image: petovarga / Shutterstock
自動車や航空機、船舶といった「運輸部門」の二酸化炭素(CO2)排出量は世界全体で2割近くを占める。この課題を解決し、脱炭素化社会を実現するために、モビリティの電動化は加速しており、EVや電動バス、水素列車、電動垂直離着陸機など「次世代」の乗り物が次々と登場している。こうしたハード面の陰に隠れがちだが、再生可能エネルギーを活用するための蓄電技術や、効率的な利用を可能にするソフトウェアも重要な要素で、関連スタートアップが投資家の注目の的だ。この部門において、本当の意味で脱炭素化を推し進めるためには、「モビリティの電動化」と「再生可能エネルギーのインフラ整備」を両輪で進めることが重要と話すシリコンバレー拠点のVC、Translink Capitalの安東学氏に寄稿をいただいた。

モビリティの電動化と再生可能エネルギーインフラ

 モビリティの電動化へ向けた動きが加速している。政府の具体的な目標を始め、投資額の増加、消費者ニーズの高まりなどを受け、さまざまなモビリティを電動化するスタートアップが登場している。電動化による脱炭素化社会を実現するには、再生可能エネルギーの活用も重要な要素であり、この分野においてもさまざまなスタートアップが登場している。本稿では、モビリティの電動化とそれを支える再生可能エネルギーインフラについて、市場動向・投資状況・具体的事例を紹介する。

モビリティの電動化へ向けた政策とスタートアップ投資動向

 経済産業省は、関係省庁と連携し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定している。

(図1: カーボンニュートラルの産業イメージ、出典: 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

 図1にある通り、自動車だけでなくEV・FCトラック、EV・FC建機、電動航空機など、さまざまなモビリティでの脱炭素化が示されており、脱炭素化社会を構成する大きな柱となっていることがわかる。また、近年では、「所有から利用」へと消費者が変化しつつあることからも、従来の移動手段に代わるさまざまなモビリティが登場している。電動化かつシェアリングで活用される自転車、キックボード、二輪車等が代表的な事例であり、消費者のA地点からB地点へ最適に移動するというニーズに対し、電動化されるモビリティ手段が多様化している。

 スタートアップへの投資動向に目を転じると、気候テック(Climate Tech)領域におけるスタートアップへの投資動向からも、モビリティが重要な柱になっていることが分かる。図2は2023年1月〜3月の気候テック領域における分野別投資額と件数を示したグラフで、モビリティは投資額で2番目を占めている。

(図2: 2023年第1四半期の気候テック領域におけるスタートアップ投資額・件数、出典: HolonIQ

 本稿では、まずモビリティ電動化の具体的事例・注目企業について紹介する。

モビリティ電動化の具体的事例

バス・商用大型車
 公共交通の色合いの濃いバスの電動化については、自治体のプロジェクトとスタートアップの動向をご紹介する。

 サンフランシスコ市交通局(SFMTA)は2018年から2022年にかけてバス電動化の検証を行い、2022年2月に3台の電動化バスの商用運行を開始した。SFMTAは2040年までに全ての運行バスの電動化を目指している。

(図3: SFMTAに導入された電動化バス、出典: SFMTA HP

 電動化バスを開発するスタートアップも登場している。英国のArrival(アライバル)は2015年に創業され、電動化バス・商用バンを開発している。同社は2021年に売り上げがない状況でSPAC上場を果たすなど、業界での注目は著しいスタートアップである。

(図4: Arrival Bus、出典: Arrival HP

 また、Arrivalは商用バンも開発しており、米国物流大手のUPSが導入を決めたことは大きなニュースとなった。UPSは傘下のCVCであるUPSベンチャーズを通してArrivalへの投資も実行しており、同社への関心度の高さがうかがえる。

 フランスのGAUSSIN(ゴーサン)もバス・商用大型車の電動化におけるパイオニアの1社である。同社は電動・水素燃料に対応したバス・商用大型車・空港ターミナル内の輸送機器などの特定用途向け大型車の開発を行っている。また、GAUSSINはこれら電動化車両の自動運転化にも取り組んでおり、さまざまな産業分野におけるモビリティの脱炭素化・自動化に積極的な取り組みを見せている。

 米国のRivian(リビアン)は多様な車両に対応可能なシャーシを開発している。同社はアマゾンと共同で、アマゾンの配送トラックの電動化に取り組んでおり、2030年までに全米で10万台を導入する計画である。アマゾンもまた共同開発着手時の2021年にRivianに投資しており、アマゾンの本気度を示している。なお、Rivianは2021年にSPAC上場を果たしている。

エアモビリティ
 飛行機の電動化については、近年eVTOL(電動垂直離着陸機)での開発競争が著しい。米国のJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)はトヨタ自動車からの出資を受けたことが大きなニュースとなったスタートアップで、240km(150マイル)程度を航行できるeVTOLを開発している。開発と並行して、各航空会社などとの契約・当局の許認可手続きなどを進め、2025年の商用飛行を目指している。

(図5: Joby、出典: Joby Aviation HP

 ドイツのVolocopter(ボロコプター)は35km程度を航行可能なeVTOL「VoloCity」の開発を行っている。VoloCityは主として都市内での移動をエアモビリティに置き換えることを狙っており、将来的には自動運転による航行も視野に入れながら開発を進めている。Joby Aviation同様、各航空会社などとの契約・当局の許認可手続きなどを進め、2024年夏の商用飛行を目指している。なお、Translink Capitalはエアモビリティの可能性に着目し、Volocopterに投資している。

(図6: VoloCity、出典: Volocopter HP

再生可能エネルギーへのシフトと新たなインフラ技術

 モビリティの電動化が進む一方で、真に脱炭素社会を実現するには、再生可能エネルギーを活用することが必要となる。再生可能エネルギーの発電は従来の化石燃料による発電に追加するべきインフラなどが存在する。図1を再度ご覧いただくと、オレンジ色の矢印は電気の流れを示しているが、太陽光パネルや洋上風力発電などの再生可能エネルギーによる発電施設、発電された電力を貯蔵しておくための系統用蓄電池や、最終ユーザーが活用するための充電ステーションなど、これまでには整備されていないインフラが存在し、これらが電動化を支える要素となる。また、再生可能エネルギーによる電力を効率よく活用するためには、施設(ハードウェア)だけでなく需要予測などのソフトウェアも重要になる。

新たなインフラ技術の中心として注目される蓄電と関連技術

 再生可能エネルギー時代の新たなインフラ技術の一つとして蓄電池が注目されている。一般に、太陽光・風力・地熱・バイオマス等により発電される再生可能エネルギーは、高効率の発電時間帯と高消費量時間帯の間にタイムラグが発生する傾向にあるため、発電した電気を無駄にしないために蓄電が必要となるためである。

(図7: 化石燃料から再生可能エネルギーへのシフト、Translink作成)

 図7は化石燃料と再生可能エネルギーそれぞれにおける、発電から消費の流れを示したもので、再生可能エネルギーの世界では蓄電が新たに必要な要素であることを示している。

 スタートアップへの投資動向に戻ると、図2に示した通り、気候テック領域における分野別投資額では蓄電(Storage)が3番目を占めており、投資動向からも注目されている分野であることが分かる。

 また、前述した通り、蓄電池のみでインフラが整備されるわけではなく、蓄電池の社会実装に関わるソフトウェア技術も重要な要素となる。本稿では、インフラ技術としての蓄電池およびソフトウェア領域における注目企業を紹介する。

インフラ技術の具体的事例と注目企業

 蓄電池におけるグローバルリーディングカンパニーといえばテスラが真っ先に挙げられるだろう。テスラは電動自動車の販売で有名ではあるが、クリーンエネルギーを扱う子会社テスラエナジーは大規模蓄電池「Megapack」を電力会社や大規模法人に販売している。2023年第1四半期の投資家向け資料によると、Megapack販売による売上は約15億米ドル(前年同期比148%)、量産規模は3.9GWh(前年同期比360%)となっており、日本でも導入が始まっている。

 日本に目を向けると、2021年に創業したPower Xが大容量・高出力の蓄電池を開発している。同社は再生可能エネルギーに特化した定置用蓄電池やEV用充電器を開発しており、今後の電動化に向けたキープレーヤーになることが予想される。Translink Capitalとしては、今後の蓄電池の重要性を鑑み、Power Xへ投資を実行している。

(図8: PowerX Mega Power、出典: Power X HP

(図9: PowerX Hypercharger、出典: Power X HP

 ハードウェアの整備だけでなく、ソフトウェアもインフラを支える重要な要素になる。米国のスタートアップのElectroTempo(エレクトロテンポ)はAI・機械学習により、EV向け充電器への投資を最適化するためのソフトウェアを提供する。住民の生活環境、運転状況、移動のニーズ等を分析し、EV向け充電器の最適配備プランを提供することで、ユーティリティ事業者や土地オーナーの整備計画を支援している。

(図11: ElectroTempoのソフトウェア・ソリューション、出典: ElectroTempo HP

今後の展望

 モビリティの電動化および再生可能エネルギーへのシフトは、中長期的な動向であるものの、今後の産業のあり方を大きく変革するものであり、大きなビジネスチャンスともなり得る。テスラが発売された当初、連続運転可能時間の短さや値段の高さからEVへのシフトは長い時間が必要と思われていたが、現在ではアメリカ西海岸を中心にテスラ車が多数走行しており、他の自動車メーカもEV車の開発を進めている。このことからも、他のモビリティにおける電動化は想定以上のスピードで進捗するものと予想される。

 また、モビリティの電動化が急速に浸透するに伴い、蓄電池をはじめとする各種インフラの整備もまた急速に進展することが予測される。ハードウェア・ソフトウェア両面での整備・実装が進み、再生可能エネルギーへのシフトがさらに加速されると考えている。各国政府の規制動向、各産業での大企業・金融機関によるコミットだけでなく、目に見える自然災害の増加から消費者の消費動向・傾向の変化が見え始めており、実需が生まれつつあることから、Translink Capitalとしては、今回の再生可能エネルギーシフトの動向は「本物」であると考えている。実現に向けた課題はあるものの、今後の各社の進捗および新たなスタートアップの登場に期待したい。

安東 学
Translink Capital
Partner
2017年にTranslink Capitalに入社、東京オフィスに勤務。主要な投資領域はモビリティ、FinTech, Carbon Neutral等。Translink Capital参画前は、NTTドコモ・クレディセゾンにてCVC運営、オープンイノベーション推進、資本提携等の業務に従事。

Translink Capitalについて

 Translink Capitalは2007年の創業以来、累計10億ドル以上を運用する、シリコンバレーに本拠地を構えるベンチャーキャピタル。主としてアーリーステージのグローバルスタートアップへリード投資家として投資を実行。シリコンバレーのほか、日本・韓国・中国・台湾・マレーシアにオフィスを構え、投資先のアジア展開・ビジネス開発を支援する。



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