Veniamは、無線メッシュネットワーク技術と、通信網におけるルーティングアルゴリズムを開発し実用化した、ポルトガルのポルト大学発スタートアップだ。V2X(Vehicle-to-everything)データ通信でも同社のソフトウェアが使われ、将来的にはドローン、ロボットなど全ての移動機械において途切れることのないデータ通信を実現するソリューションとして注目を集めている。今回はFounder & CEOのJoão Barros氏に話を聞いた。

(2022年にNexarが買収。2023年6月追記)

人を介さず車両が行うデータ通信

―まずVeniam設立の経緯を教えてください。

 Veniamのソフトウェアは、私が教えていた大学で学生やポスドクと共に行っていた、車両をインフラの一部と位置づけWi-Fiスポットやモバイルセンサーネットワークに活用する研究から生まれた技術が基になっています。

 私たちは、研究を進める過程で、車両が集めたデータの通信方法、という問題に行き当たりました。衛星通信は高価なので他の方法を模索した結果、Connected Vehiclesによるメッシュネットワークが最も効率的な分散型インフラ構築になることに気づきました。

 そこで、ポルト市内のバス、ゴミ収集車や市営サービス車両を使い、世界最大規模のインテリジェントネットワークを構築するリビングラボを成功させました。このネットワークが提供する屋外のフリーWi-Fiを現在も数十万人が利用し、テラバイト単位のメタデータ収集を実現しています。実用化に成功したことで、VCからの資金調達に至り、シリコンバレーでVeniamを設立したのです。

João Barros
Veniam
Founder & CEO
ポルト大学(ポルトガル)にて電気工学およびコンピューター工学の学位取得、2004年ミュンヘン工科大学にて非常勤講師を勤めながら電気工学・情報工学の博士号を取得。大学院在学中にフルブライト・プログラムにてコーネル大学に留学、博士号取得後は、Visiting ScholarとしてMITに、Visiting Associate Professorとしてスタンフォード大学に在籍した。2005年にポルト大学の准教授に就任、2014年からは同大学教授を務めた。2012年にポルト大学の「仲間」と共にVeniamを設立しCEOに就任。

―御社のソフトウェアは、コネクテッドカーをはじめとする、車両とモノの通信V2Xでの活用が進んでいますね。

 コネクテッドカーでは、車とクラウド間で膨大なデータがやり取りされます。車両のメンテナンス情報や、フリートマネジメント用データ、都市インフラの最適化を目指し行政が使うスマートシティアプリケーションなど多岐に及びますが、問題は車両とクラウド間のデータ移動です。

 既存のコネクテッドカーはSIMカードを車両に搭載し、既存の通信回線を使っていますが、既存の通信回線はスマートフォンなど様々な端末が既に利用しており混雑していますし、対応できる端末数や通信データ量には制限があるものの、簡単に拡張することができません。通信料もかかります。

 Veniamのインテリジェントネットワーキングプラットフォームが、車両自体をWi-Fiスポットにすると同時に、既存のWi-Fiスポットも活用して車両がデータ通信できるようにした最初のソフトウェアとして、この問題を解決しました。当社のプラットフォームは、独自開発したルーティングアルゴリズムにより、接続に問題がないWi-Fiスポットを選定する機能や、取扱う情報やアプリケーションのグローバルポリシーおよびセキュリティレベルの遵守なども「自動的」に行っています。


 車両とクラウド間の通信の次は、車両間の「会話」の実現です。車両同士が「会話」し情報を共有すれば、地図情報の更新や、リアルタイムの交通情報を取得するために、クラウドにアクセスする必要はなくなります。SIMカードで通信している場合、高い通信料を払う必要がなくなります。実際、当社のソフトウェアを使ったWi-Fiネットネットワークの活用だけで、自動車メーカーが負担していたデータ通信に関わるコストを40%削減しました。メッシュネットワークを利用した車両間での「会話」では、90%削減することが可能です。

 車両間の「会話」に関しては、中国政府がV2Xの導入を義務付けましたし、アメリカやヨーロッパではWi-Fiに基づく伝送テクノロジーも導入計画が進んでいます。世界的に、車両と車両、車両とインフラをつなげるV2Xの法整備が検討されており、2020年に発売される新型車には、V2Xを担う最先端の通信ユニットが搭載され始めます。

 車両が置かれた通信環境内で最も適した通信方法を常に探し出し、通信のシームレスな接続を可能にする当社のインテリジェントネットワーキングプラットフォームは、V2Xにおいて重要な役割を果たすと考えています。実際、V2Xに対応する汎用通信ユニットに採用されており、今後8年間で1億車両への導入を目指し業務提携などを着実に進めているところです。

今後は車両以外の「移動機械」も対象に事業を拡げたい

―日本への進出について聞かせてください

 日本人のアジア地域事業開発責任者が既に日本で活動しています。ヤマハ発動機がパートナーになった最初の日本企業で、デンソーともパートナーシップを結んでいます。そして、OEMなどパートナーシップを結べる日本企業を現在も探しています。日本には、ロボティクスやドローンなどの分野で強い企業が多くありますので、車以外の産業でもチャンスがあると考えています。

―最後に将来の展望についてはどうお考えですか。

 Veniamの最終目標は、車、トラックやバスなどの車両だけでなく、ドローン、ロボット、工業機械など全ての移動機械を対象に、様々な業種で適用できるIoMT(Internet of Moving Things)のネットワーク構築です。コンテナターミナルのトラックやクレーンのネットワーキングなど、車以外の業界における実用化も始まっています。また、Veniamのプラットフォームは、メタデータの取得と、データマイニングも行っており、その活用も進んでいます。

 Veniamの技術は、自分たちでも驚くほど汎用性が高く、様々な業種でそれぞれのシナリオに合った活用方法が考えられます。私たちは、この技術を使い、パラダイムシフトを起こし、No.1データネットワーキングプラットフォームとなり、世界に貢献したいと考えています。

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