Image: Velo3D
Velo3Dはサンフランシスコ・ベイエリアに拠点を置く、金属3Dプリンターの市場で急激に業績を伸ばすスタートアップだ。金属粉末を敷き詰め、熱源となるレーザや電子ビームで造形する部分を溶融・凝固させるPowder Bed Fusion方式というテクノロジーを利用し、複雑な金属物体を3Dプリントする。支持構造を使うことなく幾何的な立体を作成できるので、複雑な形状の部品を精度高く製造できるのが特徴だ。同社のソリューションは、宇宙開発、航空、発電、エネルギー、半導体といった先端テクノロジー分野で、設計の自由度を広げ、技術革新を可能にした。2018年に最初のシステムを納入以来、スペースX、Honeywell、ホンダ、Chromalloy、Lam Researchなどのイノベーターと戦略的パートナーを結んだ。2021年に、IPOを果たしたVelo3D創業者のBenny Buller氏に、モノづくりの限界にチャレンジする想いを語ってもらった。

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モノづくりの限界にチャレンジ

 イスラエル出身で物理学を学んだ創業者のBenny Buller氏は、イスラエル諜報機関のテクノロジーユニットで10年勤務し、国家安全保障にかかわる重要なミッションを担当した経歴をもつ。

Benny Buller
Founder & CEO
エルサレム大学で物理学の学士号と応用物理学の修士号を取得。半導体メーカーのApplied Materials、エネルギー企業のSolyndra、太陽電池メーカーのFirst Solarに勤務し、2012年4月から2014年6月まで、ベンチャーキャピタルであるKhosla Venturesの投資家であった。2014年6月よりVelo3Dの最高経営責任者および取締役を務める。

 2002年に渡米し、半導体製造装置メーカーのApplied Materialsで検査技術やリソグラフィー技術を担当したあと、太陽電池業界のFirst SolarやSolyndraで設計や信頼性向上など開発全般を担当するなど、長年、機械とモノづくりに携わってきた。2012年4月から2014年6月の間、VCのKhosla Venturesで、クリーンテック分野の開発を担当していた時、金属3Dプリントに挑戦しようとしている人たちの存在を知る。

「私が3Dプリントを始めようと思ったのは、全くの偶然から、その技術を使おうとしている人たちがいることを知ったからです。印刷技術を使って機能的な部品を作ろうとしていた人たちが、自分たちが設計していた部品を作ることができませんでした。つまり、彼らが作ろうとしていたものを作れるメーカーが存在しなかったのです」(Buller氏)

 こうしてBuller氏は、この分野の限界を克服しようと2014年にVelo3Dを起業する。

宇宙、航空、半導体などハイテク需要に活路を見出す

 約30年前に発明されたDfAM(Design for Additive Manufacturing)と呼ばれる金属3Dプリント技術は、技術的な制約があって、特定のニッチな分野にしか使用ができなかった。

 Velo3Dは、この金属制限を克服し、これまでの3Dプリンターでできなかった、内部構造が複雑な部品も作れるようにしたのだ。素材はニッケル超合金、チタン合金、アルミニウム合金や鉄などに対応し、強度についても一般的な鋳造部品よりも同等かさらに高いという。

 Velo3Dの技術は、航空、宇宙、ガス、石油、半導体など高い製造技術が必要とされる分野ほど需要が高い。具体的な成功事例として、Buller氏は次の2社を紹介した。

 ひとつは半導体メーカーのLam Research社。半導体製造装置用のガス供給システムを作る同社は、非常に腐食性の高いガスを精密に送出するための部品にVelo3Dの技術を活用している。また、もうひとつのスペースXでは、ロケットエンジンをVelo3Dの技術をベースに再設計した。非常に高い効率でエネルギー密度を持つため、エンジンの重量と効率が改善され、ロケットの打ち上げコストが劇的に向上した。

「ロケットの重量のほとんどは燃料です。そのため、エンジンの効率が高ければ、使用する燃料を大幅に減らすことができ、より高い効率で打ち上げが可能になります。スペースXでは、私たちの製造技術を使ってそれを実現することができました」(Buller氏)

 最先端部品に挑戦することによって、Velo3Dの技術はさらに磨かれ、半導体装置ほか、3Dプリンターメーカーとの競争優位性を保っている。

Image: Velo3D

 ほかにもVelo3Dが積層造形/3Dプリントの競合他社と比べて優れている点がある。それは、当社のソリューションが本当にエンド・ツー・エンドのソリューションとなっている点だろう。競合他社のソリューションでは、プリントされる部品を専門家がわざわざ設計する必要があるが、Velo3DのSapphireソリューションには、標準的な設計用CADファイルをアップロードするだけで、自動的に3Dプリント用に最適化するソフトウェアや「Flow」や品質管理のシステム「Assure」も含まれているのだ。

顧客のニーズが3Dプリント技術を磨く

 2020年から2021年(2650万ドル)は41%の成長をしたが、2022年には3倍以上(8900万ドル)の売上となる見込みだ。この背景には、生産性が5倍に向上し、製造コストを3倍に削減できる新しいシステムがあるという。そして、2021年9月、Baron Capitalなどから1億5500万ドルを調達して上場を果たした。

 現在、社員数は154名でアメリカが中心だが、ヨーロッパやアジアにも進出したいとしている。日本では大陽日酸と販売契約を結んでおり、山梨研究所に、3Dプリンティングの専任技術者を配置。Velo3D社製品のデモンストレーションや技術サポートをしており、すでにいくつかの日本企業に対して提供をしている。

 なお、自動車分野など、大量生産品の部品の場合はコスト的に見合わないため現在は参入していない。しかし、熱交換器など、多くの部品で構成される機器を1つのパーツで実現するなどで、コストに見あってなおかつ自動車の効率を高める部品の製造は考えられる。

 2021年第4四半期に発売予定の次世代システムSapphire® XC、現行のSapphireよりも400%大きなパーツを製造できようになった。2021年11月現在、このシステムの予約額は800億ドル以上に達している。

 Buller氏は、長期的なビジョンについて次のように語った。

「Velo3Dのビジョンは、お客様が欲しいと思う部品を何でも作れるようにすることです。限界に挑戦するお客様からの要望に終わりはありません。私たちは、お客様が新たなニーズを持ってきたときに、その限界を押し広げていくのです」

 これまで難しかった製品にチャレンジし、よりよいものを作って、また別の顧客に届けたいというVelo3Dの職人スピリットが、これからも製造技術の限界を突破することに期待したい。

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