社内に分散するシステムをつなぎ、ノーコードでカスタムメイドなワークフロー構築を可能にするビジネスオペレーションプラットフォームのTonkean。フォームやメール、チャットなどインターフェースはそのままに、AIとマシンラーニングでバラバラな業務プロセスをオーケストラのように連携する。パンデミックによって企業はフレキシブルな対応を余儀なくされる中、大規模なシステム運用を加速できるとして期待が集まる。開発やコーディング作業を必要としないため、オペレーションチームは課題解決に集中することが可能となるからだ。特別なITスキルを持たない現場に、デジタル変革の問題に対応する「メーカー」を増やしたいと語るCEOのSagi Eliyahu氏に話を聞いた。

業務システムの最適化には、現場が使いこなせるソフトウェアが必要

 今日のデータテクノロジー開発競争の多くは、データをいかに多く集めて分析し、可視化するかという点でしのぎを削り合っている。しかし、ソフトウェアエンジニアとして10年経験してきたEliyahu氏は、データに焦点をあてるのではなく、「使う人」に焦点をあてるべきだと考える。なぜなら、業務プロセスにぴったりフィットするソリューションを開発するためには、ソフトウェアを使いこなせる人が現場にいることの方が重要だと気づいたからだ。そこで、自社独自のワークフローをコードなしにつくれるTonkeanの事業を着想する。

Sagi Eliyahu
Tonkean
Co-Founder & CEO
スタートアップ企業、エンタープライズ企業において、数多くのエンジニアおよびリーダーシップ職務を経験。米Jive SoftwareのイスラエルR&D拠点で、一握りの従業員から数十人の従業員まで拡大させた実績をもつ。ノーコードで自社システムを構築するTonkeanを2015年、米国にて創業。サンフランシスコに本社を置き、テルアビブにて研究開発を行う。

 コストのかかるプロセスやコーディング不要なのがTonkeanの特徴だが、多くのRPAのように単一のタスクの自動化にはフォーカスしていない。一連の業務の流れ自体を自動化し、その間に人間の処理を組み込むというアプローチをしている。人が行う処理自体はなるべくそのままにして、それ以外の部分の効率化を行えるよう、何百もの外部システムと統合する機能や、複雑なロジックをシンプルにするAI技術などを組み合わせて実現している。彼らはこれを「オーケストレーション・プラットフォーム」と呼ぶ。

「簡単に言うと、私たちができることは、オペレーションチームの力を引き出すことです。ITに詳しくないセールスやマーケティング、財務、法務でも、カスタマイズされたワークフローを構築することが可能です。組立工場に例えた場合、機械が自動で行う作業と、人が手仕事で行う作業が共存しますが、全体のワークフローは自動化されています。同じようにTonkeanは組み立てラインの各フローをつないで自動化するプラットフォームなのです」(Eliyahu氏)

パンデミックの中、急なワークフロー変更にかかる時間を短縮

 パンデミックの影響からリモートワークをする人が増えたことによって、Tonkeanの需要も高まっている。大企業を中心にテクノロジー、金融、医療、エンターテインメント、サービスなどあらゆる業界に導入されており、その中でもカスタマーサポートを重視する企業や、カスタムメイドの技術を開発する企業からの引き合いが多い。

 リモートワーク中のスタッフに特別な教育をしなくても、急な業務プロセスの変更に柔軟に対応できるプロダクトの特性が評価されているからだ。Sagi Eliyahu氏は、旅行業や決済業の例を挙げた。パンデミックで急増したエンドユーザーからの質問に対処するため、問い合わせ内容に対する自動応答や判断をTonkeanが行い、適切に処理されるようになったという。

Image: Tonkean

「接客業や旅行業、決済業などの企業は、パンデミックの中で予約・キャンセルの見通しが立たないという理由から、お客さまから質問の嵐に見舞われました。彼らは誰に返金するのか、誰にギフトコードを渡すのかなど、重要な処理をすぐに実行しなければならない必要に迫られたのです。彼らはTonkeanを使って、緊急の意思決定を新しいプロセスに反映し、多くのことを自動化することができました。例えば、新型コロナウイルスに関するお客さまからの質問に対して、自動回答のタスクを追加したり、適切なチームに回すタスクを正しく処理したりするようなものです。このような急激な変化の中でも、Tonkeanならタスクの優先順位を変えたり、プロセスに適応させるたりすることが数時間で対応できます。このことは非常にインパクトをもって受け止められました」(Eliyahu氏)

 AtlassianのCo-CEOであるScott Farquhar氏や、元Google CEOのEric Schmidt氏も名を連ねたシリーズBで調達した資金(5000万ドル)は、プロダクトとチームの成長のために利用される。さまざまな業界へのリーチを拡大していきたいとした。2021年7月時点での社員数は65名だが、年内には倍増させたい意向だ。日本市場への展開はすぐではないものの、意識しており、DXを実現したい企業に対して、ビジネスコンサルティングや、企業のCIOに提案できるSI企業などのパートナーシップを求めている。

特別なスキルがない人でも、デジタル変革に参加できるように

 Eliyahu氏が描くビジョンは、業務プロセスの現場に特別なスキルを持たなくても課題解決できる人(彼は「メーカー」と呼ぶ)を提供するものだ。業務プロセスは、実際に現場で手を動かす人が誰よりも熟知しているはずだ。ITシステムについても、現場をよく知る「メーカー」が作ったほうが良いものができ、外注コストも抑えることができだろう。DXの推進においても、システム内製化は欠かせない。Eliyahu氏は最後に次のように述べた。

「私たちの使命は、メーカーの世界を作ることです。コードを書いたり、ソフトウェアを作ったりできる人は、世界でもごくわずかしかいません。私たちはそうしたスキルセットを持たずに、この世界を変えられる人を増やしたいのです。企業における次世代のソフトウェアは、そんな人たちによって作られるでしょう。現在のように『外注して作る』か『買う』の二択ではなく、『社内で構築できるかもしれない』という三択にしたいと考えています」

 日本企業・団体の多くが、社内システムをオンプレミスからクラウドアプリケーションに移行し、さまざまなサービスを利用するようになっている。Tonkeanを使えば、何かの業務をシステム化したい場合に、新たなアプリケーションを別途契約したり、外部にカスタマイズを依頼したりするのではなく、既存のアプリケーションを組み合わせた仕組みを現場が作る、という選択肢を与えることができるのだ。



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