ECサービスの専門家が、新たな市場としてインドネシアに注目
――これまでの経歴とUlaを創業した経緯をお教えください。
私は、キャリアのほとんどをECサービスの分野で過ごしてきました。2004年にスタンフォード大学でコンピュータサイエンスの修士課程を修了しました。2004年といえば、テクノロジーバブルが崩壊した後です。Amazonは、今ではとても大きな会社ですが、当時は非常にリスキーな会社だと思われていました。しかし私はシアトルへ行き、Amazonに入社しました。
Amazonで働く中で、ECサービスについて多くのことを学びました。在庫管理システムのチームでは、どの倉庫にどのような商品をどれくらい配分すれば配送コストを抑えられるかといった仕組みを考案しました。
その後、2008年からMBAを取得するためにまた大学に通いました。リーマン・ショックによる世界的な金融危機の時期ですね。当時の就職先で一番良い仕事があるのはコンサルティング会社でした。自分自身の出身地であり、急成長しているインドに戻って仕事をしたかったので、2010年にThe Boston Consulting Groupに入社しました。
2012年にはインドのECサービス企業Flipkartに入社します。私はそこで、先進国のECと新興国のECが全く違うものであると認識したのです。たとえば、インド市場の多くは客単価が非常に低いです。アメリカでは20〜50ドルのような金額で決済されますが、インドでは3〜5ドルの少額決済が多いのです。そのため、配送コストに見合わないのです。
しかしその一方で、全国に小さな店が点在し、地域において極めて効率的なコスト構造でサービスを提供しています。彼らは自分たちの店を持ち、自分で店番をしています。従業員はいませんし、人件費も税金も安いです。テクノロジーを駆使するECサイトが何十億ドルものお金をはたいて、何百人ものエンジニアを雇い、5ドルの製品をメインに売ることはできないのです。
私がこのようなことを経験した2013年当時、インドにおけるスマートフォンの普及率は非常に低かったのですが、少額決済が主流の新興国向けのECサービスについて考えを巡らしていました。そして2014年には投資家としてSequoia Capitalに参加し、投資のやり方を学ぶとともに、インドネシアの市場の急成長に触れることができました。
Sequoia Capitalを退職後、2017年にはインドの決済会社であるPine Labsに入社し、1年間だけ決済サービスの開発に関わりました。実はこのころ、Flipkartにいた友人が、インド市場でスマートフォンを活用したECサービスを立ち上げ、それが軌道に乗るのを見ていました。そして2019年、同じようなことができないかと、インドネシアに行きました。
地域の人々に欠かせない小規模な小売事業者をサポート
――インドでの地域の小売店を支援するECサービスにCityMallがありますね。私も以前取材しました。同じようなことをインドネシアでやろうとしたのですね。
そうです。インドネシアに来た当時、スマートフォンの普及率の勢いなどについては知っていましたが、商習慣はわかりませんでした。ですから、何カ月もかけて小売業の仕組みを理解する必要がありました。食料品市場や衣料品市場、電子機器市場などに行き、たくさんの小売業者と話をしました。そして、Flipkart時代に思い描いたことを、スマートフォンが普及している今ならできると考えたのです。地域に点在するオフラインの小売業とeコマースの橋渡しをしようと、2020年の1月にUlaを創業したのです。
ところが、2020年3月に世界中が大騒ぎになりました。パンデミックのなかでどうやって人を雇うのか、メンバーにどうやってPCを与えるのかといった問題に直面しました。私たちがサービスを提供する小売店主も、在庫の調達ができなくなりました。大変なスタートでしたが、何度か資金調達しながら、この2年間で事業を着実に成長させています。
私たちが過去2年間で学んだことは、非常に興味深い市場があるということです。地域のニーズを集めるアグリゲーターとして小規模店舗が機能します。彼らは野菜や鶏肉、スマホケース、おもちゃなどを販売していますが、彼らが持つのは地域の顧客との関係で、売るための商品は持っていません。そこで私たちは次の3つのサービスを提供することにしました。
1つは、彼らが多くの商品を販売できるようにすることです。2つ目は、運転資金の問題を解決するための支払い条件の提示です。すべての製品を仕入れる資金は莫大ですので、より多くの製品を扱えるような条件を設定しました。そして3つ目は、先ほど説明した、需要の集約によって高い収益を得られる商品の提供です。
――インドネシアでは競合となるようなサービスはまだ登場していなかったのですね。
小規模店はまだオフライン取引が多いです。現在、私たちのようなスタートアップすべて合わせたとしても、インドネシア市場全体の5%にも満たないでしょう。ですから、現在の主な競合は旧来のオフライン取引となります。私たちのターゲットは、CityMallと同じように、人々が生活している地域にある小規模店舗です。大口のスーパーマーケットなどではありません。
スマートフォンの存在で近代化するECサービスの象徴となりたい
――成長の余地が大きくありそうですね。次のステップはどのような取り組みをされますか。日本企業と連携する可能性はありますか。
次の12カ月も、ここ数カ月と同じような、非常に慎重な成長が続くと思います。私たちは今、成長と収益性の両立を考える時期にあります。これまでは、どちらかと言えばゆっくり成長していましたが、これからは収益性を高めることに重点を置きます。
日本企業から学べることはたくさんあると思います。日本企業の専門知識を持ち込んで、適切なパートナーシップを組むことは考えられます。たとえば、インドネシア市場に興味を持つ日本企業のブランドとはパートナーシップを組む可能性があるでしょう。すでに中国など他の国のブランドはインドネシアに展開しています。
――さらに長期的なビジョンについてお教えください。Ulaは将来、どのような存在になりたいと考えていますか。
アメリカは、インターネットが普及する前に小売業を近代化しました。インターネットのない時代にWalmartやTargetのビジネスが生まれましたね。日本でもインターネット以前に小売業は近代化しています。中国では、インターネット普及の後にAlibabaなどが登場し近代化しました。しかし、スマートフォンが普及する前です。
私たちは今、インドネシアの小売業がスマートフォンの存在によって近代化しつつあることを目の当たりしています。インドネシアにおけるWalmart、Alibabaはどのようなものになるでしょうか。当社は、小規模な小売事業者が持つ近隣の人々との関係を活かし、スマートフォンを使ったECサービスを行うことで、新たにそのような存在になりたいと考えているのです。
私たちは未来を想像するのが大好きです。その未来が私たちのところにやってくる(実現する)ことを望んでいます。日本企業の皆さんには、起業家の活動で熱気あふれるインドネシアにお越しいただきたいです。およそ3億人の人口を擁し、2022年にはG20バリ・サミットも開催されました。1人あたりの所得はインドの2倍です。新しい波が起きています。このインドネシアという市場に参入するには絶好のタイミングだと言えます。