいますか?

 特に東京は、アーバン・エア・モビリティ(UAM)に関して興味深い場所です。日本政府も空のモビリティに前向きな姿勢を示していると伺っています。

 配送用ドローンを検討し始めた企業もいると思いますので、荷物の輸送をお考えの企業や事業者の方々と是非一緒に仕事がしたいと思います。ジェット機やエアタクシーにおいても、日本にはたくさん素晴らしいプレーヤーがいますから、提携できれば喜ばしいことです。

 人を移動させるだけでなく、貨物やモノを移動させるというどちらのケースにおいても、より手頃な価格のフライトや配送、そしてコミュニティや住民(特に都市部のコミュニティ)に迷惑をかけない静かなフライトを望む声は依然としてあります。私たちの技術が真価を発揮し、大きな利益をもたらすことが出来ると思っています。

image : Whisper Aero HP

―最後に将来の目標について教えてください。

 私たちのミッションは、よりクリーンで静かで効率的な推進システムを、ドローンや航空機、その他あらゆるものに大規模に提供することです。そうすれば、電動ジェット機時代をリードするという私たちのビジョンを実現できると考えています。

 そして、日本の多くの人たちに楽しんでいただきたいですね。日本の多くの企業とコラボレーションできる可能性は大いにあると思っています。

 私たちの技術によって、空を通して新しい可能性の世界が開かれるような手助けをしたい。これが私たちの目指すところです。  

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